「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
日の丸構図で何が悪い!?


これ、ムダに詳し過ぎなくてケッコー良い本だと思います。

https://www.kinokuniya.co.jp/より

 ・・・・・・何時の頃からだろう、段々と心のどこかでそんな風に思うようになっていた。

 いや、写真をちょっと学んでくと、比較的初歩の段階で構図の基本で「日の丸構図」は止めときましょうみたいな話が出て来る。そいでもって3分割だなんだって構図の様々なメソッドが始まる。
 もちろんそれらは絶対に間違いではない・・・・・・どころかやっぱし正しい。写真はどこか日本舞踊に似てて所作や型が大切だし、二次元の画面に奥行きや緊張感等々の印象を与えるのに日の丸構図一辺倒ではどうにも都合が宜しくない。なにせワンパターンだ。

 そんなこんなでファインダーの格子上に被写体を持って来たり、思い切り下からあおったり、上から見下ろしてみたり、敢えてピント外して遠くに置いてみたり、あれやこれやと工夫をして来た。もちろんそれらは大切なコトだし、習熟の上で避けるべきプロセスではなかろう。

 ・・・・・・でも、だ。気付いてしまったのだ。

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 旅から戻ると出来る限りその日のうちに画像の整理と保存をするようにしてる。RAWはデカいんで外付けHDDに直送、ほいでもってJPGの方はファイルネームリネーマってソフトでファイル名を変換し、タテヨコを修正してPC本体と外付けHDD2台の3ヶ所にコピーする。つまり1枚に付き4枚保存してるのである。基本、失敗したのも全部取っとくようにしてる。
 そうしてタテヨコチェックするのにはもちろんプレビューが必要なんだけど、大量に並ぶ画像を見てて、ある日ハタと気付いたのである。

 ・・・・・・いつの間にかいわば「3分割ワンパターン」の状況に陥っとるやおまへんか!こらアカンがな!

 PC上でドンドン画像を送ってくと、顔や身体の位置が殆ど右あるいは左からちょうど1/3のところに重なってるのである。これって日の丸オンリーよりよっぽど性質が悪くて始末に負えないんぢゃないのか?って直感的に思った。最も唾棄してたハズの旦那芸ってこぉゆうことを言うんとちゃうんか・・・・・・?
 たしかに3分割・・・・・・つまり1:2っちゅうのはとてもバランスが良い。3:2とかだと中途半端だし、1:3とか4では極端すぎてケレン味が勝ってしまっていささかクドい。それは分かる。だからっちゅうてバカの一つ覚えで何でもかんでも3分割になってるのも如何なモノか。
 あれこれ考えてるうちにもぉイ゛〜ッってなって、ファインダスクリーンを無地の物に交換したくなったぞ、おらぁ。

 そんなこんなで日の丸の再登場である。

 ビシッと撮れた時の日の丸には有無を言わせぬパワーっちゅうか、小賢しいメソッドを吹き飛ばす破壊力がある。音楽で喩えるならシンプルな8ビートとか1度5度8度のパワーコード、あるいはベースの単音ルート弾きみたいなモンだ。使い古されて手垢まみれで今さらの新味は何一つないけれど、テクとも言えないくらいに単純で基本のそれらのパターンはダメなのか?っちゅうと全然そんなことはなくって、今なおそのシンプルさゆえに際立つ曲は生み出されている。それと同じだ。

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 そうそう、日の丸っちゃぁ想い出す写真集があった。五味彬の「YELLOWS」って作品集だ。最初に出されたのはもう四半世紀くらい前ではなかったかと思う。随分以前のことなのでハッキリ覚えてないけど、何か毛が写ってるだのミが写ってるだのしょうむないことでゴタゴタして出版が遅れたかお蔵入りしたかで、すったもんだの挙句、結局CDで売り出されたような記憶がある。
 それは、最早「カタログ」あるいは「標本」といって良い構成となっていた。日本人女性をモデルに、顔のドアップと全身ショットをやや陰翳の濃い焼き付けで仕上げたものを淡々かつ延々と並べてあるのである。表情もポーズもない。何が毛だ?ミだ?猥褻だ!?
 クネクネしたり、不自然に股間を隠したり、ムリにトルソーに断ち切ったり、極端にパースペクティヴを強調したり、煽情的な笑顔であったり遠くをなんだか見てたり・・・・・・実のところヌードって、身体を覆う余計な装飾物が無いだけにそもそもがとてもシンプルであり、アイデアなんてデジタル時代の遥か以前にとっくに出尽くしてるのである。変化があったとすれば、90年代初頭になし崩し的な「ヘア解禁」があったってコトくらいだろう。

