「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
年上の人


最近この手の筆おろし映画、とんと見かけませんね・・・・・・

 ・・・・・・といっても「青い体験」とか「卒業試験」のような、往年のイタリア映画にあった少年の筆おろし体験記ではない。

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 その人はおれより3つ年上だった。出会ったのはおれが30をいくつか過ぎた頃だったので、彼女はもう30半ばも過ぎていたことになるけれど、独身の強みか、それとも普段から鍛えてるせいなのか、ルックス的には30前後にしか見えなかった。だから、年齢を知ったときにはとても驚いた。
 言うまでもなく相当な美人。それもちょっとキツめの顔立ちで、俗な言い方をすれば「小股の切れ上がったイイ女」系。特段化粧が濃いワケでもないのに、ちょっと玄人っぽく見えるような「艶」のようなものが感じられるタイプってヤツだ。

 これだけの美人、男がほっとかないだろうに、と思うのだが、そこがシロウトの浅はかさで、案外フツーのオトコは気圧されてしまって、口説きづらいのかも知れない。
 まったくもってダルでフツーで平凡なおれもまさしくそんな口で、最初の頃は、なれなれしく近寄ると鼻先で嗤われるんぢゃないか?みたいな、劣等感に基づくある種の近寄りがたさを感じていたのが正直なところだ。

 それが何がキッカケで仲良くなったのか、もうハッキリとは思い出せない。少し席が離れていた関係でインスタントメッセンジャーで仕事上のいろいろ分からないことを訊いてるうちに、意外にお互い雑学派でであることが分かって、だんだんハナシが盛り上がっていったような経緯だった気がする。

 趣味趣向でつながることは愚かしいことだし、それはお互い分かってはいたのだけれど、話の分かるヤツが周囲にいない無聊と空漠、孤立感がナカナカに辛いことなのもこれまた事実で、おれたちは色んなコトを話すようになった・・・・・・とはいえ、席が離れてるので相変わらずインスタントメッセンジャーと、家帰ってからのメールのやり取りばっかしだったけど。

 ぶっちゃけその時点で抱く気はなかった。失礼を承知で言うと、年上、ってあまりそそられなかったのもある。

 けれども、男と女でなにがしか心が通い合ってしまえば、身体がつながるまでは時間の問題だ。ましてや美人。そこに理屈や倫理・道徳を持ち込んでも仕方ない。ときめきを言葉で説明するなんてくだらないし、どだいムリな相談だ。

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 食事して、ちょっと酔って、いい雰囲気にして・・・・・・なんて後からいくらでもできる。二度三度とセックスすれば何がしかの「失意」のようなものは否応なしに滑り込んでくる。それからやりゃいい。
 っちゅうか、そぉして盛り上げなきゃセックスに到れない女性は全く趣味ぢゃない。たいていそんなコはどこかで「理由」とか「記念」とか、自己陶酔のワケを探しつつ、オトコの奉仕とカラダを差し出すことを秤に掛けてる・・・・・・普段からそう思ってるので、初めての女性を抱くときはいつもシラフだし、余計な小細工や演出は絶対にしない。ちなみにそれでしくじったことは一度もない。
 ま、そこに到るまでに済ましてる、ってカンジなんだけどね。ナンパがヘタなはずやわ、こりゃ(笑)。

 何度か食事や飲みに行ったりの後、おれは言った。「今日はエッチだけします」・・・・・・考えようによってはメチャクチャ尊大でミもフタもない誘い方だったけど、約束の時間に彼女は現われ、おれたちはごく自然に林立するホテル街の一角に入っていった。もちろん、一番瀟洒な雰囲気のところを選んで。

 全裸になってもやはり、彼女はゴマカシなしの驚くような均整の取れたプロポーションだった。なのに自分ではしきりに年齢と体型を気にしている。これでダメなら昔は一体どんなんやってん!?と、ツッコミ入れたくなる。相当いろいろ気を遣って鍛えてるのだろう。そして下着の跡さえついていない締まった白い肌には、淡い色の乳首と性器、ツヤのある長い毛足の陰毛・・・・・・何のコンプレックスを抱くことがある?
 洗面台の大きな姿見の前に彼女をつれていき、大きく脚を開いて台に足をかけさせ、陰裂を愛撫して、おれは彼女の自己規制の錠前を外した。コンプレックスは無用の羞恥に他ならず、行為の妨げにしかならない。そのうち喘ぎ声がもれ始め、鍵は外れた

 情交の模様を詳細に記述するのは本意ではないので省くが、結論としての彼女は「してて楽しいセックスの相手」だった。つまりはインタラクティヴで、ノリとテンポと反応と抑揚が合ったってコトだ。
 これはお互い大事なことで、マグロは論外だけれども、勝手に盛り上がってよがりまくるようなんでは興ざめだし、奉仕ばかりも疲れるが、奉仕されてばかりも、甘えてばかりも甘えられてばかりも、ウザいからね。
 フツー初日からそんなコトするかぁ!?みたいな、いささかアブノーマルなところまで遠慮会釈なく、おれたちは色々な性技を交わし、そして深い愉悦を味わったのだった。

 何となく「この人といっしょにやったら、いい音楽ができそうだな」って気がした。

 それでも「いい夢は三度まで」のルールがある。そのことは無論告げてあったし、自分で決めた絶対のルールを破るわけには行かない。残念だが、それから半年ほどの間にあと二回逢って、おれたちは別れた。

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 もう10年近くたった。

 彼女とのメールのやり取りは、実はアーカイヴしてある。その内容をここでも、また今後も明かす気は毛頭ない。複雑なセキュリティも掛けてあって、このまま冥土の土産にするつもりだ。全然おれのガラぢゃないけどね。

 世間的には不倫だの浮気だの、って後ろ指さされることかも知れないが、そのしばらくの交歓の期間、ドロドロ・ベタベタしたものは最後までなかった。自己を正当化する気も、美化する気もないけれど、どう考えてもそれはある種の透明感だけの支配する綺麗なひと時だった。
 「なんだ〜!結局は『青い体験』ですかぁ!?いいトシこいたオッサンのクセに」と言われそうだが、ホントにそうだったんだから仕方ない。モラルを離れたところで、セックスにも貴賎はあるのだ。

 年上の女性と付き合ったのは、今のところ後にも先にもこれだけだ。もうおれもいい歳で、これから先に年上とはまずないだろうと思うから、恐らくは彼女との体験が唯一のものになりそうな気がする。
2006.06.19
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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