「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
バラせば分かる・・・・・・レストア日記(3)


座敷にて、ギプスで固定されながらも座布団で寛ぐモラレス。

 安請け合いしたおれが悪いんだけど、数本の酒と引き換えにまたもや友人のギター・ベースのレストアを引き受けてしまった。

 オーナーは先日の3本と同じ、悪友のS年である。ちなみに今回は直して返却しなくちゃいけない。彼も大概沢山ギター・ベースを所有してて、昨年も確か2本増えたハズだ。
 ・・・・・・で先日、我が家に持ち込まれたのが前回と同じくまた3本、エレキギター・ベース・アコギが各1本づつだ。今回は現在進行中のそれらのレストア作業をしながら気付いたことを纏めてみようと思う。ちなみにここんトコ、拙サイトの更新頻度が落ちてるのはこの作業に没頭してたのも影響してたりする。

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 まずは1本目、スクワイアのサイクロン。おれの昔のギャラリーにも何故か載ってたりするんだな、これが。20年近く前、伊那の山中でレコーディング合宿と称して集まった時に、マトモに弾けるのが手許にないからって急遽購入した黄色いヤツだ。ご存じない方もいらっしゃるだろうから説明すると、スクワイアってのは80年代末に始まったフェンダーの廉価ブランドで、当初の製造国は日本、その後韓国〜中国と人件費の高騰に合わせるかのように場所を変えながら、今はインドネシアに落ち着いてる。
 サイクロンってモデルについても説明が必要だろう。仮面ライダーとは関係ない。元々はストラトとテレキャスの2枚看板だけぢゃこれから先ちょとヤブァいよね!?ギブソンからの乗り換えも欲しいよね!?でもミディアムスケールってうちに無かったよね!?ってコトで、たしか90年代終わりくらいにけっこう気合入れたブランニューモデルとしてUSフェンダーからこれとトルネードってのが出されたのだ。平たく言うとムスタングとストラトのチャンポンみたいなギターである。
 しかし、自分たちが創り上げてしまった二枚看板の牙城はやはり崩せなかった。トルネードはすぐにディスコン、サイクロンは哀れ格下のスクワイア専用モデルとなって、断続的にリリースされている。USオリジナル、ヨンキュッパとかで投げ売りになってた時に買うときゃ良かったな〜。

 我が家にやって来たのはボディにアガチス材を使用した(Wikipediaにアルダーとあるのは間違い)、見た目だけはほぼほぼUSオリジナルと変わらないものだ。彼のギターの共通の問題で、長年タバコの煙の充満する部屋に放置されてたせいでヤニと埃で表面がゴロンゴロンになってる・・・・・・が、まだ何だかんだで20年足らず、この前持ち込まれたトーカイの金ストラトよりはまだ全然マシだな。年季が足らんわ(笑)。

 早速まずは分解して、そしてスクワイアが安物ブランドである所以が分かった気がした。ネック、軽っっ!ホンマにこれメイプル使ってんのん!?ラワンちゃいますのん!?っちゅうくらいに軽い。そらメチャ薄いサテン仕上げの塗装とは申せ、この異常なまでの軽さは木自体が詰まってなくてスカスカに軽いからに他ならない。トレモロ、うわ!何ぢゃこのイナーシャブロックの薄さは!?オマケにスプリングはホムセンで買えるような妙に硬い金色っぽいアレだし、スプリングハンガーはガチより全然薄いペラペラので出来てる。配線、細っっ!揖保乃糸か!?っちゅうくらい頼りない細いビニール線ではないか。当然中の銅線の本数も少ない。こんなトコをケチって一体全体どれだけのコストダウンになるのか知らんけど、とにかくすべてがちゃっちい。
 これだけ見えないトコを安く仕上げてるクセに、トラスロッドのレンチ穴だけはUSサイズだったりするのもワケが分からん。

 しかし、NTルーターの進歩ってスゴいよね。こんなショボい仕様でもネックポケットの精度は素晴らしくキッチリだったりするし、弦高やらオクターヴ、トレモロの効きなんかを追い込んで調整し、接点のガリ擦って取ったらチャンとした音出るやん。十分、使えますやん。フロントシングル/リヤハムバッキングで、シンプルな1V・1Tの構成も意外に使いやすいし、このまま貰たろかなと思ってしまった。

