「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
高玉金山で考えた


絶賛休業中!・・・・・・間違っても営業再開はないだろうな

 今は郡山ジャンクションで分かれて新潟に向かう磐越道が磐梯熱海温泉近くを通る辺り、何てことないボサボサした山の麓近くを中心に、かつて高玉金山は広がっていた。閉山は昭和51年とのことなので、国内の鉱山としては命脈を比較的最後まで保った方だったと言えるだろう。判明しているだけで金の総産出量は28t、銀は280tと一時は日本三大金山の一つとも称された大規模な鉱山であった・・・・・・まぁ、三大金山については諸説あって、三大稲荷が沢山ある以上にいい加減なのであるが(笑)。

 金鉱山って相場変動にも左右されるものの、採算ベースとしてはトン当たり3gも含有されておれば成り立つと言われる。でもって、世界の金鉱山の平均品位は大体3〜8g、相場が上がれば2gでも行けるそうな。ちなみに世界最高品位と言われ、国内に唯一現存する金山でもある鹿児島県の菱刈鉱山はトン当たり80g、推定埋蔵量は250tもあって、これは世界的に見てもケタ違いらしい。
 ところがこの高玉金山、含有量だけで行くと驚異的な鉱石が過去に掘り出されたことがある。三盛東部19号鉱脈というところでトン当たり実に6800gっちゅう鉱石が出たこともある。これがどれくらいの体積かっちゅうと、比重で換算して351.9ccなので、ちょうど自販機で買うアルミ缶のジュースくらいのサイズだ。な〜んだぁ!大したことねぇぢゃん!なんて思ってはいけない。人類がこれまでに掘り出した金の総量って、25mプール2杯分くらいしかないって言われてるのだから。それほど貴重だからこそアルケミズムも生まれたワケだし。
 なお、非公式記録ではトン当たり20000gという化物のような原石が出たこともある。金の地金の買い取り価格は一昨日現在で4,628円/gなので、何とおよそ9,200万円!精錬や輸送コストを差っ引く必要はあるが、一獲千金を夢見たくなる気持ちは分からないでもない。

 ともあれ現在ではスッカリ木々に覆われてしまった高玉金山、そんな極めて高品位な鉱脈を武器に、一帯に三つの鉱区を有する巨大鉱山だったのである。

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 高速を降りて、今は観光施設「ゴールドマイン高玉」と変貌を遂げた方に向かってみる。村の中を抜ける道は離合に困るほど狭く、ところどころに掲げられた「高玉金山」の看板も小さくて、もぉアプローチ段階からマイナーなオーラを出しまくってる。ここにかつて巨大鉱山が存在したと思わせるような痕跡はどこにも残ってない。

 磐越道のコンクリの高架下を潜る狭い道を抜けるとゴールドマイン高玉はあった。いや、正確に言うと、ゴールドマイン高玉の残骸がそこにあった。
 高速道路に沿うようにして一列に、これだけは鉄筋コンクリート作りで妙に立派な土産物屋兼レストハウス、見るからに安普請が見て取れる鉱山博物館兼事務所、軽食の屋台、そして黄金温泉なる日帰りのスパ・・・・・・それらがすべて哀れな廃墟となって並んでいる。昨日今日の話ではなく、放棄されてもう何年も経っているように見えた。温泉なんか入口の高く繁った雑草に覆われて建物の場所さえ判然としなくなっている。
 確かこれらの建物の並ぶ上にメインの坑道入口があって、そこに入って行く観光トロッコがあるハズだと思うが、そこに向かう煉瓦敷きの歩道も既に深い藪の中へと消えてしまっている。砂金採り体験場も一面の藻が繁殖する汚い水が溜まってるだけだ。ただ、恐らくは坑道からの出水だろうか、大量の錆色の水が流れ落ちて来ている。一部はレストハウスの閉ざされたドアの下から流れ出してることからすると、最早レストハウスも使用に耐える状態ではなくなってるに違いない。目の前の防音壁の向こうをクルマがビュンビュン通ってく音だけが響く。

 ・・・・・・って、実は初めからそんなことは下調べの段階で分かってた。それまでにしたってどこにでもある平凡な施設ばかりで魅力に乏しく、すぐ近所の磐梯熱海温泉が本家熱海ばりに団体客に特化して発展してたのが災いして、バブル崩壊以降は廃業続出で低迷し、まとまった数の観光客の訪問はロクになかったところに、東日本大震災が追い打ちして設備は壊れるわ、元々少ない客足はさらに遠のくわの踏んだり蹴ったりで、休業状態がそのままになって放棄されてるのである。その様子を見たくて敢えて立ち寄ってみたのだ。

