「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続々々・たかがピック、されどピック


今回、一気に弾き比べてみた厚め・堅めなピックの数々。いつも使うのは左上の2枚。
今となっては入手困難なのも交じってます。


 それでも止められないのがピック遍歴、っちゅうヤツなんだろうなぁ〜・・・・・・いや、分かっちゃいるんだ。ちょっと替えたくらいで、今さらヘタなギターが劇的に上達する訳でもないし、SGをテレキャスに持ち替えたくらい音が変わるワケでもないって。

 ・・・・・・にもかかわらず今なお楽器屋を覗くと何か新しいのはないかなぁ〜?って、格子の升目に色とりどりのピックが並ぶのをあぁでもないこぉでもないってしなりとか確かめつつ、ちょっとワクワクしながら選んでる自分がいる。そうして何種類か買っては、家で弾いて一喜一憂してたりするんだから、ホンマもぉいつまで経っても精神構造はガキのままだ。まぁ許してぇな。稚気溢れる可愛いおっさんやん、1枚100円やそこいらのモンで嬉しくなってんだから。

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 しかしもぉメインのピックはオーダーして大量にあるウルテムの黄色いジャズタイプから全然変わってない。厚みについて最近精密に測れるノギスを入手したんでチャンと測ってみたら1.2mmだった。色々別のを試しても、結局これに帰ってしまうんだな〜。それくらいにこれは快適だ・・・・・・別に不良在庫状態で困って仕方なくとかぢゃないよ。マジでこの黄色いウルテムはスグレ物だと思う。

 まずは持った感じが良い。ツルッとスベスベしてるにもかかわらず指にシッカリ吸い付いてくれるんで、ピックが不用意に回ったりしにくい。特にエンボスだとかサンドブラストといった表面加工はしておらず、ロゴも何もない無地なんだけど、不思議なコトに軽く摘まむようにしてもそれなりにホールド感がある。このおかげでピックとしてはかなり厚めなのに、ソフトに弾くことも出来てしまう。もちろんガッツン・ゴリゴリだって可能でひじょうに扱いやすい。
 そして削れにくい。「耐摩耗性」っちゅうやっちゃね。昔ながらのセルロイドピックだったら1曲で削れてしまうようなパワーコードでズンズンとリフを弾きまくっても大して減らない・・・・・・まぁもぉそんなのはあんまし弾かへんけどね。これより耐摩耗性に優れてるのって樹脂だとアクリルとかトライタン、後はもう金属製くらいではなかろうか?
 そして何より音が良い。おらぁとにかく鼈甲がピック素材としてこの世で最も優れてると思ってんだけど、ウルテムは鼈甲と殆ど変わらんのとちゃうかな?音の立ち上がりとかクリスプ感とか粒立ちとか、手持ちの鼈甲と較べてみても遜色がない。クッキリ・ハッキリしてるのに太くて暖かみがある、とでも言えば分かっていただけるだろうか。適度な「モッタリ感」みたいなんは案外、ピックにとって大事なファクターなのかも知れない。

 ちなみにこのピックのオーダー先、岐阜の郡上八幡にある池田工業ってトコが東京の「L’sTRUST」ってギター工房とのコラボでエラくリキ入れて出した、「MASTER8JAPAN」ってのも素晴らしく出来が良い。1.5倍くらい値段は高いものの、それ以上の価値がある気がする。「インフィニックス」っちゅうウルテムの耐摩耗性をさらに上げたような素材で、ケルトの組み紐模様みたいなロゴの上に密教の輪宝を思わせるデザインの滑り止め加工がされてる。
 これも1.2mmのが手許に2枚ほどあって同じように使ってるが、とにかくこれがもぉ呆れるほど減らんのよ。ホンマにスゴい。ただ、その分硬度はさらに上がっており、黄色いフツーの(!?)ウルテムに較べると音がちょっと冷たい気がするのは好き嫌いが分かれる点かも知れない。シェイプもほぼ同じながら若干こっちの方が角が立ってて、エッヂの処理なんかもやはり少し角張った印象だ。

 いずれにせよシェイプは所謂ジャズタイプばっかしになっちゃったなぁ〜・・・・・・ジャズなんて全く歯が立たんのに。

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 ピック開発で近年攻めてるのはやはりイバニーズだろう(・・・・・・おらぁ古い人間なんで。これからも「ア」イバニーズって呼ぶことはないやろね、笑)。開発スタッフにかなり変態、もとい常人には及びも付かない奇天烈な発想の人がいるのかも。

 まん丸のピックとか、ゴムとプラスチックの中間みたいなムニッとしたエラストマーって素材のピック、果ては何だか銀杏の葉みたいなエルゴピック等々、ぶっちゃけキワモノっちゅうか、いささかマトモでないピックを次々世に問うてる印象がある。イチイチ付き合うおれも相当の変態だな。
 実際弾いてみると、どうやらどれも専らベーシスト向けに作られたんぢゃないかって気がするのんばっかしだ。エラストマーなんて通常のエレキのプレーン弦だと細すぎて、食い込んで引っ掛かりまくるもん。これがベースだとまるでナイロン弦の指弾きみたいなボヨンとした音になって、シブいジャズなんかに似合いそうだ。まん丸もそんな印象やったな。
 エルゴピックは指先に加えて人差し指の第二関節、中指の付け根でシッカリ握ることを想定してるらしい。面積で言うとジャズタイプの4倍、定番のオニギリピックの2倍くらいある。三味線の撥を小さくしたようにも見える途轍もなくヘンなピックだ。「誰がカバやねんロックンロールショー」の家紋料を想い出したで・・・・・・ともあれまぁ、おれには合いませなんだわ。

 そんな中で最近購入した上掲のトライタンって素材のは少しだけ気に入った。シェイプ的にはオーソドックスでオニギリとティアドロップ、あとはポール・ギルバートのシグネチャーピックの形の3種類が売られてる。おらぁ後者のを試しに買ってみたが、ウルテムより少し柔らかい、っちゅうか独得の粘りのあるしなり方をする。ここが好き嫌いの分かれ目で、細かい動きのできるテクニカル系の人にはこれが「まとわりつく感じ」とか「弦離れの悪さ」に感じられるかも知れない。
 ただ、残念なのは何の理由があってか片面が梨地になっててこっちがどうにも滑りやすいのと、エッヂの処理が妙に角張ってて滑らかさに欠けることだろうか。この辺がもう少し緻密に作り込まれれば、もっと手に取ることが増えるかも知れない。

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 そうだ!変態、っちゃぁヤッパシ八ッ橋、V−Pickにも触れとかんとアカンだろう。

 一時期のアタマおかしいんちゃう?っちゅうくらいの極厚ピックの流れの中で出てきたアメリカのハンドメイドのアクリル製ピックだ。エクストリームな極厚系ではGravityと双璧をなすんぢゃないかな。ちなみにGravityは分家筋らしいが。
 その特徴はとにかく分厚い、エッヂの処理が独特、ガラスの破片のように透明、ってコトだろうか。そして見た目の異様さとは裏腹に恐ろしく弾きやすい。
 極厚ピックでは昔からジム・ダンロップに「STUBBY」ってのが定番にあったけど、おらぁこれがとにかく弾き辛くって、あまり良い印象を持ってなかった。特に真ん中にディンプルの付いたのが弾きにくく、逆に小さすぎて弾きにくそうな小さいヤツが弾きやすい、っちゅうヘンなピックである。ハマる人はムチャクチャにフィックスするみたいだけど、どうにもおれ的にはエッヂの処理がなだらか過ぎて馴染めなかったのだ。
 あと、デュガンのハンドメイドやそのコピー品らしきナカノの水牛の角やら石やらを使った特殊なシリーズもも一つ馴染めなかった。これを書くに当たって手持ちのを出来る限り拾い出して並べて試してみたんで、そんなに印象に間違いはないが、ま、とにかく言えるのはおらぁジャンゴ・ラインハルトにはなれそうもない、っちゅうこっちゃなぁ〜。

 いやしかし、破格の「どれでも1枚100円!」のワゴンセールやってんのに遭遇しなけりゃ一生無縁のままでいたろう。だって、定価だと600円とかすんねんで。弾いてりゃいずれは削れる消耗品にそこまで払えるほどの御大尽ちゃいますわ、わたい。ちなみに円安の進んだ今はさらに値上がりして、1枚1,000円くらいする。とんでもない代物と言えるだろう。
 たまたまそんなチャンスがあったんで、大きさや厚さ違いで4枚買ってみた。買ったのでいっちゃん分厚いのは2.75mmだが、ラインナップでの最厚は実に1cmを優に超える11.85mm!!何かもぉクリスタルで出来たオブジェみたいだ。スワロフスキーやバカラが作ってそう。これは元値が3,000円くらいするんで流石に安売りしてなかったが、この厚さって最早弦と弦の間隔よりも広かったりする。

 ・・・・・・でそんなV−Pick、これがとにかくすんげぇエエんですわ。値段だけのことはある。上述の通り弾きやすいし、独得のアタックの明瞭さやクリーンさ、ツブ立ち、ヌケがとても心地良い。それも1.5mmとかの中途半端な厚さよりより分厚い方が間違いなく弾きやすい。最早これは謎でさえある。やはり一枚いちまい丹念に手で研磨すると言われるエッヂの取り方に何か秘訣があるんだろう。いや〜もぉ快適快適♪

 しかし大きな問題があることにその内気付いた。やはり極厚ゆえのクセがあって、これでばっかし弾いて馴染んでしまうと他のでサッパリ弾けなくなっちゃうのだ。今のは偶然安く買えたから良いものの、本来は1枚1,000円!ナンボ何でもそんなんおいそれと普段使いにできますか?っちゅうねん。

 ・・・・・・結局、何時の間にかウルテムの黄色いのに戻ってるおれがいる。このカンジ、何だか通い慣れた町中華の味みたいでとても良いんぢゃなかろうか。

2023.05.02

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