「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
三脚は要るなぁ・・・・・・


中国製だけどオリジナリティがあるのは○、なFotoPro

 大きな三脚なんて絶対買うもんか!ってずっと思ってた。身軽にパシャパシャ撮ってこそカメラなのであって、一枚を追い込んで撮る・・・・・・な〜んて好事家のジジィのすることだと。あんな大きくて大層なモノ、仰々しいばっかで機動力に欠けるし、めんどくさいし、荷物になるし、それにおれは重たい望遠にまったく興味が無いのである。せいぜい長くて35mm換算で120mm程度もあれば十分すぎる。だから手持ちでじぇんじぇんOKぢゃん!?道具に溺れたいヤツぁ〜勝手に死ぬまで溺れてたらいいぢゃん!?ってな感じで一顧だにしなかったのである。
 そんなんで、せいぜいセルフ撮りに使う程度の15cmくらいのばかりこれまで買ってきた。高いものでもないので気分転換で買ううちに、4つくらいに増えた。もう少し背の高いのも必要になって買ったことはあるが、それでも2千円くらいで60cmほどの高さしかないオモチャである。

 ところが大変なことが我が身に起きた。もう何度も書いてるけど、重度の腰痛がおれを襲ったのだ。そらぁもう七転八倒の苦しみで、朝など布団から起き上がるのに、壁に手を着きながら、決して誇張ではなく10分くらい掛かる。今から観世流でも宝生流でもなんでも能楽の世界に飛び込んだらエエんちゃうやろか?っちゅうような摺り足でソロソロ歩いて仕事に行き、這うようにして部屋に帰ってくる日々が続いたのだった。そしてそんな腰が一段落したのも束の間、腰を庇ってヘンな姿勢にでもなってたのか、今度は続けて脚に何とも言えない痛みが走るようになり、大きくビッコまで引くようになってしまった。
 それでもしばらくするうちにやや快方に向かってきた。このまま部屋でじっとしてても足腰弱ってくばかりである、歳取って足萎えになるやも知れぬ、蟄居ばかりは却って良くなかろうと、カメラ持って郊外に出掛けてったおれは愕然としたのだった。

 無意識に足腰を庇おうとするもんだから、もぉ身体がプルプルしちゃってマトモにカメラが構えられないのである。おれが今使ってるのは、デジタル一眼と言ってもエントリー機で小さい。それに安くて軽いレンズがついてるからせいぜい1キロ少々しかないはずなのに、構えて静止するっちゅう行為がひどく難行苦行になってしまってたのだ。それにしゃがんで下からあおるのもできない。腰はいつでも再発させてあげるよ、と言わんばかりの重ダルくもヒクヒクしたようなイヤ〜な感じを伝えている。このまま頑張って踏ん張ってヘンな姿勢でファインダー覗き込みでもしようもんなら、またキュウゥゥ〜ってやられるかも知れない。

 ・・・・・・三脚を買おう、と思った。それはどこか諦念に満ちて敗北宣言でもする気持ちに近かった。

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 相変わらず大腿部から膝にかけて奇妙な痛みが残る中、ビッコ引きながら駅前の大きな店に行くと、兼六園の雪吊りを黒くしたようなのがウジャウジャ並んでる。たかが三本足でカメラ支えるだけの単純な道具なのに、驚くほどの種類がある。グルーッと見て回ったところ、今はビデオ用とカメラ用でも分かれているようだが、明確な違いが何なのかは良く分からない。
 よくよく見るうちに機能と値段の関係が何となく分かって来た。要は安物ほど足が華奢でフニャフニャしてるのだ。見るからに細いんですぐに分かる。他のパーツも安物ほどチャチになってく。機構的に見ると、カメラを乗せる雲台が前後と左右にレバーを捻って緩めることで傾けることのできる昔ながらのタイプと、自由雲台っちゅうて自在に回る球をネジで締めこんで固定するタイプの2パターン、垂直に上げ下げするエレベータの有無、伸縮させる脚の締め方で、昔からある伸縮式の物干し竿タイプと、レバーで締め込むタイプの違い、あとは全体の高さ、ってコトだろうか。素材的にはアルミが基本で、最近はカーボンが高級ラインに増えて来てるのは自転車みたいだ。

 並んでる大半は有名な二大メーカーのスリックとベルボンだ。そぉいやかつて、俗物の親父が良く語ってたジッツオっちゅうのもあった。買いもせずに並べ立てる口上では「象が踏んでも壊れない」だったけど、聞かされるおれはアーム筆入れと勘違いしてるんぢゃないかと思ってた。それに、三脚置いて写真撮ってて象がそれを踏むというシチュエーションは、アフリカやインド辺りにでも行かなければ起こりえないではないか。とにかくこれは舶来の老舗らしく値段が無駄に高い。

