「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ふんだん・・・・・・湯ノ瀬温泉


建物は川に沿うようにして奥に細長く続いています。

 ・・・・・・とはこんな温泉のことを言うんぢゃい!、などと力んでもしかないけれど、本当に湯ノ瀬温泉の湯量の豊富さ、そしてありあまるそれを一軒で独占する贅沢さは、ホント、そんじょそこらのハッタリだらけの温泉旅館には真似できないと思う。

 かねてから山形・湯ノ瀬温泉の豪勢な露天風呂については聞き及んではいた。しかし、おれはハナから諦めてコースから外していたのでもあった。何故なら、ここは温泉だけの日帰り客を受け付けていないからだ。いやもう、安サラリーマンの貧乏温泉旅行で家族4人が旅館に泊まる、っちゅうのはナカナカ厳しいことなんっすよ。

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 昼下がりの湯田川温泉を後にしたおれたちはその日、本当なら日本海沿いに点在するキャンプ場のどこかに泊まるつもりだった。時間もまずまず押してきてるから急がなくちゃならない。しかし、キャンプ場ガイドをめくっては電話を掛けてもどれもつながらなかったり、留守番電話・・・・・・って、アイヤヤヤヤヤヤ!よく見るとほとんどが盆までの営業ではないか!そんな中、「由良海岸キャンプ場」っちゅうのだけがどうやらやってることが分かった。

 国道を外れて下った由良の集落は海水浴客相手の民宿のひしめく、いかにもな海村でけっこう賑わいを見せていた。町はずれには大きなホテルも立っていたりする。中心の波止場には大きな土産物屋兼食堂兼日帰り温泉施設があり、その裏手から赤い橋でつながった小島がすぐ目の前に見える。島全体が白山神社の境内になっている。

 しかしやねぇ〜、肝心のキャンプ場がこれぢゃあきまへんやんか。「ただの砂浜」やん、これ。営業してるもヘチャチャもホチョチョもあらへんがな・・・・・・思わず悪態が口をついて出るほどに、そこはただもう海水浴場のビーチなのである。焼けまくった砂、テントが乾いていいだろう。いくら晩夏の東北とはいえ、海抜ゼロメートルではテントの中は蒸し風呂間違いない。
 明日は東京に帰らなくちゃいけない。こんなんで暑くて眠れなかったら大変だ。それでも数張りのテントが散在しているのが見えるが、旅行の最終日くらいもうちょっとマトモなロケーションで泊まりたい。日はすでにだいぶ傾いてるから早く決断しなければいけない。

 最初はどこか近くのの民宿に飛び込みで泊まろうかと思った。まぁ大人で1泊2食8,000も出せばOKだろう。しかし・・・・・・と、思い出して地図を見て、湯ノ瀬温泉まで小一時間くらいなことに気づいて、ほんの少しだけ内心ほくそ笑んだ。「止むを得ず泊まらなくてはならない」っちゅうシチュエーションなら、ヨメもつべこべは言わんやろ、と。なぜ「ほんの少しだけ」っちゅうと、今日が土曜日だっただからだ。泊まれる可能性はかなり低い。
 いずれにせよ初めに篭絡すべきはガキ共である。

 --------あんなぁ〜、旅館泊まりたいことない〜?・・・・・・と、猫撫で声のおれ。
 --------泊まりたい!泊まりたい!泊まりたい!
 --------いや、それでもなぁお金かかるねんで。(話フリつつ勿体をつけて煽る)
 --------ナンボするん?・・・・・・と、ヨメ。
 --------いや、それは電話して訊いてみんことには・・・・・・金かかってもエエんか?
 --------そりゃ、ここに泊まるよりはちょっとかかっても・・・・・・(やった!食いついた!)

 しかし、これでダメだったらガキ共落胆してブ〜ブ〜言いよるやろなぁ〜。ま、そん時はそん時で民宿でお茶を濁そう・・・・・・なーんて奸計は、一切顔に出さず、あくまでニコヤカに旅館にモシモシ。

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 あっけなく予約は取れた。オマケに料金確認すると一人10,000円、子供は半額だと言う。民宿に毛が生えたくらいでむっちゃ安いやんか。自慢ぢゃないがこぉゆう「引き」は案外おれ、強いのかも知れない。
 旅館に着くと開口一番、女将さんに「お客さん、良かったですね〜。明日だったら予約でいっぱいでしたよ。今日は土曜日なのに珍しくお客さん少ないんですよ」などと言われてしまった。15畳もある川を望む広い部屋に通される。すでにゲタ箱や部屋にはおれの苗字が貼ってあった。電話してから1時間ほどしか経ってないのに行動迅速、飛び込み客を煙たがらないのが好印象。こぉゆう第一印象って大事だと思う。

 念願の浴衣が着れて大喜びの極めて庶民的な子供たち見ながら、まぁ何はともあれ風呂だが、それはギャラリーに紹介してあるので詳細はそっちの方を見ていただいたらいい。とにかく凄まじく巨大な半露天・混浴の岩風呂が旅館の最奥にある。深さもあってまるでプールだ。時間当たりの湧出量がケタ違いに多い上に、旅館がここ一軒しかないからこそできることだろう。
 他に客は一人もなく、おれたちは思うさまそこを独占することができた。浮き輪が置いてあったけど、実際これだけの広さの風呂だと違和感がない。

 食事もギャラリーの通り。「突然だったので、あまり手の込んだものができなくて・・・・・・」などと女将さんは謙遜してたが、どぉしてどぉして。素晴らしい内容に大感動。旬の岩ガキを初めて食べたが、どちらかっちゅうと牡蠣が苦手なおれが、思わずその美味さに声を上げるほどだった、とだけ書いておこう。

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 この湯ノ瀬温泉、ふんだんなのはお湯だけではない。ゆったりと広い部屋、新鮮な海の幸中心のおおらかでテンコ盛の食事、どれもが「ふんだん」な感じがあってよい。
 とかく家族経営の旅館っちゅうと、チマチマしたところが多い中にあって、この全てにわたる「ふんだん」さは貴重だろう。日帰りお断りなのはいささか辛いトコだが、そうしてしまうとやはりワケの分からん人が押し寄せて佇まいがワヤになる、って気持ちもここなら理解できるし、何より、一泊して風呂以外のものも含めてじっくり味わうに値するだけの宿だ。

 普段の狷介さに似合わず、翌日、日本海を南下しながら「久々に家族で泊まった旅館がアタリでよかったなぁ〜」などと、素直な感想をおれはつい漏らしたのだった。


ギャラリーとは別のショットで、巨岩の横で大きさを表現したポーズ(笑)。

2006.01.28
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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