「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ラジ > U


こんな雑誌まであったんですわ。

http://hon-coop.thanks-books.com/より

 子供の頃に引っ越した先の団地は、奥の方に行くと広大な造成地が広がっていた。今はもうすっかりその一帯は道路が整備され、学校やら何やらができ、そしてギッシリと家が建ち並び、昔日の面影は何一つ残っていない。実はその一角にその後両親が建てた家もあったりする。

 小学生の頃にその造成地に行くと、よく大人が何人か集まってラジコンの飛行機を飛ばしていた。かなり大きな飛行機で、機体の長さなんて優に1mくらいあったのではなかろうか?大抵は紅白の塗り分けのセスナみたいな形が多かったけど、たまにリアルに第二次世界大戦の戦闘機に仕立てたモノを持ち込んでる人なんかもいた。キットなんて気の利いたモンはまだ存在してなかった時代だから、多分どれもみんな自作だったのだろう。

 動力はものすごい甲高い音で回るガソリンエンジンである。エンジンっちゅうたってとても小さいものだったから、多分4サイクルではなく混合油を燃料にした2サイクルだったのではないかと思う。あの大きさでカムだとかバルブだとか駆動するスペースは無かった気がするし、エンジン音もそんな感じだった。そのキャブの開度やらフラップなんかをプロポでコントロールして飛ばしてたんだろうと思う。ちなみに現代のプロペラ機ではエンジンは一定の回転数で回り、プロペラ角度でスピードを調整するものらしいが。
 悪童共はラジコンマニアの大人たちがいると、黙ってギャラリーに徹するのが常だった。周りをウロチョロすると「ボク等危ない危ない!」って制止されるだけだし、それにラジコンってのがひじょうに金のかかる趣味であることを知ってたからだ。そんなもん間違っても自分で所有することなんてあり得ないんで、ひたすら羨望の眼差しでオッサン共の一挙手一投足を見るのである。

 ちゃんと地面を助走して白煙撒き散らせながら離陸して行く模型飛行機には、駄菓子屋等で100円くらいで売られてる角材や厚紙で出来た機体にプロペラと繋がったゴム紐回して飛ばすのとは全然違う、「本物」の雰囲気が溢れてたのだった。

 上手な人が飛ばすと、本当にアクロバティックなことが出来る。横旋回・縦旋回はもちろんのこと、急降下して機種を起こして地面すれすれに水平飛行、キリモミ、背面飛行・・・・・・ガキ共のギャラリーが居る手前、あまりカッコ悪いコトもでけんやろ?ってな自己顕示欲も手伝ってか、とにかくあらん限りのワザを次々繰り出した挙句ドガシャーン!って墜落させ、バツの悪そうな顔で残骸を回収しに走って行くオヤヂ、新しい機体を拵えて意気揚々と来たまでは良かったが、飛び上がって10秒もしないうちに墜落させて顔面蒼白になってるオヤヂ・・・・・・いろんな人がいた。そぉいやどれも飛行機ばっかしでヘリコプターは見なかったな。

 もちろん飛行機だけでなくラジコンでクルマや戦車とかを走らせてる人もいたけれど、ガキ共が最も目を輝かせて見るのはやっぱし飛行機だったように思う。

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 今でも残ってるのかどうか分からないけど、もちょっと庶民的な「Uコン」なんちゅうのもあった。動力は同じく甲高い音を立てるエンジンなんだけど、無線操縦ではなくて、機体から伸びた10mくらいの2本のワイヤーの端っこを持ってグルグルと飛ばすのである。
 近所にこれを持ってるオニーサンがいて、たまに公園に飛ばしにやって来る。言うまでもなくワイヤーで繋がってるから、基本、本人を中心とした円旋回しかできない。それに長時間やると目が回って来るみたいだし、遠心力に逆らわなくちゃいけないので体力が要るらしく1回飛ばすと息が上がってる。そんなこんなで電波が届く限り自由に飛び回れるラジコンよりは随分ショボい印象だったが、それでもおれを含めたガキどもは羨望の眼差しで見てた。

 「Uコン」のさらに貧弱なバージョンも存在した。動力が無く、振り回して飛ばすのである。言うなればグライダーとか紙飛行機に近い。当然ながらそんなにスピードは出ないし、円旋回の半径もグッと小さく5mくらいではなかったか。
 これまた近所に持ってるちょっと年嵩のオニーサンがいて、たまに公園で飛ばしてるのだけど、流石にあんまし羨ましいとは思わなかった。

