「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
注文の多いキャンプ場・・・・・・ACN合掌の森


お札屋敷にありがちな重層化して積み重なる注意書き(笑)。

 旅館にせよ民宿にせよ、あるいはホテルやキャンプ場といった宿泊業は飲食業と同じく接客業の一種である。飲食店ならば「頑固親父の店」とかゆうて、無愛想と無口をウリにした店なんかが実際稀に存在したりもするけれど、宿泊業ではそうもいかない。ある程度の愛想やコミュニケーション力がないと商売が成り立たない。

 チョー不機嫌なババァが大女将やってる一軒宿の温泉について、以前取り上げたことがある。あんな不愉快極まりない接客態度では絶対に長続きせんやろうなぁ〜、って思ってたら、ホンマに訪問の数年後にツブれちゃって、今では廃墟と化してるらしい。そんなんでもう実名出しても良かろう。山形の琵琶ノ沢温泉である。
 あそこはマジでひどかった。ネットで見ると廃業の原因はバブル崩壊の影響で客が減ったとかナントカ書かれてるけど、バブル崩壊の荒波を潜り抜けた温泉宿は日本中にゴマンとあるワケで、おらぁやっぱ接客態度が悪すぎたのが原因だろう、って思ってる。しかしココ、露天風呂だけは最高に素晴らしかったのもこれまた間違いなく事実だ。これはまぁ極端な例であって、あんまし普遍的な意味はないとは申せ、「エエもん出してりゃ売れる」ってのはやはり間違いなんだと思う。

 さてさて、かような不機嫌とか不愉快な態度は言語道断ではあるものの、ぢゃぁとにかく誰にでも愛想振りまいてりゃそれで良し、とは行かないのがこの商売のむつかしいトコだろう。

 言えることは、いずれにせよ宿泊業はあまり神経質すぎちゃ勤まらない仕事であるってコトだ。もちろん清掃や食事、衛生については神経質なくらいであって欲しいモンだが、宿泊客の行動や常識レベルに対しては、逆にちょっと麻痺しちゃってアパシーなくらいで丁度なんぢゃなかろうか、とさえ思う。換言するならば商売する側が譲歩しなくちゃどうにもなんない。それほどまでに世の中には無知で無教養、かつ非常識なアホが溢れ返ってるのだから。いちいち目くじら立ててたら、経営側が磨り減るばかりで身が持たず、メンヘルになりかねない。

 しかしアホが来ればどしたってハラも立つのが人情であって、来ないように、あるいは来てもアホなコトしないよう、居る間は大人しくしててもらうのがやはり望ましい。システム用語でいうところの「フール・プルーフ(バカ除け)」な仕掛けが必要になって来る。
 ぢゃぁアホが来ないようにするには?っちゅうと、これにはいくつかの方法が考えられる。単純に言えば、要は敷居を上げれば良い。いっちゃん手っ取り早いのは料金を上げることだろう。ただ、これだと料金に見合うように各種サービスのクオリティもそれなりに上げなくちゃなんないし、値上げは一瞬でもそれらには時間が掛かるから、結局そうはカンタンに問屋が卸してはくれない。
 「一見様お断り」なんかも極めて効果的だろう。信頼できる人の紹介でないと入れたげませんよ、ってアレだ。今でも祇園や赤坂辺りの料亭には残ってる・・・・・・らしいが、おらぁトンと縁がないのでよく知らないや(笑)。ところがそれほどの歴史も格式もなければ、そもそもの単価が低くて紹介客だけに限定してちゃぁ商売にならない、ってケースが世の中大半だろうから、これも一筋縄では行かないだろう。
 無暗に宣伝しない、ってのも良いかも知れない。ただそれだと存在そのものが知られることなく、根本的に商売が成り立たないリスクが伴ってしまう。無節操に宣伝を打ちまくるのも如何なモノかとは思うけど、あまりに何の情報もないのはそれはそれで問題だろう。
 あとは敢えて立地に不便な場所を選ぶ、ってのもあるけど、飲食業ならともかく宿泊業・・・・・・殊に温泉だったりすれば、大抵は元々不便な場所にあったりするワケで、あまり現実的なソリューションとはなってくれない。

 そうなると次善の策を講じることになる。即ち、色んな注意・お願い事項でもって、アホが紛れ込んで来てもアホな振る舞いをしでかさないようにコントロールするワケだが、何せアホは類推とか勘案、臆度ってな能力がキレイサッパリ欠落してて、逐語的にしか言葉が理解できないモンだから、細かく一つ一つ具体的に言わないと分からないだけでなく、アホゆえに逆切れして注意書きのアラ探しもしかねない。そしてそこから果てしないアリ地獄が始まる。つまり注意書きやら禁止事項まみれになってくのである。

 前置きが長くなってしまった。今回ご紹介の「ACN合掌の森」は、そんなコトを考えずにはおれないキャンプ場だった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ワリと有名なキャンプ場なんでご存知の方も多いだろうが、場所は岐阜の奥飛騨(新穂高)温泉郷の最奥部、ロープウェイに向かう手前から焼岳に向かって坂道を上がってった中尾温泉の一角にある。中尾温泉は昭和30年代の終わりから拓かれた新興温泉地だが、あまり新興の安っぽさのない落ち着いた雰囲気の宿が多いのが好ましい。改めて調べてみたところ、同じ日に訪ねた「いとう旅館」は惜しくも廃業してしまってたが、こちらは今も盛業中で、公式サイトもあったりする。
 何といっても一番のウリは、まるで池のように大きな混浴の露天風呂なんだけど、それだけでなく手入れが行き届いて美しく整備されたサイト、少々忘れ物しても慌てずに済むくらい品揃えの良い売店を備えた24時間受付の管理棟といった、キャンプ場としてはひじょうに高いサービスレベルのところだった。

 そう、予め誤解のないように申し上げるならば、このキャンプ場はとても良い、シッカリしたトコなのだ大分淘汰されて来てはいるものの、依然世の中にはブームに乗っかってロクにアウトドアの知識も見識もない田舎オヤジが始めたような劣悪なキャンプ場も多い中、恐らく経営者も、運営スタッフもみんな几帳面で真面目な人ばかりなんだろう・・・・・・だからこそ、だ。

 ・・・・・・注意書きだらけのお札屋敷状態(笑)になってしまってたのである。

 オートキャンプ場の常で、来場者は入口そばの管理棟横にクルマを停めて、まずは受付をしてもらう。木にはキャンプ場の案内看板がある。それは良いとして、その上には「エンジンを切って!」とある。要は、こんな空気の良いトコで排気ガスを出しっ放しにして何も感じないアホがそれだけ多いってことなんだろう。
 窓口の周りにも注意書きが色々掲示されてる。

 「受付はメンバー全員で
 「大人とは中学生以上、小人とは歩く人
 「キャンパーとはキャンプをしようと思いキャンプ道具を持って来た方

 僅か大人1,000円・小人500円が惜しくて、人数分申告せずセコい真似をしようとする不埒なアホ、乳児なんだから子供なんだからと屁理屈こねてなるだけ金を払わずに済まそうとするアホ、手ぶらで来といて「キャンプできないのぉ〜!?」とか文句タレるアホ等々が過去に発生したからこその張り紙だろう。
 受付済んだら奥の方に広がるサイトに移動することになるんだけど、その手前にもまた注意書きの看板。今度は「受付、ここで止まれ」とご丁寧に二枚もある。受付もせず、傍若無人に巨大4WDか何かでドコドコ侵入してくアホが多いコトが良く分かる。

 小砂利が敷き詰められた広々したサイトに明るいうちにテントを設営して、一旦下界に下って夕食にする。地熱が高いのか、かなりの高地にも拘らずテントの中はほんのりと暖かい。それにしてもキャンプはこうした素泊まりキャンプがいっちゃん楽で良い。テント一張り建てるだけなら、ガイロープまでビシッと張ったって15分くらいで完了である。
 そうして陽も落ちた中、戻って自慢の露天風呂に向かうことにする。途中の屋根付きの炊事スペースには当然ながら「水の出しっ放し禁止」とあった。そいでもって露天風呂は、っちゅうとこれがもぉ凄まじいコトになってた・・・・・・って、それほど文言の種類が多いワケではない。

 「シャンプー・石ケン使用禁止。ヒゲソリもダメ
 「水の調節禁止
 「飲食禁止
 「水着禁止
 「入浴以外のお客様の立入はご遠慮願います

 ・・・・・・「撮影禁止」は無かったな(笑)。

 特に最初の3つについてはよほど苦しめられてるのか、木の板、紙、プラスチック板と各種素材で作られたプレートが、古くなった注意書きの上にさらに重ねられてたりさえもした。
 排水処理がむつかしい露天風呂でシャンプー・石鹸(・・・・・・要は洗剤だわな)を使用するコトが御法度なのは常識の範疇で、たとえ知らなくたってちょっとよく観察すりゃ想像の付くことだとおれは思うけれど、どうにもそれが分からないアホが多いみたいだ。結局文明が進んで色んな利便性が高まれば高まるほど、こうしたアホは増殖するんだろう。
 水の調節にしたって、これだけ広い露天風呂ではそもそも湯温の調節自体が困難だし、それでもジャバジャバ入れて温くしてしまったら後が大変だろう、ってフツーは分かるだろうに、過去にやらかしたアホがおるってコトだ。飲食もそう。風呂の中に落とされては堪ったモンぢゃないのは、ちょっと考えれば分かるコトだろうが、多分、場所が場所だけに「おくひだぼじょぉ〜っ!」とかゆうて風呂の中で酒飲むアホとか居るんだろうな。

 ともあれ禁止事項の看板だらけの露天風呂は、その開放感溢れるロケーションとは裏腹に、ぶっちゃけちょっと息が詰まる感じがしたのだった。おれはまぁ大概ふざけた人間だけど、もっと生真面目でマトモな常識を備えた客なら、ウザくなって逆に不愉快な気持ちになるコトだってあるかも知れない。
 こんなんで本来的にはもっと来て欲しい客層を失うようなことがあれば、本末転倒っちゅうか、悪貨は良貨を駆逐するっちゅうか、大変なねじれであるし、このキャンプ場にとっては不幸なことだろう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本来的に悪いのは客の方である。元々の細かい性格が災いした点は大いにあるにせよ、止むに止まれずあんな状態になってしまったことも良く分かる。初めからゴテゴテに注意書きまみれだったワケでは決してなかろう。

 今は第何次か知らないけれど、SUVブームと軌を一にするように空前のアウトドア/キャンプブームである。あの「ACN合掌の森」が今尚お札屋敷状態なのか、それとも少しは来る客層がマトモになって注文の多いキャンプ場から脱却することができたのか、或いは客の放埓に任せて隅々まで目を光らせることを放棄して、いささか残ない状態になっちゃってるのか、少し見てみたい気がする。


夜なんで広さが分かりにくいっすね。

2019.12.08

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved