「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
午前10時から午後2時


とある旅館にて。ここもキッチリ時間制限あり

 ちょっとくどくどしい文章だけど書き写してみよう。

 「私たち、日本秘湯を守る会々員は、先祖から引き継いだ貴重な温泉資源と自然環境を守るために、観光的な近代化を極力避けて、古い建物、古い天然温泉をいつまでも極力保持するよう努力を重ねております。皆様の日常生活と異なって、古いが故に何かとご不便をおかけすることかと存じますが、何卒ご了承下さい。
旅とは・・・・温泉とは・・・・こんなことを私共は、日夜悩み続けておりますがお気付の点があれば素直にお教え下さい。
山肌から聞こえる蝉や小鳥の声、渓流に河鹿の音、何もご馳走はできませんが、付近の山野で採れた山菜に、遠い日の故郷を思い出して、どうぞごゆるりとご静養下さい。
日本秘湯を守る会員の宿は、皆様方の心と健康のふるさととして、温泉と自然を大切にしております。どうか、いつまでも、皆様の自然との語り合いの場としていただきたいと念願しております。
                                                      日本秘湯を守る会  印」

 よく読むとかなりヘン。段落落ちもないし、送り仮名もところどころ誤ってるし、渓流に河鹿はいるけれど、前者は「おと」と読み、後者は「ね」と読むはずでゴッチャにはできんハズだし。妙に「・・・・」のタメが粘着質でキモチ悪いし。
 しかし、麗々しく角印を捺してあるところからすると、これは公式文書なのだろう。ならば、それなりに文章は推敲を重ね、そしてそれなりの責任を持って書かれたモノなのに違いない。政治家で言えば所信表明演説みたいなものだ。

 細かいことはまぁいいや。ともあれ、結論から言えば、こぉゆうのを「ペダンティックなおためごかし」と言う。

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 温泉宿を訪ねて、入浴をお願いすると、「時間外です」と断られることが近年ずいぶん増えた。昔は掃除中で断られることはあっても、時間外だから、と断られることなんてまずなかった。
 ・・・・・・で、外来入湯の受付時間は?っちゅーと、これがたいてい午前10時から午後2時、せいぜい3時まで。ひどいところでは11時から2時、っちゅーのもあった。

 おれは分かってて、敢えて不満そうに言ってみる。

 ------エ〜ッ!?時間外ってぇ〜!?

 答えはもう判でおしたように決まっている。

 いや〜、泊まりのお客さんが入られるんですよ〜。申し訳ありません。

 はしなくもホンネが露呈しているところが楽しい。ついでに言うと、従業員もあまり本気で申し訳ながってはいない。

 つまり、旅館にとっては泊まりのお客さんのチェックイン・チェックアウトの間の、ささやかなこづかい稼ぎに過ぎないのだ、日帰り入浴なんて。500円の日帰り客と、最低でも15,000円の金落としてくれる宿泊客なら、泊り客は30倍ありがたい、ちゅうワケやね。
 その論理はけっして間違ってはいない。サービスに対するそれぞれの適正な対価なのだから、そんな差別をすべきではない、って意見もあるだろうが、やはり収入の多寡は生活には大きな問題なので、多い方がありがたいに決まってる。

 ・・・・・・でも、だ。まぁ、観光旅館がそぉゆうスタンスでやるのは一向に構わない。しかし、「日本秘湯を守る会」に属する宿の方が、こーゆーいささかタカビーな姿勢であるケースの方がはるかに多いと思うのは、おれの気のせいだろうか?

 よくあんな美辞麗句並べたよね。

 「旅とは・・・・温泉とは・・・・こんなことを私共は、日夜悩み続けておりますが」の結論が、午前10時から午後2時なんかい!?って思うぞ。旅とは、温泉とは、何も小銭の余裕ができたジジィババァだけのものではあるまい。金のないヤツが本当にそこに入りたいと思って、遠方からたどり付いて、時計を見たら2時10分、それを断るのが、「日夜悩み続けた」結果なのか?
 なぁ〜にが「温泉と自然を大切にしております」だ?自分達が大切にしてるのは、金落としてくれる宿泊客だけです、とハッキリ正直に書きさらさんかい!

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 一方的にボロクソ書いたが、無論、問題は日帰り入浴客の増加に大いにある。もっとたどれば、交通網の発達と自家用車の普及、そして安易に情報垂れ流してアオリまくる「いい旅、夢気分」や、「るるぶ」「旅」「旅行読売」、そしてインターネットの発達あたりにもっと責任ある・・・・・・で、ワラワラ押しかけて、一人500円ぽっちで「ごゆるり」して、脱衣場ビチャビチャにして子供は走り回り、親は我が物顔にロビーでグデッとしてりゃぁ、そりゃぁ〜泊り客はイイ顔しないに決まってる。

 ・・・・・・と言いつつ、宿泊客にしたってさほど大した連中ばかりが来てるとは思えない。特に温泉が好きなわけでもなく、「日本秘湯を守る会」ってブランドだけで、なぁ〜んも考えず泊まりにきた中高年夫婦、なんてーのが平均的客層だろう。戦後まめまめしく働いて、アッパーミドルとなりおおせた年金持ち逃げ勝ち組、ってヤツだな。
 所詮は「小型の成り上がり」なだけに、ちょっと金を払う立場になると、もうエバるエバる。おのが古ニョーボの手前もあるのか、必要以上に尊大な態度で旅館の従業員にケチつけたりもする。おれはそんな光景をこれまで何度も目撃した。

 つまり、猫も杓子も温泉に行き過ぎなのだ。

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 こうして考えると、おれたち日本人みんなが中流化したことが、諸悪の根源なんだろう。

 つまりみんな悪い。みんな悪いのに、「10時から2時」で、日帰り客だけは締め出されてしまう。先日行った温泉行でも、おれはこの制約のために4ヶ所の入湯を断念せざるを得なかった。実に口惜しい。「一期一会」は、ビンボーなおれにだってあっていいはずなのに。それが旅でしょ?温泉でしょ?

 そんな口惜しさが、今日のルサンチマンに満ち満ちた八つ当たり文章となってしまったのだった。スンマヘン。

2005.08.11
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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