「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
乱暴狼藉打擲毀損放歌高吟酩酊嘔吐(他人編)


こんなトコで懸垂するなんて!

http://waterside.fc2web.com/より

 酒に関して言うならばもちろん、これまで他人を介抱したことより自分が介抱されるようなハメになったことの方が圧倒的に多いのだけれども、そしてそんなこと、こんな大上段にエバッた調子で書くことでもないのだけれども(笑)。
 まぁ、類は友を呼ぶの伝で、おれの周囲でも傑作な、っちゅうかロクでもない話はゴロゴロ転がっている。ここんトコいささか辛気臭いトーンの駄文が続いていたので、今日はお気楽にそんな系統のエピソードをいくつか列挙してみよう。

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 まぁ、やっぱ誰もがそれなりに無軌道だったのは学生の時だ。特に1回生の頃はクラスでも何かっちゅうと飲んでた。ずいぶん寒い時期だったから、おそらくは忘年会だったのだろう。場所はハッキリ覚えている。叡電元田中の駅の近くにあった「K」という店の本店だ。
 その日、おれは最初から最後まで素面だった。もちろん殊勝な理由があろうはずがない。ただもう連日の深酒のせいで胃を壊して、医者からしばらく酒を止められていたのだ。ホンマモンのアホやね。ともあれそんなんだったから、極めて冷静な状態でみんなが壊れて行くのを観察していたのである。

 珍しく酒豪のMが大沈没して顔にマジックで落書きされまくってたのを皮切りに、その日はほぼ全員がベロンベロンっちゅう事態になった。マトモに生き残ったのは、飲めないおれの他は何度もこれまで話に出てきたその後のバンドのベースM、その他数名。重症者をみんなで手分けして店から近い下宿に担ぎこむ。Mの下宿も店から近かったおかげで救護所代わりになったのだが、苦労して2階の部屋まで引っ張り上げたのは通称「オネェ」ことTさん。どっかの大学を中退して入り直したって変わり種のコで、まぁ根性の据わった女傑タイプだった。
 とにかくツブれた人間はまず沢山水を飲ませて吐かせるしかないのだが、完全に寝込んでしまってはどうにもならない。

 そのうち起きるだろうと炬燵に寝かせて、階下より水をジュースの1リットル瓶や電気ポットに汲んで来て、おれとMは低い音でカセットを聴いていた。それがワイアの「154」だったことだけは異常にハッキリ覚えてる。
 小一時間ほどして、むくっとTさんが起き上った。

 ----あ、大丈夫?何でもいいからまず、水、思いっきり飲み〜な。
 ----・・・・・・
 ----??
 ----・・・・・・・
 ----ウワワワ〜ッ!!

 Tさん、そのまま炬燵の上に吐き始めたのである。「ちょとガマンせぇ〜!」とかなんとか怒鳴りながら慌てて階下のトイレに連れて行こうとするが、階段は急だしMはひ弱で役に立たんしで、結局おれが背後から抱きかかえるようにしてズリ落ちて行くしかない。ハシゴ段のように急な階段を、ゲロ吐き続ける女の子抱えて落っことさないように下るのは実に骨の折れる作業だ。
 本人吐くだけ吐いてようやく正気を取り戻し、吐瀉物まみれの凄い状態ではあるものの何とか無事に帰ってった。おれとMは取り残された。別段好きでもない女の子のゲロを痺れるほど冷たい水で洗い流しながら、今のおれは世界で一番ナサケなくイケてない存在だと思った。

 ・・・・・・それから幾星霜、Tさんは女傑を地で行くキャリアウーマンぶりを発揮して、今は何と国連で働いてる。

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 その酒豪のMの住まう下宿「K村荘」の、夏は午後になると西陽で蒸し風呂のようになる一室はまるでみんなの集会所のようで、そこでは実に様々なことがあった。あまりに色々ありすぎたし、それにそぉゆう時は必ず酔っ払ってたので、記憶がかなりグジャグジャになってるのだが、これはたぶん2回生くらいのことだったと思う。季節は忘れた。どぉしてそんな状況になったのかも綺麗に忘れた。

