「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
廃墟温泉


ハナッからネーミングと書体のセンスで間違えてる気が・・・・・・(笑)

 どうも三陸以北の太平洋岸の風景は荒涼とした印象が強い気がする。単調な砂浜の海岸線とのっぺりした平野、ボサボサと灌木やら雑草といった地味なのが生い茂るばかりで、どうにも殺風景な印象だ。北海道においてもおおむねそんな感じで、苫小牧や釧路界隈の風景もどうも華がないっちゅうか、何か大事な要素が一つ二つ欠けたような、も一つ殺伐とした印象である。
 白老温泉もそんなロケーションにある。

 あまり高温泉とは縁のなさそうなダラダラした海岸近くでこんな高温泉が湧出するのはやはり、間近に登別の源泉ともなっている活火山・倶多楽があるためではないかと思われる。噴火湾とはよく言ったもので、洞爺湖も実は海のすぐ近くだったりする。海の近くにこんな巨大カルデラがいくつもあるのは、あとは錦江湾くらいなもんだろう。

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 以前から一度行きたいと思ってた登別駅裏のフンベ海岸温泉は厳重に有刺鉄線で入口が封鎖されていた。何でも波の浸食が尋常でないスピードで進んでおり、建物の前の崖も年々後退してるだけでなく、下が大きく抉られ、いつ何時崩落してもおかしくない状況なんだそうな。そこまで危険を冒して行くのもアホらしいので早々に撤収し、おれたちは次の目的地に向かった。それが白老温泉だ。

 36号線に戻って直線の国道を右に海を見ながら淡々と東進すると、すぐにタラコで有名な虎杖浜を過ぎる。昔は昆布は利尻で雲丹は羅臼、サンマは根室・・・・・・まぁそんなくらいしかなかったんだけど、今はシシャモは鵡川、タラコは虎杖浜といろいろ棲み分けがややこしい時代になった。しかし、もっとタラコタラコと盛んに宣伝してるのかと思ったらそれほどでもない。海岸線らしく潮風に晒されて白っ茶けた海産物店や飲食店が国道沿いにポツポツある程度だ。オフシーズンのウィークデーということもあってほとんどが閉まっている。ちょっと拍子抜けした。

 「ホテル王将」は白老よりもむしろ、そんな虎杖浜に近いところにあった。どうやら行政区画の都合みたいである。国道沿いにあるので特に迷うこともなく到着。そして唖然。

 ホンマに営業してるのか疑ってしまうほどにボロかったのである。

 一部2階建ての白い建物はそこそこの大きさがあるが、玄関脇には積まれた古タイヤ、前輪が取れてボロボロに錆びたママチャリ、ドカシーで厳重に包まれた何だか良く分からないもの等が雑然と放置され、すぐ隣の草叢には完全にスクラップと化した古いクルマまで転がっている。駐車場にはそれでも送迎用のマイクロバスが置かれてあるが、随分と古い型で動くかどうかは分からなかった。奇矯なようで存外おれはフツーの人間なので、やはりこれは荒廃しきってるとしか表現のしようがない。到底お客を受け入れるような雰囲気ではない。

 しばらく温泉行から遠ざかってたこともあって、ちょっとこわごわドアを開ける。大きなケージに入れられたシーズーがキャンキャン吠えまくって、愛想よくバーサンが二人出てきた。どちらが女将かは良く分からなかった。ともあれまともに営業してたことに驚きつつ安心した。100キロ近く走ってきて2タテで温泉コケるといくらなんでもメゲる。メゲるけど、むしろドアが固く閉ざされて廃業の張り紙でも出てた方が、この廃墟のような外観からすれば納得できるものだったろう(笑)。
 何の趣向か、靴脱ぎのすぐ向こうにはいきなり小さな太鼓橋がかかっている。擬宝珠の付いた欄干もあって「幸福橋」と書かれてある。しかし、下に池があるワケでも川が流れてるワケでもなく、単に床から橋が盛り上がってるだけである。
 これはやはり渡れということだろう、幸福になれるんだろう、とその長さ1間もないのを渡って入湯料を払う。一人400円と格安料金なのが嬉しい。風呂は廊下の突き当たりです、と言われるが、お客が少なくて電気を節約してるのか電灯が消された廊下は薄暗い。両側には客室の扉が並んでいるが、ここに泊まり目的で来る人は果たしているのだろうか。

 男女別に分かれた浴室は結構広く、濛々と立ちこめる湯気で前も見えないくらいに真っ白に曇っている。二方が大きな窓になってるのに、これではどうにもならない。大きな湯船がドーンと一つあって、湛えられた湯は客が少ないためか元々なのか猛烈に熱く、それを我慢してジャブジャブ渡ると外に出るドアがあって、これまた結構な広さの、岩に囲まれた露天風呂。奥は混浴になっている。そのうちヨメもやって来た。眺望は利かず、それにそもそも周りを住宅に囲まれてるので、景色が見えて嬉しいこともないだろう。そしておそらく2階からだと木の間越しに丸見えだ(笑)。

 露天風呂の女湯側には大きなコンクリートの小屋があって、「休憩室」と立派な木の看板が出てる。ところがその室内は見事にガランドウで、ひじょうに寒々しい。いったい何の意図で拵えたのかサッパリ分からない。もちろん、そこで休憩してのぼせたカラダを冷ます気にはまったくなれなかった。湯量だけはとにかく豊富でジャンジャン注がれてるのだろう、気温はかなり低いにもかかわらずこちらもまたかなり熱めのお湯である。

 小一時間の間、結局、他に誰一人客は来なかった。

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 このホテル王将以外にも、36号線に沿って温泉の看板を掲げる宿はけっこう点在してる。温泉街らしきものは形成されておらず、そしてどれもこれも何だか国道沿いのいささか埃っぽく、風情に乏しい佇まいのところが多い。しかしそれこそが案外この虎杖浜、あるいは白老温泉の「らしさ」なのかも知れないなどと、無理やり自分を納得させてクルマを走らせたのだった。

 白老では有名な牛でも食おうと思っていたのだけど、国道沿いは相変わらず寂れており、それらしい店がぜんぜん見当たらない。いつの間にかクルマは苫小牧の町に着いてしまい、仕方なくおれたちは回転寿司を食ったのだった。苫小牧は北寄貝の水揚げ日本一の漁港であると聞いていたので、さほど旨いものでもないけれどせめて旅のよすがに食ってみようと思ったのである。

 しかし、回ってる寿司にも、メニューにも北寄貝はまったく出てなかった。ぐももも。


露天風呂の様子。

2011.12.05

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