「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
TVコマーシャルの記憶


パルナスのマスコットキャラ

http://www.ceres.dti.ne.jp/~toyoura/parnus/より

 ♪お〜さっかじゅ〜そぉ〜♪
 ♪お〜さっかじゅ〜そぉ〜♪
 ♪めでっため〜でた〜や おおだ〜いずし〜♪
 ♪めでっため〜でた〜や おおだ〜いおおだ〜いっずしぃ〜〜〜♪
 ♪にくっいねぇ〜♪

 ・・・・・・今日も幼稚園は風邪で休みだ。四本足の生えた白黒のTVからは、いかにもめでたいメロディで寿司屋のCMソングが流れているが、タオルに包まれた、当時新発売になったばかりの黄色いアイスノンを枕に仰向けになったおれには画面は見えない。足許の方に続く3畳の板間では、ゴロンゴロンと重たいものが回る単調な音がしている。母親が内職で使っていた「エキセン」って鋳物でできた工作機械が発する音だ。
 熱でぼんやりしながらおれは、「じゅうそう」ってーのがどこにあるんだろ?「おおだいずし」っていうくらいだからどんなに大きな寿司が出てくるんだろ?などと、とりとめのない空想にふけるのだった。生魚が全然ダメで、たまのご馳走に寿司を食いに連れてってもらってもウナギとアナゴと玉子しか食えないクセに(笑)。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 小学校に上がるまでのおれはずいぶんと虚弱な子供だった。1年中熱ばかり出しては幼稚園休んで家で臥せっていたのだが、兄弟のいないおれにとって、そんな時の無聊を慰めるものは、本とTVくらいしかなかった。

 ここまで書いたこと、あるいはこれから書くことにはほぼ確実に「記憶の修正」がある・・・・・・と言うのも、小学校に上がる少し前に引っ越したのが転地療法になったのか、おれはそれまでとは一変してえらく丈夫な子供になったのだのだけど、放送開始がその年代以降のものも混じってるような気がするからだ。しかし、自分自身の中ではやはり、TVコマーシャルのノー天気なメロディやコピー・プロットは、どうしても幼い頃の病臥の記憶と重なってしまっている。

 ・・・・・・とまぁ、思い出話もしすぎるとクラい方に行ってしまうので、これくらいにしておこう。

 これから列挙するTVコマーシャルが全て関西ローカルだったかどうかもおれは知らない。しかし、関西は今もサンテレビあたりには色濃く雰囲気が残るとおり、とかくローカルCMが異常に「濃い」のが特徴だった。

 --------あんたホンマにウィックやなー
 --------なんでウィックやねん
 --------虫の好かん人!

 ・・・・・・これは何か、箪笥の防虫剤かなんかのコマーシャル。夫婦漫才の掛け合いが妙におかしくて大好きだった。

 ♪せんに〜ちまぁ〜えの千日堂〜♪
 ♪あっまとぉ〜ファン〜の千日堂〜♪
 ♪しょっくどぉ〜ひゃっか〜の千日堂ぉ〜〜へ
 ♪行っこぉっじゃなぁい〜か〜、チャンチャン♪

 ♪どうとんへぇ〜行こぉ〜よ♪
 ♪触れ合う何かがあるかぁ〜ら〜♪
 ♪探していた味覚があるっからっ♪
 ♪・・・・・・ほら、あのお店がぁ〜ど〜ぅとん!♪

 ・・・・・・どちらも道頓堀の「食道楽」の亜流、っちゅうか、柳の下の二匹目の泥鰌みたいな和洋中何でもやってる食堂のコマーシャル。千日堂のメロディや「行こうじゃないか」って言い回しは何だか戦後歌謡っぽくて、ゲルニカの曲にでもありそうだ。今でも店は残ってるのだろうか?
 あの界隈の飲食店のコマソンでは、「浪速のモーツァルト」ことキダタローの傑作、「♪と〜れとっれ ぴ〜っちぴっち♪カッニりょぉ〜りぃ〜♪」や、社長らしきオッサンが歌う「♪た〜んた〜んた〜ぁよぉ〜し〜 いっくよっしたぁ〜よぉ〜しぃ〜♪」が有名だけど、上の二つはもっとはるか古くからあったような気がする。

 ゲルニカといえば戸川純だ、戸川純といえば「玉姫伝」だ、ってコトで結婚式場の「♪た〜まひ〜め〜でんっ♪」は有名だな。これはだいぶ時代が下がって昭和50年前後ではなかったか。団塊世代の結婚年齢がだいたいその頃に到来してるし。

 ♪げ〜っかで〜ん♪(月華殿
 ♪へぇ〜いあんかくっっ♪♪(平安閣
 ♪ク〜ラ〜レ〜しっらっさぎぃ〜♪(クラレ白鷺

 ・・・・・・なんてーのもあった。結婚式が小ジャレたホテルでの開催にシフトし、それに少子高齢化と結婚年齢の上昇が進んで、「総合結婚式場」って言葉自体死語になりつつある現代では、こんなにもコマーシャルが流れてたこと自体、もはや想像もつかないな。

 ♪甘いっお菓子のっ♪
 ♪お国っの便りっ♪
 ♪おとぎぃ〜のぉ〜くぅにぃ〜のぉ〜ロォ〜シア〜のぉ〜♪
 ♪ゆ〜め〜の〜おそり〜が〜運んでくれた♪
 ♪パルナッス パルナス モスクワッの味♪
 ♪パルナス パルナス パルナァ〜〜〜ス

 ・・・・・・もの悲しいメロディがズンチャッチャ〜ズンチャッチャ〜、とスローなワルツのリズムに乗って流れ始める。日曜の朝はこのコマーシャルで明ける感じがあった。特に掲げた4行目、クリシェで下がって行くあたりの節回しの暗さは天下一品で、子供心にも「何でこんなに悲しいメロディなんだ?」といぶかしんだものだ。
 昭和40年代を大阪で過ごした者なら誰でも知ってた洋菓子の「パルナス」も、会社自体が清算されてもう15年近くになる。実は最後まで会社は黒字で、これ以上続けても経営体力が続かないことが分かって、赤字転落して老残の身を晒す前に解散した、というのが何とも潔くも痛々しい。
 あ、洋菓子といえば「コトブキ」「タカラブネ」もいつしか見かけなくなったなぁ。

 ♪げっこぉえん♪
 ♪げっこぉえん♪
 ♪あっ、りっ、まっ♪

 --------有馬温泉いずこでござる?
 --------一山越えればすぐそこに!
 ♪あっりっまひょぉ〜えっのこぉ〜よぉ〜かっくへぇ〜♪

 ・・・・・・前者は「月光園」、後者は「兵衛向陽閣」。どちらも有馬の有名温泉旅館だ。かわいらしい声で歌われるシンプルを極めた童謡みたいな「月光園」、侍に扮した外人が馬に乗ってる「兵衛向陽閣」、どっちも甲乙つけがたい完成度だと思う。

 ♪びわっこおぉ〜んんんせぇ〜えんん〜♪
 ♪ホテェルこぉ〜おぉぉ〜よぉ〜〜〜〜〜♪

 ・・・・・・今は「旅亭」とか称する高級業態に変貌した「ホテル紅葉」も、当時はダサさ爆発の演歌仕立てのこぶしの効いた歌いっぷりのコマーシャルが印象的だった。もう少し飄軽なのでは「ホテッルにゅぅ〜ぅあっわっぁ〜〜じぃ〜♪」なんて洲本の旅館のもあったなぁ。

 ♪や〜っぱり、い〜か〜る〜が〜♪
 ♪いっかっるっがぎゅうぅ〜にゅぅ〜♪

 ・・・・・・ほぶらきんのナンバーにもなった「京阪牛乳」に対して、こっちは大阪中南部が地盤だったせいか、あまり知られてないかもしれない。漢字で書くと「斑鳩牛乳」、月光園にも通じる童謡風のメロディが耳に残る。思えば三角パックの牛乳全盛の頃である。

 ♪といちっ といちっ といちの奈良漬♪
 ♪といちっ といちっ といちの奈良漬♪
 ♪といちっ といちっ といちの奈良漬♪
 ♪といちっ といちっ といちの奈良漬♪

 ・・・・・・汽車のドラフトを模したメロディが印象的な漬物のコマーシャル。延々とこれが繰り返されるのは、「♪スッタイリースタィリー♪」や「♪たかすぎぃ〜〜とぉわかすぎぃぃぃ〜♪」の高杉建設よりも歴史あるループミュージックではあった。あ、そぉいや漬物関係では「彦兵衛の桜漬け」「大安」なんてーのもあったけど、どうにもメロディが思い出せない。

 ♪せがっみやっきょ〜く よっくきっくねっ♪

 今は「マツキヨ」「コクミン」にちょっと押されてるけど、「セガミ」は量販薬屋では古くからあった。他には大声で「目標1427店!」(数字にちょっと自信ない)と怒鳴る「ヒグチ」、なんてーのもあったな。
 大阪は薬問屋の町でもあったので、薬局が他の地方より多かったのかも知れない。さまざまなコマーシャルがあった。今は完全にグループが解体された「ダイエー」もその前身は薬局だしね。

 ♪まんだぁ〜いひゃっかてんっ♪

 今はすっかり目立たない存在になってしまった大阪のスーパーの草分け、「万代百貨店」も、昔は盛んにTVコマーシャルやってたもんだ。

 ♪てっちゃんてっちゃん かねてっちゃ〜ん♪
 ♪ちっくわっとかっまぼっこちょ〜だぁ〜いな〜♪
 ♪へぇ〜いへぇ〜いまぁ〜い〜どぉ〜♪
 ♪あ〜りがっとぉさんっ♪

 ああ、そうだ。やはり関西なら絶対に忘れてならないのは、ここ「カネテツ」だろう・・・・・・そりゃまぁ「別寅」も忘れちゃダメだが(笑)。私淑する故・中島らもがブレイクするキッカケとなったのは、ここのメチャクチャな半ページ広告だったけれど、それさえもが四半世紀近くも前のずいぶん旧聞となってしまった。

 ・・・・・・いくらでも挙げることはできるけど、キリがない。これくらいにしておこう。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この手のコマソン集を集めたCDでも発売されないかな、と真剣に思う。昔の栄光にすがった有名バンドのくだらないベスト盤(初回豪華特典付、笑)なんかより千倍マシだし、よっぽど売れるだろうに。
 きっとそれをおれは、布団に入って、アイスノンを枕に敷いて、そして涙しながら聴くに違いない。



※附記
 コマーシャルとは関係ないが、吉本新喜劇のオープニングも忘れられない。有名なのは「♪ホンワカワッカ〜♪ホンワカホンワカ♪ホンワカホンワカホン♪」ってヤツだが、もう一つ、元祖テクノとも言えるホットバターの「ポップコーン」をそのまま使った方がおれは好きだった。大体覚えているのでそのうちMIDIでコピーしてアップしようかな?
 ・・・・・・と、ここまで書くと、拍手とともにスルスル上がる緞帳のスポンサーだった日本酒「金露」のコマーシャルも書いておかないといけないな。

 ♪さけっはきんろ〜では〜りき〜んろっ♪
2006.11.17

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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