「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・小型チューブアンプなんて嗜みさ


「豆腐」、ことAC4TV8。ヴァリエーションにはヘッドだけとか、6.5インチ、10インチモデルなんてのもあった。
見た目通りの素朴な音はナカナカ味がある。


 ・・・・・・嗚呼!また、やらかしてしまったぜぃ!
 ビョーキはいくつになっても治らない。「不治は日本一の病」っちゅうやっちゃね。

 いやいや、もう10年近く愛用して来たVOX”AC4C1−BL”が決してイヤになったワケではない。不調になったワケでもない・・・・・・ないんだけどさぁ〜、プリ管・パワー管1本づつの最もプリミティヴなチューブアンプってのもやっぱ欲しいよなぁ〜、ってある日ふと思って、そしたら思いが日増しに強くなって、それでついポチッちゃったのである。たまたま運良くか悪くかは知らんけど、中古サイトに出物が上がってたのだ。ネット時代に物欲に打ち勝つのは実に至難の業でっせ、ホンマもぉ。

 買ったのはリリース順で行くと、上記の二世代前の”AC4TV8”ってヤツだ。多分ブランドがコルグに買収されて、初の小型フルチューヴとなったモデルちゃうかったかな?発売当初は「ヲタなおっさんホイホイ」で売れまくった記憶がある。小口径ドラムセットと同じような客層/売れ方だったんだろう。
 まぁ、VOX版のフェンダー・チャンプみたいな作りで、真空管もミニマムなら、コントロールもミニマム、1ヴォリューム・1トーンと単純明快極まりない・・・・・・って、そのままだと歪ませるまでボリューム上げたら一般家庭では耐えがたいような爆音出るんで、実際はもう一つ、アッテネーターのツマミが付いてるんだけどね。
 見た目もものっそシンプルで、アイボリーのビニールレザーが張られたコロンとした四角い箱に、前面はVOXらしい格子柄のサランネットが貼られてるだけ。ジャックやコントロールは上にある。何だか「ぬりかべ」とか「豆腐」を思わせるフォルムだ。デザイン的には復刻版らしく、かつての同じ時代の白黒TVの形に似てるっちゅうんで”TV”って名前になったらしい。
 実はこれ発売当初、ちょっとどころか、かなり気になってたヤツだったりする。にも拘らずその時は結局買わなかったのは、あまりにシンプル過ぎるコントロールで爆音がホンマに抑え込めるのか不安だったからだ。真空管アンプってカタログスペックのワッテージと音量がそもそも合わない。音圧があるっちゅうんですか、感覚的にはトランジスタの5〜10倍くらいデカい音が出るような気がする。それにアッテネーターは4W⇒0.25Wと1/16にまでワットを下げるってなってるけど、音量はそれだと理屈では1/4にしかならんハズだし・・・・・・そんなんでパスしてたのだ。

 ともあれ空前の円高だった十数年前なら新品4ケタでヨユーで買えたのが、今やプレミアまで付いて中古で1万ナンボと高くなってしまったのはちょとだけ悲しい。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 プチプチで包まれて中古屋から送られてきたそれは、やはり豆腐みたいだった。ズッシリした田舎豆腐やな(笑)。この手のマニアックなんって、買ってはみたものの持て余しちゃって、それで大して使われないまま売り飛ばされることが意外に多いみたいで、これも10何年前のとは思えんくらい外見の状態はひじょうに綺麗。唯一アッテネーターのコントロールノブがバカになってたくらいだ・・・・・・まぁこれは他のVOX製品にもわりと共通する問題で、樹脂が柔らかすぎてすぐにナメてしまうのだ。念のために裏ブタ外して中見ても真空管に黒ずみとかは生じてない。ノー書きはともかく早速電源を入れてみる。

 まずは直結でクリーンな音。一般的にVOXのトーンは5がニュートラルって言われてるけど、コレはどぉなんやろ?0だとモコモコ、なんか全開でも籠ってるな。恐る恐るアッテネーターを1W、4Wと上げてみると、少しだけ音がパリッとした。どうやらアッテネーター咬ますとパワーだけでなく高域も絞られるみたいやね。それでもまぁやはり安物とは申せ真空管、腐っても鯛、ピック持つ右手に忠実なカンジがとても心地良い。そして良く言えば中低域が豊か、悪く言えばヌケないくぐもった音でフルアコとか似合いそうだ。
 今度は再びワットを下げて思い切ってボリューム全開にしてみる。まぁ、昼間で数分間なら何とか近所から怒鳴り込まれない程度な爆音だ・・・・・・ナ〜ニが「夜間の練習も気兼ねすることなくできます」だ!?メッチャ音デカいやんけ!やはり中低域の太さは相変わらずで、かなりご機嫌なクランチくらいには歪む。スピーカーがワンサイズ小さい8インチなのも、是非はともかくこのパコッとした音にけっこう影響してるのかも知れない。

 元々の青いAC4C1(青坊主)と2台並べて弾き比べてみると、青坊主が全体的に雑味が少なくてスッキリした印象だ。豆腐の前ではアーバンな響きにさえ思えて来る(笑)。ハイとロー、2つのトーンの可変幅も大きくて、違うギターでもある程度音色を近付けて揃えやすい。それに対して豆腐は何とも不器用っちゅうか、トーンの可変幅がエラく狭いのと、低域ばっかしがゴリゴリ歪んでるような独得の鳴り方をする・・・・・・いや、決して悪い意味で言ってるのではない。「そぉゆう音」がするのだ。
 思い立って、最近あんまし手に取ってなかったストラトに持ち替えて弾いてみると、キンキンした感じが適度にいなされてこれがナカナカ具合が良い。ぢゃぁムスタングはどうだ!?・・・・・・ア、アカン。馬力の無さゆえのペケペケが際立つわ。もっと非力なダンエレはどやねん?ブースター挟んだらどないやろ?

 ・・・・・・気付いたら夢中になって2時間くらい弾いてた。やはり真空管アンプって何か楽しい。俗に「音にツヤがある」なんて言われるけど、それは或いは本当かも知れない。何か、生々しくてリアルなのだ。この感覚、アコギが弾き飽きしないでズーッと弾いてられるカンジとちょと似てるのかも知れない。

 もっと早くに買っておけば良かったな〜、って思った。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 泥縄で調べてみたところ、もちろん生産国やメーカーによる真空管の個体差等もある程度影響するとは申せ、そもそも論でプリ管1本だと、どんだけ回路を工夫したって低域が増幅されやすいっちゅう特性があるらしい。なもんで、それを避けてバランス良くするため多段にして何本もプリ管を並べるんだそうな。そうしてちょっとづつ増幅することで、バランスが良くなるとのことである。ちなみにギターアンプのプリ管としてよく使われる12AX7を、敢えて増幅率の小さい12AT7にすると、パワーが無くなる代わりに高域はもっとキラキラと煌びやかになるみたいだ。原理は何か難しゅうてよぉ分からんです、ハイ。

 そら低域が元気なワケだわ。

 何を以てして「性能」っちゅうのかは議論の余地があるだろうが、「フルチューブ」っちゅうだけで、この豆腐が高性能で無いコトはまぁ間違いないだろう。多彩な音色・・・・・・出ません。ノイズ・・・・・・そこそこデカいです。目方・・・・・・重いです。クリーン・・・・・・っちゅうても少し音量上げたりガツンと弾くとツブれたカンジします。だからっちゅうて激歪みにもなりません。でも何かとても心地良い。
 そうして気付いたのだった。このカンジ、カメラで言うと古い単焦点の標準レンズにとても似てる。50mm/F1.8とかでキットに付いてるようなん。画角・・・・・・大して広くありまへん。最短距離・・・・・・寄れまへん。気の利いた電子デバイス・・・・・・付いてまへん。明るいっちゅうたかてせいぜいF1.8だからそこまでエバれるほどでもない。でも何か撮ってて楽しいし、時折ハッとするような絵が出来たりする。

 つまり素朴だけど決して劣ってるってワケではないし、ホネは折れるもののあれこれ努力や工夫のし甲斐があるワケだ。直結だととにかくタッチに対してリニアだから、シッカリした運指と正確なピッキングを心掛けてないと何かバラけてドタドタするのが自分でも分かる。下手クソ野郎なおれにはとっても手強いのである。元から持ってるAC4C1−BLもまぁ大概なんだけど、こっちの方が弄れる箇所が少ない分さらにハードル高いかも知れない。

 今は本棚の中段に青坊主と豆腐、仲良く2台並んで鎮座しており、その日の気分で弾き分けたりしてる。まぁどっちも音が安定するまでそれなりに時間が掛かる。俗に30分くらいすると音が良くなるなんて言われるけど、実際にはもちょっと長く、小1時間くらいして真空管が暖まり切ったところから歪みの質とかが細かくなって来るのが分かる。エフェクター繋いでても分かるくらいだから、やっぱし何らかの変化が起きてるんだろう。暖房の足しにでもなってくれたらなぁ〜と思うものの、そこまでの発熱はない(笑)。

 ・・・・・・そうして仲良くさせてたら子供が出来た(笑)。

 3台目のフルチューブで同じくVOXの「リルナイトトレイン」がやって来たのだ。いや〜、これもネットをウロ付いてたら、たまたま出物が見付かったのである。ヘッヘッヘ、フルヘッヘッヘ、これでVOXの2000年代以降に出たシングルエンドのコンプリート完成やん♪嬉しそうにクロムメッキのカバーをピカールで磨いてたら、ヨメに「何やそれ、家庭用の焼鳥グリルみたいやな〜」って言われてしまった(笑)。たしかに似てる。
 ちなみにこれはヘッドのみなんでまだチャンと鳴らせてない。近日中にスピーカーボックスは自作する予定である。10インチ、8インチってあるんだし、ここは定番の12インチが良かろう。移住に伴う引っ越しの荷物がまた増えるっちゅうねんなぁ・・・・・・。
 そんなんで値段と評判で、エミネンスのRetro30っちゅう安い12インチを音家から買った。イギリスのアンプなんやからセレッション入れんかいや!ってご意見はあるだろう。それに音のいっちゃんの出口であるスピーカーで大きく音に差が出ることは分かってんだけど、そんな何万円も大枚叩けまへん、って。それにほれ、マーシャルだって最初にアンプ作った時、当時一流と言われてたスピーカーメーカーからは歯牙にも掛けられず、それでその頃はただの大衆メーカーに過ぎなかったセレッションから仕入れたって言われてんだしさ。あんまゴタゴタ気にしたらあきまへん、って・・・・・・とあれこれブーたれてみたけどコレ、要するにセレッションのVintage30のレプリカみたいだ(笑)。動画サイトで聴き比べたけどおれにゃぁ殆ど違いが分からんかったな。
 ともあれ、元からの2台にも同じ16Ωでスピーカーアウトが付いてるんで、これからは純粋にアンプだけで音の比較なんちゅう通・・・・・・もといヲタな真似もできそうだ。

 ヤバい!いやもぉマジでこの歳にしてアンプ沼が始まったらどうしよう?我ながらしかし、困ったモンだ。自分でやっといて言うのもなんだけど、ホンマ困ったおっさんだ。


馬力は半分の2Wだけど、歪み具合ではこれが一番かな?ナゼかパワー管が12AU7、っちゅう変わり種。

2022.11.20

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved