「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
定宿にしたい・・・・・・苗木ラジウム鉱泉


何か可愛い入口の看板(ギャラリーのアウトテイクより)。

 あまりに粗製乱造され過ぎでいささか食傷気味な「**のマチュピチュ」ではあるが、「岐阜のマチュピチュ」として有名な(笑)苗木城址、ちょうどその真下あたり、木曾川を望む巨大な河岸段丘上に苗木ラジウム鉱泉はある。

 中津川近辺にはかつてよりは減ったものの今でも冷鉱泉が結構あちこちに点在してるんだけど、どこも大体ラジウム泉であることを謳い文句にしてる。なるほどこの辺はどこも花崗岩質だし、日本最大のウラン鉱床である東濃地方もすぐ近くなんで、さもありなんって気がする。言うまでもなくウランは濃縮されると原爆の材料にもなるし、放射線が出てるから高濃度だと被爆の恐れもある。
 そんな中をリニア新幹線のトンネルが通るからってんでワーワー騒いでる連中がいるみたいだけど、時速500キロだったっけ?そんな猛烈な速度で通過するだけで、果たしてどれだけ人体に害があるのかって思っちゃう。それより車体を浮かせる強力な磁力が人体に及ぼす影響の方が大きいんぢゃなかろうか。

 話が逸れた。そうそう、これ書いとかなくちゃ。それより何より、この苗木一帯はありとあらゆる鉱物だけでなく貴石類の産出する地域として昔から有名なのだった。鉱物標本でも産地が中津川と書かれてるのは良く見掛ける。一説にはダイアモンド以外の宝石なら何でも採れるとまで言われる。実際、水晶系の宝石はちょっと谷川を丹念に探すと見付かるらしい。先日もTVで鉱石マニアの女優・とよた真帆が、ウェーダー着てジャブジャブ川に入ってトパーズを探す番組をやってた。

 苗木城址も訪ねる価値は大いにあると思う。それまでおらぁ城跡にはちっとも興味が湧かなかったんだけど、ここまで来てパスするのもどうかな?と思って何となく上がってみて、それ以来少々考えが変わったくらいだ。
 ぶっちゃけ、城址ブームの先駆けとなった雲海に浮かぶ城・竹田城にしたって、そら行ったのが真夏のクソ暑い昼間で頭がクラクラしてたっちゅうのもあるけれど、さほどピンと来なかった。それくらいまぁ城には興味が無かったのだ。それがこの苗木では何だかちょっと感動してしまったのである。
 いやまぁ、ただひたすら石垣が残るだけで、僅かに頂上の本丸部分にそれらしく再現された懸崖造りの展望台があるだけなんだけど、巧みに巨石を土台に組み込んだ石垣のスケールがとにかくデカい。また、遥か眼下に木曾川や中津川市街を見下ろす景色も素晴らしく、城址に興味のない人にもオススメである。

 ・・・・・・マクラばっかしダラダラ続いて、いつまで経っても本題に入らないねぇ(笑)。

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 抜けるような秋晴れの朝、遠路遥々中央道をトバして中津川にまで出かけたのは、決して温泉ではなく巨石が目当てだった。忌憚なく言わせてもらうならば、そのままその辺で泊まるのにどうしようかなぁ〜?って考えて、それで安いっちゅうだけで決めたんであって、近年のおれの温泉への気持の冷め具合が良く分かるってモンだ。あ〜も〜、だらしねぇったらありゃしない。

 朝から星ヶ見公園を筆頭に、源斎岩、鮒岩、女夫岩等々、点在する素晴らしい巨石の数々を回りまくり、最後に苗木城址に立ち寄って宿に向かう。5分もかからず到着。平屋建ての建物が斜面に沿って何棟か平行に建つ「かすみ荘」という小さな一軒宿だ。街中に近いんで、おれはもっと昭和な雰囲気のプンプンするヘルスセンターっぽいのを想像してただけに、この慎ましやかで落ち着いた佇まいがまず気に入ってしまった。

 案内された部屋は新館の四畳半の狭い和室で、何となく湯治場っぽい雰囲気がある。かといって決して古くてボロくて汚いワケではなく、とても小ざっぱりとしたものだ。廊下に嫌味でない程度に配された生け花等にも気遣いとセンスを感じる。高級ではないけれど、キチンと誠実に節度を保って隅々まで気配りされて宿が運営されてるんだな〜、ってのが伝わる。

 浴室は3ヶ所。残念ながら1ヶ所は今日は沸かしてないとのことだ。まずは旧館にある方に向かうことにする。どうやらすべて混浴っちゅうか貸切で、お客さんは適宜代わりばんこに入るようになってるみたいである。
 いささか殺風景な、効能書きまでが素っ気ない脱衣場でソッコー浴衣脱いで入ると、浴室の広さのワリに小さな湯船が如何にも鉱泉らしくて好感が持てる。イチョウ型の浴槽の周りは石で囲われ、岩風呂っぽく設えられており、浅い湯舟にはラジウム以外の成分はほぼ無くて真水に近いのではないか?っちゅうくらいにサラッとした湯が湛えられる。残念ながら窓からの眺望は期待できない。そもそも曇りガラスだし、開け放っても宿の前の道や駐車場が見えるだけだ。それにラジウム泉はなるだけラドンを吸い込んでこそ意味があるんで、むやみやたらと窓開けてはいけないんだった。ちなみに浴室も古いとは申せ掃除は行き届いており、古い鉱泉宿にありがちな不潔感みたいなんは一切ない。

 ・・・・・・メッチャ良いぢゃんかよ!ココ!これまで全くノーマークだった自身の不明をちょっと恥じ入ってしまった。

 食事の時間になった。大広間は真新しく、近隣の宴会需要が結構あるのかも知れない。こんなにお客さんいたんだ?ってくらいに広間は宿泊客で満席になっててビックリする。
 ・・・・・・で、肝心の食事。これがホンマ、マジで驚いた。この料金でここまで細部に気を配り、ヒネリも効かせた献立が組み立てられるんだ!?っちゅうくらいに器や盛り付け、味付け、全てが上品で繊細に仕立てられている。たいへん申し訳ないが、旅館の佇まいからてっきり素朴な家庭料理っぽいのを想像してたんだけど、良い意味で裏切られた。
 強いて難点を挙げるなら、大食漢のおれには若干量も上品だったことくらいだろうか・・・・・・って、この値段でこのハイクオリティに文句言っちゃいけないよね(笑)。

 給仕されながら聞いたところによると、元々はココ、木曽川に望む南斜面を利用して茶畑を営む農家だったらしい。今はかなり廃れてしまったけれど、かつてこの一帯は茶の一大産地だったという。昼夜の大きな寒暖差に加え、川から立ち込める霧が茶の生育に向いてたんだそうな。それでその灌漑用に掘った井戸の水が、何となく普通と違う気がして鑑定してもらったところ良質のラジウム泉であることが判明して、それで思い切って鉱泉旅館に鞍替えしたのが始まりとのことだ。恐らくは国内観光がブームだった昭和40年代のことだろうと思われる。
 今は二代目か三代目か、代替わりして若い娘さんが女将として切り盛りしてるんだけど、この人がかなり料理を修業されてて、料理には自信がある、ってことなんかも聞かされた。たしかに、料理だけでなく宿全体のセンスに女性的な感じが通底してる。

 食後、もう一つの内風呂にも入る。こちらは造りが随分と新しいが、やはり同じように石を周囲に配したイチョウ型の湯船だった。貸切が館内にいくつもあるのは気楽で良い。

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 翌朝、いつものパターンで単焦点一本で周辺をウロウロしてみる。草に埋もれ廃墟となった旅館と思しき建物が他にもあるんで、昔は小さいながらも温泉郷を形成してたらしいコトが伺える。今は城址ブームも追い風になってそれなりに堅調にやっておられるようだが、なぜかあまり温泉関係のサイトには情報が出て来ない不思議な鉱泉だ。
 たしかに派手なギミックは何もないし、第一、鉱泉っちゅうのがそもそも論で温泉より地味な存在ではある。とは申せ、この佇まいでこのクオリティでこの料金なら、もっともっと人気が出てもおかしくないのに。

 基本的におれは同じ宿に繰り返し泊まることはしないし、単なる市井のいちリーマンの身の上であるから、物書きのように宿に逗留してカンヅメになるようなこともない。それでも定宿にしたいなぁ〜、って思った宿はいくつかある。例えばどうだろ、パッと想い出されるところでは湯岐温泉・「和泉屋」、銀婚湯、湯田上温泉・「初音」なんかが挙げられる。
 いずれも値段が高いとか豪華とか、そんなベタな価値観の軸ではない。気配りとか心づくしともちょっと違うように思う。だってどんな旅館だってそれなりに、あれこれ工夫して御客をもてなすことに心を砕いてるのだから(・・・・・・稀にヒドい例外もあるけどね、笑)。
 上手く言えないけれど、定宿にしたいと思わせる宿には、旅館としてシッカリ守るべきものを守り、押しつけがましくはないけれど、矜持と主張みたいなんが共通して感じられるのだ。一言で言うと、凛とした感じだろうか。
 同様の雰囲気が、ここ「かすみ荘」にもおれはあると思う。それはいくら付け焼刃で投資したって得られないモノだと思う。

 ・・・・・・だからヘンに商売っ気出して、「マチュピチュの湯」とかにはならんといてね(笑)。頼んまっせ!!


如何にも鉱泉らしい雰囲気の旧館浴室(同上)。

2019.01.02

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