「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
山梨のコテコテ・・・・・・赤石温泉


有名な巨大番傘のある露天風呂にて、あまりの熱さにひるんでるところ(笑)

 甲府盆地から見ると南アルプスの前衛峰のようにそびえる櫛形山の麓に、一軒宿の赤石温泉はある。無色透明無味無臭の単純泉が多い山梨にあって珍しく、鉄分を大量に含んだ赤褐色の泉質が特徴で、温泉の名前もそんな湯にあたりの石が染まっていたことに由来するらしい。

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 間違えた!と気づいたときには、丸山林道をずいぶんもう奈良田側に走ったところだった。狭い道をなんとか転回して下って行くと、ダートにまったく似つかわしくないマイクロバスやらタクシーが次々上がってくる。眼を凝らすと乗客はみんな登山客。櫛形山はアヤメの山として有名で、登りやすさと眺望から登山客にとても人気が高いということは後から知った。

 元の村に下って赤石温泉への分岐を見つけて行くと、アッという間に旅館への入口に到着。何だぁ〜、小1時間もロスってしもたがな。

 坂の突き当りには・・・・・・うわ!出た!むっちゃコテコテに民芸調の宿。黒い柱に白壁の2階建ての建物は古い大八車の車輪やらなんやらの民具が飾り付けられ、勘亭流の看板もにぎにぎしい。幟に提灯、「苦無胃腸護養達御宿」なる卒塔婆状の黒塗りの看板。ん!?「くないちょうごようたし」・・・・・・って珍走族かぁ!?
 オマケに植え込みには色とりどりの折り紙を鎖状につないで作った飾り。幼稚園の発表会みたい(笑)。雨降ったらどうするんだろう?

 ここもあの「日本秘湯を守る会」の旅館・・・・・・いわゆる(っちゅうても、おれが勝手に名づけただけ)「提灯宿」なのだが、これ見よがしにその提灯が飾られてないのが良い・・・・・・否、周囲のコテコテに埋もれてる、と言った方が正解かも知れないな。いずれにせよおれは、あれが嬉しそうに飾られてあるのは嫌いなのだ。

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 目指す露天風呂は、旅館からえらく離れたところにある。お金を払って鍵の付いた札をもらい、元来た坂を入口まで下り、道路を渡って谷にさらに下っていく。最初は気づかなかったが、途中には、御休み処、卓球場、などと名づけられたプレハブ小屋がある。どれもボロボロに廃墟と化しており、見るからに手作り。
 不法侵入者を防ぐためだろうか、露天風呂の手前に何ヶ所か、ものものしい鉄の扉を設けてあるのがいささか世知辛い。

 中は意外に広く、これまた色んなものが手作り感あふれるコテコテ。何より東屋となった、有名な巨大な赤い番傘。よく見るとケッコー雑な作りなのだけれど、パッと見にはハデでとてもよくできている・・・・・・強風で吹き飛ばないんかな、しかし?
 片流れのトタン屋根の脱衣場も、いかにも自分たちで作りました、ってなアバウトな風情で、柱とトタンの壁の内外が微妙に入れ替わってたりするのが楽しい。
 さらにはセメントのコテ跡も生々しく地面に埋め込まれた鉄釜は、五右衛門風呂だろうと思うが、中身は水だった。水風呂なのかな?

 巨岩を配したメインの湯船には文字通りの赤い湯。ここの湯は冷鉱泉を加熱したものなのだが、かなり熱く、また惜しみなくジャンジャン注ぎ込まれてるのが嬉しい・・・・・・とはいえこれは熱くしとかないと送湯管がすぐに詰まってしまって使い物にならないための措置で、すぐには入れないくらいに熱い(笑)。
 縁には100均で売ってる柄の付いたステンレスカゴがいくつか。湯に落ちた虫や葉っぱをすくうためのものだそうな。

 露天風呂のさらに下の方には、岩風呂に水色のペンキを塗りたくっただけの、どうやらプールらしきものの残骸が望まれる。そのペンキの塗り方のいい加減さがやはり手作り感横溢。いいなぁ。
 今は水が抜けて枯れ葉に覆われてしまってるので残骸に見えたが、ひょっとしたら夏場は実際に使用しているのかもしれない。

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 おれは霧島の新湯温泉を思い出した。あそこも主人がひたすら手作りでコツコツと設備を作っていた宿だった。泊まった日もしゃがみこんで、黙々とレンガを積んで煙突のようなものをこしらえているのが部屋から見えた。広い敷地に、言っちゃぁ悪いがゴチャゴチャと際限なく手作りのものが詰め込まれてるような感じのところだった。

 言うまでもなく、素人の手作り施設はアカ抜けなくも野暮ったい。やはりプロの大工が作ったものには、無駄のない合理的な明快さがある。しかし、プロの料理人が作った「おばんさい」が美味なのにどこか物足りなく思えるのといっしょで、規格品には「破」がないゆえの詰まらなさが付きまとう。
 ホームページだって同じだ。プロのウェブデザイナーに頼めば、それはそれはスッキリしたいいデザインのサイトをすぐさまこしらえてくれるが、手堅さゆえにそこにあまり意外な発見を求めることはむつかしい。

 手作りにとって「コテコテ」は必然の帰結であると言える。その点でこの赤石温泉は正しい。そして、おれはそんなムダと非合理と過剰が大好きだ。
2006.07.30
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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