「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
フジヤマ・ドドンパ・アサヒだぜ!!


大当たりで笑顔

 何でも今度は「ええじゃないか」だそうである、富士急ハイランドの絶叫マシン。よくもまぁこんなナンセンスかつインパクトのあるネーミング次々と思いつくな、と感心してしまう。実に回転数は14回!いい加減キブン悪くなりそう。またまたギネスに申請するのだそうな。
 TDRに集客されて閉園が相次ぐ従来からの関東の遊園地にあって、まさに孤軍奮闘、一人気を吐くわれらが富士急ハイランド、って感じだ。しかし、実は内情はそれほど楽観的ではなく、中国・韓国・台湾あたりに富士・箱根j観光なんかと抱き合わせにしたパックツアーの募集を大々的にかけたりして、必死になって集客数を確保している、ってな話を聞いたことがある。

 ともあれここのエクストリーム路線はバカバカしいほどに潔い。中途半端な掘っ立て観光施設に対しては、たいへんおれは批判的だけど、富士急ハイランドや、あとは愛知(正しくは三重だが)の雄、長島スパーランドの営業努力は実に真っ当だと思う。死人が出ようと事故が起きようと、頑張って続けて欲しい。

 ・・・・・・で、今回の本題。

 林立するその富士急ハイランドのそれら絶叫アトラクション群の橋脚が遠くに望まれる住宅街の外れあたり、全ての進化から取り残されるように、旭鉱泉は山裾にヒッソリと立つ。

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 まるで民家な外観は最近改装したらしく、クリーム色の「パッとサイデリア」みたいな壁もきれいだが、館内に一歩入れば昔ながらの湯治場の雰囲気。玄関の両側に大小の休憩室があって、小さい方ではオッサン達が数名、TV観ながらゴロゴロしてる。廊下の幅も通常の民家程度で、何かホント、知らない人の家に上がりこんだような雰囲気だ。

 「風呂」でも「浴室」でもなく、「入浴場」とすりガラスに書かれた木の扉を開けると格子棚で大ざっぱに仕切られただけの脱衣場。全面コンクリート素塗りの浴室もこれまた大小2つに分かれているが、手前の狭い方の浴室の湯船に手を突っ込んでみると水だった。
 大きい方には先客のバーサンが一人。心得たもので、おれたちの姿を認めると、気を利かせて上がる支度を始めた。恐らくは朝から一日ゆっくり来て、何度も出入りしてる人なのだろう。

 大きい方といっても鉱泉の沸かし湯であるからして、湯船は実にささやかなものだ。4人も入れば一杯のところに、ホンのかすかに白濁したムチャクチャ熱い湯が湛えられている。年寄りは熱いのが好きとはいえ、あのオバァハン、こんな熱い湯に入ってたんかい!?

 それにしても鄙びた佇まいだ。大きな吹き抜けを持つ高い木の天井、申し訳程度の鉢植えの観葉植物が棚に置かれた以外、装飾らしい装飾もない室内。窓を開けると富士山がドーンと、ではなく重油タンクや物置、低い裏山だけが見える。軒下には伸びたスウェットが干されてあった。

 ・・・・・・この地味さは実に素晴らしいのだが、文章に起こしてみると全く華がないコトが伝わるばかりで、我ながらちょっとも面白くないな(笑)。ホントもちょっと文才が欲しかった。

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 上がると脱衣場の鴨居の上に額に入った泉質分析表が目に付いた。何とかイオンがどれだけで、って一表になったアレだ。何となく項目が少ないな〜、っと思いながらよく読むと、お墨付きを与えたのが保健所ではなく「山梨県食品衛生協会」となってる。???不思議に思って表題を見ると、これが「一般飲料水水質検査結果書」(笑)。よぉは井戸水ちゃいまんのん?
 ・・・・・・飾りゃぁエエっちゅうもんちゃいまっせ。

 また、脱衣場の横が自炊者のための台所となっている。謎めいたレイアウトである。しかし、今は日帰りのみとなっているので流し台はうっすら埃をかぶっていた。
 営業時間と定休日が書かれた額には洗髪料も載っているが、これが300円とモーレツに高いのもこれまた謎。しかし、思えばこの建物、そもそも泊まれるだけの広さがあるようにも思えず、元々日帰り専門の湯屋なのかもしれない。ならばこの台所はなんなんだ?

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 紺地に白く「旭鉱泉」と染め抜いたノレンが飾られた大広間に行くと、先刻のバーサンが横になってネーブルを食べている。おれは浴室を譲ってもらった礼を述べ、近在の人に思えたのでついでにこの鉱泉の由来についても訊いてみた。回答はあまり要領を得なかったけれど、どうやら大昔からここにあるってコトだけは分かった。親切な人で、子供たちにネーブルを分けてくれた。そんなちょっとしたことが何だかとてもうれしい。

 見渡すとガラス戸の茶箪笥にはカップラーメンが結構たくさんおいてある。浴客の軽食に売ってるのだろう。それなりに流行っていることが伺われてこれまた何だかうれしい。反対の隅には、今時めったに見かけない古いオーディオのセットや脈絡のない土産物、骨董品のの数々。無論、折りたたみの長机やアルマイトの急須、水玉模様の湯のみ、薄っぺらな座布団等は、今さら言わずもがなの必須アイテムだ。
 おれはゆっくりとタバコを吸った。害悪が叫ばれるタバコも、こんなマッタリと弛緩した気分で吸えば、むしろ身体に良さそうな気がする。灰皿がパチパチパンチの島木譲二愛用のアレ、なのはもちろんだ。

 時計を見るともう3時半。これからあと1〜2ヶ所鉱泉を回り、テントの設営もしなくてはならない。そろそろいとまを告げなくてはならないのだが、何だか名残惜しくて腰が上がらない。
 しかし、そんな感傷はちょっと恥ずかしい。家族に気取られたりしたらもっと恥ずかしい。

 しかたないのでもう一本、タバコを吸うことにした。


落ち着いた休憩室内部。左奥にカップ麺の入った茶箪笥が見える。

2006.07.14
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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