「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
心づくしとは何か


大沢温泉HPのイラスト

旅館すがわらのHPにあるロゴ


いずれもリンクしてます。
 前回、ちょっとメチャクチャ書いたので、今回は口直しもかねて、おれが感銘を受けた旅館の話を書こう・・・・・・ったって、あらゆる言を弄して悪口雑言を並べ立てることがとてもたやすいのに対し、何かをサラリと誉めることは至難の技である。それに、往々にして賞賛を読まされることは・・・・・・人間の業だろうか・・・・・・ぶっちゃけ退屈であったりもする(笑)。オマージュってタイヘン。
 こんなエピソードがある。いいニュース・心温まるニュースだけを取り上げた番組がかつて企画されたのだそうだ。朝に流せば、これから始まるであろう仕事に忙殺される一日も爽やかに始まるだろう、と。
 ・・・・・・結果は言うまでもがな、惨憺たる視聴率だったらしい。他人の不幸は蜜の味、誰もそんなもん観たくなかったのだ。すぐに番組は打ち切りになった。

 加えて今回、回答はもうタイトルに書いてある。つまりは「オチ」だな。したがって、ここから先は申し訳ないが、読み物としての面白みもないだろう。
 しかし、何だかおれはこれらの旅館を、奇をてらって紹介したくなかったのだ。退屈でもいーぢゃねぇか、淡々と,おれが体験した事柄を記す。それこそが、おれのできる最大の賛辞だろう。

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 まずは、大沢温泉。花巻・鉛温泉郷の国道沿いにある巨大な一軒宿である。

 入って右側が観光棟、左側が自炊棟となっているが、どちらも非常に巨大な旅館だ。日帰り客であるおれは自炊棟の方に案内された。重厚な建物、どうやらそれは旧舘であるらしかった。そりゃそうだ。温泉宿に泊まることが「湯治」から「観光」にシフトしたのは、熱海や箱根ならいざ知らず、ここ東北ではそれほど古いことではない。
 おれはしかし、玄関入って驚いた。たしかに古めかしいけれど、そこは、自炊棟とは思えないくらいきれいに整備されていたのである。磨き上げられた木の床、並べられたスリッパ、さりげなく置かれた花活け、帳場にはちゃんとハッピ着た番頭さん・・・・・・それらは一般の観光旅館なら当然のことだろうが、およそ非人間的にあばら家に閉じ込められるのが常識となっている、現代の自炊の湯治場では信じられない光景だった。

 さらには作りこそ地味だが、品揃えは田舎の食料品店よりよほど豊富な売店、自炊が面倒な客のための定食類を出す食堂(初めて見ましたわ)、きれいにステンレスが磨き上げられ整頓された炊事場、客室はほとんど満室で、ちょっと覗いてみたら、簡素ながらこれまた「自炊部」のイメージを覆すこざっぱりしたものだった。とにかく隅々まで、ついでに言うと裏庭まできれいに掃き清められていた。

 おれは以前、自炊宿の惨憺たる現状について書いたことがある。その時、「こんなトコに泊まったら却って治る病気も治らんのんちゃうか!?」みたいに書いた。いや、実際、そんなトコばっかしなんよ。
 そんな中にあってここ、大沢温泉は温泉宿の原点である「湯治」をとても大切にしている。無論、収益性云々から言えば、湯治のための長逗留なんてあまり儲からないに違いない。それをここまでキチンと節度を持った運営を続けるには、おそらく非常な努力が払われていると思われる。

 まだまだ日本の旅館も捨てたもんぢゃない、って思いません?これって。

 帰りがけ、さらには何と、番頭さんその他数名が見送りに表に出てきてくれた。おれがパカパカ写真撮っているのを見ていたのだろう、シャッターを押しましょうか、と声も掛けてきた。僅か300円だか500円だかでここまでもてなそうとする態度に感動しないワケがない。
 カメラを受け取りながら、おれはお世辞ではなしに感想を述べた。

 日帰りの入浴で、ここまでもてなしてもらったことは初めてです。自炊部がここまできれいに整備されてる宿も初めて見ました。

 番頭さんはことさら威張る風でもなく、「いえいえいえいえ〜、どうもありがとうございました。またお越しくださいませ〜。」とだけ答えた。その簡明な答え方さえも、ベタベタしてなくて気持の良いものだった。

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 続いて「旅館すがわら」。

 それは東北三大温泉(笑)の一つ、鳴子温泉郷の外れ、後もう少しで東鳴子、とゆう所にある。決して立地は良くない。温泉街を下ってきて、今は旧国道となったとはいえ、尿前からの道と鬼首からの道が合流する三叉路の脇にあって交通量も多く、言わば「路傍の温泉宿」だ。高台の宿に比べりゃぁそりゃ景観は落ちるに違いない。

 それでもここのもてなしは見事だった。おそらくは時間制限だって設けているのだろうが、少し遅くに来たおれたちをいやな顔一つせず受け入れ、太り肉の元気な若女将が丁寧に浴室までの案内もしてくれた。
 ここもさほど大きな旅館ではない。せいぜい20室くらいの感じだし、件の提灯宿でもない。ただ隅々まで眼が行き届いているというか、押し付けがましくない程度の行灯型フットライトが各コーナーに配されていたりする。無論、館内が清潔そのもなのは言うまでもない。

 風呂も極めて古風な、脱衣場も内湯も男女一緒になったのを大切に使っている。単純に観光客を動員したいのなら、男女別の方が断然有利だろう。やれ恥ずかしいだのなんだのとピーピーヌかすバカは多いからね・・・・・・そうやって騒ぐ姿の方がよっぽど恥ずかしいぞ。

 風呂も堪能してロビーで涼んでいると、先ほどの女将さんが話しかけてきて、世間話をかわした。たかだか500円の入浴料であれこれコメント垂れるほどの資格はないので、当たりさわりのないことばかりおれは答えたのだったが、ともあれ家族だけでこじんまりとやってる印象だった。

 ここでも出しな、驚かされた。目の前の国道に出るだけなのに、わざわざ番頭さんが誘導に出てきたのだ・・・・・・ったって、単に左折して道に出るだけだっせ(笑)。フツーここまでしてくれないよね。

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 ・・・・・・と、本稿を書きかけでほたくったままおれは先日、群馬〜新潟に行った。そして、そこでまたもや素晴らしい旅館に出会った。この旅では悪友Tの若くて美人のヨメといっしょに風呂にはいるっちゅー幸甚にも恵まれたし、実に思い出に残る旅だった。いやぁ〜生きてるとエエこともたまにはあるなぁ(笑)。

 閑話休題。群馬・老神温泉「金龍館」がそれで、おれたち一行は単なる日帰り入湯客であったのに、これまた出しな、そこの若旦那と思しきお兄さんに親切な言葉を掛けられ、オマケに心づくしのトウモロコシとトマトまでいただいた・・・・・・モノもらったから誉めるワケぢゃないよ♪。
 とまれ、感激したおれたちは、決して品揃えが良いとはいえない土産コーナーで色々買い込んだのだった。ちなみにココ、老神温泉の中では入湯料も格安である。ちょっとピンサロのような湯浴み着だけはいただけなかったけどね(笑)。

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 出しなにホロリとさせるのが極意?だって?(笑)

 ・・・・・・そこまでおれはシニカルにできてない。

 おれのゴツい体躯と短い頭、OAKLEYのハデなサングラスに、トラブルになるのを畏れて慎重に対応したって?

 ・・・・・・そ、それは・・・・・・ちょとあったりして(笑)。

 前回おれは書いた。「・・・・・・(旅館にとって)やはり収入の多寡は生活には大きな問題なので、多い方がありがたいに決まってる」と。それは間違ってはいない。あらゆる商売はそうゆうモンだ。
 でも、それは客の側が抱くべき「謙譲の念」であろうことは論を待たない。旅館側が初めっからそぉゆう態度でやっちゃ〜、やっぱ旅館としておしまいなんよ。低料金の客を軽んじるくらいなら、いっそ断るべきだ。スノッブに徹しきれず、小銭の客を軽くあしらいつつ小銭かせぎに精出すようなスケベ根性がない分、それはそれで潔くて正しい。

 他の人はいざ知らず、おれは別に旅館に提灯やら蓑笠やらといった民芸調の演出も、ちゃぶ台の上の折鶴も、けたたましくも押し付けがましい仲居の接待も、訳知り顔でここに座ってこの角度で庭を見ろなどと抜かす番頭も求めていない。座ったらコケそうなほどバカバカしく分厚い座布団も、マンションの風呂を岩で固めたような貸切風呂も、得体の知れないアロエシャンプーや竹炭石鹸も要らない。別に源泉掛け流しでなくたって、部屋食でなくたって、トイレが部屋になくたってかまわない。そんなことはどぉでもいいことだ。

 そんなものより何より「一期一会を大事にし、変に値踏みせず客を客として扱い、多少ボロくてもスッキリと気持よく清掃・整頓してあること」・・・・・・それが一番うれしい。その点で今回挙げた3つの旅館は間違いなく素晴らしい。

 でも、これ読んでホイホイと日帰りで行かないようにね〜。ちゃんと泊まってあげましょうね〜。


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2005.08.28
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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