「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
おれはぎっちょでいたかった


偉大なる伝説的スノーボーダー、ジェイミー・リンもグーフィー。

 ・・・・・・っちゅうコトバもあれでっか?ブザー鳴るんでっか?だってさ〜、最近トンと見かけなくなったんだもん。

 どうやら唾棄すべき言葉狩りの被害に遭って、今やこの「ぎっちょ」も死語の世界へと追いやられてるっぽい。ひどい話だ。よって、あるいはひょっとしてご存じない方がいらっしゃるかもしれないから言っておくと、これは「左利き」のことだ。「左ぎっちょ」と言うこともあった。ま、「サウスポー」っちゅう正式名称に対して「グーフィー」って俗語があるようなモンだろうか・・・・・・あ、そうだ!どうせ狩るなら「グーフィー」って言葉も狩っちゃえば!?いい笑い者になれること請け合いだよ(笑)。

 そもそも「ぎっちょ」って言葉の響きが面白い。本稿を書くに当たってその語源を調べたら、まことに興味深い話が見つかったのでまず紹介しておこう。
 大言海では「ヒダリキヨウ(左器用)の転」とされており、日葡辞書では「俗間に、左の手利きたる人をぎっちょうといえるは、左義長という意」、また、イケメン雅楽士で有名な東儀秀樹によれば「打球楽」という舞に使う棒をギッチョウ(毬杖、球杖)と呼び、、必ず右手に持つならわしなのを、間違えて左に持ったのが語源であるそうな(「Slightly Out of Focus」http://www5a.biglobe.ne.jp/~outfocus/)。
 へぇ〜!スンゲーなんか雅な感じやんか!こんな由緒のある言葉を、表層の撫で斬りで葬り去ろうとする連中って、やっぱ無神経で傲慢なんだと思う。

 そんなおれは、かつてぎっちょだった。

 なのに今はフツーに右利きである。勝手に変わったのではない。ムリヤリ親に矯正させられたのだ。今日はそんなぎっちょについての話をあれこれ・・・・・・。

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 ------なんや!この子はぎっちょかいな〜!?まぁ〜、えらいこっちゃでよぉ〜!

 2歳か3歳になったおれが左手で箸を持つのを最初に見たときの祖母の言葉である。今はそうでもないが、たしかにぎっちょは日本では疎んじられる存在で、小さいうちに治すべきものとされていた。おれはといえばまだ字も書けず、左手でできるのは箸を持つのとボールを投げるコトくらいだ。
 矯正するなら今しかない。親たちはそう思ったのだろう。かくして、その日から右利き転換トレーニングが始まった。無論何のメソッドもテクニックもない。左手で箸持つとひたすら怒られるのだ。叩かれたりもしたような気がする。

 しかし、栴檀は双葉より芳し!(笑)。まぁその頃からおれは滅法利かん気が強かったもので、メチャクチャに抵抗したらしい。自身では全く覚えてないのだが、それはそれはもう泣いて喚いて暴れて嫌がったんだそうな。思えばそら当然やわな。誰が便利に感じてる利き腕を、理解できない慣習に従ってすんなりと諦めて切り替えねばならんのだ?

 ともあれ箸を持つのは右にさせられた。鉛筆は最初から右手しか使わせてもらわなかった。鋏なんかは当時は右利き用しか一般的に市中に出回っていなかった・・・・・・しかし、ボールを投げるのは親の目の届かぬところでもあり、かなり長い間ぎっちょのままだった。だからおれは未だに左右両方でフツーにボールを投げることができる。それはまぁ良いとして、中途半端な転換をしたオカゲでおれは肩の力が弱い。

 いずれにせよ、全体的に右利きに変えさせられると、だんだんと残っていた左利きの能力は低下してくるものなのかもしれない。長じて始めたギターやスノボは、左はどうにも馴染めなかったので右利きだし、マウスも右に置いている。とはいえ実は、戯れにタイコを叩くときは左足でバスドラ、左手でハイハット、右手でスネアの方がシックリきたりもする。やはり、ホンのちょっとは残っているのだろう。

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 自然発生率で行くと1割前後の人は先天的にぎっちょなんだそうな。

