「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・ネット「無し」生活


おらぁスマホを見ると、どうにも硯に思えて仕方ない(笑)。

 炬燵!そうだよ、悲劇の始まりは炬燵からだったんだよ。

 寒さが急に厳しくなってきて、おれは炬燵を稼働しようと思ったんだった。床に敷く銀マットも買って来た。それを床と絨毯の間に挟むと随分と保温力がアップするんだそうな。もちろん、炬燵布団やカバーなんかも出さなくちゃいけない。そうなると天板は一旦除ける必要がある。
 ナンボ横着なおれでも、上にいろんなものが置かれたまま天板を下に降ろすなんてことはしない。1つづつ床に並べた。PCは念のために座布団の上にフリース乗っけてその上に置いた。偶然とはいえ結果的にこれが功を奏した。もし固いフローリングの上に直接置いてたら、衝撃で内蔵HDDまでトンでたかも知れない。
 滑りやすい銀マットをラグの下にきっちり合わせ、炬燵のやぐらを置いて、次は炬燵布団だ。ブツは隣の部屋のクローゼットに入れてある。で、それ持ってくる時に鴨居に吊るして干してあった布団に触れ、さらにそれがスタンドのギターに触れ、そうしてPCの上に倒れ掛かったのだ。
 ネックの脆弱さが泣き所のフライングVなら間違いなくヘッド折れてたろう・・・・・・が、これも不幸中の幸いで、兎に角頑丈が取り柄なメイプルネックのストラトの方だった。それでヘッドのストリングポストが当たったのか、キーボードが3つほど取れたのである。半泣きになって、それでも2つは押し込むと元通りに嵌った。しかし、一つはパンタグラフみたいになった細い足の部分が折れてしまってどうにも元通りにならない。

 しばらくは中のプッシュスイッチを直接押しながら入力してた。頻用するキーではないので、まぁ何とかそれで凌げなくもないが、どうにもPCを開くたびにイラッとくる。まことに精神衛生上宜しくない。修理すると高く付くのは分かってたので、最初は外付けキーボードの安いのを買おうかとも思った。今なら安いのなら800円くらいで入手できるからお財布にも優しい。
 とは申せ、ただでさえ狭い机の上が余計に狭くなるのも、何かキーボードだらけみたいになるのも何とも腹立たしい。そんなんで自業自得、身から出た錆、本体を元は激安で買ったんだし、まぁ反省料も含めて多少の出費は仕方なかろう、って強引に自分を納得させて買った店で修理に出したのだった。戻って来るまで2〜3週間要すると言われた。

 こうして再び、ネット無し生活が始まった。

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 前回書き忘れたのだけど、おれはケータイではネットしない。画面が小さいのも面倒だし、通信費がバカバカしいし、会社と家ではズーッとPC開いて作業してんだから、行き帰りの電車の中とかでは見たくもないのだ。それにどだい、今のおれはクルマ通勤で、途中でケータイでネットなんて不可能である。だから家にPCがないのはひじょうに困る状態なのである。

 しかし、またもや部屋からはPC環境は無くなってしまったのである。効くのか効かんのか良く分からない冷却ファン付の台だけがアホみたいに転がってる。仕事を終えて部屋に戻り、貧弱な手料理による夕食が済んでしまうと、後が手持無沙汰で仕方ない。やろうと思ってた調べ物も、画像の整理も、サイトのコンテンツ整備も、3行ブログも、すべてはPCが手許にないとどうにもならないのである。だからって、一旦部屋に尻を落ち着けてしまうと、寒い中、暗い夜道を再び出掛けてくのも億劫だ。