 結論から行くと、いくら畳の大きな京間とはいえ四畳半一間のその部屋には、実に13〜4人もの人数が集まってしまったのである。その内の5人くらいは女の子だった。すでにみんな酔ってたような記憶があるから、どこかの店である程度出来上がった後だったのかも知れない。
 もちろんそこはガランドウの空き部屋ではない。机もあればスチール本棚もある。コタツもある。学生の部屋に不可欠なビニールの衣装ケースや3段ボックス、冷蔵庫もある。だからそんなに広いスペースはない。そこに文字通りのスシ詰めでいい若いモンが夜中に飲んだくれたワケだ。
 そしてそのまま全員ツブれて寝てしまった。雑魚寝と言えば聞こえは良いが、誰かが誰かの上に必ずなってるようなトロンプルイユのように複雑な人間ジグソーパズル状態である。チチもシリも、触った触られたもヘチマもない。

 目覚めると女の子の尻が目の前。ウワワと驚きはしたものの嬉しくも何ともない。いつも通りの二日酔いで気分が悪い。しかし、水を飲みに洗面所に向かおうにも室内は人いっぱいで文字通り足の踏み場もない。部屋の中は酒臭い息が充満してるのに加えて、別の異臭がする。その内だんだんとみんな目を覚ます。飲んだくれた翌朝特有の恥ずかしくも気まずい雰囲気の中、異臭の源を辿ると何と机であった。誰の仕業か、抽斗の中にシーチキンがぶちまけられていたのである。

 Mの下宿ではその後も同様のことが何度もあった。彼の大らかさには、みんな感謝しなくてはなるまい。

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 ・・・・・・他にも頑張って学生の頃を思い出して列挙しようとしてみたが、思えば友人たちが面白い事態になる時はおれも大抵ヘロヘロに酔っ払ってたから、肝心の部分での記憶が朦朧として、断片ばかりが想い出される。

 ●酒まったく呑めないのに酎ハイを6:4の特大ジョッキで一気飲みさせられて、座敷中をゲロまみれにした挙句、血まで吐いて病院送りになったN。
 ●11月の学園祭で昏倒するほど飲んで、そのまま戸板に乗せられ大通りを練り歩かれてたのはMだったかな?
 ●一乗寺下がり松のとこで倒れたスクーターでアクセル吹かし続け、ゲラゲラ笑いながら地面を回転してたT内。
 ●マンションのベランダや30m近い高さの砂防ダムでやおら懸垂を始める奇癖のT岡。落ちたらどないすんねん?
 ●焼酎1升をヘーキで空けるうわばみネーチャン単車に乗せて、本人も泥酔で出かけて、そのまま大原の奥でガス欠起こして半泣きになってたのはたしかK田だった。
 ●泥酔状態でスクーター乗って帰る途中、脇道から出てきたタクシーのドテッ腹に突っ込んで、そのまま運ちゃんにスゴんで無理やり納得させたのは・・・・・・えーっと名前忘れた。
 ●当時やたら見かけた赤いハッチバックのクルマのルーフで踊りまくってボコボコにした、なんちゅうのもあったな。ありゃ誰だったっけ?・・・・・・あ、おれだ!(笑)

 ・・・・・・みんなみんな、多かれ少なかれデストロイで刹那的でポンだったのだ。

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 そのうちおれはまがいなりにも社会人になった。住まわせられたのは会社の寮だったが、やはり類友なのか、ここにも酒呑んでは壊れる連中が集まった。

 Mっちゅう男は普段は借りてきた猫のように大人しく、また周囲の顔色窺って要らぬ気ばかり使うようなヤツだったが、酒には滅法強い上に、飲むと異常に明るくなって面白かった。
 たいていはみんなで飲んでたのだけど、その夜は珍しくどこかで一人で飲んで泥酔して帰って来た。同僚数名とTV観ながら酒呑んでたところに彼は乱入してきて、踊り始めた。足許がおぼつかないものだから当然、踊りながら何度も何度も部屋のちこちにぶつかる。棚の本やビデオ、CD等は崩れ落ち、3段ボックスは倒れ、ぼう然とするおれ達を尻目にそのまま30分ほど一人で踊りまくり、余計に酔いが回ったかそのままツブれて寝込んでしまった。

 彼を自分の部屋のベッドに放り込んで、おれ達は一計を案じた。

 数分後、各自の部屋からヘアージェル、それもスーパーハードとかカチカチに固まるのばかりが集められた。太いチューブに入ったのが何だかんだで5〜6本集まったと思う。それを寝ているMの頭と言わず、顔中にも塗りたくってやったのである。耳の穴にもニチャニチャとたっぷり詰め込んだ。よく乾くように部屋のエアコンをやや強めにセットしたところが我ながら芸が細かい。

 ・・・・・・ここから先は彼自身の話だ。朝になって彼は目覚めたが、まず目が開かない。驚いて叫ぼうとしたら今度は口がチャンと開かない。蒲団から起き上ったら枕が頭にくっ付いて来た(笑)。頭に貼り付いて取れない。音も聴こえない。顔から頭からコワコワになってることにはすぐ気付いたらしいが、何でそうなったかどうしても分からなかったらしい。そりゃそうだわな。
 瞼を引っ張って何とか薄目が開くようにして、枕を頭にくっつけた珍妙な格好で彼は階下の共同風呂に向かった。全部洗い流すのに30分はかかったそうだ(笑)。

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 その風呂でもとんでもないことがあった。Aというヤツとおれは特に仲が良かったのだけれど、コイツがまた底抜けに酒が強かった。

 給料日前で金はなかったが、なぜだか部屋には日本酒が2升あって、彼と二人でウダウダ飲んでるうちにスッカリ空になってしまった。おれは決して弱い方ではないけれど、余程体調が良い時とかでなければ1升をペロッと空けられる能力はない。だから恐らく半分以上はAが飲んだものと思われる。
 酒もなくなったおれ達は風呂に入ることにした。ここでも浴槽の湯を洗面器で掻い出したりとか、アホなことやってるうちに流石のAも酔いが回って来たらしい。「ちょっと寝るわ〜」とか言うと脱衣場の長椅子で寝てしまった。フリチンで(笑)。

 しばらくして様子を見に行くと、ドターンとかズデーンとか風呂の方から大きな音がしている。何事かと思ってドアを開けておれはシビれた。相変わらず素っ裸のまま全身ゲロまみれになったAが大笑いしながら、その自分の吐瀉物でヌルヌルになったリノリウムの床の上で滑っては起き上がりしてたのである・・・・・・非常階段のライヴかよ。
 彼はおれの姿を認めると言った。「どないすんのよ〜?これ〜?」・・・・・・そらおれのセリフぢゃわいっ!!

 まぁ、他にもAには酔っぱらって公園の躑躅とかが綺麗に植えられた斜面を4WDで駆け上がったり、1軒目でグニャグニャニなって顔にマジックで落書きされたにもかかわらず、そのままのキタの繁華街まで繰り出してったりと、何かと武勇伝に事欠かない豪快な男ではあった。まぁ、ほとんどの場合はおれもいっしょで、そしておれの方がよっぽどムチャクチャやってたのだけれども・・・・・・。

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 最近はバカみたいに大酒喰らって御乱行に及ぶ若者が減っているらしい。新聞見てても、酒飲んでやらかしちゃった系の事件は大抵おっさんが犯人だ。カッコ悪い話ではある。若者に常識人が増えたのか、それともどいつもこいつも小さくまとまってしまうようになったのか、はたまた酒の力を借りずとも他のやり方で弾けたりストレスが発散できるようになったのか・・・・・・その辺の事情は良く分からない。

 一方、酒飲んで暴れたり、だらしなく醜態さらすなんて、もちろんまったく人に勧められたことでないのは言うまでもないことである。上に挙げたエピソードだって、ハッキシ言って犯罪行為に他ならないものがいくつもあった。飲酒運転しかり、器物損壊しかり。もし、自分のクルマでそんなんやられたら間違いなく激怒するだろう。それは分かってる。どだい酒はドラッグとしてみればけっこう強力なのだ。習慣性や依存性が強く、長期間の常用で肉体的・精神的に深甚な障害を引き起こす。法的に大麻がダメで酒がOKなんて、実はナンセンス極まりない噴飯ものの話なのである。

 それでも何となく若者が酒をあまり飲まなくなっていると聞くと、一抹の寂しさと共に不安を感じる。やはりちったぁ放埓や無軌道を知ってから・・・・・・なんちゅうと大袈裟だが、せめて死ぬほど酒飲んだらどんな具合になるかくらいは覚えてから大人になったり、社会に出たりした方がいいんぢゃなかろうか、と思うからだ。

 とは申せ、今回の俎上に上った連中の大半は酒を通じて得たものが特段活かされることもなく、他人様に自慢できるようなな天晴れな人生を歩んでるワケぢゃないんだけどね。おれも含めて(笑)。

2009.04.05

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