「ナスビ系」の興亡 |

左、実はナスビ系の元祖ではないかと睨んでるグレッチのデュオジェットのWカッタウェイモデル。色がもうナスビ(笑)。
右はグレコ初のオリジナルシェイプだったRW−700。

以前も紹介したヤマハのSGとSX。SGの方は最初期モデル。
却って弾きにくくなってんぢゃねぇかっちゅうくらい、SGのネックの受ける部分が異様に物々しいのは注目ポイントかも。
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https://gakki-de-genki.com/、https://page.auctions.yahoo.co.jp/、https://reverb.com/、https://aucfree.com/より
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・・・・・・あ、いや、おれが勝手にそう呼んでるだけです。おれにゃぁどしてもナスビに見えちゃうのだ、これ。まぁ人によっては「イカ」に見えたり、オバケのQ太郎の弟である「O次郎」に見えたり(・・・・・・逆立ちやな、笑)もするみたいだけどね。上に挙げたグレコのRW−700なんて、白モデルだと何となくクリオネに見えたりもするな(笑)。
最初にこの「ナスビ系」についての定義をしておこう。おれの考える条件は以下の通りだ。
●ダブルカッタウェイであること。
●完全に左右対称なフォルムであること、
●左右に飛び出たツノが「ヘタ」のように尖り気味で小さいこと。
●ボトムがしもぶくれで大きいこと。 |
だから#335等のセミアコは左右対称なんだけどツノが丸くて大きいんでちょと違うし、一時期出てすぐに消えたレスポールのダブルカッタウェイだと左右対称になってないのが当てはまらない。SGも微妙に左右でオフセットしてて形が違うので、カテゴリーからは外れる。往年のハマーなんかもそうだな。またVOXの便器や矢沢の琵琶ベースは左右対称でも角がないんでアウトっちゅうことになる。ツノの大きさで言うと上掲のヤマハのSGでギリギリ何とかセーフってトコだろうか。でもここまでツノ部分の下回りが大きいと、ナスビっちゅうよりかは子供の描くチューリップに近いな。
実はおれ、この形がとても好きだったりする。しかしながら現在は決して各社のラインナップに多くはない・・・・・・ってか、海外のメーカーでナスビ系は昔からあんまし流行ってない。国産メーカーで70年代半ばからの10年くらいに亘り、懲りずに何度もリリースされた、ってのがぶっちゃけ正直なトコだろう。いわば「狂い咲き」のような存在だった。
しかし、まだ中学生だったおれがエレキギターっちゅうのんに興味を持って、それで繰り返し繰り返し熟読してたギターのカタログには、欧米のコピーを脱却しようと国産オリジナルでのハイエンドモデルとして、このナスビ系が誇らしげに大きく最初の方に紹介されてるのが常だった。そうしてどこか刷り込まれてしまったのだ。
加えて、南海高野線の金剛の駅の裏にあったダイエーのレコード屋兼楽器屋で、他のフレッシャーとかはみんな店頭のスタンドに十把一絡げで並べられてるのに、唯一、奥のガラスのショーウィンドウに金管楽器なんかと並んで大事そうに吊り下げられてたのがグレコのMR(今から思えば、ナチュラルカラーで鉄格子を思わせる奇妙なカバーのピックアップが付いてたんでMR−800やったな)だった、っちゅうのもこの刷り込みに大きく影響してる。
今回はそんな「ナスビ系」についてのおれなりの拙い考察と、現状と今後について述べてみたいと思う。勝手な思い込みと思い入れ、また勘違いがタップリ詰まってんで、ホンマかどうかは知らんけどね。
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そもそも「ナスビ系」が生まれるにはそれなりの必然性っちゅうか、いくつか背景があったんぢゃないか?とおれは睨んでる。あくまで私見なんだけどちょと列挙してみよう。
1つはロックってモンが一般化する中で、曲中のお約束であるギターソロを弾き倒すのにもっともっとハイフレットを弾きやすくしたいっちゅう作り手側の想いがあった、ってコトだ。
この前レスポールを散々ディスった時にも書いた通り、50〜60年代に生まれた初期のエレキギターはそこまでチャンとハイポジションでのプレイヤビリティを考慮してたとは言いがたい。たしかにストラトなんかはテレキャスのハイポジションの弾きにくさを何とかしようとして、それであぁいったデザインにしたと思われるものの、それでもデタッチャブルのプレート分は思いっ切り出っ張ってる。手の大きな外人ならともかく、日本人だとちょとしんどい。
ダブルカッタウェイで、ネックのジョイント部分をもっとハイフレットにちゃえばたしかにそれまでのエレキギターが苦手としてたポジションに楽々と行ける。現にSG以降のギブソンはかなり無理してそんなネックの仕込にした・・・・・・そしたらテノンっちゅうて接着する土台部分の面積が稼げず、付け根部分が弱くなる問題が起きた。ヒドい場合はネックがボコッと外れるとまで言われる。恐らくそんな事実もキッチリ踏まえて、あーでもないこーでもないと工夫してるうちに、ヤマハやグレコはナスビに行き着いたんぢゃないかとおれは想像してる。恐らくピックアップの座繰りなんかもエスカッションのネジ以外は可能な限り浅くしたりなんかして、テノンを深く、長く取ろうとしてたに違いない。SGの初期モデルがダブルカッタウェイにする意味あるんか!?っちゅうくらいボディ側を大きく取ってるのもそんなんだろう。
余談だが、24フレットブームもこのちょっと後くらいから起こっており、同じような時代の背景を感じさせる・・・・・・そこまで上の方で弾くことなんて、実際はあんましないねんけどね。大体上過ぎるとチューニング追い込むのも厳しいんだし。
2つ目にはオリジナルシェイプへの憧れだろう。国産初期の粗製濫造で怪しいビザーレモデルの時期を経て、追い付け追い越せで頑張って偉大なる先達を研究しまくってたらたちまち製造技術も向上し、そろそろマトモなメーカーとして本格的に世界で認められるためにはコピーのパチモンではないオリジナリティ・・・・・・それも明快で分かりやすい個性が必要だったんぢゃないか?と。
しかしながらギターの形ってのも既に当時でさえある程度は出尽くした感があったし、余りにもエキセントリックなカッコでは楽器として成立しない恐れもある。やはりポピュラリティを得るためにはオーセンティックでエバーグリーンなクセのなさも一方で必要なのだ。
一言で言えばそれまでだけど、これはホンマにむつかしい。大体、本家フェンギブだって新しい定番シェイプでブレイクスルー出来んまま今に至ってるくらいで、当時の極東の島国の連中にはムチャクチャな無理難題だったろうと思う。
導き出された結果がスタインバーガーのヘッドレスやストランドバーグのマルチスケールみたいにブッ飛んだまったく新しいモノだったら、セールス状況はともかく日本人も猿真似ばっかぢゃないコトを世に知らしめられてたかも知れない。しかし結局、行き着いたのは本歌取りとかオマージュとか・・・・・・要するに日本人が大得意とする換骨奪胎だった。改革ではなくカイゼン、っちゅうこっちゃね。
かくして3つ目の理由が出て来る。日本人的審美眼や嗜好による、道具に対してのシンメトリー性とか座りの良い形への希求ってのがあったんぢゃないか?ってコトだ。これはいわば「ジャパネスク」なワケで、それで上手く行ったら海外にもウケるかも知れない・・・・・・な〜んてスケベ根性があったかどうかまでは分からんが。
ここにさらに「セットネック信仰」まで加わって、どこか・・・・・・どころかかなり既視感のあるギブソンの系統を引く全体の構成や塗色なのに、何ともユーモラスなフォルムの「ナスビ系」は生まれた、っておれは想像してる。「セットネック信仰」とはデタッチャブルよりセットネックの方がより工芸品的で高級っちゅう当時の独特の考え方のこっちゃね。当時はカタログなんかでもよく謳われてた。家具や仏像と楽器の区別があんまし付いてなかったんだろう。まぁ実際、ギブソン系のコピーなんかもフレッシャーとかの廉価版だと、本来セットネックになってるハズがデタッチャブルだったりしたんで、あながち間違いとまでは言い切れないんだけどさ。
各社、ナスビ系に関しては相当自信持ってたんぢゃないかって気がしてる。グレコは76年からの数年間、MRについて「初のオリジナル」ってコトをやたらと標榜して(・・・・・・ホントはRWなのに)カタログの表紙を飾らせたり、ヤマハはSGをフラッグシップと位置付け、さらにSXではハムバッキングヴァージョンとシングルコイルヴァージョンの2系統を展開するってな力の入れようだった。
下に画像を載せたエピフォンのジェネシスは、日本の今は亡きマツモク工業で作られてたけれど、企画・設計自体はアメリカだったらしい。リリースされたのは国産ナスビに遅れることおよそ5年、たしか80年前後だった。名前忘れちゃったけどあまり聞いたことない材を使っており、とにかく恐ろしく重いギターだったのだけはハッキリ覚えてる。
思うにコレ、デッドコピーを離れて次々リリースされ始めた日本のナスビ系に対する一種の危機感から企画された、起死回生の一作だったんぢゃなかろうか。「創世記」ってネーミングにしたって、耶蘇文化な欧米にはそれなりにインパクトあるもん。おれたちゃエレキの本場やで、ナスビでも本気出したらエエのん作れんねんで・・・・・・みたいな(笑)。
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しかしすべては杞憂に終わった。実にナサケないことには攻守共に杞憂だった。ナスビ系、リキ入りまくってたワリに肝心のセールスがサッパリ奮わなかったのである。
調べてみるとヤマハのSXは74〜78年の5年間、グレコのMRは75〜83年の9年間、そして対抗馬のハズだったエピフォンのジェネシスに至っては実にヘタレで、ボコボコの返り討ちに合うかのように79〜81年と僅か3年の短命に終わった。
理由はカンタン、ユーザー側がそこまでナズビ系に新味を感じなかったコト、そこまでハイポジションを弾き倒すニーズがなかったコト、また、ネックが飛び出してるギターに付き物のヘッド落ちの問題が如何ともしがたかったコトも挙げられるだろう。さらには・・・・・・っちゅうかこれが最大の理由かもしれない。直後にアレンビックやB.C.リッチに始まるスルーネックの一大ブームが到来したり、ヘビメタ系の尖ったギターやエドワード・ヴァン・ヘイレンが切り拓いたストラトベースのシンプルなコンポーネントギターが急速に普及したのである。ライトハンド奏法(今でいうタッピング)なんて握り込まんのんだからネックヒールもジョイントの深い浅いも関係あらへん、ってね(笑)。そうなると結局は古典的なコンテクストを引き摺った重厚長大なナスビ系には不利だわな。
・・・・・どんなけ作り手があれこれ主義主張を持って創意工夫を傾注しようとも、顧客の心に響かなけれゃ、売れなけりゃ、残念ながらそれは商品としては失敗なのだ。
今なお現役のレギュラーモデルでリリースされてるナスビ系ってどうだろ?ヤマハのSGはフォルムが極端にナスビ過ぎなかったコトと唯我独尊路線が幸いしたか、ハイエンドモデルが細々ながら今も継続販売されている。だけど、ゴールドトップにP−90タイプのピックアップ載せてみたりとか、ブラウンサンバーストにアイボリーのピックガードとか、本家レスポールを思い切り意識した外観で、往年のアクの強いオリジナリティはむしろ喪われてしまった感がある。お値段、税抜本体価格で34万円!一体全体、年に何本売れてんやろねぇ・・・・・・?
グレコ・MRは後継となったMXシリーズが仕様そのままにイバニーズでARって名前で出されたのが意外に長寿モデルとなりはしたものの段々とラインナップは削られて行き、現在ではソリッドボディ止めて片側だけfホールのあるシンラインボディっちゅうジャズ系な雰囲気を漂わせたんがチョロッと残ってるだけだ。
誰の目にもこれって寂しい状況だよね!?もし他にあるよ、っちゅうんなら是非御教授いただければ幸いである・・・・・・えっっ!?今後の見通し!?
・・・・・・ねぇよ!多分(笑)。 |

左、ボッテリしたフォルムがプリティなエピフォン「ジェネシス」(これは近年の再生産品)。
右は国産ナスビの一つの到達点だったグレコの「GOV」・・・・・・だが、アレンビックにアテられてウェスト絞り過ぎてナスビからは離れてしまった。

大好きなグレコのMRとその改良版と言えるMX.
MXは同時並行的にイバニーズのARシリーズとしてとしてかなりの成功を収めたが、個人的には嫌い。
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https://www.soundaffects.com/、https://www.gakkiya-bow.com/、https://guitar-cv.com/、https://aucfree.com/より
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2022.12.05 |
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