 廃墟としての深みも何もないまま、何だか廃材置き場のような無残さを漂わせるばかりだ。情緒もへちゃちゃも何も、ない。最近は廃墟のロケーションで写真撮ることが多いけど、どうにも腰据えて写真を撮ろうって気になれない。

 次に奥の鉱区だった方に上がってみることにする。かろうじて舗装はされてるものの九十九折りで頼りない道をどんどん山奥に向かって上がってくと舗装が途切れ、どうやらそれらしい所に着いた。かつて鉱山住宅が並んでたと言われるあたりは一面の原っぱになってるだけで、遺構は殆ど残っていない。東京くんだりからワザワザやって来て、無人の山中に広がる原っぱだけぢゃまるでアホだと思った。
 少し離れた山中にも雛壇状になった大きな選鉱場やシックナー、煙突等の素敵な遺構があるようだが、これも今ではスッカリ雑木林の中に埋もれてしまい、近付くのさえも困難な状況だという。以前のクロカン4WDならもう少し頑張ってみる気にもなったろうが、今のクルマの腹下ではアッと言う間にスタックしかねない・・・・・・って、どだい取り付きの道にゲートが下りてるやんけ、トホホホ。

 高玉金山は廃鉱としても抜け殻になったとんでもない場所だった。高玉金山は二度死んだのだ。

 こうして同じように二度死んで無残な状況を晒してるところは日本中に存在する。最大規模のものは何たって、以前駄文にまとめたこともある夕張であろう。北海道のみならず国内最大の炭鉱として昭和30年代くらいまで隆盛を極め、閉山後に一大レジャーランドとして再起を図ろうとしたものの、どれもこれもあまりに陳腐で月並みなプランばかりで見事にコケて、町自体が倒産したのである。
 しかし、夕張はその終焉から再起、そして再びの終焉まで少なくとも世間の耳目を集めただけまだマシだったと言えるだろう。その点でやはりツブれてもそれなりにメジャーっちゅうか、日本中から惜しまれたり哀れまりたりしたのだ・・・・・・呆れられたりもしたが(笑)。高玉はそれさえもなかった。

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 ・・・・・・どうしてこんな惨憺たる有様が日本のあちこちで見られるのかを愚考してみた。

 一つには地元民の無知とセンスの悪さ、そして強欲がある。
 二つ目にはそういった地元民に付け入るコンサルタントとかゆうタチの悪い連中の存在だ。
 三つ目は資本の冷淡さだろう。無論、この「資本」には民間だけでなく国という最大の資本も含まれる。
 そして四つ目は、国全体としての過去の文化への矜持や誇り、審美眼の希薄さだだ。

 一つ目の問題。例えば何で観光坑道ってどこもかしこもああも画一的で詰まらないのか常々おれは不思議でならないでいる。坑道以外の鉱山施設群が綺麗サッパリ撤去されたただの山の中の空地に子供ダマシのような掘っ立てキャラやイラスト、申し訳程度に隅っこに置かれたバッテリカーや人車にグランピー鉱車、どうでもいいような遊具、埃まみれになった展示物が並べられただけの資料館、新興宗教まがいの金ぴかでハリボテの仏像にワケの分からない古代と宇宙をいっしょくたにしたようなチャチな仕掛け、明らかに人為的に混ぜてる砂金掘り体験、不味い食堂・・・・・・etc、こんなので本気で都会から人が呼べると思ってるとしたら心底頭が悪い。おれたちはとにかく「本物」が見たいのに。
 もちろん、失対事業の助成金で安っぽいこれらの施設は作れるし、一時的に土建屋が潤ってそのおこぼれは地元に落ちるだろう。目先の欲に目が眩んだ典型例だ。
 世界遺産や産業文化遺産なんてモノがようやっとこの国でも日の目を浴びるようになってきたが、時すでに遅し、ツブしてこんな風にやっちゃったトコは歯噛みして悔しがってるだろう。だって何にも残ってないんだもん。

 二つ目は、こういった地域再生とかの問題に必ずノコノコ出て来るコンサルタントっちゅういかがわしい業界人だ。マトモなビジネスの業界にもコンサルってーのはもちろん沢山いる。ぢゃぁこの人たちはチャンとした人たちか?っちゅうとこれはこれでもう全然なのである(笑)。やっぱしいかがわしい(笑)。思い込みで言ってるのではない。どことは言わないがいくつか名の通った大手と実際付き合ってみてのおれの偽らざる感想だ。そんなんだから業界としてはニッチな観光コンサルなんてぇもぉその質の低さは推して知るべしだろう。
 最近、ライザップってダイエットだか筋力トレーニングだか知らないけど、「結果にコミットする」なんてキャッチコピーで登場してるんだが、そしてまぁあれはあれで十分いかがわしいんだが(笑)、あれってこぉいった業界への皮肉なんぢゃないかとおれは思ってる。何故なら、コンサルって信じられないくらいバカ高い費用を取るクセに、決して結果に対して責任を取らないのである。契約書にキッチリそう書いてある。マッキンゼーだろうがボスコンだろうが、野村だろうが三菱だろうがみんなそんなん。
 結局コンサルなんちゅう舌先三寸のだけ連中は、プロジェクトを推進する側に明確なヴィジョンと戦略があって、業務遂行の際の反対意見(特に上からの)を抑え込んだり、迅速に進める際にベンリに利用する程度のモノだと思うのだけど、その辺はタンジュンで当てられやすい地元民には分からない。そして丸投げなんてしちゃう。そいでもってどこの会社も流儀があって、いわばその公式に当て込むだけのコトしか実はしないし、さらにその公式はどこも意外に似たり寄ったりだったりする。
 没個性な観光施設が林立するのには、実はそんなカラクリも作用してるのだ。センスが欠落して欲の皮ばかり張った田舎者と、舌先三寸の儲け話をブチ上げるコンサルの二人三脚、良いモノ出来るワケないわな。

 三つ目。要は資本は一時的な金は落としてくれても、智恵と人材は決して落としてくれない。何故ならそれが結局一番安上がりだからである。何年分かお金はあげるから、まぁあとは自分たちの知恵を振り絞って頑張って何とかしてね、っちゅうコトだ。実はそれはとても正しいことではある。甘えクセを付けさせると日本中の鉱山跡の町はたかる人だらけになってしまってたろう。
 またまた夕張を例に挙げて申し訳ないが、今や一大ブランドとなったメロン、あれって実は7軒の元炭鉱夫だった農家だけがその貴重な種を引き継いでるという。門外不出なのである・・・・・・っちゅうのも炭鉱無くなるんでどうしよう?ってみんな困ってた時に、そのうちの一軒が「メロンやんべや」、って提案したのだけども、殆ど誰もマジメに取り合わなかったのだ。僅かに賛同した連中だけで必死になって今のあの宝石のようなメロンはできてるのである。他のほとんどは、浮わ付いた一大レジャーランドの方に飛び付いた。映画祭とかね。あれ、どぉなったんだろ?
 レジャーランドといえば映画「フラガール」のモデルとなった常磐ハワイアンセンターの苦労話も同じような感じだ。あれも必死で努力して、さらには豊富な温泉(・・・・・・炭鉱にとっては邪魔な出水でしかなかったが)に加え、たまたま首都圏から近かったことも幸いして今の状態を築けたのだ。レジャーランドと工業団地って組み合わせ、実は夕張がモデルとしようとしたのはいわきだとおれは思ってるが、周辺の諸条件があまりに違い過ぎた。でもコンサルは無責任だから、美味い儲け話しかしない。

 最後の四つ目は、三つ目とも通底してるのかも知れない。そこに町が生まれ、人々が暮らし、一つの時代を築いた。荒くれの坑夫の集まるところゆえ飲む打つ買うの悪所だってできたろう。そんなこんなをそっくりそのまま一つの文化として捉えて後世に残すようなスケールの大きな考えがどこにも生まれなかったってコトだ。
 今頃になって世界遺産だの産業文化遺産だのみんなミーハーに騒ぎ立てるけど、いつだってこの国は自国の風物・事物に劣等感ばかり抱いてきた。結局のところ、最近のナントカ遺産にしたって、欧米の動きを輸入しただけである。ブルーノ・タウトや小泉八雲の時代から何も進歩してない。おれはもの凄く恥ずかしいことのように思う。外人から言われなきゃ、指摘されなきゃ価値を見いだせないなんて本当の野暮天だ。
 何だか強制連行だなんだとケチ付けるのだけは天下一品な隣国の下衆な連中はゴチャゴチャゆうてるが、その事実の是非や有無を超越して、光の部分も影の部分もひっくるめて歴史や文化は作られていく。それは間違いなく事実である。それをそっくりそのまま残すことには、安っぽい書き割りでは到底太刀打ちできない無窮の価値があるんだけど(もちろんそれなりの維持費も掛かるが)、誰もそのことに気付けなかった・・・・・・。

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 ゴールドマイン高玉は数名の元坑夫だった年寄りによって細々と運営されてたらしい。もう、終わりは初めから見えていたといっても過言ではなかろう。
 「もし」や「たられば」を言ったってもどうにもならんのは百も承知の上で敢えて言うならば、先見の明を以て妙な手を加えず、諸施設群や景観をある程度キッチリ残しておれば、この高玉金山は首都圏からの距離、足掛かりの良さ、周辺の観光地とのコースの合わせやすさ等から間違いなく巨大産業文化遺産として大きく脚光を浴びていたに違いない。何だかとても惜しい気がする。

2015.09.14

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