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 続いてがベース。往年のヤマハBB(・・・・・・ってか、今も看板商品の一つだったりする)のYっての。恐らくは80年代初頭の個体だ。ちなみに「Y」ってのは国産モデルによくある値段を表しており、当時の価格は6万円だったことに由来する。BBっちゃぁやはりスルーネックのハイエンドモデルが当時のアイコニックな存在だったんだけど、これは最廉価ってコトで一般的な4点止めのデタッチャブルになってる。ボディシとヘッドェイプだけですわ、BBなんは(笑)。
 しかしあれから幾星霜、見た目の高級感以外、結局は長期のメンテナンス性に劣るし、音色的にも実はちっともメリットが無いってコトでスッカリ廃れたスルーネックなんで、案外、安物ヴァージョンだったことがコレの命脈を保たせたのかな?とも思う。
 色は当時のヤマハに良くあったレッドサンバースト。作ってたのは寺田かダイナか知らんが、この頃のヤマハの赤ってSGなんかもそうだけど、紅色に近いような深くてやや暗く濃い赤なのが特徴だ。そして赤く塗ってない部分の面積が狭い。

 これも即座にバラす。それにしても何やコレ、タバコだけではない汚れがこびりついとるやんけ。天麩羅でも揚げてる横に放置してたんかい!?・・・・・・とボヤきつつ磨いて行くと、中は大して弾かれてなかったのか傷も殆どない。それに作りが良い。エスクワイアと較べちゃ可哀想だけど、大きな違いはまずズッシリしたネックの重さだろう。同じメイプルでもマジメに「ハードロックメイプル」と呼ばれる重厚で硬質な材を使ってるのが手に取っただけで分かる。ロクに手入れもされないまま40年以上経ってるのに、ヘッド起きや反り・波打ち・ネジレが全くないのにはホンマ感心した。裏ブタ外すと配線も実に綺麗。ムダなくヨレなく、ハンダ付けも実に丁寧だ。シールドのための導電塗料やネックポケットの見えない部分の塗装のはみ出させ方までとにかく美しいのには驚いた。ホント、廉価モデルでも手抜きがない。ジャパンメイドもこの頃はホンマに良かったんだな。

 ・・・・・・が、恐ろしいコトにブリッジのイモネジが1本無くなってしまってるではないか。うわ!こりゃヤマハ地獄やんけ!

 「ヤマハ地獄」とはギター修理でよく言われる問題だ。このメーカー、さすが日本最大にして世界有数の総合楽器メーカーだけあってプライドが高いっちゅうか、オリジナリティに拘るっちゅうか、とにかくパーツ類に独自規格のモノが多いのだ。だから、サードパーティーの汎用品がフィックスしないことがままある。コイツもブリッヂや糸巻き、ピックアップのエスカッションからカバーまで全部オリジナルの型なんで、その辺が壊れたら自作するとか、ムリヤリ削るとか穴空けるとかしないと合わない可能性が極めて高い。
 ・・・・・・でイモネジ。まぁこれくらいは探せばあるやろ、とノギスで採寸してみると、とにかく一般的なのは入らなさそうなことだけは直ちに判明した(笑)。こんなちっこい部品にまで拘るなよな〜、ヤマハさんよぉ〜!

 そんなんで今は今はまだお休み中だ。まぁ錆びた接点の復活やフレット磨きといった、簡単にやれることをまず済ませよう。しかしこの特殊なイモネジ、果たして入手できるんやろか・・・・・・?

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 3本目が冒頭の写真にあるモラレスのフォークギターである。モラレス!?何やそれ!?って言われる御仁も多いだろう。おれも名前だけはまぁ知ってたけど、実見するのは初めてだったりする。泥縄で調べてみると、あのゼンオンが70年代に出したフォークギターのブランドで、現役時代から既に「モーリスのパチモン」なんて不名誉な呼ばれ方されてた、ちょっとイタいブランドだったようだ。マーチンのパチモンのそのまたパチモン呼ばわりってアータ、立つ瀬ありまへんがな(笑)。
 しかし、痩せても枯れてもゼンオンも音楽系では老舗にして大手である。矜持もあったに違いない。マーチンにムチャクチャ詳しい人を監修に招いたりしてテコ入れを図りつつ、なんとか80年前後まで存続してたみたいだ。

 やって来たのはライアーバードってペットネームのシリーズで、ビギナー向けとしてはかなりハイスペックで意欲的な仕様と戦略的な値付けだったことが判明した。ネットはホンマに便利やね。不思議なコトにサウンドホールの中に通常貼られる型番等を示すラベルがなく、推測でしかないけど、恐らく3機種のうちいっちゃん安い1万8千円のM−18ってモデルだと思われる・・・・・・が、仕様はバカに出来ない。ネックこそナトーとは申せ、トップにはエゾマツ、サイド・バックは合板ながら今はワシントンなんちゃらで簡単に使えなくなったローズウッドなのだ。ブリッジも指板も、ついでに言うならヘッドの突板までも廉価モデルとは思えないほどに綺麗なローズが使われてる。要はインレイとかパーフリング、バインディングといった部分での装飾が少ないだけで、基本的なトコはとても真面目にカッチリ作ってあることが伺われる。

 ところが、だ。そうは易々と問屋が卸してくれない。実に半世紀近く弦張ったままケースに入れて放置されてたそうで、恐ろしいほどのトップ浮きが発生してやがる。逆にそれでネックは殆ど反りもせずほぼ真っ直ぐだったっちゅうのは不幸中の幸いかも知れないが・・・・・・。
 物差しを当ててみると、弦の張力に負けて実に3cm近く表板がドーム状に盛り上がっちゃってる。ジャズのアーチトップのフルアコかよ!?こりゃもぉ治すには上から重し掛けてプレスするしかあらへんがな。
 取り敢えず弦を緩めて外すと1cm少々にまで下がった。彼のギター名物のタバコのヤニはほぼないけれど、とにかくこれは難物だ。木材ってのは、経年変化で水分が抜けて段々セルロース化っちゅうのが進んで、一種の結晶状態になって行く。買ってすぐならともかく、かれこれ50年である。こりゃ間違いなくそうしてかなり固まっちゃってる。ナンボ裏から湯でふやかしてプレスしても上手く行く保証はない。ヘタすりゃパックリ割れるだろうし、そもそも使われてる接着剤が水濡れに耐えるのか?もし表板が合板だったらプライが安普請の廃墟の天井板みたいに剥がれやせんのか?何処にも、何一つ、保証はない。

 壊れても文句言いません、ってな言質を一応取って、熱湯でビチョビチョにしたタオルをサウンドホールから突っ込む。乱暴だけどそれしか方法がないのだ。当然ながら熱い。タオルが冷めたらまた熱いのに取り換えてを何度か繰り返して約1時間、おぉ!少し木が軟らかくなって来た気がするやんけ。表から押すと最初よりは少しペコペコしやすい。
 今度は角材を上下に当てて太い輪ゴムで挟んでゆっくり締めて行く。クランプを使うよりは締め付けがジンワリと効きそうなんでゴムにしたのだ。ん!?今なんかどっかバキとか鳴らんかった!?・・・・・・まぁもぉここまで来たらGo!Go!Go!Goes On!ヤルしかないやん。いてまえ〜っ!ってまるでタイガースやな。
 その内、ほぼほぼ角材と表板がピッタリくっ付いた。要は押されてフラットになったってコトだ。ここでさらにダメ押しで、座敷に持ってって角材の上に重たい座卓の縁を載せる、丁度良い具合に脚と角材で挟まれたギターの高さは前者が数ミリ短いだけなんで圧は掛かるし、押し潰すことも無いだろう。さらに座卓の上にこれも重量級の高麗螺鈿の座卓を載せ、も一つ上にパンフレット系が詰まった激重の段ボールを載せる。
 そうして改めて新品の弦を張る。要は弦外した状態で固めるよりは、テンションが充分掛かった状態でやった方が良かろうって目論見だ・・・・・・いや、何の根拠もないんだけどさ(笑)。

 さてさて、どうなるかはお楽しみ、っちゅうやちゃね。

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 楽器だけでなく、古いものをレストアするのって辛気臭い作業ではあるんだけど何だか楽しくもあり、そしてシミジミとする。今住まうこの家だってそうだ。逆立ちしたって最新のには機能的に敵うワケない。夏暑く冬寒く、ヘンなトコに電気のスイッチあったり、ムダが多かったり、色んな使い勝手も決して良くはない。それは分かってても、とにかく快いのである。

 そんな大上段に構えてエラそうに大量生産/大量消費社会どぉこぉと批判的に講釈垂れる気はないけれど、ヘタすりゃそのままスクラップになってたモノに再び命が吹き込まれて再生するって、何とも心が和むことは紛れもなく事実だ。「物を大切に」とは、単に奢侈や浪費を戒めるだけではない別の深い意味があるのではないかとさえ思えて来る・・・・・・と、たまにはマジメにオチなしサゲなしで。

2024.03.10

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