 仕方なくギターを手に取り、かなりの爆音で弾きまくる。現在おれの住まう、この寒々しいマンションの数少ない利点は、壁が分厚い上に、北海道特有の二重窓にまで守られ、防音性が極めて高いという基本構造に加え、一体何を生業にしてる人なのか、階下の住人がめったに帰って来ないことだ。指慣らしのクラシック曲から、そろそろ年末で忘年会も近いんで、隠し芸を求められたとき用の一発芸までいろんな練習ができる。
 今更上達してどうなるんだ!?と思うけど、どうしたことかこの数週間で随分おれはタッピングが巧くなりさえもした。A⇒E⇒B⇒Aの循環コードで超高速にコードトーンを叩きまくるとか、ペンタトニックでスケールを下降して行くとか、これまでどうしてもできなかったのまでクリアしてしまった。それもEVH系6連ノリではなく、カッチリした譜割りの4連16分でだ。いい歳ブッこいたオッサンが一人、部屋の中でトリッキーなフレーズを弾き倒す・・・・・・かなり不気味な絵ではあるが(笑)。

 ギターもひとしきり飽きると、いよいよすることがなくなる。することないんならとっとと寝りゃぁエエのに、根が貧乏性なのか苦労性なのか、深更になるまでどうしても布団に入ることができない。オイルランプに火を灯して暖かな光をボーッと眺めるのはナカナカに贅沢な時間だとは思うけど、10分もすれば飽きてくる。すでに酒は相当回っており、本を広げても活字は全くアタマに入って来ない。
 仕方なく、ちょねちょねと洗濯やら掃除に励むことにする。ただし、洗濯は晴れの日の前の晩にまとめてやらないと、いつまでも部屋が湿気て鬱陶しいから、掃除がもっぱらだ。掃除機を掛け、棒のついたペーパーフィルターみたいなのでフローリングの床を拭く。昼間は無人だし、特に何をしているワケでもないのに塵や埃は自然と溜まって行く。実に不思議だ。トイレ掃除なんかもちゃんとやる。神様が何か憐れんでくれるかも知れない。偏執狂的に強制される分別で、紙やら不燃物を選り分けることも、もちろん善良な市民としてはやらねばなるまい。紙屑の大半はどぉでもいいようなDMばっかしだ。

 気付くと昏く、乾いた眼差しで立ち尽くしている自分がいる。隅々まで掃き清める心性と破壊衝動は、実は紙一重だ。

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 そして朝が来て、震えながら炬燵でのそのそ着替えて会社に向かい、具体的に何を今日はしたのかよく思い出せないままそれでも何故か慌ただしく時間は過ぎ、家に戻り、貧弱な夕食を拵え・・・・・・ってな感じで凡そ1週間、電気屋から修理費の見積もりについての電話が来た。聞くと1万円ちょっとだと言う。ホントはもっと高いんだけど、買ったばかりの保証期間内だったおかげで大幅にマケてくれたのだった。正直者に神宿る、何でも正直に話して泣きついてみるもんである(笑)。一も二もなく承諾してさらに1週間、ようやっとPCが戻って来た。

 勿体ない話で、壊れたキーボードは1個なのに、ピンポイントで直すのではなく、キーボード全体がゴッソリ新品に取り換えられている。おれはわりと爪を立ててタイピングする方だからすぐに文字がかすれてくる。だから新品に交換されているのは一目で分かった。ユニットとかモジュールごと交換、ってヤツだ。何てことないつもりで手術したら臓器移植されるようなモンだな(笑)。
 妙に恐る恐る電源やマウス、LANケーブルやら外付HDDを繋ぐ。あまり見られては宜しくない内容もあるんで退避させていたファイルやフォルダを元の場所に戻す。電源入れると、何事もなかったようにPCは再び動き始めた。安堵した。

 めでたくこうして駄文を書き散らせるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 知人・友人からのメールを確認し、返信できるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 3行ブログで日々の備忘録が残せるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 SDHCに溜まってた画像を整理できるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 途中で投げ出してたバッハの難曲の後半のポジションが拾えるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 次の休前日、どこのカレー屋に行こうか見比べることができるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 欲しいものがどれくらいの値段でどんな評判か知ることができるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 懐かしい楽曲を流すことができるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 いろんな調べ物が手軽にできるのも、PCが戻って来たお蔭だ。
 タイの洪水だなんだと世の中の動きが分かるのも、PCが戻って来たお蔭だ。

 ・・・・・・しかし、何なのだろう?どうにも払拭しきれずに残る、むず痒いようなこの一抹の虚しさは?

2011.10.29

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