「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
おれ達は神の景色を見ている


雲一つない青空の下、笑えるほど見事なグラデーション。一切色調補正等無しでこれ!

 秋の夕日に 照る山紅葉
 濃いも薄いも 数ある中に
 松をいろどる 楓や蔦は
 山のふもとの 裾模様

 渓の流れに 散り浮く紅葉
 波に揺られて 離れて寄って
 赤や黄色の 色さまざまに
 水の上にも 織る錦

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 ・・・・・・ナンボひねくれ者のおれでも紅葉は素直に美しいと思う。

 この地に来て以来、孤独が募るばかりの日々の生活の中で良かったと思えるのは、風景の美しさくらいのものだ。これだけはこれまで暮らしたどんな町よりも優れているように思う。殊に秋の紅葉は大きな寒暖差がもたらすものなのか、平地でも素晴らしい発色を見せる。上と下に掲げた写真、実はどちらも真駒内の市街地近くで撮影したものだ。いや、北海道三大秘湖であるオコタンペまで紅葉見物に行ったら既に冬枯れてて、仕方なく滝野を通って帰る途中にあちこち寄りながら撮影したのである(笑)。

 今年の夏はダラダラといつまでも長く、暑く、ようやっとそれが過ぎたと思ったら今度はウンザリするほどの長雨で晴天が殆ど無く、マトモに秋らしい日となったのは数えるほどしかなかった。大して日ごろの行いが良い方だとは思えないのだけれど、たまの休日がちょうどその数少ない晴天日に当たったのだった。もちろん、出掛けないはずがない。
 紅葉は既に標高の低い札幌近郊にまで下ってきていて、実のところおれの住まう部屋の周囲の並木もかなり色付いている。おれはとんと草木の類に弱く名前は良く分からないのだが、いろんな種類の木々が赤や黄色に彩られ始めている。ちなみに北海道では比較的赤が少なく、黄色が多いように思う。

 千歳回りで支笏湖に向けて標高を稼いでいくと、ますますその色が鮮やかになって行くが、休日の久々の晴天とあってクルマも多い。どうにも落ち着いて撮りづらい。そのままダラダラと湖畔を回り、前述のとおりオコタンペでコケて仕方なく滝野方面に下ることにする。カルデラ内壁のつづら折りの坂道を登りきるとあとは適度になだらかなアップダウンが連続し、自転車乗りには有名なコースである。途中から東に下るとラルマナイの滝等を過ぎて恵庭に出ることもできる。札幌から支笏湖への裏の抜け道ルートみたいな道だ。
 何度も通ったことのあるところなので、正直あまり何も期待せずに下って行って、そしておれは自分の見識のなさやら無知を恥じた。

 朝の光の具合が良かったこともあるのだろうが、これまで見たこともないくらいにそれは色鮮やかな紅葉だった。紅色に近い赤から、緋色、金赤、朱色、オレンジ色、山吹色、レモンイエロー・・・・・・その諧調を表現する言葉は無数にあるのだろうけど、それ以上に豊かな色が溢れている。

 ただ比較的開けてる場所でもあるので、残念なことに広い景色を収めようとすると電柱やら電線やら夾雑物だらけになってしまう。人間の眼はマコトに都合よくできてるもんだから、そんな不要なものは切り落として見る能力があるのだが、愚直なカメラにはそれがむつかしい。それにどうしたことか素晴らしい景観のポイントに限ってクルマを停めるスペースが無かったりもする。
 まぁ、別段これは紅葉に限った話ではない。旅していて、本当に撮りたい風景は展望スポットや名所には案外なかったりするもんだ。走りながらあっ!しまった!通り過ぎた!を繰り返し、それでようやっと停めた所はどうにもイマイチで、何だか仕方なくパシャパシャ撮ったりしたものの、ありゃりゃ、やっぱしどうにも面白くない絵になっちゃったい!ってな経験って、きっとみなさんにもあるのではないだろうか?

 そんなんで風景全体を収めることは諦めて、最近お気に入りのF2.8/28−75mmに交換する。これ1本だけだとどうにも広角側が不足してツブシが効かないっちゅう欠点はあるものの、身近な事物を切り取って撮るには使いやすく、35mm単焦点と同じくらいお散歩用に重宝してる。しかし手ブレ補正がないので、シッカリ撮るには三脚必須のけっこうむつかしいレンズだ。

 結局、その日はこの1本だけでバカみたいに紅葉ばかりを撮りまくった。色飽和を起こすんぢゃないか、っちゅうくらいに単色に埋め尽くされたようなのまで、何枚も何枚も撮った。雪虫が舞い始めている。

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 雪虫が舞い始めると、間もなくこの地には本格的な冬が訪れる。スノボやるにゃぁ最高かもしれないけど、その間の普段の生活は最悪だ・・・・・・まぁ、ホントに厳しいのは3ヶ月くらいとは申せ。

 道路がデラデラの真っ黒に光って凍結した日なんぞ、クルマは悪い冗談のようにマトモに止まらなくなる。スピードがちょっとでも乗ってるとシフトダウンしてもそのままロックして滑る。そんな夕暮れは救急車やパトカーのサイレンの音が街のあちこちで聞かれる。昨冬は不慣れでトロトロ走ってたトコにオカマ掘られもしたし、小樽郊外の下り坂だったか全く止まらなくなって大きな交差点の真ん中まで滑ってった時には本当に死ぬかと思った。地吹雪でホワイトアウトすると何も見えない。路肩に寄せて停まろうにも路肩が分からない(笑)。道東や道北方面への出張なんてあった日にゃもぉ、水盃でも交わしたい気分になる。明日の空模様のチェックは日課として欠かせず、それでも朝起きたらクルマが雪に埋まって掘り起こすのに苦労したこともある。逆に戻ったら、駐車場が雪に埋もれていて掘り返すのに何十分も掛かったこともある。不動産管理会社はケチでロードヒーティングを滅多に入れようとしないし、入ったら入ったで歩道との間に大きな段差ができてクルマが出せなくなることもある。。ワイパーは凍り付き、エンジンオイルもいつまでたっても暖まらない。
 部屋も戻れば氷点下寸前にまで室温は下がってる。来る日も来る日もどんよりとした空模様が続き、陽は差さず、窓も開けれず、部屋干しの洗濯物はナカナカ乾いてはくれない。何日も部屋を空けて万一水道管を破裂させたら法外な修理費を請求されて大変らしい。
 今年、人生初めてのひどい腰痛に罹って身動きが取れなくなったのも、結局は冬の過酷さが少しづつ肉体にダメージを与え続けた結果もたらされたものだろう。この地の冬は昔に比べればいろんなものが進歩して過ごしやすくなったとはいえ、やはり大変だ。

 おれたちは神の景色を見ている・・・・・・ファインダー越しに派手な色彩に満ちた世界を見ながらふと思った。

 そうだ。おれたちは神の景色を見ている。あたり一面が陰鬱なモノトーンの雪景色に包まれる前のホンの僅かな一時、神は地上に色彩を、圧倒的なまでに氾濫させてくれるのだ。


ド逆光でも案外サマになるもんだなぁ〜・・・・・・。

2012.11.14

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