「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
これぞ珍湯・・・・・・永豊(高田)温泉


こうして見るとただの(!?)超鄙び系な共同浴場なんだが・・・・・・(ギャラリーのアウトテイクより)

 永豊(高田)温泉について語るのは、簡単そうで意外とむつかしい。

 やはりここも道南の日本海側、だいぶ北上した辺りな島牧村ってところの海岸沿いに高田旅館という一軒宿の温泉がある。ほいでもってそこが所有(管理!?)するのが永豊温泉なのだが、この辺の地区名が「永豊」だから便宜上そう呼ばれてるだけであって、実際名前があるのやら無いのやらサッパリ分からない。
 ちなみに以前、象の花子さんが湯治で長期逗留したことで名高い宮内(ぐうない)温泉を取り上げたことがあった。実はここが島牧村では最古の温泉と言われてる。あそこに比べるとこちらは随分歴史が浅く、70年代初めくらいの掘削泉らしい。

 ・・・・・・で、何がむつかしいのかっちゅうとこの高田旅館の方は温泉を名乗ってないのだ(笑)。温泉持ってるクセに。

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 高田旅館は島牧村の役場のある中心部のやや北側、国道228号線の旧道がY字に分かれる辺りに建つ一軒宿だ。道路を挟んだ向かいは漁港で、泊まればさぞかし新鮮な魚が供されるんぢゃないかってなロケーションである。道から数段上がったところにある玄関に向かう。

 ------ごめんくださ〜い。
 ------はぁ〜い。

 多分女将さんだろう。奥から割烹着着たオバチャンが出て来た。

 ------こちらで温泉入れるって聞いて来たんですが・・・・・・
 ------あ!あぁ、温泉ね〜。ここにあるんぢゃないんですよ、温泉。
 ------は!?
 ------ん〜、分かるかな〜・・・・・・ここ真っ直ぐ行って左に曲がって、畑の中行くと左側に小屋がありますから。
 ------すぐですか?
 ------車なら1分か2分ですよ。すぐそこです。
 ------分かりました〜。探してみます。2人なんですけどおいくらですか?
 ------いや〜、そんなぁ〜、結構ですよ。それに入れるかどうか分からないよ。
 ------????

 取り敢えず言われた通り集落の中の旧道を100mほど進むと左に曲がる道がある。すぐに舗装は途切れ、畦道みたいになった左側にたしかに一軒の片流れの屋根の小屋がポツンと立っている。断熱のウレタンシート剥き出しで囲ってあるだけで、極めて殺風景だ。周囲にはドカシーやら猫車、脚立、木材、古い冷凍倉庫等があって雑然としており、何だか工事現場みたいにも見える。しかし他にそれらしい建物もなく、恐る恐るまるで飯場入口のようなアルミ扉を開けて中を覗くと、やはり果たしてこれが永豊温泉だった。

 ベニヤ板で囲われた脱衣場にも色んな物が散乱しており、廃屋に入ったみたいだ。これは廃墟での撮影ではなくって、温泉なんだよな!?って思わず再確認してみたい気持ちになってしまう(笑)。もちろん混浴、こんなんでキッチリ別浴だったら却って怖いわ。

 浴室はコンクリート素塗りの2畳ほどの広さで、手前1/3ほどが簀子の敷かれた洗い場、残りのおよそ半分弱が細かいタイル張りの浴槽になっており、残り半分のスペースには薪ストーブに薪の燃え残りが数本、カセットコンロのガスを使うファイヤートーチ、団扇なんかが散らばり、湯はストーブから付き出した塩ビ管から注ぎ込まれる。
 鈍いおれもオバチャンの言ってた意味がようやく分かった。要はココ泉温が低く、セルフサービスで適宜加温して入るようになってたのだ。ストーブではなくこりゃボイラーなのだ。しっかし自分で沸かして入る温泉なんて、寡聞にしておれは他に知らない。

 湯舟に手を突っ込んでみると、もちろん熱くはないけれど、秋の終わりの今でも入れないっちゅうほど冷たくはない。体温と大体同じかちょっと低いくらいな感じだ。どうしよう?目の前に転がる薪を燃やすだけで手間だろうし、それにこの量では到底足りない。だからってもっかい服着て表まで薪取りに行くのも面倒だ。それに大体ついさっきまで、陽射しはあったとは申せ、寒風にもめげず灯台近くで撮影敢行してたやんか(笑)。
 そんなこんなで入る。二人入ると湯船はほぼ一杯。あ〜ぁ、溢れた湯で薪が濡れてしもうたやないかい!

 源泉がどこにあってどう引かれてるのかは分からないけど、チョロチョロと絶えず温泉は湯舟に流れ込んでいる。源泉100%掛け流し、っちゅうこっちゃね(笑)。僅かに黄色味がかったお湯は特に匂いもなく、舐めると若干の塩味を感じた。
 ぬるいとはいえそこはやはり温泉、ジーッと長く浸かってると、何となく身体の芯からジンワリと暖まって来る。このイカレ鄙び系とでも言えば良いのだろうか、農家が色んな廃物利用でテキトーに建てた野小屋のような雰囲気といい、間違いなく珍湯と言えるだろう。決して秘湯ではない。坂本衛氏的に言やぁ「超秘湯」ってヤツだな。

 元はと言えば、高度成長期に一山当てることを目論んでボーリングした温泉の一つだろう。北海道は70年代初めくらいの掘削泉が他にも結構ある。ディスカバージャパンとかゆうて、北海道旅行が盛り上がってた時代と合致する。しかしそれで商売になった温泉地はそんなに多くない。ここも恐らく泉温は低いわ湧出量は大してないわで夢は儚く潰え、それで今は細々と部落の年寄りなんかが、自分で薪をくべて湯加減調節しながらダラダラ時間を過ごす、いわば自主運営老人保養施設みたいな使われ方をされてるだけなんだろう。この寄せ集め感溢れる調度類の何ともちぐはぐでシュールな取り合わせは間違いなく、金はないけど知恵だけは一生懸命絞った年寄りのセンスだろうと思われる。
 そう、この感じ、謎の「イリカ水」を標榜した日本屈指の珍湯、今は亡き葉山の星山温泉を想い出させる。あれのブッ飛び具合に比べりゃ随分とマトモだけど、センスには一脈通ずるものがある。

 温泉に於ける「ほぶらきん」とでも言うべきか、恐るべきローファイぶりを何とかアイデアでカバーしようとした感じが却って味になるのが、結局、珍湯の珍湯たる重要ポイントなんだと思う。単にボロけりゃ良い、ってモンぢゃぁない。愛と情熱が必要なのだ。

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 インターネットの発達によってマイナー温泉についての情報の掘り起こしもやり尽くされちゃった感がある一方で、個人的にはこうした珍湯は探せばまだちょっとは見付かるのではないか、って気がしてる。全国には未利用源泉は数多くあるし、また、温泉として登録されないまま個人的に湯小屋を建ててるようなケースもあるだろうからだ。

 狭いようで日本は広い。奇人変人も沢山いる。決して本人はそう思ってなくて大マジメでも・・・・・・いや、大マジメであればあるほどそのズレ方やブッ飛び方は際立つもんなんだけど(笑)、そういった人々のいささか常識ハズレだけどひたむきな想いの詰まった温泉ならば、おらぁもっと入ってみたいと思う。泉質なんてどうでも良いのだ。


まるで物置な脱衣場。いや実際物置なのかも(笑、同上)

2019.01.03

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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