「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
とある温泉にて


いや〜、風呂は良かったんですよ、風呂は。

 温泉でも観光施設でも、設備は色々取り揃えてるのに何だかどうしてもアカ抜けず、人気のないところって往々にしてある。個人経営の新興施設に多い。伝統ある旅館とかは伝統ゆえに、それをキチンと守れば(・・・・・・って、それだってカンタンなことぢゃないけどね)まぁそこそこはカッコがついてやってけるけど、新興施設の場合は一から「世界」をこしらえて行かなくちゃならない。そこをしくじらずにやっていける経営者は案外少ない。結果イケてない施設が増える。

 そのイケてなさのワケを考えると、ロケーションとか人の動線といった単なる努力ではいかんともしがたい外的要因も無論あるにはあるだろうが、元はと言えば、「経営者の思い切りの悪さ」が底流にあるような気がする。

 すなわち、商売に色気を出したまでは良いけれど、どうにも思い切りが悪いもんだから、目先の欲にとらわれて勝負に打って出ることができず、かといって失うことはやっぱイヤだしぃ〜・・・・・・な〜んて調子で、何だかいつまでたっても中途半端な投資を繰り返すばかりでウジウジしてスッキリしない、そんな姿勢が形に表れてしまうワケだ。
 そりゃぁ商売はお客さんあってのものなので、お客さんが来なくちゃ商売は始まらない。しかし、だからと言って闇雲に呼び込みを行ったり、あれこれ思いつきのように取り揃えて多角化を図ったって、それはお客さんの方を向いてることにはならず、浅ましさやあざとさだけが目立ってしまう。やはり自分の商売のウリのコアは何なのかを見極めて、シッカリその部分を伸ばして行くのが、結局は長続きする秘訣ではなかろうか?ホレ、「損して得取れ」って言うではないか。
 ・・・・・・って、え!?おれのこのサイトの玉虫色を棚上げして何ゆうてんねん!?って?(笑)。いや、これでもロゴやデザインをバカみたいにワンパターンに統一したり、色々一貫性につながる工夫はしてるツモリなんですけど・・・・・・。

 それはさておき、問題はまだある。

 こういうところの主人だったり女将だったり店主だったりが不愉快な野郎であるケースがひじょうに多いのだ。
 ワケはカンタンだ。こんなやり方ではもちろん、思う通りに儲かることは絶対ない。儲からないと人間やはり面白くない。面白くないと性格がだんだんネジくれていく。ネジくれた性格で接客しても無愛想になったり、攻撃的になったり、愚痴っぽくなったりとロクなことはない。
 こうして悪循環は止まらず、ますますお客さんは来なくなっていく・・・・・・。

 今回はちょっとどころか大いに悪口入ってるんで、具体的な温泉名は出さない。万一、読んでどこか気付いた方がおられても、黙っといてくださいな。知らんぷりをしておくのがオトナってモンでしょ。

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 国道沿いにある一軒宿のその温泉は意外なほどの敷地の広さを持っていた。小さな離れになった軽量鉄骨の客室が点在し、テニスコートやプール、バーベキュー場、ゲートボール場、多目的グラウンドなんかが揃っている。入口に一番近い建物がフロント兼土産物売場兼食堂兼大浴場となっている・・・・・・のだが、読まれてるみなさんにはもう想像がおつきだろうが、どれも小さいっちゅうか、ボロいっちゅうか、手作り感覚溢れるっちゅうか(笑)。

 しかも、通りに面した看板には「ペンション」などと書かれてるやおまへんか。このもっちゃりした建物群のどこがペンションだんねん!?これの!?どう見たかて、建設費ケチってプレハブのコテージを並べた奇妙な温泉宿やんか。全部別館みたいなモンだ。
 だいたいそもそもこの温泉、名物は大露天風呂なのだ、それも混浴の(笑)。通常、ペンションに来る連中ってカップルとか大学のサークルとかそんなんやろ?どうにも施設の狙うセグメントが合ってない気がするのはおれだけではあるまい。ゲートボール場にしたってそうだ。年寄りにペンションて、脈絡あらへんやんか。
 つまり、あまり深く考えずに「ぺんしょん、っちゅうモンが流行っとるそうだから、そんな名前にしたら、はぁ、お客さんたーんと来るべぇ・・・・・・」とか「あそこの村にもげぇとぼぉる場、っちゅうモンができた、っちゅうでねぇか・・・・・・」みたいな会話が、建設と拡張に当たって行われたことがありありと看取できるような雰囲気なのだ。

 訪問したのがちょうど泊り客が発ったあとくらいの時間だったので、受付は静まり返っている。

 --------ごめんくださ〜い!
 --------・・・・・・

 エンジの割烹着を着た60過ぎくらいのおばはんが無言でドスドス出て来た。客商売やねんから、「おはようございます」くらい言えんのかぁ!?

 --------あの〜、お風呂入らせて欲しいんですけど。
 --------一人500円!
 --------(・・・・・・「でございます」やろ?)あ、はい、ぢゃ。
 --------風呂は上がってそこ。
 --------(・・・・・・だ〜か〜らぁ〜、せめて「です」くらい付けれんのか〜っ!?)はぁ・・・・・・。

 つっけんどんな態度にいささかムッとしたものの、風呂はナカナカに素晴らしかった。内湯こそ平凡だが、その奥に続く緑に囲まれた石組みの広い露天風呂にはふんだんに湧き出す清澄な源泉が注ぎ込まれている。熱すぎもぬるすぎもせず、天気もその日は日焼けが気になるほどの快晴で、おれたちはユックリと温泉を堪能したのだった。

 出ると、おばはんは所在無げに、しかし、相変わらず不機嫌そうな顔でフロントに座っている。一体全体何をそんなに怒っているのだろう?ゼニにならん日帰り客が来たのがそんなにおもろうないんか?オマエは山野一のマンガのキャラか!?ホンマ。
 いい加減ハラが立ってきたのでその場を辞そうとすると、2階から嫁とおぼしき中年入口くらいの女性が小走りに降りてきて、フォローのつもりか「ありがとうございました」だの「またお越し下さい」だの、しきりにお愛想を言ってくれる。「言ってくれる」と書いたが、それって商売なら当たり前のコトっちゃ当たり前のコトやな(笑)。玄関先に放し飼いになった飼い犬だってピコピコと尻尾振っているっちゅうのに、肝心のおばはんはブスッとしたまま何も言わなかった。
 文句言ってやろうと思ったが、止した。雰囲気からするに、どうやらおばはんの無愛想は今に始まったことではなくいつものことらしいし、言ったって仕方ないからだ。ともあれこんな接客態度ぢゃぁ流行らんようにもなるわな〜。

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 おばはんの不機嫌の理由がホントの所どうだったのかは無論知る由もない。接客業をやる以上、客に不機嫌な顔を向けるなんざ、もっとも初歩的な言語道断の禁止事項である。一切言い訳は通らないし、客は事情を斟酌する必要もないから知る必要もない。よって、冒頭に挙げたケースはあくまでおれの勝手な想像である。でも、案外当たらずとも遠からずなんぢゃないか、って気もするな(笑)。

 いずれにせよ、商売がここまでこんな風になってしまった場合の対処法は、まことに残念ながら一つしかない。

 「商売を畳んでしまう」のである。

 思い切りが悪くて、中途半端な決断しかできず、不満を募らせるタイプの人は、本来、経営者になっちゃダメなのだ。
2006.04.15
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