「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
噴泉塔は大変


湯俣温泉にて。上流で僅かに湯気の上がるのがお分かりだろうか?(ギャラリーのアウトテイク)

 大体に於いて噴泉塔っちゅうのは、人里離れた鳥も通わぬような大変な山の中にしかない印象がある。おれもこれまでそこそこ各地の温泉に行ったけど、賑やかに浴客が行き交う街中の温泉場の片隅で噴泉塔が立ってる、なんてケースはついぞ見たことがない。さらにここが強く言いたいトコで、どこも期待して行くとコケるくらいに小さいのが常だ。

 そもそも噴泉塔とは何か?っちゅうと、要は石灰華の一種であって、湧出する温泉の中の石灰分が析出して固まりながら段々と高くなってったモノを指す。だから通常、枯れてない限りは噴泉塔の上からはピューピューと温泉が噴き出しており、そして大概が高温泉である。冷泉の噴泉塔は見たことがない。良く分からないけど多分、泉温が低いと広がるばっかしで上に向かって高く成長してくれないのではないかと思う。つまり石灰分を多量に含み、かつ高温であることが成立の条件みたいだ。

 調べてみると意外に貴重なモノらしい。おれが行ったことがあるのでホントにタワー型になってたのでは後述する白山・岩間の噴泉塔群やトムラウシ温泉等があるが、実際に行ってみるとせいぜいおれの背と変わらないかむしろ随分低いくらいで、勝手な想像とは申せ、「塔」っちゅうくらいだからせめて10mくらいはあるんかな?と思って行っただけに、少なからず失望した記憶がある。実は世界的に見ても2m以上に成長してるケースはないみたいだ。その前に折れたりしてナカナカむつかしいんだろう。
 上の画像の槍ヶ岳直下の湯俣温泉、下の画像の道南の見市温泉は、厳密に言うと噴泉塔ではなく「噴泉丘」と呼ぶんだそうな。塔にはなれずただの盛り上がった状態だからだ。でもまぁ、巨大な石灰華ってコトでは一緒だろう。もっと言えば、二股ラヂウム温泉は温泉宿自体がドーム型に成長した超巨大な石灰華の上に建ってた。そしてどれもがエラい山奥にあった。

 そう、山奥なのだ。「フツーの場所にあるよ!海岸にニョキッて立ってるよ!」ってな情報をお持ちの方がいらっしゃったら是非教えていただきたいモンです。行きますから・・・・・・あ、六甲の裏側の五社温泉、あれは無しっすよ。たしかに石灰華だけどちょっと違います。

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 噴泉塔、ってコトバが気になって寄り道してエラい目に遭った最初は、白山・岩間の噴泉塔群だった。もう30年くらい昔の話だ。朝に金沢市内を発って、そうそう!岩間温泉跡を目指してたんだった。その時点で噴泉塔群のことは知らなかった。どこまでクルマで入ったかは忘れたが、当時は平べったいセダンに乗ってたんで、ハラ擦るのを警戒して林道のかなり手前に置いたような気がする。

 それでテコテコと落石だらけの林道を歩いて、湯船だけが残る温泉跡に着きはしたものの、これがもぉ熱くて熱くてまったく入れない。こんなに歩いてこれかよ!?とシオ垂れて目をやると、「噴泉塔群2時間」って小さな看板が出てる。往復4時間。ちなみに4WDのクロカンならクルマでも来れるのはここまでで、そっから先は頼りない山道に変わる。散歩なら楽勝なんだろうけど、山で2時間の歩きは結構な距離としんどさなのは確実だろう。一瞬迷ったが、ひょっとしたら野湯くらい入れるかな?とかスケベ根性が頭をもたげて行ってみることにした。

 はいぃ~、タイヘンでしたよホンマ。全くの普段着のままで全く誰も歩いてない山道を、メチャメチャ大きく巻くだけでなく、高いトコから切り立った谷底までジグザグの急坂を下ったりして、這うようにして辿り着いた噴泉塔群は上述の通りのショボさ。アリ塚みたいなんからピューピュー熱湯が吹き出してるだけやんか。野湯もヘチマも、こんなトコまで来て吞気に入れるポイント探して遅くなったらそれこそどないすんねん!?ってなトコでした。山で遭難するアホをあんまし嗤えないな、おれ・・・・・・今から思えば、よぉもまぁこんな無鉄砲に、まだ結婚前だったとは申せヨメも付き合ってくれたもんだ。感心するで。

 クッタクタになってその日は後はかなり下流の新岩間温泉に入ったくらいで、そのまま白山中宮温泉に泊まったのだった。

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 その次の噴泉塔体験はトムラウシ温泉・東大雪荘の裏手にあるヤツだった。

 例のトムラウシ岳大量遭難事件の時にパーティー一行が目指してた宿として、一時はニュースに名前が良く出てたんでご存知の方も多いだろう。最近ではスッカリ流行らなくなった国民宿舎なんだけど、今でもとてもシッカリした経営の行われてる宿の一つではないかと思う・・・・・・が、やはり遠いモンは遠い。最寄りの新得の町からでも、ほぼ人家も何もないトコを50kmくらい走ってかなくちゃなんない。そらそうだ、件のトムラウシ岳は大雪山系最奥の山の一つであって、そこまであと10kmほどなんだから。

 それでもここは特に歩くこともなくスンナリ行くことが出来たし、色付き始めた紅葉がそれはそれは美しく、河岸の露天風呂も国民宿舎とは思えんくらいに素朴で好ましいものだった・・・・・・が、噴泉塔はやはりショボかった(笑)。多分、高さ1mもないくらいなのが柵で囲われた噴気地帯のトコにピョコッと出てるだけなんだもん。

 あぁ、そうだ。この時の大変な記憶はヌプントムラウシの野湯にその前に立ち寄ったこととゴッチャになってるからだろう。同じような名前なんだけど、この辺はポントムラウシだとかユウトムラウシだとか、ナンチャラ+トムラウシってな地名ばっかしで余計に混乱するんですよ。
 ここに至るには、東大雪荘に向かう県道から分岐するガッタガタの林道を約20km近く進まなくてはならない。相変わらずクルマは平べったいセダンで、もぉこの頃になると少々ハラ擦るのも気にならなくなってたんで迷わず入ってったんだが、やはり脚の短いFFセダンでダートはムリがある。途中何度も深い轍でスタックしそうになりながらの道行きだったのを想い出す。何せフツーのFFでLSDも付いてないから、前輪左右のどちらかのトルクが抜けたら要は脱輪で、たちまち走らなくなってしまうのだ・・・・・・まぁ苦労した甲斐あってか、野湯は最高のロケーションだったけどね。

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 湯俣温泉の噴泉塔(・・・・・・丘?どっちでもエエわ、笑)もアプローチの長さっちゅう点では忘れがたい。信濃大町からクルマでどこまでだったっけ?葛温泉の先の方まで行って、なんかそこで一般車両は通行禁止っちゅうんでクルマを捨てて、タクシーに乗り換えて10分くらい上がったダムサイトの近くで降ろされて、さらにそこから約10kmをひたすら歩く。道自体はダラダラとアップダウンのない川沿いを行くだけなんで楽勝だけど、行けども行けども同じようなゴロタ石だらけの河原に沿って行くだけで景色の変化に乏しく、だんだん飽きてくる。さらにこの時はまだ小さかった子供たちも一緒だったんで、3時間近く掛かった気がする。

 湯俣温泉は湯俣沢と水俣沢が合流するあたりにあって、ほぼ山小屋に近い一軒宿の「晴嵐荘」ってのがポツンと建っており、槍ヶ岳登山のベースともなってる。日本の登山黎明期に現れた不世出の超人・加藤文太郎は、ここより数km先、夏場でも難ルートと言われる北鎌尾根の厳寒期登頂に挑んで遭難した。つまりはかなり大変なトコである。
 それはさておき、肝心の噴泉塔は旅館からさらに10分ほど川沿いに上がってったトコにある。堰堤を過ぎると大量の硫黄分を含んだ川の水は青味がかって白濁しており、河岸のあちこちから熱湯が噴出し湯だまりを作っている。
 噴泉塔の真横まで行くには渡渉しなくちゃいけない。こちとら小さな子供連れだからリスクを避けて、対岸から遠めで眺めるだけにしたのだが・・・・・・てっぺんから湯気の上がる噴泉塔はやはり、期待してたよりは遥かに小さかった。野湯自体は極めてワイルドで楽しかったけども、噴泉塔にはここでもちょとガッカリしたのが正直なトコだ。

 温泉に浸かるんならともかく、噴泉塔だけを目的にワザワザ出かけて行くモンぢゃねぇなぁ~、って改めて思った。

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 現在住まう関東圏だと未訪ではあるものの奥鬼怒・湯沢噴泉塔なんかが有名だったりする。メインルートの加仁湯や日光沢の谷筋の一つ南側、以前、野湯を探してコケた西山鉱山跡のやや北くらいなカンジだから、ココもやっぱしアプローチが長いし恐ろしく悪い。そしてやっぱしショボい。聞くところによると折角それなりに大きく成長してたのが、何年か前に大水が出て折れてしまい、今は新しいのが伸びてる最中なんだそうな。

 ・・・・・・噴泉塔、ナカナカに儚くも手強い存在なのである。


見市温泉奥野の湯にある巨大石灰華(画面左の土盛みたいなのがそう。同上)。

2020.01.12

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