「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
志が高いね!・・・・・・湯端温泉


ホタルの湯(ギャラリーのアウトテイクより)。横にあるのが源泉の入ったポリタン。

 温泉や鉱泉に対する興味をだんだんと失ってきてることについてはこれまで繰り返し言及した通りだ。だってさぁ〜、おれが大好きなワビサビ系なんかがドンドン廃業して行く姿を見たくはないですやん。そんなん寂しいだけですやん。

 いつの頃からか訪ねた温泉・鉱泉をカウントするのも止めてしまった。数稼ぎなんて無意味だ。健康ランドとかスーパー銭湯みたいなんまで源泉がどぉとか講釈垂れてネチネチ偏執狂的に勘定して、それで「***ヶ所制覇!」なんて言ってる人には縹渺とした苦笑を浮かべるしかない。
 おそらく現時点で入ったことがあるのは8〜900ヶ所ってトコだろうか、多分1000は行ってないだろうと思う。どうだろ?本当に行きたいんだけどどうにも機会が無くて行き残してるところって、多分国内であと100ヶ所もないんぢゃないかって気がする。

 ・・・・・・とまぁ、そんな感じで今や温泉については半ば諦めの境地に達しており、最近では、宿泊先にはさすがに極力温泉を選びはしてるものの、行動中の立ち寄り湯なんてぇのは殆どしなくなってしまっている。もちろん拙サイトにお越しの方の多くが温泉情報を求めてのコトだと拝察するし、実際、温泉をメインテーマの一つにサイトの運営を始めたのも事実ではあるのだけれど、相変わらず淡々と続く旅のギャラリーの中で温泉や鉱泉の占めるウェイトは随分低くなってしまった、っちゅうのが偽らざる事実だ。

 上州の湯端鉱泉は、そんな風にすっかり冷め切ってダウナーになってしまってるおれの温泉に対する気持ちに、僅かながらも希望の灯を点してくれた一軒宿の小さな鉱泉宿だ。

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 平成の大合併によって高崎市に吸収合併された旧・吉井町の町外れにその鉱泉はある。その来歴はひじょうに面白くて、そもそもは昭和40年代、昔から自噴してた鉱泉水を利用した宿が始まったものの、平成の半ばくらいに宿の主人が亡くなったことで一旦廃業してしまっていたのだった。それだけならいつもおれが嘆いてるパターンだけど、その意気や良し!何となんとお孫ざんがリニューアルの上、宿を復活させたのである。
 観光旅館にする気はさらさらないらしく、何と今時珍しい素泊まりのみの宿だったりする。その分宿泊代は驚異的に安く、平日だと4,000円、土日祝でも4,500円と、ビジネスホテルもビックリなお値段だったりする。

 何で知ったのかは忘れたが、数年前にふと南牧村方面に行きたくなって、どこか手頃なトコはないかいのぉ〜、ってあれこれ(・・・・・・ったってネットだけなんだけど、笑)探してるうちに見付けたのだ。さすが若い経営者だけあってIT系にも馴染んでるようで、調べると、「じゃらん」やら「楽天」にも登録してるし、手作りっぽいブログもちゃんと構えてる(今は手作りサイトに移行された)。

 日が暮れる前に宿に着いて、早速温泉に入らせてもらうことにする。僅か6室しかない宿にも拘らず、貸切の浴室が離れて2ヶ所あるのはナカナカ贅沢な作りだと思う。館内にあるのが「ホタルの湯」、道路脇に小屋みたいにポツンと独立して建つのが「湯端の湯」と名付けられており、平日は前者しか沸かしてないみたいだ。
 何でも源泉湧出量がとても少なく、とても毎日2つとも賄えるほどには出てないらしい。それに源泉温度も10℃以下とたいへん冷たく、ボイラーの油代等を考えれば仕方のないことだろう。いずれも時間を予約して鍵を貰って入るスタイルだ。何となく最近このテのが増えたような気がするが、個人的には気兼ねせず入れるし、鬱陶しいワニとかが排除できるので悪くないと思う。
 ちなみに成分は後者の方が濃い、ってな風に書かれてあった。醤油かよ。温泉で濃口と薄口なんて初めて聞いたな(笑)。

 まずは景色が良さそうな「ホタルの湯」の方に、明るい内に入ってしまうことにする。季節になると蛍が飛び交うことから名付けられたらしい。何せ近年リニューアルされた宿であるからして、モダンで明るく、ひじょうにプレーンな印象の浴室だ。貸切だけあって脱衣場は狭く、入ると4人も入ればスシ詰めなタイル貼りの浴槽が一つあるだけ。湯は薄っすらと濁った淡黄色で、それほど匂いも何も感じなかった。言われてみれば何となく硫黄っぽいかもね・・・・・・くらいなカンジ。冷鉱泉っちゅうととかく炭酸鉄泉系の赤錆色の印象が強いけど、これもまた如何にも鉱泉らしい泉質ではないかと思う。何となく今は亡き神戸の珍湯、鹿ノ子温泉を想い出した。
 湯船の脇にはアウトドア用のポリタンが置いてあって、中には加熱してない源泉が入ってる。貼られた紙には「お肌に付けてみてください」とあった。何となく今の主人の湯に対する愛情を感じる。
 外に出られるようになってるので露天風呂でもあるのかと出てみるが、これは単なるウッドデッキというかベランダ。まだ新緑には早い冬枯れたボサボサした丘陵地帯が見える。目隠しのために本来の高さ以上に天津簾で囲ってあるのはちょと残念かも。蛍観賞は座っては出来なさそうだ。

 おそらく再開に当たって、この浴室のある自宅部分の建物をまずは日帰り温泉施設として建てたのだろうか、宿泊棟は一応別棟になっており、見ようによっては湯治場の自炊棟に見えなくもない・・・・・・が、むしろ何となく昔住んでた下宿のような雰囲気だ。それと何せ出来てまだ新しいゆえに、「歳月を重ねた深み」みたいなモノは一切感じられない。それがいささか残念っちゃ残念ではあるが、まぁ逆にこざっぱりして清潔とも言えるだろう。

 部屋でゴロゴロする内に大分いい時間になって来たので、教えてもらった吉井駅近くの蕎麦屋に出掛けることにした。

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 素泊まりの宿に泊まって外で飯食うことの欠点は一つだ。歩きならともかくクルマで繰り出した手前、酒が飲めないのである。かといって歩いて行ける範囲に飯屋はないので仕方ないとは申せ、これはヤッパシ八ッ橋何とも味気ない。国道沿いのコンビニで何本か買い込んで部屋で飲むことにする。チャンと廊下には共同の冷蔵庫があって冷やしておくことも出来る。

 ・・・・・・と、まずは缶ビールを空けたところで、外にある湯端の湯の予約時間になった。

 ほほぅ!こちらはけっこう拘った造りで、クラシカルで重厚な雰囲気に仕上げてあって、ホタルの湯とは随分印象が異なる。照明が薄ボンヤリと暗く灯るのも計算してのコトだと思われるが、いささか薄暗く写真のISOが上がりまくってるやんけ!(笑)。古風な共同浴場を頑張ってコピーしたコトは伺え、小さいながらも高い天井にはキチンと古風な吹き抜けがあったりもする。あと30年くらいしたら良い感じにヤレて昔の村の湯的な古色蒼然とした佇まいになれるかも知れない。
 浴槽は先ほどと同じくらいでそれほど広くはない。湯はホタルの湯に比べてたしかに濃口・・・・・・かどうかはおれには良く分からなかったな(笑)。
 こちらは何せ道路脇なので窓は明かり取りみたいなのがあるだけで、まったく眺望は開けない。それがちょっと惜しい気がする。いっそマジックミラーとかで道路側を全面ガラス張りにでもしたら面白かったかもしれない。

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 多分、そんな手許にうなるように資金の余裕があって宿を再開したのではないと思う。この湯殿も入れると湯端温泉は3つの建物で構成されてるのだけど、言っちゃ悪いがどれもいささか薄っぺらい、っちゅうか安普請な感じは共通してる。さらにはあちこちにDIYで頑張ったんだろうなぁ〜、って伺える造作だって見え隠れする。虫除けの網戸の取り付けの奇天烈さなんてもぉ特筆モノだ。これでホントに虫が入って来ないようには見えなかったな(笑)。

 ・・・・・・だからダメだ、と言いたいのではない。逆だ。だからこそこの湯端温泉は素晴らしいのである。いや、もっと言えば「貴い」とさえ言える。考えてもみて欲しい。今時、若夫婦で新たに鉱泉宿を始めようなんて奇特なケース、聞いたことありますか?っちゅうねん。少なくともおれは聞いたことあらへんで。

 それもアメニティらしきものは全くなくて素泊まりのみ、なんちゅう今や絶滅危惧種に近くなった自炊の湯治場と変わるところが無い宿で、だ。
 温泉と違って沸かす分ランニングコストが掛かって儲かりにくく、世の中から零細な鉱泉宿がどんどん淘汰されてってる御時世に、だ。
 こじんまりした個人経営が難しくなり、資本の注入されたスパやらスーパー銭湯が幅を利かせる時代に、だ。
 拘束時間が長くてオマケに休日が取り辛いもんだから、名門旅館でさえ息子や娘は後継ぐのを嫌がると言われるこの現代に、だ。

 こりゃもう「天晴!」とか「その意気や良し!」と言うより他ないではないか。

 元は超ドマイナーな牛伏山くらいしか近所に目ぼしい観光地は無かったけど、今では近くの富岡製糸場が世界遺産に登録されたりもしたことだし、この志の高い鉱泉宿に出掛けられてみては如何だろう?ただ、こうして小さな鉱泉宿を新たにやってくのがどれだけ大変なコトかピンと来ない人には奨めません。多分いろいろ不満が出るだけだろうから。


湯端の湯(同上)。食後すぐでおなかが出てるのはご愛嬌、ってコトで・・・・・・

2018.03.07

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