全面波板系!・・・・・・氷見松田江温泉 |
民宿「あおまさ」全景。
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民宿泊まるんならやっぱ海かなぁ〜、って思う。
何故ならアータ、食い物がいいからに決まってますがな。そんな、山菜っちゅうたかて、ゆうたら悪いけど、所詮はまぁ「雑草」みたいなモンですやんか。それよっかパァ〜ッと魚テンコ盛りのほうがときめくっしょ?フツー?魚が嫌いでなければ。
何で民宿で比較したかといえば、観光旅館は海だろうが山だろうがまぁそれなりに豪華だし、それにどっかスカしてるから海辺の宿でも上品、っちゅうか節度を保って・・・・・・平たく言えばあまり沢山魚を出さないし、それにあまり妙チクリンな魚が出て来ない。
こちらとしては別に鮪、鯛、あるいは平目なんて、そりゃ美味いコトは分かってるけど、遠路はるばる出かけてった旅先で無理に食いたいとは思わないのだ。あまり数が取れなかったり地味だったりして、地元で消費されてしまって一般的な市場に出回らなさそうな、一般的には「下魚」などと称されちゃったりするような、そこでしか食べることの出来ない魚が食いたいのである。
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氷見松田江温泉はキトキトの町として有名な富山県は氷見の海っぺりにある新興温泉だ。泊まったのはそのうちの一軒、民宿「あおまさ」である。
裏は能登半島の東の辺を形作って延々と続く砂浜で、富山湾越しに遠く魚津や黒部の町が望まれ、なかなかの眺望だ。晴れれば立山連峰なんかも見えるかもしれない。昔、日本海味噌のCMにあったとおりで「つ〜るぎ、たってっやま、くっろべはぁ〜♪」である。あ〜あ、越中なのである、ここは。
逆に旅館の表側は目の前を広い県道が通り、クルマが行き交い、さらにその向こうにはすぐJR氷見線の線路があったりなんかして、あまり景色がどぉこぉといったロケーションではない。町全体もいかにも長い砂浜の海岸に出来たとこらしく、ノッペリした印象。泊まった部屋は表向きの方で、景色の罪滅ぼしか何なのか、部屋の壁には、森林の写真の柄の壁紙が貼られてあった。目がチカチカする。こんなんどこで売ってんねん?
別に意地悪されたわけではない。突然、思い付きで昼頃になって予約入れたため、いい部屋が空いてなかったのだ。何で思いついたかは書き出しのとおりで、貧乏旅行も3日目となり、ちったぁ美味い物をたらふく食いたくなったのである。ほたら一度はキトキトで名高い氷見まで行ってコマしたろかい!?・・・・・・と、まことに我ながら呆れる水平思考で、北アルプス直下から一気にここまでやって来たのだ。能登半島は過去に何度か訪ねたことがあるのだけど、それはいつも石川県側ばかりで、半島の東側の付け根に当たるこの辺りは未訪だったのも俄然行ってみたくなった理由の一つではある。残念ながらこれといった温泉に乏しいのだけが難点と言えるだろう。氷見松田江温泉はそんな数少ない温泉の一つだ。
夕食までまだ間があるので風呂に行こうとしたけど、まだ沸いてないとのこと、これから到来するであろうテンコ盛りタイムを迎え撃つにはあまりハラが減っていないので散歩に出てみる。埃っぽい表通り歩いても仕方ないので裏に回る。夏とはいえ8月も終わり近く、まして夕方近くの海岸は人影も少なく、何となく物寂しい。
・・・・・・と、全面半透明の塩ビ波板で囲われた片流れの屋根の物置状の小屋がある。中の柱や棧が透けて見える。ぶっちゃけかなり粗末。エラく低いところに窓があるので覗き込んで見ると、果たしてそれが浴室だった。これはかなり期待できるイカれた風情だ。ユックリ散歩する気はたちまちどこへやら。何のこっちゃない、200mほど往復しただけで切り上げてしまった。まぁ、何百m海岸を歩こうが、変化に乏しい単調な風景はそのままだったろうし。
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風呂の強烈さは他に類例がない。まずシーツみたいなカーテンで廊下から仕切られただけの大雑把な脱衣場からして期待もいや増すってモンだが、浴室内はさらに凄い。何てーかどこもかしこも仮設っぽいのである。加えてよほど半透明の塩ビ波板が好きなようで、周囲の壁だけでなく屋根までがそれで出来ている。物置よりむしろこれは温室みたいなもんだ。夏の日中など暑くて入れないのではなかろうか。
あくまで想像だが、館主は本当はフツーに露天風呂を拵えたかったのだと思う。しかし何せ平べったい町であるから、人が行き交う砂浜の真横になってしまうワケで、どうにも丸見えで都合が悪い。それに越中富山県であるからして冬は猛烈に寒い。吹雪いたり時化たりしようもんなら露天風呂なんてとても入ってられない。でも、せっかく海の側なんだし露天風呂気分は欲しい・・・・・・そんな煩悶と逡巡、プラス予算の都合が、この半透明塩ビ波板全面張りという実に摩訶不思議な構造を生み出したのだろう。
ドーンと鎮座する木の浴槽には、褐色っちゅうよりはイヤらしいほどに鮮やかな山吹色の濃厚な湯。その析出物で洗い場もフタもゴテゴテになっている。泉質自体はこれまでに何度も体験したものだが、ここはそれに加えてひどく石油臭い。正直なところ、ちょっと気分が悪くなるくらいに石油の臭いが室内に充満している。最初おれは沸かしてるボイラーの臭いかと思ったが、どうやら温泉自体に相当の石油分が含まれているようなのである。ライターに火を点けたら揮発分で爆発したりして(笑)。あるいは分離させれば油田になれるかもしれない。
それにしてもどうゆうシュミか、カランや鏡をつけるために衝立のように置かれたベニヤの化粧板の色までが山吹色である。恐らくは湯の色とコーディネートしたつもりなのだろうけど、おれたちの部屋の森林の大写しの写真壁紙といい、かなり理解に苦しむセンスではある。
随分低い位置にあった窓はちょうど湯船の縁の高さになってる。さっきは中が見えたのに、宿の気遣いだろう、今は青いカーテンが引いてある。とは申せ、折角海の真横の湯船に浸かって景色が見えないのも業腹なのですぐに全開。窓から左右を見てみたが、遥か遠くに犬連れて散歩する人が望まれただけだった。
相変わらず鼻を衝く石油の臭い、ヌルッとしたようでザラザラした感じも同居する不思議な湯の肌触り、すぐ隣は調理場らしく、包丁が俎板を叩く音がトントントントン単調に響く。そして見渡せば周囲も天井も半透明の塩ビ波板・・・・・・この何とも名状しがたいシチュエーションは最早アヴァンギャルドとかシュールと言って良いだろう。決してこの雰囲気は意図的に狙って作り出せるものではない。
臭いに慣れてくると、他の匂いも分かってきた。夕飯の支度が順調に進んでいるのか煮物の匂いに続いて、石油とは違う油の匂いがしてきた。揚げ物を揚げてるのだ。
夕食はいかにも海辺の民宿らしく、期待を裏切らない大胆で豪快な盛りだった。しかしながら中身的には極めてオーソドックスだったのも事実で、あまりヘンな魚は見当たらない。氷見のキトキトの王道であるブリと、季節違いで冷凍ものとはいえカニの両巨頭を中心に、甘エビ、白エビ、白バイ貝といった中堅メジャーな素材が脇を固めた舟盛りその他の様々な料理が次から次に出てくる・・・・・・って、こりゃ予想を遥かに超えるごっつい量やんか。
飽きるほど、またハラが苦しくて動けなくなるほど一家全員で魚を堪能できたのだった。宿の人もとても親切だったし、泊まって良かったなぁ〜、としみじみ思った。3年ほど前のことだ。
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こうしてまとめたのにはワケがある。
廃業したのではない。逆だ。商売繁盛でたいへん儲かったのかこの民宿「あおまさ」、完全リニューアルで建て替えられてスッカリ立派になってしまったのである。つい最近のことだ。
したがって、上に述べた超個性的で奇妙奇天烈な浴室はもう無い。もちろん部屋の森林の壁紙もないだろう。ついでに言うなら、異様に幅の狭い廊下や館内のスリッパがトイレ用のものだったのも改められてるに違いない(笑)。何もかんも無くなっちゃった。
ぶっちゃけこれらはいずれも一般的には欠点とか短所と呼ばれるものだろう。そして一般的に欠点やら短所は克服されたほうが良いに決まってる・・・・・・のだけれど、これらの強力な個性や特徴があったればこそ、この民宿はたいへんに魅力的で面白く、記憶に残る宿だったのである。
少々悪くいやぁ、建て替えられることでどこにでもあるような単に小奇麗なだけの旅館に変貌を遂げてしまったのである・・・・・・料理は変わってないだろうけど。
何だかおれは悲しい。
ひどく残念でもある。
・・・・・・だから書いたのだ。 |
アウトテイクより左は入り口方向、右は海側を見たところ。
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2010.12.05 |
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