「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
臭っっ!・・・・・・ぶんぶくの湯


ちょっと貧しい民家みたいな外観。

リンクしてます。

 日本三大稲荷はなぜか全国に9つもある(笑)。ムチャクチャである。

 大きな神社からうら寂れた小さな神社、会社のビルの屋上、個人の家の庭の片隅まで、日本でやたらめったらお稲荷さんが溢れかえってる理由は、江戸時代に恐らくは世界初と言える「お稲荷さん通信販売キット」が爆発的なヒットとなり、ジャンジャン分社が全国に勧請されたからだ。だから6〜7万ヶ所は優にあるらしい。かつてそれほど稲荷信仰は大流行したのである。
 文句なしの一位が稲荷信仰発祥の地である京都の伏見稲荷であることは今さら説明するまでも無いが、二位でもうすでにいささか怪しいのである。アタマ一つ抜け出して愛知の豊川稲荷ではないか、という考えにおれ自身は賛成しているが、三位はホンマどれやねん?って思ってしまう。笑わすことに「日本五大稲荷」ってーのもあって、これはこれでメンバーが異なってたりする。三大は五大に含まれていないのだ。

 そんな大混戦状態の三大稲荷の一つである茨城の笠間稲荷の近くに「ぶんぶくの湯」はある。「ぶんぶく」っちゃぁ狸やん。なんで狐が眷属の巨大なお稲荷さんの近くに狸なのかいささか理解に苦しむが、とにかく「ぶんぶくの湯」と言う(笑)。

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 真面目に述べると、近所にある弘法大師由来の「ぶくぶく水」なる湧水が源泉になってて、それが転じて「ぶんぶく」らしい。弘法大師由来、っちゅうだけでもう胡散臭いことこの上ないって気がするが、それはまぁともかく、国道50号線から北に1kmちょっと入るだけなので迷うことなく辿り着ける。

 大体において「**の湯」って名前でやってるところは近年の掘っ立て系日帰り温泉施設であることが多い。また、自称「秘湯」にホントの秘湯があった例は極めて少ないワケで、看板に堂々と勘亭流で「秘湯」と書いて、ホームページなんかまで持ってたりするここも、昭和58年創業のフツーの村の中の日帰り温泉浴場である(1日1組なら離れで宿泊も出来る)。元々は国道沿いのドライブインのサイドビジネスとして始まったのが、今はどうやら逆転しちゃってるようだ。

 ・・・・・・と、いささか否定的な書き方をしてしまったが、ここ「ぶんぶくの湯」が凡百の没個性でどぉでもいいようなクアハウスと一線を画すのは、その脱力系観光施設にも通じる佇まいにある。平たく言うとボロくて汚くて怪しくて個性的なのだ。もちろんそれは意図したものではなく、恐らくはアマチュアリズムと資金的な厳しさから来る結果なんだろうが、だからこそここは大いに訪問する価値がある。まかり間違っても銀行から金借りて建て替えなんてしない方がいい。

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 そもそも、村の道に面した表玄関が入り口でない、ってトコから怪しさは始まる。駐車場の案内に沿って巨大なステンレス浴槽が放置された空き地にクルマを停めると、建物の奥に隣接した自宅との隙間みたいなところに、大きく「入口はこちらです」「営業中」「墨入りの方固くお断りいたします」などと出ている。それなりにお客さんは沢山来るのだろう。人馴れして臆することもなくあたりを軍鶏がウロウロ歩いている。

 ともかく若女将と思われる、オバチャンと呼ぶにはまだ早い女性に入浴料を払って入湯。浴室は男女別になって長い廊下に添って並んでいる。どちらも内部は同じ造作だろう、いささか殺風景な6畳ほどの広さの室内にドーンと大きな湯船があって、それだけ。分厚い木の蓋をめくると中には若干黄色味がかった湯。アルカリ性が強いようでけっこうヌルヌル感がある。
 鉱泉宿は猛烈に熱くなってることが多いが、ここは比較的適温だった。

 窓から外を眺めても別に景観が広がるわけではない。手作り感横溢っちゅうか、統一感がないっちゅうか、乱雑っちゅうか、伸び放題の植え込みの根元とかには鍋釜にポリバケツ、盥、植木鉢、セメントを捏ねるフネ等々がいくつも転がっている。足場パイプを組んだ枯れた藤棚から下がるのはグジャグジャに絡まった長いホース、流し台の残骸・・・・・・降りしきる雨の中、どうにも残ない光景だ。

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 風呂から上がって廊下の奥、つまりは表玄関に近い方は広い座敷で休憩室となっている。廊下にはこれまた手作り感満点の地野菜や土産物のコーナーなんかも設けられている。古いカレンダーか何かを裏紙にして適当な大きさに切ったのに、マジックで消したり書き足したりした値札を見ると林檎が7個で200円とか生姜が3パックで100円とか無闇に安い。なるほど安いがしかし、もうちょっと購買意欲をそそるようにすりゃぁエエのになぁ〜、とやはり思う。

 食事類だって実はけっこう充実してたりする。麺類・丼・定食類一式、っちゅうヤツだな。他には酒のつまみなんかもあって、たいていのものは揃ってる印象。値段だってかなり良心的だ。最近は自家製で燻製なんかも作ってるみたいである。アウトドア志向があるのかも知れない。そぉいや裏の空き地も妙に平坦に均されてたので、昔はキャンプ場なんかもやろうとしてたんぢゃなかろうか。
 特にメニューで目を惹いたのは「玉子かけご飯食べ放題300円」だ。あんなグジュグジュ・ニュルニュルしたのをそう何倍も食えるとは思えないし、どだいおれはあまりコイツが好きではないが、とにかく味噌汁と漬物付で300円。板東英二連れて来たら面白いだろう。

 座敷の上手は小さいながらも舞台になってて、モニター付きのカラオケセットなんかも一通り揃ってる。和太鼓が置いてあったりもする。しかし、掛け軸だけでは飽き足らず大きな石碑の拓本や凧、額縁に入った大きな書、飾り皿、昔の写真、観葉植物の植木鉢まで並べてあるのは良く分からない。こんなにいろいろ置いてしもたら舞台としての用を成さんのではないか、って疑問が浮かぶ。

 ともあれ、この「何でもチマチマと一応それなりに揃ってるところ」がしかし、脱力系の脱力たる所以ではないかとおれは思う。元々乏しい資金力と労働力なんだから、本当は分散させてしまってはどうにもならない。あっちこっちに手を出してどれもが中途半端でまとまりがなく、雑で貧相になるよりは、まずは風呂なら風呂、土産なら土産、食事なら食事どれかに絞って徹底的にやる。そこまで思い切らなくともせめて玉子かけご飯を名物にしたいんならそれだけに特化する・・・・・・いわば経営的に言えば「多角化」よりは「選択と集中」をした方がいいに決まってる。あくまで「事業として見た」場合は、だよ。
 ところが、性格によるものかどうしてもズバッとそれが行えない人が世の中多い。そしてだんだん脱力系になってくる。ま、人のこたぁ言えない、このサイトを見たら分かるようにおれだってそうだ。でも、世の中それだから楽しいのである。

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 座敷では意外に沢山の人、それもオッサンばかりが座布団を枕に寝ている。駐車場にそんな多くのクルマは停まってなかったから、みんな歩いて来たか、朝に家から送ってもらって夕方に迎えが来るようなパターンの近所の常連なんだろう・・・・・・そして、臭い。

 喫煙者のワリにおれは嗅覚が優れてる方なので、実のところ最初館内に入ったときからうっすら漂うその異臭に気付いてはいたのだが、座敷に入るともう鼻を衝くほどにハッキリと分かる。ヨメも気づいてヘンな顔をしてる。無論、それは湯の匂いでもなければ硫化水素集なんかでもない。また、トイレでもなければ生ゴミでもない。

 ・・・・・・それは強烈な足の臭いなのだった(笑)。どのオッサンや!?

 おれたちは早々に退散した。胡散臭いのは大好きだけど、足臭いのだけはちょっと勘弁して欲しいっす、やっぱ。


問題の大広間にて引き攣る笑顔(笑)。

2010.07.10

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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