「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ペーパレスの時代


おれの本棚のカタログの一部。

 前にも書いたことだが何年前だったかに、ブックオフに文庫本を大量に売り飛ばした。多分、2千冊くらいは優にあったと思う。決して最近流行りの断捨離と洒落こんだワケではなく、何かもう文字まみれになってる自分にちょっと嫌気がさして、イ゛ーッ゛!ってなったのだ。つまりかなり発作的だった。しかし本棚は相変わらず満杯のままである。

 ・・・・・・っちゅうのも永年ダンボールに入れてクローゼットに貯め込んでたカタログ類が引っ張り出され、それらがそのまま本棚に収まってしまったからだ。これが今では本棚3段分を占めてる。オマケに文庫本と違ってサイズが大きいから、今までの2段分で1段しか取れず結局以前の6段分を占有してる。だからプラスマイナス0!それに棚で前後に並べることも出来ない・・・・・・って、そうだったそうだった。文庫本は前・中・後と1段に3列突っ込んでたんだった(笑)。殆どアホの所業だな。
 ともあれいささか浮かぬ顔のおれを余所に、クローゼットにスペースを確保できたヨメは大喜びだ。

 カタログの大半は楽器とアウトドアグッズ、スノボに関するモノで、あとは若干クルマ系が混じる。カメラ関係はあんましなかったりする。ヴィジュアル的に面白くないんだな、カメラ用品って。どれもそこまで偏執狂的に毎年集めてたワケでもないから、結構年次で追っ掛けると同じブランドで歯ヌケになって、欠落してる年があるのが惜しまれる。もちょっとこの辺が緻密で丁寧な性格だったら、おれの人生もちったぁ違うものになってたような気がする(笑)。

 捨ててしまえば良いのだろうが、古いのを読み返すと何か楽しくなっていつの間にか熱中してる自分がいる。それにいつかひょっとしたらビンテージになって価値が出るやも知れぬ、な〜んて貧乏根性までが鎌首をもたげたりして来てどうにも手が付けられない。

 思えばカタログって最近スッカリ減ったものの一つだろう。言わずもがなで急速なネットの広まりによって、紙媒体、それも厚手で上質のアート紙使って高精細な印刷なんちゅう金の掛かるやり方で拵える必要が失せて来たからだ。
 たしかにネットなら、価格改定によってちっさなシール貼りまくることも、年次での製品改廃に伴う改訂版作成も必要ない。そりゃまぁウェブページの修正等を外注してたらコストはかかるだろうけれど、森林資源の確保にも繋がるだろう。運ぶ手間だって省けるから、要らぬ油代が掛かることもなくなってたしかにエコだ。

 今だってカタログあるじゃん!?って思われる御仁もおられるだろう。多分若い世代の人だ。そりゃたしかに今でもカタログはある。あるけど本当に昔からすると少なくなったし、随分と貧相になったことは否めない。どうだろ?未だに紙のカタログのウェイトがそれなりにあるのって、クルマとかカメラとか、要はエラそうにしてる割には最近のテクノロジーに疎いおっさん連中の好みそうなカテゴリーが多いのではなかろうか?

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 あらゆる紙媒体は今や、IT化に取り残された層のために辛うじて存在してるような気さえしてる。

 小説や漫画も今はキンドル等の電子書籍リーダーを介して見るのが広く普及した。一時は公称550万部で我が世の春を謳歌した少年ジャンプの発行部数は1/3を割り込み、恐らく今年(2018年)は180万部を下回りそうな勢いで減少中だ。月曜日の電車の中で一心不乱に読みふける人の姿もいつの間にか見なくなった。
 余談だけどこの印刷を請け負ってるのが業界でも最大手の凸版印刷なんだが、工場の印刷能力の限界を超えたらどうするのか?っちゅうと、主力工場のある板橋界隈の下請けに回してたらしい。悲惨なモンだ。生産能力の調整弁に使われて絶えず不安で不安定な生活を強いられ、ダメになる時は真っ先に切られるのだから。

 新聞だって四大全国紙どころか大抵の地方紙までがタブレットから読める御時世だ・・・・・・とは言いつつ今でも一応朝刊だけはおれは取ることにしてんだが、それは新聞そのものより、挟まれてる折込チラシを見たいからに過ぎない。でもチラシにしたって電子閲覧サービスが既に存在するから、別になくたって構わない・・・・・・ってなレベルだ。つまり何となく惰性で今でも取り続けてるだけに過ぎない。
 そんなんで新聞についても昔ながらのA4サイズが縦にキッチリ入るような合成皮革の四角いショルダーバックを提げて、律儀に縦に四つ折りにした新聞をホンの僅かに拡げて読むバーコードな中年のサラリーマンなんぇてのを昔は電車で良く見掛けたモンだが、スッカリ見なくなってしまった。実際隣にいると邪魔で鬱陶しくて仕方なかったんだが、何だかちょと懐かしい。今さらながらにやってやろうかしらん?当然カバンにはアルマイトの弁当箱入れてさ(笑)。

 芸能人が戦々恐々とした88mm対戦車砲並みの威力を誇る文春砲やら、こっちはあまり威力のある記事はなかったから37mm砲程度の新潮砲(笑)にしたって、週刊誌が滅んで行く今際の際の断末魔の悲鳴みたいなモノに思えてしまう。もぉ、ナリフリ構わずアイキャッチになるようなネタを振るしか手立ては残ってないんだろう。ちなみに前者の発行部数はピーク時の80万部から50万部、後者は100万部から50万部だ。実は元々男性週刊誌ってそこまでガリバーは存在してなくて、群雄割拠っちゃぁ聞こえは良いが、要はドングリの背比べだったりしたのだ。
 もっと悲惨なのがスキャンダルのスッパ抜きでは一歩先んじてた写真週刊誌で、あのFridayなんてピーク時200万が今は25万部行けば良い方らしい。

 あらゆる紙のメディアがこんな調子だから、チリ紙交換の軽トラなんてぇのもいつの間にか見掛けなくなってしまった。他の町は知らないが、現在おれの住まう町ではゴミ回収のサイクルの一つに組み込まれちゃってる。
 大体、色んな請求書等でさえも、今ではメールでの通知が一般化し、紙ベースで求めたら別料金取られる時代なのである。給料やボーナスの明細だって今は電子化されたところが殆どだろう。ガキの学習ドリルにしてもタブレット使う時代である。

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 話を戻す。ぶっちゃけ別に新聞や雑誌が滅んだっておれはちっとも構わない。書籍にしたってまぁもぉどぉでも好いや。殆ど捨てたんだし。それに大体、老眼が進んぢゃってさ〜、細かい字を追っ掛けるのがスッカリ億劫になったりもしてるんですわ(笑)。堪りまへんで。

 ・・・・・・ただ、カタログだけはこれからも永く残って欲しいなぁ〜、ってな気持が切実にある。

 それは恐らく、読んでアタマに入ればどんな体裁だったかなんてどうでも良い他のメディアとは異なり、「いつかは欲しいなぁ〜」と眼を皿のようにして、羨望の念に駆られながら飽きず色とりどりのカタログを読み込む体験そのものが、自分にとっては何物にも代えがたい大切な記憶となってるからだろう。大袈裟に言やぁ、人生の一部ってこったな。
 この点でどれだけデザインを凝らした精緻なサイトでも、カタログを未だ凌駕することは出来てないような気がする・・・・・・いや、して欲しくない(笑)。

 同様のモノとしては旅館のパンフレットなんかも挙げられるだろう。A4とかB5の横三ッ折がなぜか標準フォーマットなちょっと野暮ったいアレ。昔からすると置いてる宿は間違いなく減って来てる。たとえ置いてあっても、良く見るとただのカラーコピーだったりするとちょと悲しくなる。
 これもカタログ同様、サイト立ち上げた方が安上がりで効果的だからだ。自前での構築費用のないトコにしたって、じゃらんや楽天に掲載してもらえばそれで済むもん。
 実はこれも我が家では、永年に亘り集めたのが大量にダンボールに仕舞われたままになってた。掘り起こしてみると意外に貴重なのが見付かったりする。現在、クリアーバインダーに詰める作業を少しづつ行ってる最中だ。いつになるかは分からないけど、その内PDFで取り込んで、サイトのネタにしようと思ってるが、他の作業が多過ぎて遅々として捗ってない。スンマヘン。
 ちなみにパンフより先に見掛けなくなったのが「えふ」である。漢字で書くと「絵符・会符」らしい。平たく言うとネームプレートで、団体旅行が盛んな時代、間違いを防ぐために大型旅館等では一般的だった。いろんな形があって、その旅館のロゴやイラストが描かれた厚紙に自分の名前をマジックで書いてカバンにくくり付けるのだ。必ずと言っていいほどカラフルな平紐が付いてるのが特徴だった。

 いずれにせよおれみたいに酔狂な例はともかく、世の中の経済っちゅうモンは、決して感傷や郷愁では回ってくれない。それが経済原則ってモンだ。だから早晩、紙媒体でのカタログ類は確実に縮小、消滅して行く運命にあるんだろう。大体、ウェブ広告と紙で二重化させればコストはそれだけ掛かるんだし、紙での発行部数の減少はスケールメリットが出せなくなって一部当たりの単価が上昇することを意味する。
 アーもスーもなくペーパレスの時代なのだ。

 このままではオチが付かないので無理矢理なトリビアを一つ。

 古くは「洗濯屋ケンちゃん」が日本のビデオデッキ普及に大いに貢献したように、実は新しいメディアツールを取り入れることでは進取の気風に富んだ(笑)エロ業界はどうなんだろ?と思って調べてみたら、やはり流石だった。ペーパレス化はたいへん早くて、裏本が最後に発刊されたのは2005年から6年頃・・・・・・何と既に干支が一回りするくらい過去の話になっちゃってるのである。

2018.11.11

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