「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
P−90賛歌


おれの持ってるのと全く同じモデルっす。

https://mandai-shop.jp/より

 まず最初にお断りしとかねばならない。

 ギターなんてチューニングがカチッと合って、ある程度チャンとフツーにサスティンが伸びれば何だっていい、ってのがおれの持論である。今の時代、音なんて如何様にでも加工できる、ってコト。そしてもう一つは弾いてる側ほどに聴かされてる側は音色になんて無頓着だ、ってコトだ。だからむしろ大事なのはネックや、抱えた時のバランスだろうって思う。言っちゃうとミもフタもないけど、それがぶっちゃけギアとしての真実なのである。

 ・・・・・・それでも、ですよ。

 今のおれは単なる趣味で自分で弾いて自分で悦に入ってるだけなんだし、やはり弾いてて気持ちエエよなぁ〜っちゅう音はそれなりにあったりする。それと、あんましあちこち弄り倒すことなくシンプルに好みの音が出ちゃうっちゅうのはラクだし、シックリ来る。そして、その辺を突き詰めて考えてみると、P−90ってピックアップはすごくハマってるなぁ〜、って思うのだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 P−90についてこれまで何度か触れて来てるが、知らない人のためにおさらいがてら軽く解説しとくと、これは1952年に出たいっちゃん最初のレスポールにも付いてたシングルコイルピックアップの名前である。ピックアップ自体はそのもちょっと前から存在し、フルアコなんかに搭載されてたみたいであるが、その辺については良く知らない。
 シングルコイルっちゅうのは磁石の周りにコイルを巻いただけの、最もプリミティブなピックアップの形式で、フェンダーのイメージがとても強い。ちなみにそれぞれの磁極とコイルの巻く方向を逆にしたシングルを2ケイチでくっ付けたのがギブソン定番のハムバッキング、っちゅうヤツだ。

 つまりギブソンとしてはいわばP−90の後継としてハムバッキングをリリースしたワケで・・・・・・ってコトはやはり欠点があったのである。実際、ある。欠点は大きく2つ、1つはノイズが乗りやすいコト、もう一つはハウリングしやすいってコトだろう。まぁハウリングについてはコイルを蝋で固めることで概ね抑えられるみたいだが。
 なのになのに不思議なコトに、P−90はその後もしぶとく生き残っており、若干の改良を加えられながら今なお立派に現役だったりする。それはハムバッキングより低コストに作れただけでなく、やっぱしこれはこれで色々良いところがあったからに他ならない。ちなみにP−90の見た目はそのままに、縦置きハムバッキングとしてノイズ対策を講じたP−100なんてのも一時期リリースされてたが、これはひじょうに短命に終わってる。
 ちなみに形状には何種類かあって、両側にマウント台座の耳が飛び出した通称「ドッグイアー」ってのと、真ん中あたりにマウント用ネジ穴の空いた「ソープバー」、また前者では樹脂ではなく金属プレートのカバーになったのもあったりする。エピフォンのカジノなんかがそうだ。また歴史的にはドッグイアーの方が古いらしい。樹脂の色も、ギブソンあるあるでクリーム色と黒の2種類が存在する。

 一般的にその特徴としては、シングルコイルにしては比較的パワフルで中域が太く甘い音のワリに、やはりシングルらしく歯切れ良くて高域もキチンと抜ける点にあると言われてる・・・・・・が、聴かされてる方はほぼ分からんだろうと思うな(笑)。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ともあれ、通常のフェンダー系のシングル、あるいはギブソン系でハムバッキングの付いたのを所有された方は世の中にゴマンといるだろうが、P−90搭載ギターのオーナーになった人って、そこまで数多くはないと思われる。そんなちょとだけマニアックなP−90をおれは今まで2本所有したのだから、やはり生来のマイナー志向なのかも(笑)。

 1本目は、過去に何度も書いたけど、生まれて初めて買ったエレキであるアリアプロUのレスポールのコピー、そして2本目はギブソンのSGのナンチャラトリビュートって安いヤツだ。ちなみに最初のアリアの方もピックアップ自体は本物のギブソン製が付いてたらしい。当時、新井貿易がギブソンの代理店だった関係でケッコー融通してもらえてたんだそうな・・・・・・まぁ、全て随分後になって知ったことだけどさ。

 初号機はバンドの中期くらいまでだったが、その音色についてあんまし深く考えたことはなかった。だってコイツしか持ってなかったから他と比較しようもなかったのだ。あぁ、たまに予備で悪友・S年のトーカイのレスポールのコピーを借りたこともあるが、言われてみればおれのんの方がちょっと芯があってクリスピーな響きだったような記憶がないでもない。まぁ、フツーにチャンと使えてたし、何かエエやんくらいだった。ノイズについてはあんまし気付かなかったな。そもそもがパピョョョーッ!とかしょっちゅうハウリングさせたりしてんだもん(笑)。
 そんなんであれこれギターコレクションが増殖する中、SG買ってようやく「P−90ってエエやん」って心の底から思えたように思う。

