「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
UFOの残骸、バブルの残骸・・・・・・千貫森


山頂にあるクロームメッキされた玉。どうやら交信用のモノらしい(ギャラリーのアウトテイクより)。

 色んなブームが現れては消えて行くが、意外なまでにUFOはしぶとくて、日本では70年代初めの南山宏/矢追純一が仕掛けた第1次ムーヴメントから消長を繰り返しつつも根強く続いてる感がある。
 個人的には幽霊なんかと同じく、UFOや宇宙人についてもないよりあった方が人生楽しくなりそうなんで、おれは肯定派である。ただ残念なことに自分の眼でハッキリと見た経験がないんであまりエラそうには言えないのだが・・・・・・。

 ちなみに飛行機のパイロットの世界では、UFOはまぁ結構フツーに遭遇するモノらしい。「あ!またおったか」みたいな(笑)。ただみなさん大人だし、騒ぎ立てて世間体も良く高給取りな職を失うのもイヤだし、言い出すとそれこそキリがないくらいに半ば常識なモンだから、あまり知られてないだけみたいである。

 常識的に考えて、この広大な宇宙空間に生命体の存在するのが地球だけなんてぇ理屈の方が余程ヘンだし、ムリがあるとおれは思ってる。また、今の我々人類の文明が一番進化してるなんちゅうのも、何の根拠のないただの傲慢不遜ではないかとも思う。おれたちの今の文明なんてたかだか数千年ぢゃないっすか。ぶっちゃけ神なんて不確かなモノよりよっぽどあるって。

 ・・・・・・とは申せ、だ。

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 ナンボなんでもこれはないやろ!?と言いたくなってくる超脱力でトホホなB級施設が福島県にあるのだ。その名を「飯野UFOふれあい館」という。B級スポットとしてはかなり有名な物件だ。

 よくもまぁ公費を注入してこんなしょうもないモンを片田舎の山の上に作ったと感心してしまうが、実は同種の施設は日本に他にもある。有名な所では石川県の羽咋市。ここには「コスモアイル羽咋」っちゅうのがある。いや、関東周辺にだってある。千葉の銚子市だ。ここは予算が取れないかして現状では随分とチープな1コーナーに過ぎないけど、「地球が丸く見える丘展望台」っちゅうトコの片隅に色々展示されてる。何でも昭和30年代の初め、「銚子事件」っちゅうて謎の飛行物体が目撃され、あまつさえ空から金属片まで降って来て、その成分は今の技術では作れないモノだたとかナントカ。
 飛騨一ノ宮や甲府等、施設はまだないけどUFOで町おこしを目論んでるトコは他にもあって、ホンマ日本人は・・・・・・っちゅうかアタマの悪い市会議員やら町会議員といったオッサン共はUFOが好きで好きでたまらないようだ。

 話を飯野に戻す。今は平成の大合併で福島市に編入されてしまったが、元は飯野町ってトコに千貫森という小高い山がある。東北の伝で「ナントカ森」とは山を指すのだ。この千貫森が成層火山でもないのに見事な円錐形をしてるコトが貧弱ながらもイマジネーションが果てしなく拡がったいっちゃんの原因だろう。いやホント、たしかに周囲の山とは明らかに形が異なってるのは事実だ。
 そんなんでこの山については人工物・・・・・・つまりピラミッドではないかとか、みなさん勝手な想像を述べられたりもしてる。そこから論理の三段跳びが起こってUFOに至ったのだ。

 ここから急に話が怪しくも生臭くなってくるんだけど、この山を整備して「UFOの里」とし、その中核施設として「UFOふれあい館」が開設されたのが1992年(平成4年)・・・・・・つまりバブル崩壊の年だった。もうお分かりだろう。このUFOふれあい館、バブル期に全国に雨後の筍のように乱立した掘っ立て観光施設の残党なのである。
 ちなみにウィーッシュ!なDAIGOのジーチャンの竹下登が全国の自治体に1億円づつお小遣いをバラ撒いた、戦後史に燦然と輝く愚策(むしろ「暴挙」と呼んだ方が良いのかも知れないな、笑)・「ふるさと創生事業」がその4年前のことだから、あるいはその資金が注入されてるのかも知れない。

 一体全体何がどう転んでUFOになったのかは寡聞にして知らない。恐らくは東京から招いた観光コンサルタントみたいな胡乱な輩が、飯野町のあまりの観光資源の無さに愕然としつつも、何とかハナシを纏めんと商売にならない中、たまたま地元にいた「ムー」の定期購読者みたいなんと出会い、いい加減なヒアリングでプランをデッチ上げたんだろう。プランは恐らく9番目のヤツだったんだろうな(笑)。
 観光コンサルの苦悩も少しだけ分かるような気がする。いやマジでもぉ飯野って、何もないトコなんですわ、これが・・・・・・っちゅうか阿武隈高地周辺の自治体が全てそうなのだ。東北っちゅうたかて太平洋側に近いモノだから、冬は寒いだけで大して雪も降らずスキー場等のウィンターリゾートは望めそうにもない。温泉が湧くワケでもない。寺社仏閣旧跡なんかもあんましない。うねるような高原地帯が続くばかりで高低差が少なく、ボサボサと草深いばっかしでランドマークになるような急峻な山もなければギミック感のある風景もない。またそんな地形ゆえに交通の便は今でも悪い。深い谷を刻み蛇行する阿武隈川は綺麗っちゃ綺麗だけど、それだけで人が呼べるほどでもない。穏やかでのんびりしてて、住めば暮らしやすいだろうなぁ〜、とは思うけど、「金落としてくれる東京の人」はおよそ来そうにないのである。

 公式サイトを見ると「千貫森周辺には、古来から多数の発光物体の目撃例が見られました。 また千貫森自体も謎多き山であり、その周辺にも多くのミステリーゾーンが存在する事が知られています」などと麗々しく書かれてはいるのだが、過去の国内の有名なUFOにまつわる事件をあれこれ調べても、いっかな飯野町も千貫森も出て来ない(笑)。見事なくらいに出て来ない。一体全体どこの誰にどれくらい知られてたのかチャンと教えてほしいモンだ。ついでに言えば周辺に点在するはずのミステリーゾーンってのもハッキリしない。巨石のコトか?

 それでもUFOを模したような円型の建物は出来上がった。温泉が湧くワケでもないのに展望大浴場付きだ。売店・レストラン棟も向かいに出来た。さらにはてっぺんまでの遊歩道を整備し、頂上には展望台・・・・・・もといコンタクトデッキ(笑)を拵え、所々に宇宙人の石像も設置した。法外なギャラで三流イラストレーターを使ったに違いない。Uータン、イータン、デカメダ、セラ、モリタン、メイラ、カメレホー、デカタン、ゴモラ、チーミー・・・・・・それも御丁寧に名前まで付けて、だ。念には念を入れたか悪ノリか、元々あったすぐ近くの神社の境内には「誘宝(←ゆうほう)道祖神」なるお社まで建ててしまった・・・・・・内部は木製巨大チンポの金精様が大量に収まってたが(笑)。

 みなさん、今の感覚で言えば紛うことなきアホの所業と思われることだろう。キチガイ沙汰と言ったって良い。こんなモンで「金落してくれる東京の人」が来ると思ってたのだ。
 どこの地方にもいるであろうちょっとイカれたジジィとかがファナティックに一人でコツコツ作ったんならまだともかく、誰がどう考えたってこんな子供騙しに過ぎないハリボテを町全体の総意としての公共事業で何億も費やしてやっちゃったのである。

 そしてそれはもちろん飯野町だけではない。あの頃、日本の各地で似たようなコトが同時多発的に起こっていた。それがバブル景気の地方部への波及ってコトに他ならなかった。是非はともかく、日本中が東京の金を狙っての豪快なお祭り騒ぎだったのだ。そもそものアイデアの絶望的なまでの詰まらなさも、その後延々と懸かる毎年の維持費や人件費も、10年おきくらいに発生するであろう改修費も・・・・・・そんなマジメな議論なんてやってるだけ余所に遅れを取ると言わんばかりに突き進んだおめでたい時代だった。欲に凝り固まった「バスに乗り遅れてはいけない」って愚民の理屈にもならない理屈は、太平洋戦争前夜と何ら変わってないのである。

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 休日だっちゅうのに千貫森のてっぺんへの遊歩道を登るのはおれたちだけだった。所々に据えられた、件のいちいち名前の付けられた宇宙人キャラクターの石像は半ば草に埋もれている。コンタクトデッキという名前の要するに展望台は360度眺めが良く、吾妻連峰が見渡せる。しかし、据え付けの望遠鏡は壊れたままだ。震災の影響もあったのかも知れないが、タイルがひび割れたり剥がれ落ちたりしてる箇所も所々見受けられる。
 隣の草地には巨大なパチンコ玉のようなオブジェがやはり半ば草に埋もれて何個か置かれてある。これが宇宙人と交信するための「何か」を意味してるようだ。ユンユンと電波でも出してるのか?ともあれホンマに宇宙人おってコレ見たら「ナメとんのかこらぁ!?」っちゅうて破壊光線とかで攻撃されるんぢゃないかと不安になるような代物だ(笑)。こんなんぢゃぁ宇宙人どころか金落してくれる東京の人も呼べません、って。

 一人400円の入場料を払って入ったUFOふれあい館もまた、客はおれたちだけだった。くどいようだが今日は休日だ。それもゴールデンウィーク明けとは申せ、初夏の爽やかな絶好の行楽日和の天気だ。こんな日に客来なくていつ来るというんだろう?それでもまだツブれず命脈を保ってるだけマシとすべきなんだろうか。
 薄暗く、ホログラム壁紙だとかブラックライトだとか如何にも80年代ノリなチャチでスペーシーな演出の為された館内には、どうでも良いようなデッチ上げのハリボテや書き割り、顔出しが申し訳程度に並べられる。「NO UFO,NO LIFE」ってなタワレコのパクリ丸出しのコピーの恥ずかしいバックプリントTシャツ着た職員が曖昧な笑顔でビデオ上映を観て行くように勧める。どうせ観たってロクでもないのは分かり切ってる・・・・・・何とも気まずく、ちょっとばかしいたたまれない気分になって来た。恐らくおれもその時曖昧な笑顔を浮かべてたに違いない。

 当初の町の目論見はホンの僅かながら当たったと言えるだろう。だってこうして東京からモノ好きが二人やって来て、入館料に加えて「飯野町 巨石探訪」ってブックレットまで購入してくれたんだもの(・・・・・・っちゅうか本来はこの冊子が欲しくてここに立ち寄ったんだが、笑)。1200円の売り上げである。
 しかし事業には収支ってモンがある。どこをどう見たってこの施設がそんな程度の売り上げでやって行けるハズがない。やって行けるっちゅうんなら何かすごい錬金術があるに違いない。オリハルコンか!?(笑)

 思えば、UFOとバブル景気ってどこか似てるのかも知れない。実態が何だかさっぱり分からないまま、何となく進歩とか未来とか発展を感じさせるイメージだけで多くの人が踊らされる点において。


館内では宇宙人と素敵なツーショットも撮れます(同上)、

2019.02.09

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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