商売っ気がなさすぎるのもねぇ・・・・・・白岩鉱泉 |

手前が母屋で奥に見えるのが湯治棟。その間にさらに建物が二棟ある

文章だけでは分かりにくいので上空からの写真を。
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http://map.yahoo.co.jp/より
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今回もほとんど「いわきシリーズ」と化してしまった彼の地の冷鉱泉群についてのレポートだ。思えば数年前に山梨にすっかりハマッてた頃を想い出す。どうもその辺、おれはネタの出し方がワンパターンでいけない。バランスが悪いっちゅうか、コレゆうたらコレ、みたいなところがあって、自分で自分の首絞めることが分かっていながら似たような話を続けてしまうのだ。要は関西で言うところの「イラチ」なワケやね。転がしてジックリ発酵させとくってコトができない。
・・・・・・なぁ〜んて言い訳はともかく、今回は白岩鉱泉について。
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常磐道いわき四倉ICの数100m北東、小さな交差点のセブンイレブンの通りを挟んで向かいにその一軒宿の鉱泉はある。見た目はいくつもの離れを持つ田舎の旧家のようなかなり立派な造りだ。宿の名前は「金波旅館」というが、実際今でも宿泊を受け付けてるのかどうかは最後まで良く分からなかった。件の高速道路の巨大な橋脚がすぐ近くに聳え立っている。
昨日以来、ここに来るのはこれで3度目になる。最初は昨日の夕方、宿泊地である入間沢鉱泉に向かう途中で立ち寄ったのだが、いくら大声を張り上げても誰も出てこない。玄関は開いてるし、何せ巨大な建物なので、家の人は奥の方にいるのかな〜?と思って、おれは何度も何度も「ごめんくださぁ〜い!」と間抜けな胴間声を張り上げた。しかし、ついぞ誰も出てこなかった。不用心な話だが、長閑な田舎では良くあることだ。
2回目は今朝。朝イチで様子を見て、それでも留守だったら諦めようと思ってもう一度訪ねると、小さい子供が何人か玄関脇の日当たりの良い部屋で遊んでいる。昨日のように大声を張り上げると中年のオバチャンが出てきた。どうやら女将らしいが、全くそのようないでたちではない。普通に農家のオバハン、といった風情だ。他にも何人かの話声が奥から聞こえるとこからすると親戚でも来てるのかもしれない。ひょっとしたらアウトかな?と不安になるが、ダメ元で交渉してみることにする。
----あの、温泉、入らせていただきたいんですけど・・・・・・
----あ〜、まだ水も入れてないのよ〜。
----そうなんですか・・・・・・
----午後になればたぶん入れると思うんだけど。
----(まだ8時過ぎやんけ)う〜ん。
----ごめんなさいね〜。
文字ではこの時の微妙な間合いは表現しにくいんだけれども、まぁ、一言で言ってオバチャンにちょっともやる気が感じられなかったのである。喰い下がっても仕方ないので、おれはいったん撤収することにした。
取り合えずクルマを出し、ナビを確認する。今日の予定はあともう1ヶ所ですぐ近くだ。すでに電話を入れて時間も伝えてある。その後なら行けるだろうが、それまでが持たない・・・・・・と、「アンモナイトセンター」っちゅうのがあるやんか。よし、そこに行って時間をつぶせば何とかなる。しかし、そこから温泉に入っていては、今度は午後に予約を入れてある菓子屋の時間が間に合わない。
おれはケータイを開いた。
----あの、さっきお訪ねした者です。
----え!?あ!?(相当驚いたみたい)
----あの、11時なら何とか入れませんか?必ず伺いますから!
----わ、分かりました。
ここまでしつこい客もそういないだろう。要はオバチャン、気圧されて根負けしたのである。
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ちょっと早目の10時50分、三度おれは白岩鉱泉にやって来た。大概の事にだらしないおれだが、時間にだけは非常に厳格なのである。何だかもうほとんど仇打ちにでも来たような鼻息の荒さだ(笑)。
宿の入り口と思ってたのはその家の母屋の玄関で、実際の入り口は母屋の並びで2棟並ぶ離れの奥、もう一棟直角に立つ二階家だった。さらに反対の、表通りに近い方にも大きな離れが建っている。これはやや立派だ。全ての建物は渡り廊下で繋がっており、全体で巨大なL字型をなしている。おそらくは最近紹介したいくつかの近隣の鉱泉が衰退と共に取り壊した湯治棟の建物が、ここではそのまま残っている希有なケースなのだろう。他にも納屋やら土蔵やらあって、一体全部でいくつの建物があるのやら。
