「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
高雄(白粕)温泉の巻

 ・・・・・・が閉鎖されたらしいのと聞いたのは、もうそれでも2〜3年前になるだろうか。

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 高雄温泉の存在を最初にどこで知ったのかは忘れたが、ずいぶん以前からおれは那須にあるこの露天風呂の存在を知っていて、関東に行くことがあれば是非とも一度訪問してみたいものだなぁ、と思っていた。
 かつてそこには旅館があったが、数十年前に火事で焼失、源泉と石組みの風呂だけが残った。その後所有者は転々とし、今は特に何することもなく放置されて、地元の人だけが通う野湯となっている・・・・・・その経緯は別府・明礬温泉奥の通称「鍋山の湯」と似ている。

 チャンスは案外早く到来した。東京に転勤になったのだ。

 殺生石の手前で脇道に入り、山をダラダラと登っていくと途中からゴルフ場の敷地の側に出る。こんなとこにホンマに温泉あるんかな?と半信半疑のまま、取りあえず道の分岐もないのでそのまま直進。かすかに硫黄臭がした。
 クルマを止め側溝を見ると、そこには真っ白な湯の花が張り付いており、温泉水らしきものが流れてるではないか!

 やがて道は簡易舗装になり、人の背よりも高く伸びた雑草の中を行くと、錆びた鉄のゲートがあって、ゴロタ石だらけの広い荒地に行きあたる。おそらくはこれが旅館の跡なのだろう。先客がいるのか、車が何台か止まっていた。

 温泉もすぐ分かった。空地の奥、小さな谷から源泉が湧いており、湯船がひな壇状に並ぶ。周囲にはすのこが何枚か置かれてある程度で、脱衣場等の人工物は見当たらない。いい感じである。一番大きい湯船はちょっとした座敷くらいの広さがあって、たくさんの地元民が入っていた。
 ちなみに、2種類の源泉が湧いていて、大きい湯船にはその隅の土管から湧く透明のぬるい湯。下段の二つには、ちょっと離れたところから湧き出すやや白濁した硫黄泉が注がれる。湧出量は豊富で、惜しげもなく川となって流れ出していた。

 さて、こういう地元民の愛する露天風呂で困るのは、妙に知ったかぶりっちゅーか、仕切り魔の地元民がえてして多いということだ。鍋奉行みたいなもんである。やはりここにもいた。

 画像見てもらったら分かるとおり、おれたち一家は全く温泉めぐりをしまくってる一家、といういでたちはしない。そもそも家族で温泉に入り倒している家がそうたくさんあるとも思えないし、ファミリーだと温泉マニアに見えないのだろう。どんな格好が妥当かは知らないが、ともあれ「自然大好きのナチュリスト・エコロジストで〜す」みたいなカッコぢゃないってことだ。
 だから、シロウトさんが迷い込んできたように思われたのだろう。「親切な」ジジィから、ここの経緯から始まって、露天風呂でのマナーその他一式(やれカラダは洗うな、とかね)色々教わったのだった(笑)。
 無論、ちっともありがたくも何ともなく、ひたすらうっとおしかったのだが、おれは黙ってハイハイ、と話を聞いていた。地元民の愛や責任感を傷つけちゃぁいけない。

 その後、何度かここは訪問した。ソロで東北に向かう途中、ここにクルマを止めて豪雨の中車中泊したこともあるし、同僚の一家がキャンプしてみたいというので、那須の初心者向きキャンプ場にいっしょに行ったついでに立ち寄ったこともある。いつ行っても人はそれなりに入ってた。大雨の夜中に人がたくさんいたのにはさすがに驚いたが。

 最後に行った年の暮れに、冒頭に書いたとおり、おれは閉鎖の情報をネットで知った。狭い国土に利権の網が張り巡らされてる中にあっては、野湯なんて実にはかない存在だ。そうして風景はまた一つ喪われた。

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 今では国内観光不況の逆風にもめげず、「おおるり山荘」という立派な旅館が建っているらしい。

 でも、考えようによってはそれは、昔に戻った、ということではないのだろうか。あの空地の時代を懐かしむより、これからのご発展を祈るべきなのだろう。調べてみると「おおるりグループ」はかなりリーズナブルな旅館を北関東一円で堅実に展開しているようで、それもまぁまぁ好感が持てる。

 ・・・・・・と、冷静に考えつつ、しかし、「あの空地の時代を知ってるともう行く気にはなれないよなぁ〜」、と嘆くもう一人の自分がいることを素直に告白して今稿を終えることにしよう。


いや、ま〜、リッパにならはって!(笑)

おおるりグループ公式HP(http://www4.ocn.ne.jp/~ohruri/index.html)より
2005.07.02
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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