「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
村の湯・・・・・・湯沢温泉「長生館」


古びた浴室の佇まい。床の細かいタイル地がいい感じ。

 何度も書いてることだけど、ロケーションや湯に個性のある温泉や鉱泉なんてホンの一握りである。たいていは平々凡々と草深い田舎に埋もれ、泉質にしたって無色透明無味無臭、「何やこれ?ホンマに温泉かいな?」と言いたくなるような、そんな「村の湯」が実は日本の温泉文化を下支えしてきたのだ・・・・・・文化とはいささか大袈裟かな。

 そんなところにリトマス試験紙やら何やら中途半端な分析道具振り回して行ったって始まらないし、よしんば何か含まれてたからってどうなるというのだろう?差異を求めたって仕方ないぢゃん。

 平凡なままを愛でてりゃいいんだよ!!

 ・・・・・・出だしからエキサイトしてどないせぇ、っちゅーねん(笑)。

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 今日取り上げるのは、そんな平凡のきわみとも言える山梨・湯沢温泉の「長生館」である。

 そもそも山梨・湯沢温泉、ってーのがムチャクチャに地味でマイナーなところだ。「湯沢温泉」っちゅーたら越後に大体相場は決まっとるがな。実は他にも全国には同名の温泉がけっこうあるけど、それ知ってたって決して威張れることでもない。好事家とかヲタの領分っちゅーモンだろう。
 山梨では比較的大温泉地といえる下部温泉だが、そこから富士川方向に少し南下し、身延線の線路をくぐる狭い道を突き当たった何〜んもないところにポツンと旅館が2軒建つ。ま、地味な鉱泉の平均的な姿だろう。

 2軒と書いたが、最初おれは一軒宿かと思った。駐車場に別の旅館の名前があって、やっともう1軒あるって分かったのだ。しかし、駐車場はあるものの肝心の建物が分からなかい。手前のこぎれいな旅館が奥を塞ぐように建っていたためである。
 その旅館の向う、田んぼのあぜ道のような狭い路地が長生館の入口らしい。山奥の秘湯なら車で旅館の前までアプローチできないところは未だにいくらでもあるけれど、このような田園地帯では珍しい。こりゃー掘り出し物かもしれない。
 覗くと、うお!何とも渋い外観の旅館が見えるぢゃないか。こっちに決まり!

 おれは2軒の温泉宿が並んでいると、必ず古いほう、ボロいほうに入ることにしている。自分にとっては佇まいが全て、古い習俗や事物が残ってることが何より大事だからだ。泉質なんてホントどぉでもいい。

 モルタル造りの建物はさほど年代を経たものではないように見えたが、内部は古めかしい。外観のみ手直しして古くからある建物を使い続けているのかもしれない。おそらくは開業当初から掛かるものと思われる隷書の看板がいかめしくていい感じだ。
 縁起物のクマデや色紙、しゃもじが雑然と並べられた狭い玄関でバーサンに金払う。鳳凰の姿を組み合わせたカラフルな「商売繁盛」の飾り字は、そぉいや山梨県でよく見かける気がするな。

 上がったすぐ突き当りが風呂場で、入口にこれまた開業当初からと思われる効能書きの看板がかかる。後ろになるほど「梅毒」だの「水銀中毒」だの怖そうな病気が並んでいる。鼻取れたオッサン入ってたらコワいな。
 男女共用の古い形式を残す脱衣場では、湯治客と思しきジーサンが色の悪い干し柿のようなチンコをブラブラさせて湯から上がってきたばかりのところだった。これだよこれ!やっぱ、まだまだおれなんて若僧だな〜。似合わへんわ。
 無論、細かいタイル貼りの横長の浴室も混浴。冷鉱泉なので加熱だ。隅っこには源泉槽もあるが、これがもう笑ってしまうくらいに冷たい。特筆すべき点はそれくらいのもので、泉質は平凡そのものだ。

 上がって休憩室に行くと、壁にはきんさん・ぎんさんの手形の色紙が張られてある。世界で最もデビューが遅く、かつ最高齢の双子タレントとして名前を馳せたのも昔話となってしまった。おれもあんなふうにいるだけでギャラ取れるようになれたらいいなぁ、などとタワけたコトを夢想する。
 それにしてもゴールデンウィークの休日の午後っちゅーのに、館内には人の気配がなく森閑としている。先客だったジーサンたちは2階に上がってしまったようだ。ふつう、小さい旅館でもちゃんと宿泊をやってるようなところだと、食べ物の匂いが微かにしているものだが、それもない。
 尋ねはしなかったが、おそらく今はバーサン一人で細々と日帰り客の相手をしてるだけなのだろう。宣伝する気もなさそうだ。

 ・・・・・・と、かなり頑張って細かく描写してみたけど、ね!?ホント平凡な村の湯だってコトが分かるでしょ?でも、この平凡さは今や貴重な「喪われた平凡さ」でしょ?

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 これまた何度も書いたことだけど、平凡なものの持つ滋味を伝えることは本当にむつかしい。それは昔ながらの素朴な醤油ラーメンとコッテコテのラーメンを讃えるむつかしさの違いの違いに似てる。一方、ギミックを語るのはラクだが、結局疲れる。
 そしていつも思うのだけれど、乏しい文章力を駆使して温泉マニアに語ったって、それはむなしいことだ。何がしか「役立つ情報」だけを求められたり、単に自分の経験との比較でもって読まれるのは・・・・・・つまるところ数勝負の観点に行き着くのだろうが・・・・・・どうにも寒々しい。

 願わくば温泉にまったく興味のない人に、「単なる読み物/紀行文」として読んでほしいもんだ・・・・・・って、どだいそぉゆう人がこんなページに来ぇへんってば(笑)。

2005.10.23
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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