「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
REQUIEM・・・・・・喪われた温泉たちへ

 先日、何かのハズミで昔訪ねた曽原湯温泉のことを思い出した。小海線のたしか羽黒下って小駅から東にダラダラ坂を上がったところに数軒の宿の固まる、いかにも近郷近在の人の農閑期の湯治場といった雰囲気のこじんまりした鉱泉場だった。たしか泊まったのは「たちばな」って旅館である。ネットで調べてみるとなぜかWikipediaに載っていてその情報が最初に出てくる。一読して愕然とした。全ての旅館が廃業してしまっていたのである。

 阪和線の山中渓近くにあった山中渓温泉も同様のケースだ。おれが子供の頃、駅前にはいかにも温泉街がそこにあるという風に桜の造花やぼんぼりが電線沿いに吊るされ、温泉旅館の大きな看板の立つ、いかにも大阪・和歌山の奥座敷の雰囲気のあるところだったが、いつの間にか一軒も旅館はなくなってしまった。今は廃墟マニアの絶好の探検場所になってるらしい。とても寂しい話だ。

 早いもので自らの意思で温泉に行くようになって30年近くになる。あくまで佇まい重視でしらみつぶし型の訪問はせず、クアハウスっぽいのとか何だとか気に食わないとすぐにパスするもんだから、数を追及する人からすると全然だが、それなりに「濃い」トコばかりを狙って入ってきてるんぢゃないか、って自負はある。んでもってそれをネットでヘタで残ない写真と文章で紹介するようになって6年近くが過ぎた。

 以前から薄々気付いてはいたのだが、今回の曽原湯の一件があったので、改めて誤字脱字探しのついでに読み返しながら自分の訪問した温泉場や旅館、施設が今でも続いてるかどうかをサラッと調べ直してみた。そしてまたもや愕然とした。今回はその結果(2010年9月現在)報告だ。北から順になるだけアッサリ簡潔に書くことにする。正直、ちょっと泣けたのだ。クドクド書いてられない。

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北海道  
アトサヌプリの野湯
然別峡菅野温泉
島田温泉
オンネトーの湯滝
奥摩周温泉
和琴温泉
カムイワッカ湯の滝
温根湯温泉
黄金湯温泉
北湯沢温泉
登別温泉
オソウシ温泉
ニセコ湯本温泉
臼別温泉
二股ラヂウム温泉
鹿部温泉
朝里川温泉
 
ガレ場が崩壊し、今は噴気のみ残っている模様。
一軒宿の「ホテルかんの」は後継者なく廃業。キャンプ場の野湯群は今でもある模様。
いつ廃業したのかも不明。
天然記念物とのコトで入湯禁止になった。
牧場の脇にあったただのステン浴槽だがいつの間にか消滅したらしい。
「和琴観光ホテル」は廃業した模様。
世界文化遺産登録に伴い入山規制された。
「いづほ公衆温泉」は2003年閉鎖。理由は不明。
経営も建物も全て変わってしまって見る影もない。
バブルの申し子「グリーンビレッジ」は無くなった模様。
「旅館花屋」は廃業。
一軒宿の「鹿の湯荘」は道内では貴重なアルカリ泉だったが、後継者なく廃業。
「ロッジチセハウス」も後継者無く廃業。
同上。道内最後のランプの宿だった。今は共同浴場が跡地にできたらしい。
道内随一の奇湯はサラ金に経営が移りリニューアル。往年の風情はどこに?
「鶴ノ湯」は温泉公園になってしまった。
「湯鹿里荘」は2001年ごろに廃業。
青森
薬研温泉
六ヶ所温泉
板留温泉

3つあった「かっぱの湯」は全てお役所の野暮により入浴禁止に。アホか。
ボイラーが故障してそのまま廃業。
共同浴場は老朽化により閉鎖。
宮城
鳴合温泉
湯ノ倉温泉

一軒宿の「河鹿荘」は2009年頃より休業。
一軒宿の「湯栄館」は大地震でできた天然ダムに水没。
山形
琵琶ノ沢温泉
経営難で廃業。オバチャンぶっちゃけ無愛想すぎたか?
福島
湯野上温泉
カンチ山鉱泉
川部鉱泉

谷底の露天風呂はおそらくは風紀上の問題から閉鎖。
後継者なく廃業。
理由は不明だが廃業。
栃木
高雄温泉
交通至便な野湯だったが今は立派な旅館が出来た。喜ぶべきなんだろう。
群馬
四万温泉
万座温泉

林道奥の通称「湯の泉」は閉鎖。
レトロでボロな「日進館」湯治棟は解体されて更地になった。
神奈川
大矢部温泉
鶴巻温泉

「うな萩」は本来の鰻屋としては営業中。
本来の「美ゆき旅館」は2007年廃業。現在同名で残るのはビジネス旅館の方。
新潟
蒲原温泉
渋い一軒宿は1995年の姫川大水害で流出。
石川
新岩間温泉
片山津温泉

一軒宿の「山崎旅館」は元々冬季休業が、このところ通年休んでるらしい。
名前は忘れたが、泊まった旅館は消滅した。
山梨
天科温泉
素晴らしい内湯を持つ一軒宿の「こやす旅館」は2009年廃業。
長野
猫鼻温泉
中ノ湯温泉
曾原湯鉱泉
濁川温泉

怪しいプレハブ日帰り施設は1995年の姫川大水害で流出。
1995年の水蒸気爆発事故により移転、川沿いの露天風呂は消滅。
3軒あった旅館は全て廃業。オバチャンの愚痴は本当になってしまった。
王滝地震の際の山津波で埋没。演出ではない本物のランプの宿だった。
静岡
修善寺温泉
「独鈷の湯」は今はただの足湯に。
滋賀
堅田温泉
意外に本格的な感じの温泉だったが、びわ湖タワーと命運を共にした。
京都
木津温泉
素晴らしくレトロな造りの「しらさぎ荘」は2007年ごろに休業、そのまま廃業。
兵庫
鹿之子温泉
中間温泉
七釜温泉

まるで民家の一軒宿は廃業、今は日帰りスパが跡地に建つ。
地味な「なかま荘」は地味なまま消えて行った。
何度も通った渋い共同浴場は閉鎖。今は離れた場所に豪華施設が。
岡山
奥津温泉
湯郷温泉
湯原温泉
湯免温泉
岩山温泉

橋のたもとの共同浴場は保健所の無粋な指導とやらで閉鎖。
国民宿舎「みまさか荘」は足がかりが良くて好きだったが、2003年廃業
国民宿舎「桃李荘」も同じく廃業。湯原そのものの衰退ぶりも凄まじいらしい。
寂れたドライブイン温泉だったが廃業。
まったく民家に見える「あかぎ旅館」は90年代半ば過ぎに廃業。
広島
羅漢温泉
岩倉温泉
湯来温泉

世にも稀なスナック兼温泉は惜しくも廃業。
国民宿舎「岩倉ロッジ」は経営難で民間に売却されるも2006年頃倒産。解体。
無料で混浴の露天風呂は風紀上の問題から閉鎖。
山口
湯谷温泉
一ノ俣温泉

恐ろしくレトロっちゅうか小汚かった「下関老人保養所」は閉鎖。
「一ノ俣温泉保養所」は2006年に台風の被害を受け休業、そのまま廃業。
長崎
島原温泉
「岩永旅館」は肉屋と魚屋を兼業し安泰だと思ってたが、あえなく2009年廃業。
熊本
栃木温泉
「小山旅館」はダムにより移転、今も営業中だがあの佇まいはもう無い。
大分
桐木温泉
ひぜん湯

古い農機具小屋のような共同浴場は集中豪雨による水害で流出。
露天風呂は集中豪雨による土砂崩れで消滅。
鹿児島
川尻温泉
国民宿舎「かいもん荘」は2007年廃業。

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 如何だったろうか?古い手帳はしまったきりなので洩れてるのはまだ他にも数多くあると思う。それは今後ボチボチ加筆して行くとして、いずれにせよ死屍累々と言っても過言ではない状況であることがお分かりいただけたかと思う。まぁ、宿は無くなっても温泉地としては残った、建て替わって風情がなくなっちゃった、って〜のは百歩譲ってまだ許せるが、一軒宿なんかが消滅すると、ホントそれっきりである。

 「温泉が喪われた」ってことは、そこにつながる様々な人の暮らしも喪われた、ってことなのだ。

2010.09.01

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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