「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
アヒルの湯二題


ユーモラスだがもはやアヒルの雛かヒヨコか分からん(笑)。

 ダッシュ村は福島県にあるらしい。住民には多額のギャラ、もとい制作協力費と共に強力な緘口令が敷かれ、出入り口付近の道には24時間体制でガードマンが立ってるそうな。
 そこの村長さんはご存知、ソフトビニールでできたアヒルの人形だ。元々は赤ちゃんの風呂の遊び道具だな。

 ぶっちゃけおれはトリが嫌いだ。飼いたいとも思わない。ま、ニコニコしてたらしてたで不気味だろうけど、とにかく無表情なのが好かん。くちばしもあんなん、カモノハシ以外他のどんな動物にもない。爬虫類が進歩して鳥類になったと進化論は説くけれど、どうしてもおれには信じられんぞ。卵胎生なのがいっしょなだけやんか。何で鱗が羽根になるんや?
 鳥は初めっから鳥だったに違いない。

 とは申せ、何となく憎めないヤツもいる。その代表格がこのアヒルだろう。鳥類の例に漏れず目は相変わらず無表情だが、ヘタヘタした歩き方、白い胴体に平べったくて大きな黄色いくちばしがキュート。思えばドナルドダックだってアヒルだから、みんなかわいいと思ってるんだろう・・・・・・って、ミッキーはネズミやんけ(笑)。
 漢字では「家鴨」と書くくらいで、先祖である鴨もまぁかわいい。「カルガモ親子」があれだけブームになるくらいだしね。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 最近、豚児どもにおれは尋ねた。

 --------お前らもう一回行ってみたい温泉どこや?
 --------アヒルの温泉。
 --------?
 --------ほら、玄関でアヒルが立ってた、山の道の途中の・・・・・・あれ、可愛かったよね〜。

 ・・・・・・千人風呂で有名な伊豆の蓮台寺温泉「金谷旅館」は板塀に囲まれて、クルマがビュンビュンとおるすぐ道路わきにあり、ウッカリ通り過ぎてしまいそうなほど意外に小さな旅館だ。有名なわりにコテコテしていないのが第一印象、好感が持てる。
 厳重に女湯が仕切られているのがかえって無粋な以外は、ウワサどおり千人風呂は素晴らしいものだった。柔らかい光があふれる中、プールほどの深さのある巨大な浴槽に伊豆らしい透明のサラッとした湯があふれている。混浴の露天風呂も併設されているが、これはまぁオマケだな。フツーっす。

 堪能して出ると玄関脇にアヒルが立っている。まったく動かない。

 行きしなにこんなんあったっけ?と思うより早く、子供たちが触ろうとした。するとそいつは首を回して、低く「グワ」と鳴いた。置物ぢゃなかったんだ!。
 俗に鳥はなつかないと言われるが、このアヒル、ものすごくよく人馴れしていた。写真に撮るときは子供たちの前に立ってちゃんとカメラ目線になるわ、シャッター切るときはジッとして動かないわ、ホント驚くほどしつけられたアヒルだった(※)。

 ・・・・・・会話がさしていたのはこの蓮台寺のことだったのだが、肝心の温泉については「忘れた!」の一言で終わってしまった。名湯千人風呂もカタ無しであるが、ま、そんなモンだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 永らく「日本一広い市」だったいわき市の外れ、山を切り開いてひな壇状になって新興住宅地がある。こちらのようなペカペカでクソ狭い建て売りとは異なり、それぞれの区画がゆったりと80〜100坪くらいあるところに真新しい家々が並ぶ。そのすぐ裏手、元の山林がわずかに残った谷間に吉野谷鉱泉はある。歴史を感じさせるリッパな建物だ。

 おれたち一家はここでジジィババァ6人と替わりばんこで、3人も入れば一杯の狭い湯船に入るっちゅー、まことに鉱泉らしい体験をした。それはそれでおもしろかったのだが、もっとおもしろかったのはやはり、アヒルだ。
 浴室に向かう古風な縁廊下のガラス戸から裏庭が見える。白菜の外葉をむしった物とかが散乱してちょっと小汚い中をアヒルがテコテコ歩いている。子供たちが風呂よりアヒルに目を奪われたのは、無論言うまでもない。ま、ここのは蓮台寺ほどなついてはおらず、追いかけてもグワグワ鳴きながら逃げるばかりであまり遊び相手にはなってくれなかったけど。

 風呂からあがり玄関先で靴を履いていると、宿の主人が話しかけてきた。

 --------お客さん、アヒル要りません?
 --------?・・・・・・雛ですか?
 --------いえいえ、あれ。
 --------あれ、って裏にいた!?
 --------はい、アヒルって飼いやすいですよ。
 --------いや〜、僕ら東京から来て、マンションだし、ちょっとアヒルは・・・・・・。
 --------そうですかぁ・・・・・・

 主人はすこし残念そうだった。加えて子供たちも残念そうだった。しかし当時の車はS−MX、そもそも大きく育ったアヒルを一体どこに積めるというのだ。
 おれは帰りの車中、子供たちにアヒル欲しかった欲しかった、飼いたかった飼いたかった、と何度も非難がましく言われた。萩原朔太郎の名言を借りずとも、父は悲愴なものだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ま、いずれにせよアヒル、って温泉のとぼけた雰囲気に合うよね、ヤッパシ。グワグワ。


※:今回、まとめるに当たってアヒルについて調べたところ、どうやら鳥の中では珍しく比較的飼い主になつく方で、後をついて歩く習性があるらしい。インプリンティングとは異なり、生まれた後に飼い始めても大丈夫なようである。

2005.11.19
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved