「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
レストア日記


大変なコトになってますなぁ〜・・・・・・。

 古いのだと制作されて350年くらい経ってるストラディバリウスが、未だに世界の第一線で現役楽器として活躍してるコトから分かるように、木製楽器ってのはそれなりにキチンと補修さえしておれば実はかなり長持ちするモノだったりする。350年っちゅうと分かりにくいけど、日本で言えば徳川家綱の時代だっせ。スゴい思いません!?
 ましてや芯まで木が詰まってて、かつ構造が比較的単純なソリッドボディのエレキギターとかベースなんてもぉ、実のところひじょうにタフだったりする。問題はまだ生まれて80年くらいしか歴史がなくて100年単位のオールドを誰も試せてない、ってコトだけだろう。

 カビて腐蝕したり虫に喰われたりさえしなければ、ムチャクチャに長持ちすると思う。ネック反ったり捻れたらどぉするん?ネジ穴バカになったらどぉするん?とかの意見がありそうだけど、それに掛かるコストや手間はともかく直せば良いのであるし、大抵は直る。ピックアップの磁力が抜けてしまったら流石にそれは厳しいけれど、いくらでもリプレイスメントパーツは揃ってる。そして、不思議なコトにある程度古くなったギターって良い音で鳴ってくれる・・・・・・ような気がする。

 新品のギターを卸すのも楽しいけど、中古には中古の味があってこれも楽しい。ウソかマコトか耳の鋭い人になると、前のオーナーがどんなキーで良く弾いてたか分かるとか言うが、当然おれにはそんなの分からない。まぁ肘の当たる部分やピックガードのスクラッチ傷、ステッカーの跡なんかで、これまでどんな風に弾かれてたとか想像を巡らせるくらいだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・こっちに越して来て、新たにギターが3本増えた。

 ヨメからエエ加減整理しろ!アンタの友達引っ越して家広ぅなったんやて!?弾いてへんギター上げたらエエやんとか言われたとか何とかで、悪友のS年が持って来たのだ。何が引っ越し祝いや!?(笑)
 1本はかつてしばらく預かっててやっぱ返してくれって言われて戻ってったトーカイのレスポールコピー。お約束なチェリーサンバーストではなくタバコサンバーストなのが如何にもヒネクレ者の彼らしいチョイスだ。2本目がこれもかつてギャラリーの番外編で載せたリッケンバッカー#325のコリアンメイドの怪しいコピーモデル。そして3本目がバンド時代、彼がメインで使ってたこれまたトーカイのストラトのコピーである。ゴールドボディにスラブボードのローズネックだから、60年あたりのデッドコピーだろう・・・・・・あ!これも番外編に載せたっけな。ともあれどれも40年くらい経ってる立派なオールドではある・・・・・・間違っても「ヴィンテージ」などとは呼べない代物だけど。

 まぁ状態はヒドい。ヒデぇモンですわ。弦等の消耗品が錆びまくってたり、電装系が接触不良起こしてたりは当然として、煙草のヤニやら埃やら積もりまくってゴロンゴロンになってるわ、指板は乾き切ってるわでサイアクだ。救いは目視でハッキリ分かるほどにネックが狂ってなかったコトと、フレットの減りに極端な偏りがなかったコトだろう。流石におれの貧弱な機材と技術でそこまで修正や交換は出来んもんな。

 まずは比較的状態がマトモなレスポールから。取り敢えず弦を外し、ボディやら指板をワックスやらレモンオイルで何度も拭き上げる。指板にはナンボでもオイルが染み込んで行くが、柑橘系オイルはどうせ乾くんだし、ナサケ容赦なく何度も塗り込んで行った。ネジだけで外せるエスカッションやブリッヂ、テールピース、ストラップピン等も取り外す。ペグは回した感じグリスの固着も起きてなさそうだし、ネジ細くてナメるとまずいので磨き倒すだけにした。金物系もメッキが浮くほどの腐蝕は無さそうなので同じくピカールで磨き倒す。欠品してたセレクタースイッチのノブを付け、一部錆のひどい細かいボルトはチマチマとピカール塗ったウエスの上でこすったりして、パッと見はまぁまぁ見れる状態にはなった。
 いやしかし、80年代初頭の国産レプリカって異様なまでに水準高かったってのが改めて分かる。まず何より木がチャンとしてる。別段トラ杢ではなくプレーントップなんだけど、トップのメイプルにマジで堅いのんをブックマッチで使ってるのね。ブリッヂのスタッド穴なんかまったくビクともしてない。指板のローズにしたってホンマ、目がシッカリ詰まってキメの細かい材が奢られてて、こんなんが定価7万かそこらで売られてたのはホント良い時代だった。マホガニーもどうやら往年のギブソンを研究しまくってたトーカイらしく、ネックとボディで若干使い分けしてるように見える。
 ネックを若干調整し、オクターブもキッチリ合わせて弾いてみる。2弦が若干ビビリ気味なのはナットだろう。まぁこれは弦高でダマシといてそのうち交換したらエエか。

 いやしかし、ごっつエエ音するやん、コレ!ピックアップもそこまでヘタッてないし、クリーン/歪み、どっちも全然OK!まだまだ現役で使えまっせ・・・・・・そんなんで今は、若干フレットが厳しくなって来たフライングVを差し置いて、SGに続く2番手ギターとして鎮座してたりする。ぶっちゃけ焼鳥やMRより弾きやすいし。

 続いてはリッケンコピー。ソックリの書体でブランド名が「RockerLennon」ってナカナカ笑わせてくれるよね。たしかおれが大阪の楽器屋で見付けて、どぉよ?!って勧めたら、しばらくしてホンマに買うて来たヤツだった。イチキュッパ、だったっけ。
 国産エレキを愛して止まなかったDr.シーゲルこと故・成毛滋氏は、リッケンのコピー品を「一見バッカ―」と呼んでたそうだが、コイツは見た目だけはほぼ完璧だ。60年代国産の怪しいのよりは千倍コピー度は高い。80年代くらいから世界的にNCルーターが普及したコトで、とにかく形だけはオリジナルに忠実なのがカンタンに作れるようになったからである。当時は恐らく8ビットだったんだろうけどね。
 ただ、初期の半島製や大陸製は品質管理が根本のところでおかしかった。おれのダンエレのダブルネックの12弦側のブリッヂがスケール間違えて付けられてたように、そもそもギターを触ったこともないような連中がメカニズムとか理屈を全く知らないまま漫然と拵えて、とにかく見た目が大体OKなら出荷してたんだろう。そんなんでコイツは、ナッシュビルタイプのブリッヂなのに肝心のスタッドを支えるアンカーが打ち込まれないまま市場に出た、っちゅうとんでもない代物だったのである。穴がガバガバだから当然チューニングは全く合わない。合うワケがあらへんわな。だって手でちょっと触っただけでブリッヂがズレるんだもん。
 ガワはトーカイ・レスポ同様、拭いたり磨いたりすれば何とかなるが、とにかく細いスタッドの3倍くらいある穴を何とかしなくちゃいけない。いやまぁ苦労しましたわ。一体どんな採寸してるのかガチのナッシュビルは入らない。もぉいっそメイプルの丸棒で埋めてやろうかとも思ったが、そもそもメイプルの丸棒なんてカンタンに手に入らないし、そこにスタッドの穴を正確に垂直に穿つのはおれにゃぁムリだ。
 半ばキレ気味に三国製には三国製ちゃうんか・・・・・・と今やパチのデパートと化してるAmazonで調べまくったらワハハ、ビンゴ。現行の2点支持トレモロのストラトのパチモンアンカーの中に丁度はまりそうなのが見つかった。早速注文。木槌で慎重に叩き込むとホンの僅かにユルい気もするが、まずまずピッタシだ・・・・・が、今度は元からのスタッドが全く入らない。見るとメチャクチャにピッチの粗いネジだったりする。一方の取り寄せたアンカーはパチとはいえそれなりに進化もしてて、ちゃんとインチスケールと思しき細かい溝になってる。それで続いてはホムセン詣で。ステンレスの6角ボルトで合うサイズが見付かったので仕方なくそれを購入。取り敢えずブリッヂも入ったんで細かく調整したら、コード一発でチューニングが崩壊するコトもなく、それなりに正しい音程は出るようになった・・・・・・が、どう考えてもコレ、音がリッケンちゃうやん。その対極にあるような、どうにも高域のヌケないモサモサした音だ。
 目下一番の問題はしかし、ブリッヂから5cm以上飛び出したスタッドボルト代わりの6角ネジをどう切断するかだったりする。とにかく弾いててジャマだ。ステンレスは堅いし、鉄工所を探すしかないな・・・・・・。

 3本目のストラト、もといトーカイ・シルバースター・・・・・・実はコイツにはまだ手を付けてない。あまりに重症で迂闊に手を出せないのだ。ペグが見事にひん曲がってるのは、まぁゴトーか何かを買えば済むことだが、何せボディがネックポケットからエンドピンあたりまでパックリ割れちゃってる。それがブリッジやピックガードで辛うじて繋がってるだけ、っちゅうとんでもない状態なのである。原因はライブで投げすぎたことで、それではしなくもボディがワンピースであることだけは判明した。実に勿体ない話ではある。

 作戦もクソも、とにかく泣き別れのボディをくっ付けるしかないんだけど、恐らく永年その状態で放置されてたから、割れた面で材に縮みが発生してるハズだ。実際、手で左右を押し付けても何となくピッタリ合わさらない。そうなると接着剤自体を厚く盛って一種のパテのように使うとか、おが屑の細かいのを混ぜ込むとかしないとダメだろう。鎹をいくつも叩き込んで繋ぎ合わせるっちゅうテもあるな。
 それで強度が保てるのかどうかは何とも自信が持てない。ましてや楽器としてそれなりに使えるのかも分からない。まぁとにかくヴァン・ヘイレンのフランケンギターもビックリの真のフランケンシュタインみたいになることは必定だ。接着剤にしたってタイトボンドとか膠が必要になって来るんだだろうが、生憎そこまで本格的なモノはおれの手許にないし、そこまで時間と金を投資するだけの意義があるのかも甚だ怪しい。どうしよう?

 でもこれも元々の素性は良いギターだった。やはり80年代初頭、レプリカブームが爛熟期に向かう頃の製品で、見た目だけでなく中の材まで良いモノ使ってある。ただ、指板Rまで忠実にコピーしてあって7.5インチなのはいささか弾きにくくて閉口するが。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本当のルシアーみたいな人に聞かれたらフルボッコでハリ倒されそうな、マコトに稚拙でお粗末なおれのレストアではある。それはよぉ〜く分かってる。しかし、死にかけてた楽器が再生するのは、厄介払いで体好く押し付けられただけやんけとかナントカぼやきつつも何だかんだで楽しいし、キチンと組み直してシールド繋いで、他のフツーに弾いてるのと比べてもさほど遜色のない音が出た時、素直に「あぁ、良かったなぁ〜」って思える。

 しばらく前、付喪神について書き散らかしたことがあったけど、こうしてギターをレストアしながらふと思った。

 付喪神となった打ち棄てられた道具が修理されて再び道具として息を吹き返した時、彼等は一体どうなるんだろう?めでたく成仏か?凄い道具に進化するんか?何か恩返ししてくれるんか?・・・・・・って、つくづくおれも欲やな。

2023.11.10

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved