「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
金継ぎ・馬蝗絆ギター・・・・・・レストア日記(2)


接着剤+カスガイでガチガチにくっ付いたボディ。上の右の方に新たに見つかった亀裂も見える

 前回、素人レストアについて書くうちに何だか妙にヤル気が出て来て、ついにボディがパックリ割れたストラトの再生に着手することにした。

 ジャコ・パストリアスが自分でフレットぶっこ抜いてカスタマイズした伝説的なジャズベ、通称「ベース・オブ・ドゥーム」は、彼が晩年、重篤な精神障害を患ってた煽りを喰らって、ケンカか何かで激昂した彼自身によって叩き壊され、8つのピースにバラバラになったそうだが(・・・・・・何ちゅう怪力やねん!?)、見事に修復されて今なお現役だったりする。何でも今は遺族からメタリカのベーシストに託されてるらしい。意外やねぇ・・・・・・メタリカって。
 それに比べたら2つに割れてるくらい何とかなるやろ。

 ・・・・・・ってなワケで今回はトーカイのストラトコピー、正しくは「シルバースター」の再生記録である。

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 まずとにかくはバラしてみる。

 仕様としてはチャンと作ってあるんだよ。ホンマ、あの80年代の品質最悪だった本家よりもよほど真面目に作ってある。そりゃぁ訴えられもするわ。
 恐らくは1962年のスラブボードからラウンドボードにネックが仕様変更された辺りの現物を、愚直なまでに忠実にコピーしてると思われる。12フレットのポジションマークの間隔がミョーに広いのまでキッチリコピーしてたりする。そりゃぁ普及品グレードのちょっと上くらいのだからピックアップはブラックボビンだったり、シールドのアルミ箔が何かちょっと少なかったり・・・・・・と、見えないトコでコストダウンは図られてるけど、ザグリや配線の丁寧さには舌を巻いた。トレモロブロックもダイキャストではなくズッシリ重い鋳鉄が奢られてたりして、ガチでドンズバレプリカ・・・・・・どころか最早クローン作成に励んでたのが良く分かる。
 ボディは恐らく当時のそれくらいのランクだとセンだろう。アッシュやアルダーではないと思う。セン、最近ボディ材としてあんまし聞かなくなっちゃったけど、ワシントン条約以降の得体の知れないボディ材よりは余程良かったとおらぁ思うな。また使えば良いのに。ネックはメイプル、良材を使ってるのは30年間弦張りっぱなしで放置してたにもかかわらず全くヘンな反りや捻れが生じてないことからも伺える。

 中途半端に繋がってたボディをまずは割ってみる。メリッとかイヤな音立てて完全に二つになった。その状態で一度合わせてみるがやはり予想通りピッタリとは合わない。割れてた部分が永年空気に触れてたせいで若干収縮を起こしちゃってるのである。木ヤセっちゅうやっちゃね。着痩せちゃうで。
 さぁどうしよう?・・・・・・変に削ったりしてすり合わせたらパーツ付かなくなるし、こりゃもぉ隙間部分に接着剤を充填するように厚塗りして合わせるしかない。そんなんで、木工用では最強のヤツをホムセンで探して貼り合わせ。まぁ、ブリッジからネックポケットの辺りがキチンとくっ付きゃ何とかなるだろう。

 太いゴムバンドでグルグル巻きにして3日ほど乾燥させる間に、錆びた接点磨いたり、ネジやら何やらのパーツ類をチマチマと磨く。いやしっかしどんなけヘビースモーカーやねん。あらゆる隙間にヤニが侵入してこびりついとるではないか。糸巻きはブン投げられたせいで1弦が激しく曲がっちゃってネジもバカになってるんで、ゴトーのリプレイス品をこれは新品で注文。乾き切った指板は何度も何度もレモンオイルを刷り込むうちに汚れも落ちて艶が甦って来た。それにしても目の詰まった良いローズ使ってるねぇ。

 そんなこんなで3日経った。接着面はガッチリくっ付いてるようだ。ボディ叩いてみても最初来た時のようにパコパコしてない・・・・・・が、よぉ〜く見ると細くクラックがもう一本隣を走ってるではないか。中まで割れてるかどうかは分からないけど、このままでは不安要素を残すことになってしまう。
 さぁどうしよう?・・・・・・隙間にスポイトで接着剤注入するとか、ここも割っちゃうとかいろいろ悩んだ挙句、当初の第二案の鎹で繋ぐことにした。「子はかすがい」のカスガイですな。巨大なホチキスの針みたいなヤツ。これなら接着部分の補強にもなるだろう。コイツも随分探して、結局小物の合わせに使う「糸カスガイ」ってのがサイズ的に合いそうなんでまたまたホムセンへ。
 こんなん打ち込むより、タッカーで針をオネーチャンの乳にでも打ちたいなとボヤキつつ、見えなくてかつパーツに干渉しない箇所を探して下穴開けてから木槌でコンコンと何本か打ち込んで取り敢えずは完了。

 割れ目をパテ等で埋めて再塗装することも考えたけど、もぉこのままの見てくれで残すことにした。そこまでやるんならいっそ新しいの買い直すって。

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 組み上げて、新しい弦張って、早速アンプに通してみて・・・・・・そして驚いた。エエやんか!これ!全体的に何だか音が太くなって、低音の締まりはむしろ良くなった気がする。ドスの効いたゴリッとした感じやね。歪ましてもやはり感触は変わらず、シングルなんだけど線は決して細くない、芯のある音だ。多分、力の掛かる部分をガッチリ接着剤やカスガイで固めたのが結果的には良かったんだろう。割れ目はそのまま残っちゃっててブサイクだけど、全然現役で使えるで。

 瀬戸物の世界には「金継ぎ」と呼ばれる修復法がある。破片を漆その他を接着剤にして繋いで、その割れ目に沿って表面に金粉を塗るのが一般的だ。最近はSDGsとやらで、ヒマなオバハン相手に各地で「金継ぎ教室」まで開かれてたりしてケッコー流行ってる。調べてみると、この技法は日本で発達したのだが、それまでは「馬蝗絆」っちゅうて小さなカスガイで繋ぐ技法が中国にあった。
 それで却って枯淡の味わいが増したとかナントカで文化財指定されてるのもあったりする。まぁ趣味人とはそぉゆうモンだ。

 ・・・・・・結果的にこのトーカイストラトコピー、金継ぎと馬蝗絆の両方をやったってコトになるし、それで枯淡の味わいはともかく音が大化けしたんだから似たようなモンだ。そぉなんだけど、国宝に指定されたりはまかり間違ってもないよなぁ〜・・・・・・あぁ残念。


見事、復活!!・・・・・・エエ音しまっせ。

2023.11.23

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