 何となく予算は2万円以内かな〜?背の高さは直立したおれの目線にまで来ればいいかな〜?などと思いながら、一つ一つ丹念に、脚を全部伸ばしては上から押さえて負荷をかけ、しなり具合を見る。安物はこの点で全滅に近い。こんなんでは自重でもクニャクニャするやろうが?って言いたくなるようなのまである。伸縮のしやすさもチェックする。レバー式よりは古典的な輪っかを回して締め込む方がおれ的には素早く操作できた。キャンプでしょっちゅうポールの伸縮をやってたおかげだろう(笑)。真ん中のエレベータはどうやらあった方が便利そうだが、レバーハンドルを回すのは意外に時間がかかる。雲台は一長一短、何だかどっちでもいいような気がしたけど、いずれにせよ回す部分が大きくてガバッと掴んで回せるのがラクそうだ。
 そんなこんなであまり予断を交えず、置いてあるのをほぼ全て弄り倒してみた結果、キングとかゆうあまり聞いたことのないメーカーのがいっちゃんシッカリしてて背の高さも十分にあり、おれの求める条件に最も合致してるように思えた。どれもこれも黒い中でアルマイトの蒸着処理で派手な色してるのは奇妙だし、脚の付け根が切削の鍛造アルミのせいか、ちょっと重めなのが気になったけど、とにかく値段の割に最も伸ばした時の脚の安定性が高いのがコイツだったのだ。

 まぁブランドに拘る気もないのでそれにした。家帰って調べてみたら、中国のナントカゆうメーカーのOEMだった(笑)。

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 次の休みの日、早速試しにまたもや郊外に持ち出してみて、そしてムチャクチャ驚いた。

 当たり前っちゃ当たり前なんだけど、まったくブレないもんだから恐ろしくシャープに写るのである。今までは手ブレ補正を使おうが、シャッター速度を稼ごうが、なんかドンピシャに決まることが少なくて、も一つ画面がスッキリしない不満があった。つまりは自分ではシッカリ構えてるつもりでも、実際はかなりプルプルしてたワケだ。大体、シャッター押すのだって力めば、カメラは僅かにブレるのである。
 大雑把に言って絞りとシャッター速度とISOの3つの組み合わせで大体写真は決まる。大していいレンズ持ってないから、ISO100である程度絞り込んでくとシャッター速度は笑えるほど下がってくる。1/15秒とか1/8秒とか、素人のおれだと息を必死に堪えて顔真っ赤にして構えないと手持ちはしんどい。でも、それだからってISOをジャカジャカ上げてくと、シャッター速度は稼げるもののやはり画面は荒れて、これはこれで解像感に欠けた締まりのないものになって来る。理屈は良く分からないけれど、なるだけ低い感度で被写体ブレが起きない程度までにゆっくりしたシャッター速度で写すのが、最も透明感や遠近法ではない奥行感が得られるような気がしてる。しかしそれで手持ちだと、どんなに頑張ったって踏ん張ったってブレる。さらにそれだからって手ブレ防止をONにすると、3段分くらいまではカバーしてくれて、ブレなくはなるものの何となくパッとしない。これまた理屈は分からないけれど、何かキッチリ止まって映るのと違う写り方をするのだ。これは大いなるジレンマであった。

 何のこっちゃない、三脚据えて、2秒のセルフタイマーで撮れば、拍子抜けするくらいに簡単に全て解消したのだった。何をおれは今までアホな我慢してたんだ、とさえ思った。1/3秒とか1/2秒とかの超遅でもヘーキでクリアな写真が撮れる。それに下からあおるのも脚を一番短くすれば楽勝だ。カメラにバリアングル液晶が付いてればさらに快適で楽チンだろう。思わずポチッてしまいたい衝動に駆られた。

 今は外では基本三脚をカメラに着けっ放しにしてる。2kg近くあるのでカメラ本体と合わせると、絶えずエレキギターを担いで歩くくらいの負荷が肩に掛かる。しかし、外してたって結局持ち歩くなら重さは掛かるのだ。それなら着けっぱなしでもいいぢゃんか・・・・・・と。脚を伸ばすのはどんな方式にせよやはりめんどくさい。脚1本につき3ヶ所、合計9ヶ所のねじるポイントがあるから、緩めて伸ばすときは3つ一度に掴んで回せても、あとはどうしたって9ヶ所回さなくちゃならないのである。そんなんだから、最も伸ばした状態で天秤棒みたく肩に担いだりなんかもしてる。それでも機動力の点では厳しいが、綺麗に撮れるんだから仕方ない。

 調子に乗ったおれは、手持ちではまず使うことなんてないだろうと思ってたNDフィルターまで買ってしまった。16っていってシャッター速度が4段落とせる、かなり暗い方の部類に入るモノだ。滝の流れをシルクのように滑らかにした写真なんかが楽勝で撮れてしまう。こんなにイージーでエエんかいな、と思うくらいに簡単だ。今度は、屋内で移動する人物の軌跡でも撮ってみようかしらん。

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 すっかりおれは三脚党になった。相変わらずの無節操な変節漢である。とは申せ、手ブレによる失敗が激減しただけでなく、空気感のある写真が増えた。身体落として構える必要がないから、何より弱った足腰に安心だ。ただ好事魔多しとうじ魔とうじ、チョコマカ動き回って撮るのはむつかしくなった。それはかなり自分の従来のスタイルがスポイルされたことに他ならない。大いに残念ではあるけど、身体には代えられない。
 まぁ、ネガティヴに考えてもキリがないんで、三脚据えて落ち着いて写真撮るくらいの余裕はあっていいんだよな、と負け惜しみのように自分には言い聞かせることにしてる。

 ・・・・・・とまぁ、いずれにせよシッカリした三脚っちゅうのはどうやら持ってて絶対損のないもののようだ。ISOや手ブレ補正といったデバイスに頼らず、キチッとカメラを静止させシッカリ露光させて写真を撮るって、ものすごくやっぱ大事な基本中の基本なのだろう。


余りにもカンタンで驚きました!(三階滝にて 18mm・F22・SS1/3sec・ISO100・EV-0.3)

2012.06.03

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