「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
地味な名湯・・・・・・押立温泉・住吉館


露天風呂にて(ギャラリーのアウトテイクより)。

 押立温泉・住吉館はまことに不思議な宿だと思う。間違いなく名湯にして名宿と呼んで良い存在なんだけど、何ともマイナーな印象なのである・・・・・・あ!この場合のマイナーは決してネガティヴな意味で言ってんぢゃないからね。そこんトコ夜露死苦。ちなみに「押立」は少し難読で、「おったて」と読む・・・・・・う〜む、ちょとエロいぞ、「おったて」(笑)。

 それはさておきロケーションがまず素晴らしい。磐梯山の南麓に大きく裾野を広げる高原地帯、猪苗代リゾートのゲレンデのすぐ近く、少し離れて老舗の猪苗代、またアルツ磐梯・・・・・・と3つのスキー場が並び、猪苗代湖だって磐梯山だってすぐそこだ。そんなんで一帯は別荘地になってたりもする。
 お湯だって、二種類の全く異なる泉質の源泉を持ってたりする。ただの立ち寄りだったのと、この後の予定がまだあって時間が押してる中の訪問だったんで、片方しか実際には入れなかったけど(※1)、元々あった若干硫黄臭のする無色透明な単純泉に加え、あとは鉄分を含んだような黄褐色の重曹泉だったかな?10なん年後に近所の「コッヘル磐梯」ってトコに泊まったら、同じようなどこか土っぽい泉質だった記憶があるんで、この辺をある程度ボーリングしたら似たようなのが湧くんだろう。
 佇まいだってシブい。飾り気のない鉛丹葺きの赤い屋根で、細長くL字型になった二階建ての建物がドーンとあるだけで、ことさら華美に流れるワケでもなく、赤い廊下の絨毯やもちゃっと色んなモノが置かれたロビー付近の飾り棚の様子なんかも、如何にも山峡の宿の雰囲気で好感が持てるし、「館」の字が異字体で食偏に「皮」ってなってるのも何だか歴史を感じさせてくれる・・・・・・提灯宿なのはまぁ、やむを得ないか。
 オマケに年々歳々減少する一方の混浴の露天風呂に、今なお拘り続けてるのも頼もしい。

 なのにこの温泉、な〜んかこれまであんまし取り上げられて来たことが少ないような気がしてる。思えばまぁ、山の湯っちゅうには高原で、秘湯っちゅうにはアクセスが良好すぎ、ワビサビっちゅうはややモダンで素っ気ない外観だったりするからだろうか。でもあらぁココはスゴく良いって思ったんだな。

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 磐梯山周辺って、おれの中では昔から妙に強く憧れてた場所の一つだ。だからかつてキャンプ道具一式、貧乏質に入れて買い揃えて最初に出掛けたのもあっち方面だったりした。
 しかし実はこの辺り、そこまで温泉がビッシリ密集してるワケではない。温泉あるあるで、火山として現役なトコに案外温泉は少なかったりするのだ。さらに1つ1つのアクセスが決して良くなくてコースが組みにくかったりして、一気に回るのが難しかったりもする。

 押立は何度目の会津行で寄ったんだっけ?名前はずっと以前から知ってたにもかかわらず、実際の訪問は会津方面のめぼしい温泉地をあらかた行き尽くした後だったのは間違いないんで、おれの中での印象は初めから薄かったんだろう。まぁホンマ、今はそんな自分の不明を恥じるしかない。
 改めて調べてみると、歴史は随分古く、江戸末期の安政年間には湯治場が開かれてたという。150年以上前のハナシだ。元々は自然湧出の冷鉱泉を沸かしてたらしいが、硫黄分ですぐに釜が腐蝕して壊れてしまうとかで、現在はすぐ近くのスキー場付近から温泉を引いてるんだそうな・・・・・・ま、おらぁ泉質至上主義者ぢゃないからどぉだっていいんだけどさ。

 会津若松の「白孔雀食堂」で、有名な爆盛りのソースかつ丼食ってから、貧乏旅行ゆえ高速も使わずひたすら下道を走り、磐越東線の翁島のあたりから一気に山裾を直登するように高度を稼いで着いた時には、もぉ結構な時間になってたように思う。秋晴れの・・・・・・って書ければエエんだが、実際は時折小雨の降るどんよりと曇った日だった。
 押立温泉自体には3軒の宿が点在する。国民宿舎の「さぎの湯旅館」と山形屋旅館が隣り合って、そして数百m離れてポツンと住吉館が建つ(※2)。宿の周りは一面に森が広がってるだけで、他に何も施設らしきものはない。ナゼか駐車場がやけにだだっ広い。

