「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
おまえは、わたしだ!

 山岸涼子の短編「汐の声」はものすごく怖い。

 母娘が変死した後、幽霊が出ると言われる通称「果無館」に、心霊番組のTVクルーが3人の霊能者を伴ってやってくる。一人はジジィ、一人はオバハン、そしてもう一人は最近売り出し中のアイドルまがいのかわいいオネーチャン。カノジョは最初っからイロモノ扱いで誰もその霊能力なんてアテにしてない。本人もそれは分かってて引退したくて仕方ないのだが、生来の気の弱さとステージママの強力なプッシュのためにズルズルと「美少女霊能者」を続けている。
 詳しく紹介しだすときりがないので、結論を言おう。ここの屋敷にはマジで出たのだ。そしてそれはこのかわい子ちゃんだけにしか見えない。しかし必死で訴えれば訴えるほど、ヤラセの名演技と思われて周囲からは信じてもらえない。最後、そいつはカノジョの前に現れ、表題のセリフを吐くのだ。
 カノジョはショックで絶命し、この時のフィルムは永遠に封印される。

 ・・・・・・その幽霊の正体とは20年前、一世を風靡した名子役。やり手のステージママに子供でいつづけることを強制され、成長抑制剤を飲まされて奇怪な小人のオバハンとなり、それでオカン殺して自分も死んでいたのだった。なぜ彼女だけに見えたのか?の謎解きも最後に分かる仕掛けになってるところは、推理小説のようでもある。傑作ぞろいの山岸作品の中でも出色の一つだろう。

 「おまえは、わたしだ!」

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 ちょっと悪趣味だとは思うが、最近「痛いサイト」の閲覧、ってーのにハマってる。具体的にどんなサイトが「痛い」んかっちゅーのは、ひじょうに表現しづらいけど、要は世間や他人のことをまったく考えず、自分のことを主張するだけに終始し、さらにそれがまたズレまくったり逸脱しまくってサムいホームページが、だいたい「痛いサイト」と呼んでかまわないんだろう。「2ちゃん」にいくつもスレが立ってるので、そこからタクって行けばいくらでも見られる。

 そうこうするうちに「プッピラ」「ヲカヤソ」「高松の恥」と罵倒されまくりながらも、驚異的なパワーで悪口言ったスレをコピペの連続投稿でつぶし続ける「天才作曲家」香川のO氏やら、そのうちO氏並みに成長するのではないかと期待される(笑)「世界最高の詩人ロッカー」(←って自分でそう書いてる)広島のN氏、テッチャン系の板で暴れまくった「みなと鉄道」、こと兵庫のY氏等々のツワモノの存在を知った。殊に最初に挙げたO氏のサイトと行動(寝ないでズ〜ッと「2ちゃん」をウォッチしてるんぢゃないかな?)はすごい。一見(一聴?)に価する。
 そう、これらを見ることはいい勉強にもなる。無論、反面教師としてだが。

 しかしながら、彼等を批判したり嘲ったり嗤ったりするのが今回の趣旨ではない・・・・・・といっても擁護する気も称揚する気もサラサラないけどね(笑)。

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 つまるところ彼等がセルフピティ(自己憐憫)のカタマリのような人たちなのは今さら言うまでもないことだろう。むつかしく言うと「自己愛型人格障害」っちゅーらしい。引用、かつ長くて申し訳ないが、「はてな」に以下のように載ってた。

    ・自己満足の為に他人と関わる
    ・自己陶酔、自分は特別だと宗教的幻想的に思い込む
    ・自分が中心でいないと満足できない
    ・他人に否定されると混乱し、対象に攻撃、人間関係の切り捨て、排除を行う
    ・他人の気持ちを想像できない、傲慢
    ・他人に自己の100%の受け入れを強要する
    ・特定の対象以外には愛想良く、甘え上手である

    以下のうち5つ以上あてはまると、自己愛性人格障害が疑われます。

    1. 自分は特別重要な人間だと思っている。
    2. 限りない成功、権力、才能、美しさにとらわれていて何でもできる気になっている。
    3. 自分が特別であり、独特であり、一部の地位の高い人たちにしか理解されないものだと信じている。
    4. 過剰な賞賛を要求する。
    5. 特権意識を持っている。自分は当然優遇されるものだと信じている。
    6. 自分の目的を達成するために相手を不当に利用する。
    7. 他人の気持ちや欲求を理解しようとせず、気づこうともしない。
    8. 他人に嫉妬をする。逆に他人が自分をねたんでいると思い込んでいる。
    9. 尊大で傲慢な態度、行動をとる。

 私見だが、こぉゆうタイプは、元々アタマが良くて子供の頃は学業優秀なデキた子だったようなのを、乳母日傘でそのまま大人にして、就職とかで世間の荒波の中で何年間かホメもせず、評価もせず、光も当てずにに放置すればいっちょ上がり。自然と自閉と独善の城を何らかの形でこしらえ始める。
 なお、あえて不遜を覚悟でつけ加えさせてもらうならば、こーゆー判定要件はどうだろう?

    「実はどこかで無能の自覚があるので、過剰に様式にこだわったり、理論武装したがる」
    「根っこに劣等感と傷つくことへの畏れがあるので、アマチュアに執着し『公のコンペ』や『賞への公募』等を嫌がる」

 ・・・・・・ともあれ、この人格障害の定義を読んでギクッとする人、多いと思うんだ。もちろん、おれもギクッとした。100%完璧に当てはまってるとまではいかないが、傾向は、ある。それもけっこう強く。いや、ホームページ始めようなんちゅう人にはだれしも多少なりとも、上の条件に該当するに違いない。そんなおれがどうして彼等の批判なんぞできようか。そしてさらに思った。
 「ひどく孤独でエゴイスティックだからこそ、ユートピアはユートピアなのだ」、と、以前おれはホームページを作るスタンスについて書いたけど、そろそろそのユートピアとやらを壊していかなくちゃならんのぢゃないか・・・・・・とまで書くと何だかサイト閉めるみたいで大袈裟か(笑)。

 いや〜、平たく言うと、「もっと他人と関わって行かんとイカンなぁ〜」って思ったんです。

 冷静、客観的に眺めるとおれのサイト、つくづく排他的な構成だわ。対話やコミュニケーションをひどく忌避してる印象。ついたてがメッチャ高い。そしてそのついたての隙間から世間を覗き見してるおれがいる。これってみっともないよ。
 そもそもタイトルが暗いし、コンテンツがタイトル読んでも何なのかまったく分からない。黒く沈んだ画面、地味なフォントと寒色系のカラー、英語で分かりにくい見出しページ、リンクフリーにはしてないし、掲示板はティーカップの単に書き込めるだけでレスの膨らまないタイプだし、ブログにしたって単なる日記でコメントもトラバも拒絶、肝心のコンテンツは地下都市のように深いところで広がってて、どれくらいの分量がどこにあるのかサッパリ分からない。
 ユーザフレンドリーぢゃないよね!?これって。まぁ、コンテンツまでたどり着けば、むしろ笑える、穏当な内容が多いってコトは分かってもらえるだろうけど、そこまでが妙に素っ気無く冷たい。なんかそれって、普段仏頂面のクセに、仲良しになると異常にベタベタなヤツみたいで、コミュニケーションの踏み込みの距離感を間違えてるようなブキミさがある。

 なんかイヤんなってもた。

 イヤんなったんで・・・・・・って、ま、準備期間もあるので今すぐはムリだけど、年明けをメドにスタンスを変えようと思う。無論、世の中にはさまざまな基地外も多数いらっしゃるので、全員ウェルカムにはできないけど、ついたてを下げよう。できることなら撤去しよう。
 情報は(あるいはすべての創作物は)「発信」するものではあるが、それだけぢゃダメなのだ。「受信」も必要なのだ。受信すれば雑音も混じるが、しかしそれは仕方のないことなのだ。それを甘受し、踏まえてなお、ときには毀誉褒貶、右顧左眄しながら発信したものが、世間で何とか通用するのである。
 創り出すこと自体に苦労したり苦悩したりするんぢゃないのだ。そんなトコでウンウンゆーとるヤツはハナッからダメ。才能も出目もなし。創り出したそれらをどのように発信し、世間と折り合いをつけるかに呻吟せにゃならんのだ。気付くのがいつだってホント、おれ遅いな。

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 最後になったが、彼等のような存在に対しておれができることって何なのだろう?あしざまに笑い飛ばしたり、ボロクソ書ける人の強さがうらやましい。今のおれにとってはそれはほとんど自傷行為だ。せいぜい無言で、困惑したような、くすぐったいような、そしてさみしい笑顔を向けるくらいが関の山だろう。

 「おまえは、わたしだ!」のセリフがよみがえる。

2005.12.09

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