 思えばUコンってなんぼ自分で操縦できるとは申せ、どしたってラジコンと紙飛行機の間の中途半端なアダ花みたいな存在ではあった。ガキ共の眼にもハッキリとラジコンの方が格上に映っていたことは間違いない。

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 誠文堂新光社からだったかな?直接切り抜いて紙飛行機が拵えられる本、なんてーのがベストセラーになったこともあった。おれも1冊か2冊買って組み立てたことがある。看板に偽りなしで、タイトル通り良く飛んでくれた。
 調べてみると今でもアマゾン等で古本が多数出回っている。興味のある方は買われてみては如何だろう。

 バルサで作った骨組みにドープとかゆうムチャクチャに薄い膜を張って羽根やら機体を作るゴム動力の室内飛行機なんてのもあった。とにかくどれだけ長時間飛んでられるかを競う競技会みたいなのも存在し、スゴい人だと機体重量が僅か数g、ユルユル飛んでる時間も1時間とかナントカ、とんでもないものがあったように思う。

 ただ、そこまで自分でやってみようって気にはどうにもならなかった。だだっ広い造成地で轟音立てて飛び回るラジコンの単純な爽快さからすると、何だかイジイジ・チマチマした旦那芸の香りがしてたからだろう。

 やはり外の世界、溢れる陽光と青空の下でナンボなのである・・・・・・野外撮影の話ぢゃないよ(笑)。

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 「飛翔」は、今の子供たちよりもむしろ、かつて子どもだったおれたちから上くらいの世代にとっての永遠の憧れではあるまいか。宮崎駿なんてもぉその最たる例である。彼の製作するアニメにはすべて「飛ぶこと」への異常なまでの憧れが通底している。そしてそれは多分、リリエンタールからライト兄弟、そして二度の大戦を経て僅か数十年で劇的なまでに発展した飛行機というテクノロジーをどれだけ同時代的に見て来たか、ってコトが深く影響してるように思う。今の子供たちにとって航空工学のテクノロジーなんて既に出来上がっちゃってるモノに他ならないのだ。

 そぉいや自転車で走る近所の川の堤防上のサイクリングロード沿いにラジコン飛ばすトコがある。言っちゃ悪いが集まってるのはみんなもう老人って呼んでいいようなオッサンばっかしで、若い人は殆どいない。模型飛行機を飛ばしてそこに自分の夢も載せるような若い人はいなくなっちゃってんだろうな、って思う。
 若い人で飛行機を飛ばしたり、あるいは自ら飛んだりするのに熱中してるのは、今や「鳥人間コンテスト」に出場する人たちくらいではないかな?

 ・・・・・・この10年くらい、そんな風に「飛ぶこと」についての世の中の風潮に対し、おれは随分悲観的になっていた。

 しかし世の中そんなに捨てたモンではない。やはりみんな飛ぶことへの憧れは心の奥底にシッカリ残してたのだと強く思わされるブームが始まった。言うまでもなくドローンである。

 見た目も飛び方もこれまでの流線形で真っ直ぐな飛び方に馴れた感覚からすると極めて異様で、ちょっと昆虫の類を思い起こさせる。通常、4つから6つのローターがあって、その中心に広角レンズを積んだビデオカムが付くのが一般的だ。このカメラの解像度や操作自由度、あるいは電波の届く範囲(つまりはどこまで高く上がれるか)、バッテリーの持続時間等によって値段もサイズもピンキリ、200万画素くらいなら今は1万円弱でいくらでもある。実に結構な時代になったものだと思う。

 ドローンで撮られた美しい映像はYOUTUBEとかにも多数アップされてるし、最近では色んな災害現場の状況確認等にも使われたりと実用にも役立っている。飛び方がちょっとフワフワ・ヘロヘロしてて、従来の飛行とは異なるものの、新たな飛翔の形だと思う。これでヌード撮影なんてーのも面白いかも知れないな(笑)。あれ?ちょっと前にフライデーで壇蜜モデルにそんな企画あったっけ?

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 ・・・・・・買っちゃおうかな?ドローン。

 そうして最初に浮き上がって俯瞰した風景・・・・・・そこにはあの、今は喪われた広大な造成地が広がってるような気がする。


1万円以下で買えるのでは売れ筋の"HOLY STONE"

2017.01.14

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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