思えばおれは悪い子だった |

最後まで読めば意味は分かります。
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http://karapaia.livedoor.biz/より
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思い出ネタについては、けっこーこれまで善良な読者のみなさんも流石に眉を顰めるようなロクでもない話ばっか書いてきた。今回はそんな中でも極めつけの話ではなかろうか。ホント、おれは悪い子だった。
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中学の時の話だ。何度かこれまでも思い出話に登場したフレッシャーの白いレスポールカスタム買って嬉しがってたSっちゅうヤツ、まぁ、そのように稚気溢れるトコもあったのだが、一方では原付ドロがバレて補導されたりもして、やっぱ根っ子では相当な不良であった。腕っぷしも強かった。大体において、父親が「元」が付くとはいえヤクザってコトだったから、それはまぁ筋金入りのところがあったのかも知れない。
さて、そんなSとおれは妙にウマがあった。今でも信じがたいのだが、おれが乾分で、とかそんなんでは決してなく、どうしたことか彼はおれに一目置いてたし、あまり誰とも与しないおれも彼と一緒にツルんでるときは気が楽だった。どっちもガキの分際で世に拗ねて斜に見てるようなところがあって波長やオーラが似ていたのかな、と思う。
まぁ、彼とはいろいろとかなり悪いことやった。ここでそれらまで逐一書くと今後のネタがなくなるので・・・・・・などと小市民的なこと言ってテキトーにお茶を濁すことにするが、生徒手帳の禁則に書いてある程度のことは大概やった。ちなみに彼は狡猾と言っていいほどきわめて要領がよかったので、件の原チャリでドジ踏んで捕まるまでは何一つ露見することはなく上手く立ち回っていた。
さて、そんなSがある日学校に、封筒に入ったひどく古ぼけた四角い缶を家から持ってきた。オヤジの金庫から見つけたものだという。金庫が家にある家、っちゅうのはよほどの金持ちか、もしくは秘密があるかどっちかだろうが、この場合は後者だった。どのようにして彼が開けることができたのかは分からない。あるいは、ホントは物置の中かなんかから見付けたのを勿体付けて「金庫」などと話を盛り上げただけなのかも知れない。
覚えておいて損はない。悪事は深刻で苦渋に満ちた表情と共にやって来ることは絶対にない。必ず満面の蕩けるような笑顔と、水飴のようにネットリ粘り付く蟲惑的な声と共にやって来る。まさにその時の彼がそうだ。しかし、その分かりやすさは逆に言えば彼のキャラクターのひじょうに素直っちゃ素直な点でもあり、どうにか完全無欠の荒んだ非行少年にならずに踏み止まれてる点でもあった。
一体いつの時代のものか、中にはモノクロのエロ写真が100枚ほど入っていたのだった。言うまでもないが無修正っちゅうヤツ。しかし、いくら見たい・ヤリたい盛りの中学生とはいえ、色褪せかけた印画紙の上に繰り広げられる胴長短足かつ田舎臭くも薄幸そうなオネーチャン達の、あられもないっちゅうよりは投げやりな姿態は、むしろ何かの事件現場のような白々しい酷薄さがあってソソらぬこと夥しい。
似たようなのが続いてたり同じセットがいくつかあったとこからすると、どうやらこれは親父の趣味のコレクションなんかではなく、かつての売り物ではないかと思われた。そぉいや21世紀の今はもう全く見かけなくなったけれど、20年くらい前までは温泉街とかで「ノーカット」とかの触れ込みで密かに売ってた類のモノだな。トーチャン、昔ヤクザだったっちゅうけど、若い頃はかなりセコいしのぎもやってたワケである(笑)。で、そんなのがいくらなんでも時流にマッチしなくなり、そのまま死蔵されてたのだろう。
------で、どぉするん?と、おれ
------ん!?おもろなかったけ?
------全然。
------やろかと思ってたのに。
------悪いけどこんなんやったら要らんわ。やっぱホンマモンの方がエエで。
------そらそやな。
ここで2人して思い出し笑い。先日、2の2でY子ちゃんちでいけない・・・・・・もとい、楽しいことしたんだった(笑)。
------それよっか誰かに売りつけたったらエエやん。
------売れるかなぁ?
------売れる!ちょと待て・・・・・・アイツやったら絶対買いよる!Kや!
これがホンマに中学生のする会話だろうかと思うと、あまつさえ自分自身の会話かと思うと、今更ながら薄ら寒い気持ちになる。取りも直さずやろうとしてることは立派な犯罪である。刑法第175条「猥褻物頒布罪」っちゅうのに該当する。2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、と条文にあるからかなり重い罪だ・・・・・・とまでは当時予想だにしなかったのは所詮浅墓なガキのやることではあった。
それはともかくKだ。コイツ、帰国子女ってことを事あるごとに鼻にかけ、また、大して成績良くもないくせに何故か妙に秀才気取りでイキッてて(「スカした」という意味の大阪弁)、その割にその実アホでスケベ、っちゅうしょうがないヤツだったのだが、親が海外を飛び歩く商社マンってコトで金回りが良かったのである。それと家が大きく両親が留守がち、ってーのも足がつきにくくていい。ちなみに彼は二光の通販でトムソンの赤いレスポールカスタム買ったりしてたから、その辺はSと大差なかった。ろくすっぽ弾けないトコも含めて(笑)。
予想通り、Kは尊大なフリしながらもしっかり釣り針に喰い付いてきた。誰から教わったワケでもなかったが、チラッと一枚見せてその気にさせといて5枚セットで売るなんて、おれたちも全く温泉街のポン引きと変わるところがない。おまけに手渡す実行役はパシリのヤツだ。自らは手を汚さぬとは実にロクでもないガキである。ただし、価格設定は1,500円かそこらに止めて法外な値段にはしなかった。さほど商品価値のないことは分かっていたし、ヘタに値段釣り上げると却ってヤバくなることを本能的に看取していたのである。
他にも何人かよ〜く人選して売って、そのエロっちゅうにはあまりに縹渺・殺伐とした白黒写真はすぐに無くなった。最も上客のKは至極ご満悦だっただけでなく、そのうちめでたくより本格的な方向に歩み始め(笑)、南海難波駅近くにあった大人のおもちゃの店に単身乗り込んで「金髪ネーチャンの無修正エロ写真で作ったトランプ」なんぞを一人で買うようになっていた。もはやサルセン状態、ただの色キチガイである。
Sの手許に残った金がどうなったかは覚えていない。いずれにせよ悪銭身に付かずで、霞のようにワケの分からぬものに消えたに違いない。おれはコンサルっちゅうか参謀役みたいな立場で入れ知恵しただけだったけれど、その時は何だかんだ奢ってもらった。パシリは現物を何枚か手渡されてたっけ。
結局、これらの悪事は少しも露見することなく、他のいけない遊びに手を出す中ですぐに忘れられて行った。
このSの家の金庫から出てきた、と称するモノには他にもとんでもないものがあった。別のある日、彼が持ってきたのは銀色に鈍く光ってズッシリ重い・・・・・・といってもチャカではなく(笑)、古いライターである。100円ライター全盛の今とは違い、かつてライターとは羽振りの良さやステイタスを表す高級なものだった。一般庶民はマッチを使うのが普通だったのだ・・・・・・で、それだけならただの高そうなライターだけれども、何とそれには「朱を埋め込んだ代紋」が彫られていたのだった。
他にもヤバげなものはいくつか見せられたが、今となってはどこまでが本当だったのかはよく分からない。
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Sとは進んだ高校の行き先が全然違っていたコトで、中学を卒業してからは2〜3度ばったり出くわした程度である。彼は何か思うところがあったらしく不良は一応封印し、「おれは真面目に勉強してちゃんと大学行くことにしたんや」とか言ってたが、どうなったかは知らない。したたかで如才ないヤツのことだからそれなりに上手くやったと信じたい。
パシリの中にはむしろその後Sよりよっぽどロクでもない人生歩んだヤツが多かったみたいだ。全てはオカンがどっかから仕入れてきた風聞だけど、高校すぐに中退してチンピラになったのもおれば、族に入ったのはいいが、コケてひどく重い障害が残ったヤツもいるようだった。ヤンキー漫画の傑作「Be−Bop High School」の中で、脇キャラのデブのキンタローが「俺のよーな奴がよくヤクザになるでしょーが」という捨て台詞を吐くが、あれはけだし至言だと思う。
そうそう、このエピソードの重要人物・・・・・・むしろ道化回しか(笑)、そんなKに関する後日談を最後に少々。
こうして並々ならぬ努力でいろいろ仕組みも形も学習して(笑)さぁこれから勇気凛々瑠璃の色で実践だ!ワーイワーイ!という時に、思いもかけない不幸が彼を襲ったのであった。
シャレにならなんことに、彼の父の勤めていた会社が倒産したのだ。新聞にもデカデカと載るほどのそれは超大型倒産だった。父親の会社での立場がどれほどのものかおれ達は無論知らなかったし、当時知ったところで阿呆な中学生ではとても理解できなかっただろうが、ともあれほどなくして一家は100坪からある大きな邸宅を売っ払ってどっかに引っ越してった。おそらくは給料が下がったり、ボーナスが出なくなったりして生活苦に追い込まれたのだろう。小さな家に引っ越してエロ写真隠すところがなくなったかも知れないと思うと、しょうもないヤツだったが実に気の毒なことではあった。
さらにクダらない余談を。
ずいぶん長じてから知ったことだが、このツブれた商社には創業者が心血を注いだ素晴らしい美術品のコレクションがあった。その圧倒的な名品の数々を美術館で見たことがある。しばし堪能して美術館を出ると少し離れて小さな植物園があって、そこでは食虫植物展が開かれていた。ついでにフラッと入るとウツボカズラとかモウセンゴケとか、生命の進化の逆を行くような摩訶不思議でいささかグロテスクともいえる植物がたくさん並んでて面白い。なかなかの奇観だ。商社の持ってたコレクションと食虫植物、っちゅう取り合わせもワケが分からなくて楽しかった。
そんな中のハエトリソウ、ってぇのんの前まで来たとき、その形態から唐突におれはKと、そして彼が食い入るように飽かず眺めたであろう古ぼけたエロ写真の局部を想い出したのだった。
・・・・・・オチたのかオチてないのか良く分からん脈絡のない話まで書いたところで今回はお仕舞いっす。 |
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2009.12.19 |
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----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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