母屋とは打って変わって狭く殺風景な玄関を上がると、片廊下に障子がズラッと並ぶ。部屋はアコーデオンカーテンで細長く仕切られており、時には大広間にもなるのだろう。室内はきわめて簡素で、上半分が明かり取りの窓になった低い押入、卓袱台、小さなTV、後は座布団があるくらいだ。天井の低さがまだ日本人の平均身長が低かった時代の建物であることを物語っている。縁の窓際には腰の高さくらいに張り渡されたロープ。何枚かのタオルがかかってる。もう永らく使われていないのか、二階に上がる階段は埃が積もっているだけでなくクモの巣までが張っていた。
・・・・・・って、先客おるやんけ!!
2組のグループ(もちろん年寄り)が大声で談笑するのが聞こえる。耳が遠いのかも知れない。それもかなりの大人数だ。何のこっちゃない、お湯はとっくに沸いていたのである。それでおれは了解した。
オバハン、おれ達の年齢や風体を見て珍客が迷い込んできたんだろう、と思ったに違いない。やんわり断りゃ諦めて帰るだろうと思ったんだ、きっと。たしかにワビサビ系鉱泉に場違いな客が迷い込んできて、偉そうに文句ブー垂れるケースは結構多いって聞く。要らぬトラブルを呼び込みたくないって判断は正しい。一つ見間違えたのは、おれ達が見かけよりは遙かに温泉、それもボロくて古い温泉好きだった、ってことだ。
母屋に隣接した建物が湯屋だった。入口がとても珍妙で、湯治棟との間の、デブなら詰まりそうなほど狭い隙間のような廊下に面してある。別浴になっており、片方に電気がついてて人影が見えるので奥の方の扉を開けたら、そこは既に埃まみれのガラクタ置き場になってしまっていた。乾ききったピンク色の細かいタイルの浴室も見える。良くある、浴客が減って燃料代節約のために混浴に戻した、ってケースである。
先客の二人のジーサンが出るのを待っていよいよ入湯。そこから先はクドクド書かなくてもいいだろう。
手が行き届かなくなったやや荒れた室内。
高い吹き抜けの天井と白い壁。
木の蓋。
4人も入れば一杯の浴槽。
淡黄色の湯、底に溜まるのは配管の鉄分の錆か。
近所の名所、波立海岸を描いたタイル絵。
窓の外は母屋につながる廊下兼洗濯場、元は屋外だったところに屋根をかぶせたのか。
小さな潜り戸の奥は、沸かし口と薪の積み上げられた裏庭。
・・・・・・そこに特別なものは何もなかった。極々平凡な鉱泉の情景だった。しかし同時に、緩慢に衰微し滅んで行く物特有の雰囲気もたしかにそこにはあった。
正直、もうあまり商売を続けて行く気はないのだと思われる。立派な方の離れは宿泊者向けだろうが、今も宿泊を受け付けてるのかどうかだって怪しい。おそらくは近所の常連さんだけを相手に予約電話でもあったら、しゃぁねぇな〜、よっこいしょ、ってな感じで風呂だけ沸かしてるんぢゃなかろうか。
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商売っ気があざとい温泉宿はあまり好きではない。まぁ、それでやりすぎてコテコテの、大抵は民芸調の満艦飾になってワケが分からなくなってるパターンならバッドテイストでキッチュな愉しみもあるっちゃあるが、やはりそれは温泉を堪能する所作としては本筋ではない。ちょっと捩れた隠微な愉しみ方だ。しかし、反対にあまりに商売っ気がないというのもいかがなものかと思う。恬淡ではなく、投げ遣りな態度はやはり建物のあちこちに表れるし、それを見せられるのは温泉好きとしてはいたたまれない気分になる。
この白岩温泉ははっきり言って惜しい。今なお残る古い湯治棟の並ぶ姿はおれ的には貴重な風景だと思う。その他の佇まいだって悪くはないどころか、かなりいい。この姿ができれば長く保たれればと切に願うのだが・・・・・・後略。 |

建物群の大きさからするとずいぶん小さい浴室。
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2010.02.04 |
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----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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