「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
真弓鉱泉はロフト感覚


フロント付近は「木の温もり感」(笑)が活かされてます。

 アチャ〜ッ!道を見失った!

 ・・・・・・と思ったときにはすでにかなり迷っていた。阿武隈の丘陵地帯の中は道が縦横に走っているが、どれもこれも単なる田舎道で標識らしきものがほとんどない。時間は午後、道行く人もすれ違うクルマもない。

 そもそも今回、地図を忘れて高速のSAで急遽購入したのがいけなかった。縮尺は大きいものの、肝心の温泉記号のポイントがハンパでなくずれまくってるのである。これはロードマップではよくあることで、道路状況についてはそれなりに調査もしてるのだろうが、温泉、それも観光地でない地味な温泉についてはロクな調査をしてなかったりする。だから、とっくの昔に消滅した温泉が平気で載ってたり、場所が実際とずれてることもしばしばなのだ。
 今日はこれで3ヶ所目の訪問となるが、すでに先の2ヶ所とも、実際の温泉は地図上にプロットされたポイントとは違うところにあった。

 それでも広い駐車場のあるちょっと大きな食料品店が見つかったので、入って道を訊くことにした。そしたら、これがもう実に頼りないオッサンで、説明がサッパリ要領を得ない。「真っ直ぐ行って商店街を右に曲がれ」ってアータ、こんな人気のない田舎に何で商店街なんてあんねん!?って思うが、とにかく言われたとおりの方向に走り出す。
 予想通り商店街なんて、ない。そらそやわな、ここ「村」やで。さぁ困った。ますます目指す場所から離れてしまったような気もするな・・・・・・と思ってると、上手い具合に今度は野良仕事帰りと思われるオッチャンがやってくる。

 この人の説明は的確で分かりやすかった。何でも訊いてみるもんだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・とまぁ、艱難辛苦とは大袈裟か・・・・・・紆余曲折はあったものの、ようやく真弓鉱泉に到着。何のことはない、今回は地図に責任はなかった。おれが交差点を一つ手前で曲がったのがいけなかったのだ。

 この辺ではわりと少ない、コンクリート2階建てのやや大きな民家のような建物が、単に普通の2車線の県道沿いにあった。しかし大きな看板が出てないので、パッと見で温泉と分かる人は少ないかも知れない。
 建物は最近改築されたのだろう、玄関周りの内装はログハウスっぽく明るいもので、「鉱泉宿」っちゅう言葉から想起される古臭いイメージはまったくない。軒下では大きな灰色の犬が愛嬌を振りまいている。

 予定より到着が遅れたことを女将、っちゅうかオバチャンに詫びつつ早速入湯。

 お風呂はこちらです、と案内された奥の方は、コスト低減のためか、はたまた資金が尽きたのか(笑)、入口付近のウッディーな雰囲気とは裏腹に、コンクリートの地肌がむき出しだ。打ちっぱなし、っちゅうやっちゃね。蛍光灯の青白い光もあって何だか寒々しい。そんな薄暗い廊下の突き当たりに浴室があった。脱衣場も同じくコンクリート打ちっぱなしだが、あまりの寒々しい印象を和らげるためのせめてもの心遣いだろう、天津すだれが一面に張ってある。

 さすがに浴室はタイル張りだった。鉱泉にしてはかなり広く、20畳ほどの広さがあって、中央部分にこれまた鉱泉としては広めの4畳ほどの浴槽。猛烈に熱い湯が湛えられている。ジャンジャン水でうめるが、湯船がデカいので、水道の蛇口だけではナカナカ適温にならない。子供たちは洗面器リレーを始めた。室内はかなり塩素臭がしたから、お湯にはどうやらカルキを混ぜてあるようだ。

 改めて内部の様子を観察する。気の利いた演出は一切なしで、どれもこれも実用一点張りっちゅうか、ひたすら四角い。窓の外は背の高さくらいまではコンクリの壁、そこから上は草地の斜面になっており、眺望はまぁゼロである。むしろ半地下というべきロケーションだな、こりゃ。
 カランの上の段には、いろんな種類のシャンプー・リンス・トリートメント・ボディソープが置かれてある。2つとして同じ種類のものがないのが面白い。多分近隣住人の宴会場兼風呂屋としてそれなりに賑わっていて、キープしてあるのだろう。片隅にはなぜか発泡スチロールのトロ箱が転がっていた。一体何に使うねん。

 他に浴室らしきものは見当たらなかったし、おそらく混浴なのだろう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今や死語だが、80年代半ば頃だったか、「ロフト感覚」って言葉が流行った。要はコンクリート素塗りで、天井の配管なんかが剥き出しになったような店の構造のことだ。店によっては一面黒くペンキを塗ってあったりもした。

 未だにそんな雰囲気をマジメに打ち出してるのは「牛角」くらいなモンだが(笑)、当時はそんな内装で「**バー」なんてぇ名前つけてジャズとか流して、どぉでもいいようなハンチクな料理とスカシたカクテルなんかをいいお値段で出す店がボコボコできた。笑ったのはやっぱ「寿司バー」だったな〜。アボガドとかカリフォルニアとかもぉ、マトモな寿司覚えてからやれ、っちゅうねん(笑)。
 来る客は、っちゅうと男はみんな上から下まで黒の「DCブランド」(笑)でキメた連中、女はワンレン多かったかな?いや、まだフレア気味のパーマが主流だったかな?マルイのバーゲンで徹夜の行列ができた時代だ。

 風呂から上がって涼みながら、おれはそんな「ロフト感覚」って言葉を思い出したのだった。

 そうだ!ここ天津すだれもいいけれど、この際いっそ、高いメタリックなスツールやラック類を並べ、それらしくコルトレーンでも流して「風呂バー」にしたら、他に例のない存在になれるかもしれない。いっそ浴室もタイル引っぺがしてコンクリート打ちっぱなしだ。照明はやっぱ小さなクリプトン球のスポットだろうな、やはり・・・・・・でもまぁ、ワンレンのボディコンネーチャンが客として来ることなんざ、今時混浴サークルが大挙して押し寄せでもしない限りないだろうし、それに脱いでしもたらボディコンもヘチマもねぇか(笑)。

 ・・・・・・などと、まことに無責任な空想が果てしなく膨らんで行く、ちょっとおもろい佇まいの福島の鉱泉なのでありました。


浴室入口にて。天津すだれが見えます。

2006.06.10
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved