「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
無粋な法律


繊細とダイナミズムの絶妙な均衡

宮城・小原温泉で見た見事な木造三階建て旅館

 法律が日本の温泉文化を破壊している。
 法律が日本の温泉文化を破壊している。
 法律が日本の温泉文化を破壊している。
 法律が日本の温泉文化を破壊している。
 法律が日本の温泉文化を破壊している・・・・・・。

 くっそぉ〜!何度でも書いたるど!

 いや〜、単刀直入やなぁ〜。いつもは一体どれが結論やねん!?ボケ!的にグジュグジュと連なる文章がまぁおれの基本パターンなんだけど、そればかりだと自分もグジュグジュしてくるので、今日はなるだけ明快に、上記の切り口でちょっと書いてみることにする。

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 まずは消防法やら建築基準法だ。

 日本の温泉地の独特の景観を形作る重要な要素に「木造三階建て」っちゅうのがある。細かい羽目板と垂直水平の柱で構成される繊細さとダイナミズムが同居したこの形式は、元々は谷沿いとかにできることが多い温泉の狭隘な土地になるだけ多くの湯治客を収容するための必要から生み出されたものだと勝手に想像してる。つまりは詰め込んだれ!みたいなモンだ。
 しかし、必要に迫られてできた絞り込まれた機能が往々にして類まれなる美につながることはあるワケで、結果的にはこれが寺社仏閣の木造建築にも匹敵する、優れた様式美になってきた。

 それが今の消防法や建築基準法ではダメなのだ。新築で建てる場合、木造は二階建てまでと決められちゃってるのである。だから、現存する木造三階建て以上の旅館は、現状維持が関の山なのである。
 まことにひどい話である。寺や神社は文化で、温泉街の風景は文化でない、っちゅうのに等しい。こんな乱暴で教条主義の腐臭がプンプンする論理は文化の分からぬ者の戯言と言えるだろう。それがヘーキでまかり通ってるのだ。

 確かに火事は怖い。そして70年代以前に木造旅館での火災が多かったのも事実だ。しかし、火災報知器や消火栓、スプリンクラーが発達した現代、一体どれほど火災が発生してるのかお上には建築構造別に統計を取ってみて欲しいと思うし、同時に木造の難燃性素材の研究なんかも進めていただきたいものだ。
 そうでないと、日本の温泉地の風景はあと100年、もたない。山形・銀山温泉の、大分・湯平温泉の、長野・渋〜湯田中温泉の、宮城・鎌先温泉の・・・・・・挙げだすとキリがないけど、あの風景はこのままだと確実に、そして永遠に失われる。

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 続いては、公衆浴場法。要は混浴禁止だな。このくだらないキマリには県の条例なんかも含まれる。

 でもなぁ〜、法律叩く前にちょっと書いておきたい。

 確かに日本の温泉はセックスと切っても切れないつながりがある。それは「産土(うぶすな)神」っちゅうアニミズムに基づく神道の考え方に、長い時代の間にさまざまな土俗信仰が混淆してきた結果である。男根や女陰をかたどった物が奉納されていたり、子宝の湯なんてのに端的に窺い知ることができる。でも、科学的にはいくらでもこじつけられても、実際はまぁ、温浴による冷え性や鉄分による貧血の改善くらいなもんだろう。そもそもヤラんとできんわけやしね(笑)。男のほうに原因ある場合も多いしね(笑)。
 とまれ、しばしばおれが言及する祝祭空間としての・・・・・・いや、あえて言おう、性の祝祭空間としての意味合いが温泉文化には脈々と流れてきた。ともすれば隠微なだけの個人主義・密室主義に陥りがちなセックスを、あっけらかんと開放してきたその大らかさをおれは肯定してる。

 ・・・・・・とは申せや。

 露出マニアが徒党組んで群れて温泉に繰り出して行って、人目も憚らず乳繰り合うのはいかがなモンかと思うで。いつ来るか分からん奇特な女性待ってペットボトル持参で日がな一日、眼を爛々させて出たり入ったりしてる、俗に「ワニ」と呼ばれるモテナイ君もいかがなモンかと思うで。やりすぎはアカンで、やっぱし。そんなんやから規制の輪が締め付けられて行くんや。

 一方では先日、兵庫県のどっかで家族湯の混浴禁止とかゆうまことに奇怪で珍妙な条例が取りざたされてた。まさに笑止。何なんだろ?って思う。多分この条例に賛成した人々の家系はお清潔かつお綺麗に、「試験管」とか「虫媒方式」かなんかで子作りをしてきたのだろうな(笑)。

