「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ワタシの愛した気動車



キハ17の正面。下と較べると華奢

キハ20の正面。一緒のようでこっちの方がマッチョでしょ?
http://mahoroba.kir.jp/、http://home.a00.itscom.net/より

 気動車・・・・・・まぁ要はディーゼルカーのこってすな。大昔にはガソリンカーなんてのもあったんだけど、危ないんで戦後にはほぼ作られてない。事故やらかして燃料に引火すると爆発的に燃えるのだ。今はUSJに向かう観光客で一杯の桜島線で戦前、そんな大事故があったっちゅうのは地味に有名なエピソードだろう。

 さてさてそんな気動車、実は電車に比してそこまで色んなヴァリエーションがあるワケではない。そもそもスシ詰めで人が乗るような都市部は電化されるからディーゼルは要らない。勢い、近郊から地方線区向けが多くなる。乗客だって少ないし、運行本数もさほど密ではないから車両の数がそんなに必要ではない。だからあんまし多品種少量生産だと元が取れなくなってしまう。だからコレ!って決めたら同じシリーズを比較的長期間に亘って大量に作る傾向にあるのだ。そんなんで細かい差異はあっても基本パターンは大体いっしょ、っちゅうのが、少なくとも国鉄型気動車の特徴だった。例外はレールバスくらいだろうか。

 もう少し与太話を続ける。

 そいでもってその動力方式の呼称がクルマの考え方とずいぶん異なってる。まず最初はガソリンカー・・・・・・これはこれで面白いんだけどまぁ置いといて、その次が電気式、液体式、ガスタービン式、直噴式、時代は回帰して電気式、ってな流れがある。コトバで読むとサッパリ分からない。実際ガキの頃読んでも意味が分からなかった。
 何のこっちゃない、これをクルマ流の言い方で置き換えると、E-POWER、AT、間室ターボ、直噴ってコトになる。動力方式と変速方式を一緒くたにすんなヴォケ!って思うが、そうなってんだから仕方ない。つまり、初期のディーゼルカーはエンジンで発電機回してその電力でモーターを回して走る方式だった。これって今の日産のE-POWERとほぼ考え方は同じ。二つの動力を動かすことによるロスはあるけど、定速でエンジン回す省燃費効果が勝るし、変速系がカンタンでしょ、ってな理屈だ。
 液体式とは要は動力伝達の変速機構のハナシで、トルコンの中に硬いオイルが充填されてるからそれで「液体」なのである。そう、列車の世界ではごく初期のT型フォード積んだ単端みたいなんを除くと、MTがそもそも存在しない。ちなみにエンジンはディーゼルエンジンの古典である副室式だった。
 でもってガスタービンは要は排気で風車回して充填効率上げるターボのこと、変速方式自体はオートマだからまぁ90年代初頭くらいまでのRVの仕様みたいなモンですわ。直噴は副室式ぢゃないってコトで、ならば直噴ターボあってもエエやないかって気がするが、これは民営化後に登場してる。ナカナカに鉄道系の技術屋さんは保守的なのだ。
 ここでクルマだと重視される弁機構が一切出て来ないことに気付かれた方はエラい。実はクルマよりも遥かに大排気量で低回転が基本の鉄道用エンジンに、OHCとかDOHC、あるいは多バルブ化は頭デッカチになるわ、複雑になるわでメリットが少ない。何と未だにOHV2バルブが標準だったりする。まるでアメ車やね。

 ・・・・・・で、そろそろ本題。おれの好きな気動車って何だろう?

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 いっちゃんのフェバリットはヤッパシ八ッ橋、俗に「10系」と称される昭和20年代末期から改造されたり新造されたりした液体式の量産車では嚆矢となる一群だろう。代表はキハ17という。実はあまりの安普請が祟ってか劣化が早く、おれが鉄道に興味を持った頃には既にケッコー淘汰が進みかけてたんで、そんなにしょっちゅう乗ったり見たりしたワケではないし、多分、70年代終わりには消えてたような気がする。
 何が魅力かっちゅうと、その安普請ゆえの何となく虚弱な外観と、後年の様々な改造の面白さに尽きる。とにかく見るからに貧弱で線が細いのである。車幅、狭いです、車高、低いです、壁、薄いです、座席、ペコペコです、乗り心地、サイアクです(笑)・・・・・・もちろん、そうせざるを得ない事情はあった。早く無縁化を進めたいけど馬力のあるエンジンあらへんし、車体軽くするしかおまへんがな・・・・・・と。
 そのちょっと一味足りないような薄口な感じが良いのである。ちなみに電気式から改造されて改番されたのは湘南顔だったりして、それはそれで味わい深い。

 さらにはその後の改造車がこれまた面白い。郵便車やら荷物車、合造車っちゅうて半々にしたようなの、あまりにヤワでぶつかったら危なかろうってんでムリヤリ補強入れて顔がフランケンシュタインみたいになっちゃったの、中間車に強引に運転台載せたせいで何とも言えないノッペリした御面相になったの・・・・・・おらぁ鉄道雑誌を立ち読みしながら、実物見れたら楽しいだろうな~、と夢想するのだった。
 これら改造車の多くが四国に多数残ってたんだけど、おれの行ける範囲では、和歌山線のキハユ15ってのと、阪和線でたまに見る湘南顔のキユニ16ってのが有名だった。奇天烈な顔の前者には2~3度実際に乗ったことがある。子供心にも中途半端に半分だけ客室にした造りはとても奇妙に感じたものだ。前半分の郵便室にはホンマに郵便局の人が乗ってて、仕分けやら何やら忙しくしてた。

 これに続くのが55系とか20系ってヤツだ。準急・急行用か普通列車用かって違いだけでほぼ顔は同じ。塗り分けや窓・座席配置が異なる。基本、10系を踏襲しつつも一回り大きく、ゴツくなってる。親戚の子供に何年ぶりかに合ったら成長して骨太で大きくなってたような、「まぁ~、ちょっと見ぃひん間にリッパにならはって~!」みたいな(笑)。
 いや、決して悪くはないんだよ。積水金属(KATO)が最初に出したNゲージの気動車だって20系だった。キハ20とかキハユニ26とか持ってたT原君が羨ましかったっすよ。でも、10系ほどのシュッとした軽快な印象は無いんですわ。

 こっちはそれなりに頑丈に拵えたせいか持ちも良かったようで、どうだろ?電化前の近畿近郊路線ではその後のシリーズとかに混じりながら、80年代くらいまではボツボツ走ってたように思うし、割と近年でも茨城交通とかいすみ鉄道、島原鉄道といった地方私鉄が譲り受けたのに乗ったり見たりしてる。
 あぁそうそう!ナゼかいつも南海難波に2両でぽつねんと、周りは全部電車に囲まれて所在無げに停まってるのを見掛けた「きのくに号」も要はこのシリーズだったな。痩せても枯れても優等列車である証のように、水色の小さなヘッドマークが付いてた。80年代になってもたまに見掛けた記憶があるんで、本来の使われ方ではかなり長寿の方だったような気がする。

 もちろん天王寺の駅の一番北側の紀勢線ホームでスフィンクスみたいな雰囲気で、停まるっちゅうよりは鎮座してた81系、奈良に行くときは大概これに当たった35系なんかも馴染み深いが、やっぱ月並みとは申せ急行型の標準形となった58系が好きだ。特に初期の平面窓は、な~んかちょっと困ったような顔付きに見えて面白かった。
 おれは多分、「急行」あるいは「準急(・・・・・・おれが鉄道に興味を持った頃には消滅してたけど)」って存在自体が好きなんだろう。特急ほどバビューンと一目散に目的地を目指すワケでもなく、適度に道草食いながらそれでもまぁまぁ急ぐトコは急ぎまっせ、みたいなカンジが好きなのだ。
 この58系、あれこれいろんなヴァリエーションがあって、実に2,000両近く作られた。だからかつては全国津々浦々、どこに行っても見掛けた。乗ったことも多い。末期は企画ネタみたいな豪華イベント列車に改造されたり、あるいは急行列車自体の減少もあって必然的に格下げされた使われ方だったりしたけど、何だかんだで平成の半ば過ぎまで生き延びた。調べてみると今でもチャンと動くのが上述のいすみ鉄道に残ってるらしい・・・・・・見に行こうかな?

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 でも・・・・・・思えば気動車の面白さって個々の形式もあるけど、やはり中間車が少なくて分割・併合が容易ってコトで、ムチャクチャにバラバラな編成になってるのがいっちゃん面白かったように思う。屋根の高さも車幅もドアの位置も塗り分けも、最早ネタでやってんちゃうんか!?っちゅうくらい寄せ集めになった、いわば「アソート状態」は、あくまでマニア目線ではとても楽しかった・・・・・・同じ運賃で乗るには設備も乗り心地も不公平すぎた、っちゅうこっちゃね(笑)。だって急行型と通勤電車みたいな35系が一緒になってたらどっち乗りますか?っちゅうハナシですよ。乗せて運ぶんやから何でもエエっしょ?ってなサービス精神の欠如が感じられる。
 かつては春闘とかになると車体に汚らしくスローガンをペンキで殴り書きしてみたり、公器であることを忘れてストにウツツを抜かしたりなんかと同じで、結局は労組を中心とした連中のこうした顧客不在な姿勢が国鉄解体を招いたのだと思う。

 もちろんモータリゼーションの進展とか地方人口の減少といった外的要因は大きいものの、そんなこんなで気付けば路線そのものがゾッとするほど喪われた。残った路線にしても地方には殆どお客さんがいない。一方では都市近郊の電化だって進んだ。
 つまり気動車の活躍する場がスッカリ減ってしまったのである。今や「本線」と名の付くトコでさえ、閑散としたダイヤに1~2両の短いので細々とやってるトコが目立つ。それでも朝夕の通学時間以外はほぼガラガラだ。

 ・・・・・・単行の古い気動車が草生した線路を行くようなのが喪われた光景になるのかと思ってたら、決してそうではなかった。そんなトコはとっくに廃線で、本線規格のゴツいレールの上を銀色で新型のがチグハグに一両だけ走る、な~んて滑稽にしてより悲惨な形で日本各地で今なお見ることが出来てしまう。
 長大な急行が、その車両数以上に備わったエンジンの回転数を一斉に上げ、構内に独得のエキゾーストノートを響かせてユックリと駅から発車して行く。行き先は現代の「はやぶさ・こまち」なんてもぉメぢゃないくらいにややこしい多層建てでバラバラだ・・・・・・あんな景色こそがもう二度と見られないんだろう。


見事にバラバラの編成の例。実のところ、国鉄のサービスレベル低下の顕れでもあった。

これまた見事に凸凹。最後尾は湘南顔10系改造車。

https://railway-photo.hatenablog.com/、https://blog.goo.ne.jp/ken328_1946/より

2021.07.19

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