「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
超広角は楽し


完全に建物がハの字になっちゃってます。

 デジタル一眼購入に当たって、いい歳して未だにビンボなおれはダブルズームキットなんてとても手が出せるワケもなく、18−55mm(35mm換算で27−83mmくらい)という短いズームレンズが1本だけついたのしか買えなかった。ダブルになると、これに55−300mmなんてのがプラスされる。店員は素早く相手の年齢・家族構成なんかを訊き出しながら、「やはり長いのはお子様の運動会等に必要ですよ〜!あ、山に登られる!?なら広い景色は短いので行けますけど、向こうの山のてっぺんとか撮ったりしますよね〜!?」なんて盛んに巧みなセールストークで売り込もうとする。
 実際使ってみるとそんな長い焦点距離を使って撮ることがない。テレ端、っちゅうんですか、55mm側だってそんなに使わない。あまり意識しないで撮りたいように撮ってたら、どうも9割以上はせいぜい40何ミリあたりまでしか使ってないのである。

 何となれば、おれは遠くのものを大きく撮りたい、って気持がほとんどゼロなのだった。野鳥やら飛行機、疾走するレーシングカー、どれも撮りたいと思わない。それに、ポートレート等に良く求められる「ボケ」にもあまり興味がない。馴れるために花だ何だといろいろ試してはみるのだが、も一つ気分は「やらされてる学習」の域を出ず、どぉでもいい感じ。結果論で気付いたのだけど、どうやらおれは隅々までビシッとピントが合ったパンフォーカスが好きみたいなのである。土門拳、いいねぇ、みたいな。

 さて、標準レンズに追加する最初の1本を選ぶならAPS−Cなら35mmあたりの単焦点がいい、画角やフットワークで稼ぐ構図の勉強になる、な〜んて一般的には言われてて、素直に先達の意見に従うおれとしてはその方向で考えてた。内部構造が簡単なせいか、贅沢言わなければ値段が比較的安く、その割りにひじょうに明るく、それに軽くて嵩張らないのも魅力で、35mmF1.8といった定番中の定番の1本を買ってみるツモリでいたのだ。標準レンズだと同じ焦点距離での絞り開放値がおよそ4.0くらいだから2.2倍、明るさはその平方に比例するのだから5倍くらい違うことになる。ともあれごっつ明るい。明るいと速いシャッター速度が可能なので手ブレに強くなる、絞り開放にすると被写界深度が浅くなるのでボケが強烈に出せる・・・・・・と好いこと尽くめ、らしい。

 ふ〜ん、そぉなんだ〜、と思いつつも、冷静になって考えると35mmって焦点距離はすでに18−55mmの中に含まれとるワケですわ。画角や構図の勉強、っちゅうんならズームリング回すの禁止して、何ならセロテープでも貼って動かなくする、ってなマイレギュレーションで撮りまくれば良いのではないか?って気がして来た。それに前述のとおり、ボケには興味がさほど湧かないのである。
 それと、付け焼き刃でいろんな本やらネット記事を読み漁ってるうちに意外なことが分かって来た。明るさだけに絞って言うなら実は、昔の方がもっと優れたレンズがいろいろあったのだ。F1.2とか1.4なんてけっこうザラで、F0.9なんて人間の眼より明るいのまであった(笑)。今そこまで明るいのはラインナップに少ない。コシナのフォクトレンダーってーのに25mmF0.95ってのが見つかるくらいだ。特殊な感じがある。
 少ないのはニーズがなくなった、もしくは他のやり方でカバーできるようになったからだろう。

 こっからはおれの勝手な推論だ。かつてそこまでレンズに明るさが求められたのはフィルムの感度がショボく、ストロボも未発達で、レンズへに依存する割合が大きかったからではないか?ところが今は違う。電子的な回路の部分でいくらでも高感度に出来る。ソニーのα55/33なんて「透過ミラー」っての使ってて撮像素子に当たる光は2/3に落ちてしまうが、それで暗いか、ちゃんと写らんか、っちゅうたら全然そんなことはない。大体CMOSセンサーってなんたらゆうフィルターかけて光削って使うモンなんだし、後続の回路の部分がそれらをカバーしてるのだ。
 感度を示すISOってのは銀塩のASAに相当するモンだろうと思ってるけど(間違ってたらゴメン!)、今は12800とか25600とか、とんでもない高感度にちょっとした入門機だって対応してる。そらまぁさすがにそこまで上げるとムリがあるようで、粒子が粗くなって画面はけっこう荒れまくりなんだけど、3200くらいまでなら特に問題は感じない。昔はASA800のフィルムとかで既に荒れまくりだったことを思うと隔世の感がある。そのうちもっとこの辺の性能は向上するだろう。一方、原材料という物理的コストと、組み上げに職人的な技術が必要で人件費の掛かるレンズは価格が上がりがちで、単価がハケるメリットの一方で数が出にくい。これはシェア競争には不利に働くハズである。
 つまり、今はレンズの明るさばかりに頼らなくても何とかなるし、頼ってばかりいられない時代なのだ。

 また、飛蚊症で行った眼医者で点された瞳孔を開かせる目薬、っちゅうのも明るい単焦点への期待に水を注すのに十分なものだった。瞳孔が開くとはレンズで言えば絞りが全開になるってことだ。効果は4時間くらい続くそうで、診察後、病院から外に出たおれは愕然とした。
 晴れて日差しの強い日だったけど、あたり一面に光が散乱しているとでも言えば良いのか、もう眩しくて眩しくて、おまけに街の事物にまったく焦点が合わないのである。否、正しくはホンの一部分だけがクッキリ見える。何となく、キラキラ・グジュグジュしたゼリーをぶちまけた中に、ポツンとフルーツの形がクッキリ見えたらこんな感じだろうな、って思った。正に明るいレンズは被写界深度が浅くなりピントの山が掴みにくい、って事実を身を持って体験したワケである。明るけりゃいいってもんでもないんだなぁ、と正直思った。

 そんなこんなで、ちょっとばかし単焦点への興味が薄れて来たのだった・・・・・・はぁ〜、長いマクラだったな。

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 ・・・・・・で、本題の超広角である。

 ちょっと前に、広角の妙に遠く写る感じがイヤだった、なんて書いたその舌の根の乾かぬうちに、いや筆の乾かぬうちに・・・・・・あ〜!もぉどぉでもエエやんか!兎角考えのコロコロ変わるおれだ。ミーハー、変節漢、尻軽、何とでも言ってください。俄然超広角に興味が湧いて来たんだから仕方ない。

 いや、デジタル一眼のきっかけを作ってくださった方から素晴らしい作品の数々を拝見させていただいてるうちに、その多くを占める広角の非現実的なまでのダイナミックな構図がとても魅力的で、こりゃ〜面白そうだな!と思っちゃったのである。レンズは明るさよりも画角だわ、と。小さく写る問題も、要は思いっきり被写体に近寄れば解消するってコトもネットやらなんやらで調べて分かった。

 そうなると居ても立ってもいられないのがおれの悪いトコで、これまでの自転車・ギター・単車・スノボ・アウトドア・・・・・・すべての道楽がみんなそうであったように、とにかく安物でも何でもまずは買って使ってみないと気が済まない。純正なんて逆立ちしたって買う金ないので、選択肢はタムロンかシグマ、トキナーの3つだ。トキナーはずいぶん素晴らしいと評判だがAFが対応してないので最初に候補から外れ、シグマは高性能だけにちと高く、純正と1〜2万円しか違わないのと、何だか訴訟がどうこうで揉めてるのも見てて不安なんで、純正OEMもたくさん作ってるタムロンにした。ポイントだ何だで4万円しなかった。焦点距離は10−24mm(35mm換算で15−36mmくらい)、B001って型番のヤツだ。ちなみにネットでの評判はイマイチだったりする(笑)。

 ・・・・・・と、まぁこの辺は先月、別の駄文・「海辺ニテ怪ノ起キタルコト」で書いたこととかぶっちゃってまんがな。同じことを繰り返し言うようになるのは老化の証なんだよな、嗚呼。

 ともあれ保護フィルターだけ買って、早速ずんぐりとぶっとく短いそれをカメラに装着してみる。デカい!何せフィルター径が77mmだから、標準のおよそ1.5倍の直径だ。さらに大きな花型フィルターが一層それを強調してる。画角が広い分、フィルターの径はさらにデカくないとケラレてしまうのだろう。全体としては妙に押し出しが強くて強そうな感じになった。

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 怖かった話はそっち読んでもらえば分かるんで割愛することにして、その後も何回か持ち出して数百枚撮ってみた。1mm変わると広角は大いに変わる、っちゅうのは本当で、ちょっと回すだけでも全然変わるし、気付くとけっこうまんべんなく使っている。テレ端側が長めにとってあるのも、スナップには使い勝手が良い気がする。ただ、おもろいことはおもろいがむつかしいことはむつかしい。何せ広く写るんで、すぐに要らんモノまで入ってしまうのと、測光の範囲が広がるからか何なのか、ナカナカちょうどいい感じの露出になってくれない。おまけにビルトインのストロボはほとんど期待できない。もぉホンマ、画面の半分くらいまでケラレが入ったりする。
 それに何より歪む。この歪みこそが広角の面白いところだと思ってるので補正する気にはなれないものの、ちょっと構える角度が変わっただけでエラく形が変わる。下からあおれば人間の脚は昔の少女漫画でもなかったようなくらいに長くなるが、爪先が画面の四隅にドアップで来るとジャイアント馬場の足みたいに巨大になる。消失点に向かって身体が平行になると奥行きがなくなって笑えるくらいにペランペランに写る。建物は平屋の家でも聳え立つ摩天楼のようになり。見上げた木々はたとえそれが杉や檜でも風にそよぐ竹林のようにしなりまくってる。
 どうも水平に構えるよりも、なるだけ低い位置から見上げたり、逆に高いところから見下ろしたりして被写体に近寄った方が絵面としては面白くなる。可能な限りグイグイと、極端なくらいに被写体に近寄るのがコツらしいってことは少しづつ分かって来た。ちなみにヨメは大層この写りが気に入ったみたいだ。「キャー♪足、長っ!細っ!」とのことである(笑)。

 簡単な点もある。とにかく手ブレしにくい。最初は手ぶれ補正機能がないんで心配してたけど、全くの杞憂だった。手持ち1/15秒なんかでも楽勝だ。それと、被写界深度が深いのか、絞りも開放から2〜3段絞れば周辺までスッキリ写る。だから、暗いからって無闇にISOは上げず100のままでEV補正した方が綺麗に撮れるような気がするが・・・・・・まぁそれは駆け出しのおれがエラそうに語ることでもないか(笑)。むしろ開放だと何となく四隅が暗くなる周辺減光って現象が出てるのが分かる。しかし、気になるほどでもない。むしろ、そぉゆうモンだと思ってトイカメラ的な効果として使った方が面白そうな気がする。周辺が流れるって下馬評もそんな気にならない。大体あれだけハデに歪みが出るのだから周辺は実寸よりずいぶん長く写ってるはずなんだし、流れるのは仕方ないようにも思う。マンガのスピード線みたいなもんだと思えば腹も立たない。あと、たまたま個体として当たりだったのか、片ボケやピントのズレは無いようである。

 いずれにせよ、欠点だ何だと文句垂れる前に、これはこぉゆう特性のモンなんだ、ってジャンジャン使ってる方が今のおれには心地良く楽しい。かなりアクとかクセの強い画面になるもんだから飽きが早いのではないか?って懸念が微かに脳裏をよぎることもあるけど、そん時ゃそん時でまた基本に戻ればいいだけではないか・・・・・・基本が何かはちっとも分かっとらんのだけど(笑)。

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 今日の結論はきわめて単純だ。もしあなたがデジイチなるややこしいものに目覚めて、キットレンズだけで満足できなくなった時、とにかくもっと遊び倒したいのなら単焦点よりも超広角を買った方が幸せになれると個人的には思う。

 ぢゃオマエは単焦点買わないの?って!?・・・・・・多分これも近いうちに買っちゃうんだろうな〜(笑)。


緑の廃墟にて

2011.08.02

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