 さて、法規制の趣旨は概ね「風紀」と「衛生」である。前者については実際言われても仕方のない面がある。極端に厳格な石部金吉に言わせりゃおれだって顰蹙モノなんだろうし、あまりエラそうには言えないけど、男女がいっしょに入るだけなら不都合な点、ってホント一体どれだけあるのだろう?ちょっとお上には具体的に示して欲しい。おれ的にはなんもないで。そりゃ美人が一緒になりゃぁ嬉しいけど、別にそれでそのまま欲情するなんてこともないしね。
 後者については何をか言わんやの噴飯モノだ。簡易濾過器みたいなので適温の湯を循環させる方がよっぽど細菌学上危険や、っちゅうねん。それにこの「衛生」観念には、穢れ/不浄の存在としての女性、みたいな考え方が色濃く残ってる気がしないだろうか?

 イヤな文化や伝統だけは残そう、っちゅうんかい!?

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 さらには環境衛生法だったっけ。

 これはまだ法案成立してないみたいだし、どこでこの情報を見たのか忘れたのでウロ覚えだが、温泉の残り湯はもとより使われずに流れてるものも完全に浄化しなさい、みたいなんが法制化されそうらしい。要は温泉成分が環境破壊につながるでしょ、ってコトだろう。

 アホも極まれリ、やな。ホンマ。

 たしかに残り湯はもったいない・・・・・・っちゅうのも全ての温泉ではないけれど、成分の中に希土類、もっと分かりやすく言うとレアメタルが含まれてることが多いからである。ゴルゴ13のネタにもなった原子炉建設に不可欠のバナジウム、飛行機やロケットの軽量化と強度アップに欠かせない、アウトドア好きなら一度は耳にしたことのあるスカンジウムといった金属は産出量が僅少で、また産出地が政情不安なところに固まってる。このため各国の争奪戦が繰り広げられてるのだが、この分野で後塵を拝している日本としては、どうしても安価かつ安定的に欲しいのだ。

 実際それで白羽の矢が立ったのが、天下の名湯草津である。ここの湯には微量ながらスカンジウムが含まれている。もし残り湯をすべて集めれば、一年でかなりの量が抽出できるらしい。

 ・・・・・・ってな、いささかキナ臭さも感じられる話は置いといて、だ。大昔から天然に湧いてるモンを捕まえて、何が環境破壊やねん?って思う。日本中の温泉に人工的な濾過装置を取り付けなならんほどに温泉は自然を疲弊させてるんか?と改めて問いたい。ホントこの法律の真の狙いはなんなんだ!?とゲスの勘繰りを入れたくなる法案である。注意深く今後を見守りたい。

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 さて、一番の問題は何か?

 おれとしては改悪としか思えないこれら諸法案の改正が、ほとんどマスコミにも取り上げられることもなく、国民の目に触れないところでヒッソリと国会で可決されてってる、ってコトだ。読まれてるみなさんも覚えておいた方がいいと思うが、重要な法改正は一種のブラフ(ハッタリ)でもある。そのメインの採決で右往左往してるときに限って、実は細々と後から効いてくる法改正がスーッと通ってるのだ。売れ筋のゲームにクソゲーバンドルするようなモンだ。権力は実にいやらしい。

 そして権力は、ホンネの部分では文化なんてものはまったく認めようとしない。文化とは何もナントカ賞を取ったりビエンナーレに入選したりといった皮相なことばかりを指すのではない、とおれは思っている。そんなものはホイホイと権力構造の中に取り込んでくれる。
 もっとおれたちに卑近なところで長い年月をかけて形成された、しかし決して誰しもが自覚的に気付くことのないもの、それらの無窮の価値は必ずと言っていいほど黙殺される。
 え!?世界文化遺産の取り組みがあるぢゃないか、って!?ハハハ。あれは何のかんのでそろばん勘定の上に成り立ってるのだ。
 え!?民俗学があるぢゃないか、って!?柳田国男以来の民俗学の流れをみればいい。柳田系は体制に巧くすり寄ったからいいものの、それ以外は渋沢敬三が私財を投じなかったらどうなってた?宮本常一はその偉大な業績からすれば、生涯で得た地位は私立大学のいち教授に過ぎない。

 情けないがおれたちはあまりに無力だ。でも、せめてノンだけは唱えたい。

 だからおれはこんな風にして旅をする、温泉に入る、風景を切り取る。あまり誰からも理解されないのはちょと寂しいけど(笑)・・・・・・でも団結したり共闘したりを呼びかける気はないな。みんながそれぞれにやれば良いのだ。
2006.04.05
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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