 それを厭う、なんてゆうくだらない習慣は日本ほどにはないらしく、欧米人にはやたらぎっちょが多い。日本でも最近はぎっちょが増えた。無理に矯正させずにそのまま育てることが増えたためだろう。いい傾向だと思う。
 遺伝性でもあるのか、ちなみにおれの上の子もぎっちょだ。鋏やカッターに苦労するくらいで、あんまり大きな問題はないような気がするのだが、本人は不便さよりも他人と違うことそのものをいささか嫌がってたりもする。今の子供はホント、沈香も焚かずなんとやらだ。親としてナサケないぞ。

 小学校に上がると、右利き転向派のおれにとって、それでもたまに見かけるぎっちょのヤツっちゅうのは、ちょっとした憧れだった。いささか大袈裟に聞こえるかも知れないが、子供だったおれには、ぎっちょがなんだか「選ばれし者の証」くらいに見えたのだ。不思議とちょっととんがってたり、頭のいいヤツが多かった気がするが、それは左利きの形質ではサラサラなくて、おれの羨望に加えて、そんな古い慣習に拘泥しない、開明的な考え方の親のいる家庭だったからかも知れない。
 いずれにせよ、ちょっと身体傾けたり、ノートをとんでもない向きに置いて字を書く姿までもが、何だかとても個性的な感じがしてうらやましく、平凡極まりない右利きの世界に押し込められたおれとしては面白くなかった。

 水道のひねる方向や、自動販売機や改札機等はぎっちょにとって不利であるとか言われるけど、それが一体ナンボのモンやねんな。所詮その程度のことやんか。むしろ幼かったおれは、強制的に右利きに変えられることで、日々の生活の利便性以上に色んなものを奪い取られた気がする。

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 右利きであることがありがたかったことなんて結局、エレキギターに興味を持って、サウスポーモデルの値段が通常の2割増しであることを知った時くらいだ。真剣にあの頃は考えたものだ------「2割増しやとしたら、何でも3割引のF井ギター研究所で買うたとしても、レギュラーモデルの1割6分弾きにしかならん。ほたら6万のレスポールのコピーやったら5万400円か。右利きで買えば差額でエフェクターとか買えるやんけ!」みたいな風に。
 我がことながら、実に、実にセコい(笑)。

 しかしそれさえも、ある程度音楽に詳しくなってきて、右利き用のストラトを、そのまま逆に掛けてラフに弾きまくるジミヘンの画像を見たりしてからはどぉでもよくなった・・・・・・あ!そぉいやポール松川も、フツーのがそのまま左に持ち替えれるからって理由で、初期はカールヘフナーの右利き用ベースを弾いてたんぢゃなかったっけ?ビートルズにはあまり興味ないので、よく知らないから断言できないが。話はそれるが、ややケッタイな例としては、フリップ翁だろう。何とあの人、ぎっちょのクセにギターだけは右利きなんだそうな。ホンマよぉ分からん人やわ。ケチなんかな?(笑)

 まぁ、ギターに限らず楽器類はおしなべて本格的ぎっちょには不利なものかも知れない。管楽器にしても、弦楽器にしても・・・・・・鍵盤で逆に並んでるのってあるのかな??あ!打楽器はいいな。イアン・ペイスはあんまし余分な費用かからんのとちゃうかな?並べ方だけの問題やしね。

 この点でスノボは、ビンディングの向き変えるだけで良いから、ぎっちょでも余分なお金がかからなくていい・・・・・・ってスキーやサーフィン、スケボーだって、特段ぎっちょだからって金はかからないか。そっかそっか、右左が分かれてるのってゴルフクラブや野球のグラヴくらいか。

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 いいかげん、「ぎっちょ=不利」っちゅう、さして根拠のない・・・・・・いや、日常生活の利便性みたいなしょうもない部分にばかり目クジラ立てた貧乏臭い公式は捨てた方がいいと思う。ぎっちょ、カッコええやんか。

 おれは本当にぎっちょのままでいたかったのだ。

 そうそう、たまにギャラリーに登場するtは現役のぎっちょである。カウンターで並んで酒飲む時とか、おれが右、ヤツが左だとお互いケッコー便利だったりする。男同士でそんなくっついても仕方ないんだけど、これで相手が右利きの女の子だったらどうだろう?かなり落とせる確率は上がるに違いない・・・・・・なーんて、断言していいんかいな?(笑)

 とまれ、上の子もせいぜいぎっちょを活用して、そうしてイケてる右利きのネーチャンをいずれ見つければよいな、と今は思ってる。右利きは何せ多いんだから。


不世出の天才ロックギタリスト、ですよね?やっぱ。間もなく没後40年。

2007.06.19

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