 ともあれそんな状況下で出された「YELLOWS」は、上に列挙したようなヌード写真のお約束を意図的に一切排したっちゅう点でひじょうに衝撃的だった。とにかく日の丸構図で延々と並ぶ真正面からの顔のアップと突っ立てるだけの全身ショット。構図的な工夫は一切、ない。工夫をしないことが工夫なのである。
 ぶっちゃけ五味自身のその後の作品を見てると、この「YELLOWS」の路線に自家中毒起こしたような感もあっていささか残念にも思うのだけど、少なくともこの第一作に関しては掛け値なしにそれまでのヌード写真の概念を駆逐する程に痛快な作品であったことは間違いない。

 も一つ想い出した。青柳陽一が撮影した、今や最早伝説ともなった麻田奈美の「りんごヌード」にしたって、アーもスーもないくらいにベタベタの日の丸構図ではないか・・・・・・そらまぁそれだけぢゃなく、その中にシッカリと逆三角の緊張感は盛り込まれてるとは申せ。
 特徴的な、当時の日本人にはあり得ないくらいの巨乳をドーンと真ん中に置いて、周囲の余白が少なくていささか息苦しいほどにタテの画面いっぱいにダイナミックな肢体の麻田が股間に林檎を当てている・・・・・・それだけ。
 しかし、それだけの一枚が伝説を作ったのは紛れもない事実だ。ぶっちゃけその後の短い活動期間に発表された彼女をモデルにした数多くの写真は、残念ながら足許にも及ばない。特に巨匠(笑)・篠山紀信の撮ったのはひどい。何だかこの人、どんな素材でも全部同じ味の同じ料理に仕立ててしまう料理人のような気がする。肉団子とピーマン、ニンジン、タマネギがあっても八宝菜を作っちゃう感じだな(笑)。まったく麻田奈美らしさが感じられない。

 話が逸れたが、つまり日の丸は決してダメではないどころかとても良いのである。要はどんな風に使うかなんだろう。よぉ〜し日の丸だ!

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 ・・・・・・とテンション上げたところで、さらに気付いてしまったのだった。

 結局これって自分の技術的な向上の無さに対する苛立ちや逆ギレ、負け惜しみによるモンなんだ、と。

 仕事ダメなオネーチャンとかを叱ると、「私は私なりに頑張ってるんですぅ〜!」なんて寝言のような台詞を吐くことがあるが、自分の評価なんて他人がすることである。増してや他人のリザルトの足許にも及ばない状況では、自分の主観でどれだけ頑張ったかなんてどうでも良いコトだ。その頑張りがまず児戯に等しいことを素直に認め、余計なゴタク並べずせめて平均くらいのレベル目指せや薄らボケ!と言いたくなる。ただ今の時代、本当のことを悪いオツムでも理解できるように分かりやすく伝えると、パワハラなどとさらにバカな逆ギレやらかしかねないから鬱陶しい。

 ・・・・・・ああ、珍しくプライベートな愚痴になってしまった(笑)。それはともかく、同じ批判を自分自身に対して向けなくてはならないのである。そりゃぁおれはおれなりにあれこれ工夫もし、努力もしてるけど、ぶっちゃけどうにもも一つ結果が付いて来てないのである。ならばもっと真正面から頑張るしかない。なのに日の丸で何が悪い!な〜んて、現実逃避も良いトコだ。悔しさの余りの反動で、セコい自己弁護のために素朴主義を目指してるだけやんか。
 これでは40年近く前のプログレ少年がとにかくいくら練習してもギターが上手くならず,それで何がテクニックぢゃい!ってパンク少年に宗旨替えしたのとちっとも変らない。ホント、精神っちゅうのは成長せんモンだわ。

 おれは本棚の隅っこに仕舞いっ放しでホコリ被ったままになってた、「デジカメ写真の構図が上手くなる見本帳」なる本を数年ぶりに引っ張り出して、改めて最初のページから丁寧に読み始めることにしたのだった。いやいや、そんな高度な内容ではない。初心者向けの平明でベーシックな記述が大半だ。でも、このテのハウツー本とか参考書はあまり書き過ぎてないビギナー向けが実は一番良かったりする。
 そうこうしてるうちに何たるシンクロニシティか、ネット上で親しくさせていただいてるHさんが、ご自身のブログで構図について懇切丁寧な解説のシリーズを始められた。これも美しい作例と共に精読させていただいてる。

2017.02.16

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