「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
乱暴狼藉打擲毀損放歌高吟酩酊嘔吐


日本酒はあまりに色々飲みすぎて覚えてないけど、ウィスキーはやたらこれが多かった。

 19歳から24歳の京都時代は色んな笑えるエピソードはあったにせよ、「生産性」という観点から見るならば、まったくもって阿呆の日々であった。毎日が無為そのものに過ぎていった。

 やりたいこと、つまりアイデアは山のようにあるのに、それを具現化する実際の行動は?っちゅうと、痙攣のような、あるいは思い付きのように断片的な・・・・・・いわば「暴発」の積み重ねばかりで、結局マトモにまとまった形となったものは一つもなく、実のところ大半の時間をボーっとしたまま浪々の6年は過ぎた気がする。自分に欠けているものが「才能」なんてカッコいいモン以前に、「根気」や「自律」であることをとことん思い知らされたのだった。
 諸般の事情でおれは仕方なく就職したのだが、その時の気持ちはまぁ一言で打ちのめされたような「失意」だった。やることもやらんとねぇ(笑)。同じような思いで社会人となった人はとても多いに違いないだろう。

 そのどうしようもない怠惰をさらに強力に推進していたのが酒であったことは、もちろん言うまでもない。そして大酒を喰らえば翌日は二日酔いでどうにもこうにもならないのは当然の結果で、ダラダラしてるのが余計にダラダラするだけだ。
 これまで酒の上でのバカはいくつも書いたけど・・・・・・ま、今日もそんな話だ。

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 タイトルは大層につけてみたもののしかし、おれは酒飲んでも他人に絡んだり、暴力沙汰に及んだりすることはないらしい。シラフが元々テムパッたようなキャラなんで差がないだけなどと言われるのは、ホメてんのかケナしてんかどっちやねん!?と思うが、対人的には問題ないそうな。
 しかし、その替わりと言っちゃ何だが、昔はベロンベロンに酔った挙句、色々暴れて物を壊しまくることが多かった。

 例えば・・・・・・

 ●商店街のボンボリを引きちぎり、ゴミ箱を放り投げる-------なんてーのはまだ序の口。
 ●看板を引き倒す、飛び蹴りを入れる-------選挙看板だったら逮捕されるな。
 ●道路のパイロンを投げる-------危ないって!
 ●違法駐輪の自転車や原付を将棋倒しに引き倒す-------まぁ、違法なんだし、と。

 この辺からだんだん凶悪になってくる。

 ●酒瓶やケースを投げまくる-------ハナタラシのライブかよ、と(笑)。
 ●修学院の高野川の橋の上からその辺に停めてある自転車を投げる。
 ●公園や歩道のリスとかパンダの置物に大きな石を叩きつけて破壊する-------あ〜あ〜あ〜あ〜。
 ●クルマに蹴りを入れ、さらにはルーフの上で踊って飛び跳ねてボコボコにする-------ルーフやられたら全損やで。

 これら一連の行為は奇声や絶叫とともに行われ、最後は嘔吐とともに終わるのが通例で、ハタから見ればそれは酔漢の振る舞いっちゅうよりむしろキチガイの所業に似ていたと思うのだけど、いかんせん当事者のおれはあまり明瞭に覚えてない。え!?忘却は幸いなり、って?いや、ホント良かったっす。マジでよく警察にパクられんかったもんだよなぁ〜。

 何にそんなに苛立っていたのだろう?

 ・・・・・・詰まるところそれは「物事が思い通りにならず、そのウサを酒で晴らし、そしてそんなトートロジーに陥ってるストレス」に他ならなかった。まるで「星の王子様」に出てくる酒呑みの星のオッサンの心理といっしょやんけ。我ながらうっとーしぃやっちゃ。
 「物事」っちゅうたって、貧困で生活や学業がままならないとかならともかく、当時の大卒初任給の倍くらいの現金収入があったワケで、要は「音楽」だとか「書き物」だとか「オンナ」とか、純粋に私的な、自分自身がもっと精進し行動せんとどうにもならんことばかりだ。

 精進してもそこに成功の保証は何もない。ただもうおれはそれが怖かっただけなのだ。何のこっちゃない、「今にな、バーンとな、一発デカい花火上げたるで〜!ウイッ!」な〜んて酒飲んでクダ巻いて、場末の酒屋で沈没してる惨めったらしい敗残の中年オヤジと変わらない。そしてその自覚があるからこそ、さらにおれは苛立つのだった。

 「檸檬」で知られる早世の小説家・梶井基次郎は、あんなに繊細な作品群を物していたにもかかわらず、かなりの酒乱だったらしい。暴れておでんの屋台ひっくり返した、なんて逸話が残っている。ゆあ〜んでゆよ〜んなこれまた繊細そのものの中原中也もものすごい酒乱だったとか言うし、「熊野サーガ」と称される物語の鬼・中上健次の酒乱ぶりもつとに有名。
 それでもみんな、色んな歯がゆさと戦いながら作品を創り出したではないか。おれは何も生み出しえなかった。

 酒飲んで色んな器物を壊しまくる悪癖は会社に入ってからもしばらく続いた。

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 実は最近、酒を飲むことそのものまでがいささか苦痛になってきた。

 たかが缶ビール1本程度の晩酌のコトを指してるんぢゃないよ。それくらいはまぁ勘弁してぇな。いや、腰据えてへべれけになるまで飲む意欲が喪せて来たのだ。四半世紀も同じようなことを繰り返し、いい加減ようやく翌日の辛さを学習した、ってトコか(笑)。
 暴れることも20代の終わりあたりを最後に絶えて久しい。仕事に忙殺されることは、おれにとっていいことだったのかも知れない。ツブれてみんなに引きずられるようにして家に帰ったことはその後何度もあったとはいえ、それでもこの数年は収まった。逆に介抱役に回ることも増えたが、悲しいことに今時の若い衆は酒をそんなツブれるほど飲まんのね〜。
 ともあれいい傾向だろう。酒なんて、日本酒で言えば2合くらいをいい肴とともにゆっくり愉しむくらいで十分だ。

 そのうち酒自体止めたり・・・・・・なーんて、そんなことだけは絶対ないか。

2007.02.03

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