「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
房総の珍湯、の奥・・・・・・神河鉱泉


まるで民家な神河鉱泉の玄関(ギャラリーのアウトテイクより)。

 安房の館山にある正木温泉のまことに愛すべき奇湯ぶりについては以前に紹介したことがあるが、その時そっからさらに1kmくらい入ったトコに神河鉱泉っちゅうのがあるってコトにもサラッと触れた記憶がある。あの時点では未訪だったのだが、その後すぐに訪ねる機会に恵まれた。

 今回はそっちのレポートだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まぁ、行き順その他はまったく正木温泉と変わらないので割愛しちゃって構わないだろう。正木温泉の前を通り過ぎ、道が行き止まりになって低いミカン山の斜面に突き当たるあたり、さしたる看板も出さずヒッソリと建つ。割りと近年新しく建てた建物のようで、まるで民家のような外観はひじょうに小奇麗で、通常想起されるオンボロな鉱泉の雰囲気とは全然異なる。どうやら日帰り専門で、宿泊はやってないようだ。

 例によって例の如く、訪ねた時間が早過ぎたためにお湯がまだ沸いておらず、上がって待たせてもらうことにする。春だっちゅうのに人気のない室内はけっこう冷え込んでおり、女将さんがストーヴを入れてくれた。部屋の片隅には大きなクマのぬいぐるみや鳥の剥製の載ったオルガン、沢山の服の掛かったハンガーラック等が置かれ、普通の民家に上がり込んでお茶を啜らせてもらってるような雰囲気だ。浴室は隣接して二つ並んでいるけれど、特にどっちがどぉと男女別には分かれてないようである。

 待つことしばし、湯が沸いたとのことで早速入らせてもらうことにする。片方しか沸かしてなくて・・・・・・と申し訳なさそうにしておられたが、むしろその方がおれたちにとっては好都合であって、何だか却って申し訳ない気持ちになってしまった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 15畳ほどもある思ったより広い浴室と、それにはいささか不釣り合いな小さなステンレスの浴槽が隅っこに二つ。まったく同じもので、一人入れば一杯いっぱいの家庭用のものだ。その辺はやはり鉱泉の常で、なるだけ沸かすボイラーの油代を抑えなくちゃならないから湯船は小さく、また小分けにしたりするケースが多いのである。

 しかしながら浴室もまた建物同様に割りと新しく、キチンと掃除が行き届いていて、鉱泉にありがちな苔やら黴やらが密生したワビサビなんだか単に不衛生なんだか分からない状態とはまったく異なり、小ざっぱりしてる。
 小ざっぱりといえば、先刻待たせてもらった部屋もそうだった。得てしてこぉいったトコは何かとコテコテしくなりがちなのに、それがない。かといって決して殺風景ってワケではなく、余分なモノを置かず整理整頓が行き届いてる感じがあって、おそらくはここの人の几帳面でシンプル志向な性格が現れてるんだろうと思った。

 泉質は今さら申すまでもなく房総系黒湯。それもかなり濃い方で、山向こう辺りの曽呂ほどには感じなかったが、正木よりも黒く感じた・・・・・・まぁ、黒けりゃいいってもんでもないんだろうけど(笑)。

 それにしてもヒッソリと静かだ。館山ってトコは東京から近いこともあって、年がら年中観光客が溢れてるイメージがあるが、そのような喧騒とは程遠い。明るい午前の光が仄暗い浴室に射し込む中、ただもう静かな時間だけが流れて行く。その静寂を破るものといえば、あちこち動き回りながらヨメに立ち位置やらなんやら指示出しに忙しないおれの声だけだ・・・・・・ああ、いっちゃんけたたましくて無粋なのはおれやんけ!(笑)。

 上がって周辺をウロウロしてると、建物の横の小屋の前、差掛け屋根の下に源泉のポンプがあった。裏手には黄色い巨大なポリタンクが幾つも転がってるトコからすると、温泉のないホテル等に温泉水を卸したりしてるのかも知れない。
 女将がやって来てペットボトルに源泉を詰めて持たせてくれた。化粧水なんかよりもよほどお肌に良いとのことだ。なるほどお歳の割にはお肌にハリがある。問わず語りに聞いたところによればこの鉱泉、先代のオーナーが高齢で廃業しようとしてたのを、元々ここの湯にいたく惚れ込んで通い詰めてたたこともあって、思い切って買い取ったんだそうな。だから地元の人ではない。何だか「人生の楽園」とかで紹介されそうな話だなぁ〜、って思った。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 海沿いの元来た国道に向かってクルマを走らせる。春の光が眩しい。皮相な現実世界はすぐそこだ。

 いつの間にか、あれくらいの鉱泉ってナンボくらいするんかな〜?2〜3百万で買えるなら頑張ればなんとかイケるかもしれないな〜?でも、温泉法だか税法だか知らないけれど、フツーの家なんかより税金が高くなるんぢゃなかったっけ?それに房総系黒湯はあんましおれ、好きぢゃないんだよな〜・・・・・・などと、そもそも先立つモノもロクにないのに算盤勘定してる自分がいたのだった。


一人入れば一杯の小さな浴槽が2つ(同上)

窓辺でポーズ(笑、同上)

2014.09.14

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved