「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ChatGPTの衝撃と失望


何かマイクロソフトが出資してっちゅうだけでイマイチ不安になるな

 昨年の終わりくらいに彗星のように登場して目下話題集中なカンジなのがChatGPTっちゅう対話型のAIサービスである。ユーザー数がリリース後、僅か2ヶ月で1億人に到達したっちゅうんだからホンマにスゴい。何でこんなモンが無料かっちゅうたら、タダにしといたら利用者増えて、AIには不可欠の学習・・・・・・俗に「エサ食わす」手間が省けてより一層精度が高まるって目論見があるからだ。

 曰く、大学の卒業式の答辞を書かせたらチャンとした文章を拵えた、医師国家試験の論述が合格レベル以上だった、自治体が生産性向上のために導入した、逆にヤバいっちゅうて禁止した(←家帰ってやれるのにねぇ)・・・・・・とかもぉ枚挙に暇が無いとはこのことだろう。そうして世の中の色んな人がそのスゴさを称賛する一方で、孕む危険性が数多く指摘されてもいる。例えば完全犯罪や重大なテロのシナリオを考えさせることは十分に可能であり、ベンダー側はそんな大それた回答は出来ない仕様にしてあると弁解するものの、既にそれをクラックする方法がいくつも見付かってていささか危なっかしい。

 従来からもチャットボットは存在してた。古くはWindowsの役に立たないイルカやオネーチャンのアニメのワイプが出て来るんが代表例だろう。富士通の「タッチおじさん」なんてのもあったなぁ〜・・・・・・最近だとFAQページなんかでも少し高度なんが一般化してた。それらと何が違うかっちゅうと、従来のチャットボットはあらかじめ決められ用意されたQ&Aしか出来なかったのに対し、コイツは莫大な学習内容から質問の文脈を理解し、その都度答えを生成して行くのだ。それもいささか慇懃無礼とはいえ、正しく美しい日本語で。正直、アホな若者よりかなり常識も文章力もある。

 何だかんだでミーハーなおれも早速試しに使ってみた。使用方法はムチャクチャ簡単で、OpenAIのサイトに行ってちょっとサインアップするだけですぐに使える。

 以下はその感想だ。ただ、これ書いてる今この瞬間もコイツは飽かず弛まず疲れを知らず学習を続けており、薄気味悪いほどのハイペースで進歩し続けている。だからあくまで「2023年4月末時点での」って但し書きは必要だろう。

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 結論から言うと、ChatGPTは万能の神ではない・・・・・・ってか幅が狭くてケッコー使えない。息でもするように平然と出鱈目なコト並べ立てるし、所詮は既知の情報を寄せ集めて生成されるだけだから、文章は正確だけど何だかとても凡庸であり、新しいコトは何も生み出さない。当たり前のことを当たり前に理路整然と、抑揚のない一本調子で述べるだけである。アセッて噛むことも無ければイラついて言葉遣いが乱暴になることもない。起承転結で言えば「転」がなく、序破急で言えば「破」と「急」が欠けてる。漫才のボケも出来ないし、はぐらかしたりぼかしたりも出来ない。そんな程度だ。

 面白いのは、どんなチューニングしてるのか分からんが、知らないコトを知らないって最初から素直に言わないことだろう。例えば、滋賀県に野湯っておそらく存在しないんだけど、敢えて訊いてみるとシレ〜ッと答えるのである。「草津温泉河原の湯」とか並べて来る。多分、滋賀の草津と群馬の草津が言語的一致することからだろうが、そこで「そんなんあらへんやんけ!」って間違いを指摘すると「失礼しました」って例の慇懃無礼な調子で謝って、また別の候補を5つくらい並べて来る。もちろんそれらも滋賀県には実在しない。そこで「おい!出鱈目並べてんぢゃねぇ!」って言うと、やっと初めての泣きが入る。「実は地理と歴史にはワタシ疎いんです〜。そぉゆうのは別の検索エンジンでやってください〜」とかナントカ・・・・・・アホか。知らんねんやったら知らんで最初からそぉ言やぁエエのに、それは絶対に出来ないようになってるみたいだ。

 ChatGPTをナビ代わりにどこかに行こうとしたら、100%迷子になる。いや、山とかだったらヘタすりゃ遭難して確実に死ねる。良い子のみなさんはやっちゃダメよん。

 大阪弁その他、方言にある程度は対応してるんだけど、これもひじょうに怪しい。「大阪弁で答えられるん?」「はい、できまっせ〜」とか返して来るんだけど、その後がサッパリ続かない。最初のワンセンテンスだけ大阪弁で、後は再び件の慇懃無礼に戻るんで、「オマエの大阪弁、最初だけやんけ!」ってツッコミ入れたら、次からは見事に二文目まで「だけ」大阪弁に変えてきた。何だか知識量はムチャクチャ豊富だけどアスペルガーな人と会話してるみたいだ。
 ただ、習得は異様なまでに早い。言語モデルAIっちゅうだけあって、「いや、それはそんな言い回しちゃうで」っちゅうて、より自然な言い方を教えるとたちまち学習して反映してくる。
 AIだけにネット上のあらゆるテキストをエサにしてんだろうが、そもそも方言そのままにテキストを書いてる例は少ない。つまり、学習量が圧倒的に少ないから、一応はあらゆる方言に対応できても、何か生硬でトンチンカンな感じが払拭できないんろう。今後の伸び代に期待したい・・・・・・ま、大阪弁がより自然になったら、そこにはおれの貢献も少しはあるだろうな。

 も少しマトモな使い方もしてみようと、会社での通達文書やシステム起動時に表示される月替わりでの挨拶文なんかも考えさせてみた。挨拶文は個性的過ぎちゃダメなんで、コイツの特性に向いてる。「5月なんだから季節のこととか盛り込んでさ〜」とか「ほら、新入社員入ってしばらく経ったやんか」とか適当に指示すると、それなりのモノをアッちゅう間に仕立ててきた。何回ゆうてもスットコドッコイな文章しか書けない若い連中より優秀かも知れないって少し思った。
 ただ、通達になって来るとトタンに怪しい。これって各社それぞれの文化、っちゅうかローカルルールがあって、建て付けの所作もそれなりに決まってると思うが、そのニュアンスがやはりすぐには理解できないのである。特に最初の方の趣旨なんかは、そうした所作に則って簡潔かつ的確にまとめる必要があるんだが、その辺をイチイチやり取りしながら固めて行くのはひじょうにめんどくさい。
 いやまぁこれも過去の通達文書を何十枚かエサに食わせれば相応の学習するんだろうけど、それならまだ人にやらせた方が手っ取り早いし、それに一旦そうして出来上がった型を外そうとしたときに逆にリジッドで、またイチから教えんとアカン状況になるのは目に見えてる。とにかく融通とか加減、ってのが分かってないし、分かってるかな?と思ってたらとんでもなく初歩的なトコでヘンだったり、何か高度な線形代数とかはやれるのに九九は出来ない、みたいな不気味なアンバランスさが絶えず付きまとう。

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 ちなみにこれだけ一気に社会に広まっちゃったんで、みんなこれが正規版と思ってるようだけど、現状は「プロトタイプ」って言われる一種の試作品である。β版っちゅうこっちゃね。それでここまでやれてんだから大したモンだわ。恐るべき完成度と言って良い。それは認めよう。

 しかし、一方で問題は山積してるのが目下の偽らざる状態だろう。ヘーキで見て来たように嘘八百並べるなんてのはともかく、ソースとなったものの著作権、セキュリティ、モラル、暴走や人の知的レベル退化のリスク、犯罪への活用問題・・・・・・そら何事にもメリット/デメリットの両方があるとは申せ、このChatGPTでは容易に想起されるそれらの極めてクリティカルな課題を、アメリカならでは、IT企業ならではの独善的なノー天気さで先送りっちゅうか棚上げしちゃってる感じがどうにも漂うのがおっかない。

 「私は慎吾」の世界が到来するには、今しばらく掛かりそうだし、それで良い。センシティヴな技術にはそれ相応に熟成の時間が必要だ。

2023.05.20

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