 1人500円だかの入浴料を払って早速入湯。宿自体はそれなりに年季入ってるのに対し、浴室は近年建て替えたのか、ワリと新しい印象・・・・・・で、露天風呂はどこかっちゅうと、これが浴室からサンダル履いて外に出てけっこう上ったトコにある。何だか良く分からないんで、ハダカのまま山道を上がったがちょと寒かった。真冬とかどうするんだろう?
 露天風呂は、大きな石で組まれたナカナカに数寄を凝らした造りのが樹間にあって、上述の通り混浴。湯舟の中に腰掛けるにはいささか高い石がドーンと据えられてたり、地震来て倒れたら死ぬやろ!?っちゅうくらい立派な石灯籠が置かれてあったり、奥の方に琵琶抱えた弁財天が祀られてたり、檜皮葺の屋根の付いた竹垣で目隠ししてたり、何か茶室みたいな休憩スペースも設えてあったりと、プレーンな印象の宿や内湯に比べるとワリとコッテリした風流を追及してる気がした。

 しっかし!困ったコトに湛えられる無色透明の湯がメチャクチャに温いと来たモンだ。秋の今の時期でこれでは、厳寒期に入ろうもんなら二度と出られへんのとちゃうか?っちゅうくらいの泉温しかない。湯の注ぎ口付近でようやく風呂らしい暖かさが実感できる。何となくおれはこの温さに、数年前に訪ねた地理的にも近い吾妻山の東麓の寂しい高原地帯にある微温湯温泉を想い出してしまったのだった。でもあそこは内湯だからまだ耐えられるわな。

 このままぢゃ風邪引きそうなんで、全員内湯でシッカリ暖まって、住吉館を後にしたのだった。

 ・・・・・・押立温泉に関するおれの記憶は以上だ。如何せんこの頃は・・・・・・って、今もそんなに余裕あるワケぢゃないが、月々の収入であちこち遠出するには、あらゆるコストを圧縮するしかなかった。テント泊っちゅうたかてアウトドアを愉しむって目的よりもむしろ、どれだけ宿泊代をケチるか?みたいなんも大きかったんだし・・・・・・もちろんテントにはテントの良さがあって楽しかったけど。
 ともあれだから部屋についてとか、食事についてはトンと分からない。ネットで見たらかなり良さそうだけど、実際に見てないから何とも書きようがない。

 もぉ17年も前のハナシだ。ヨメもまだ若かったし、子供も小さかった。

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 最後に、何で今回ココを採りあげようかと思ったのかについて触れて、まとめとしたい。

 1つは先日からのネタの続きである。鉄ヲタなネタで書く中で沼尻鉄道を想い出して、「あぁ、あの辺も何度か行ったよな〜」って画像を見返してたら、押立温泉についてこれまで纏めてなかったことに気付いたコト、2つ目はネットで住吉館が今はどうなってるのか調べたら、目下タイヘンな目に遭ってるのが判明したコトが挙げられる。

 いや、コロナで商売がどぉにもならんのはこりゃもぉ全国共通のコトだから、今さらあれこれ言ったって始まらない。何と住吉館、廃業したワケでもないのに、今は跡形も無くなるっちゅう異常事態に陥ってるんだそうな。どぉゆうこっちゃねん!?って思うよね。
 実は数年前、いい加減老朽化した建物が限界を迎えつつあったんで、全面的に建て替えることにしたらしい。あのシブい建物が喪われたのは寂しいが、何せスキー場がすぐ近くの積雪地であるから、建物の劣化は切実な問題だったんだろう。

 ・・・・・・で、浴室以外の建物すべてブッ壊したところで問題が起きた。そもそも場所が磐梯朝日国立公園の中にあるから、許認可申請の手続きがとにかくややこしい。色んな制約もあったりする。それで大幅に工期がズレ込んだところに、建築会社との契約トラブルが発生して、建設工事自体が着手できないままになってるっちゅうのである。文字通り二進も三進も行かなくなっちゃったのだ。
 再建しようってなったキッカケが「建築会社より全面リニューアルのご提案を頂き」って表現なトコからすると、相手側がそもそも国立公園内での建て替えについての知識やノウハウをあまり有してないにもかかわらず、勢いだけのプランニングで持って来たのかな?あるいは怪しい観光系コンサルとかが間に入ってて、ソイツがデキもしない大法螺吹いて、旅館と建設会社、どっちもコロッとやられたんかな?って線も考えられる。いや、それどころか最初から乗っ取り狙った新手の取り込み詐欺だった可能性もあるかも・・・・・・知らんけど。

 そんなこんなで現在係争中みたいである。どれだけ既に払い込んぢゃってるのかは知らないけど、どうせ建設会社はあの手この手で引き伸ばし戦略に出るんだろうし、コンサルが介入してたとしてもヤツ等は上手く行こうが行こまいが料金はキッチリせしめるし、まぁこれがかなりスティッフな闘いであろうことは、悲壮なトーンの文面から何となく伺える。

 今言えるのは、とにかく頑張っていつか再び住吉館の看板を掲げて営業再開してください、ってコトだけだ。陰ながら応援してますんで。



※1:イマイチ記憶が判然としないが、ひょっとした当時は透明な単純泉の方だけだったかも知れない。
※2:山形屋旅館はその後廃業し、現存するのは二軒だけになってしまった。


同上(ギャラリーの再掲)。

2022.04.17

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