 正直に告白すると、上に挙げた音色の特徴について、おれ自身は実際そこまで良く分かってない。ブラインドテストされたらヘロヘロだろう。ただ、同じようなマホガニーボディ/マホガニーネックで素材も作りも似たフライングVと持ち替えながら同じアンプセッティングで弾き較べると、音色だけでなく弾いた感覚が随分異なってるのは良く分かる。
 フライングVにはフロントに496R、リアに500Tってセラミックマグネットのひじょうにハイパワーなピックアップが付いてる。たしか買った当時はこれがギブソンでは最も馬力番長だったハズだ。今はどぉなってんねんやろ?
 何が違うって、音の立ち上がりと減衰がまず違う・・・・・・って、クリーンだとあんまし分からない。でも、ちょっと歪ませるとこのセラミックのはまるでオルガンみたいに減衰が無くて、ずっと同じ音量で鳴ってるような感覚がある。ある意味、コンプレッサー不要な音だな。指が弦から完全に離れるまで同じ調子で鳴ってるカンジと言えば分かっていただけるだろうか?言い方を変えればサスティンたっぷりで良く粘る、悪く言えば平板で一本調子な印象がある。音そのものは実はあんましクセがなくて、これも良く言えば低域から高域までスッキリとバランスが良い、悪く言えば冷たいカンジってなるだろうか。

 一方のP−90は少々歪ませても、どこか撥音楽器らしい「立ち上がったトコからスーッと減衰してくカンジ」がチャンとある。だから大袈裟に言うと、しっかりハンドビブラートかけないとロングトーンでのサスティンが稼げない気がする。でもその減衰曲線は自然で、フェンダー系ほど急に立ち上がってすぐにスッと消えるような、ツンツンしたのではないように思える。何てーか押弦して、ピッキングして、指が離れる・・・・・・って一連のアクションに対してのリニア感がある、っちゅうたら分かる人には分かるだろう。
 音はう〜ん、どぉ言やぁ良いんだろう・・・・・・何か色々と雑味まで含めて入ってる「情報量の多い音」、とでもゆうたらエエのかなぁ〜?でも決してムスタングみたいに濁ってはいない。多分これが甘くて太い、って言われる所以なのかも知れない。

 クドいようだが、これらの差異はほぼ弾き手にしか分からない部分なんだけどね。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 もしライブで人前で弾くってんなら、絶対これはもぉフライングVの方が扱いやすいだろう。クセなくてある意味ノッペリしてるから、ヘタなおれでも粒の揃った音が出しやすい。恥ずかしながら、ハムバッキングのこの一種の「ユルさ」がもたらす扱いやすさについて永年気付けなかったけど、クルマのハンドルのセンターの遊びと同じで、あまりにセンシティブだと扱いづらいのだ。
 そうしたシビアさって、おれの主観で順番付けると大体以下のようになるだろうか。

 テレキャス ⇒ ストラト ⇒ P−90 ⇒ 昔のハムバッキング ⇒ モダンなハムバッキング

 この順番って「生々しさ」とか「高音の出方」みたいなランキングともカブる。ハムバッキングって昔は、どうにも音が籠もってるっちゅうか、何か均されちゃう気がしてあんまし好きになれなかったんだけど、そのちょっとローファイな丸っこさこそが実は扱いやすさでもあるんだ、って気付いた時は既におっさんになってしまってた。今から思えばテレキャスみたいに気合入れて弾かんとむつかしいギターに太い弦張ってよぉやってたな〜、って思うで。

 ・・・・・・って、ジャズマスのシングルやリッケン、グレッチのフィルタートロン等はどやねん?ってツッコミ入れられそうだな。いや、ぶっちゃけあんまし知らんです。そもそもその辺は語れるほど弾いたことないから書けませんわ。あと、ダンエレとジャジャ馬、焼鳥は根本的にパワーなさすぎで、このランキングの直線軸にパッと入れようがなかったりもするが、まぁブースター咬ましたらこれらはこれらでどぉにでもなるんだけどね。ムスタングなんか前後ONでそうしてガツンと歪ませるとごっつダーティーでっせ。

 それはともかく、上記の順番でおれが言いたいのは、P−90ってひじょうにだからニュートラルな立ち位置なんだ、ってコトだ。
 適度に生々しく、適度にエキセントリック、適度にクリスピーで、適度に太く、適度にシビアで、適度にダル・・・・・・まぁ今のペラペラでパコパコのマホガニーボディってのも好い方に作用してるんだろうけどさ。
 おらぁヘタだからあんましエラそうに言えないけど、多分ここまで何度か使った言葉・・・・・・「リニア感」ってのがP−90を語る上での一番のキーワードだろう。押弦する方の手(通常は左手)に対しては、弾き手が弾いた通りに鳴ってくれる。言い換えればある程度シビアなんだけど、ピッキングの方(通常は右手)には逆にある程度ユルさがあって、多少のアラやバラツキなら吸収してくれそうなカンジが恐らく心地良いのだ・・・・・・「ユルさ」っちゅうたら失礼かもな。「包容力」ってしときますか。

 もっかい繰り返す。これらの差異はほぼ弾き手にしか分からない部分なんだけどね・・・・・・いやマジ、その程度の差異です。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 おれはいつでも手を伸ばせば取れるよう、数ある中の1本は机のすぐ横のスタンドに立て掛けてある。適宜入れ替えて、できるだけ満遍なく弾くようにしてんだけど、結果的に頻度として高くなりがちなのが、このP−90のSGだったりする。ギブソン、っちゅうだけでクオリティとしては高くもないギターなのにね。ちなみにいっちゃん手が伸びないのはタルボかなぁ?優等生過ぎるんと、初期モデルで指板のRがキツ過ぎるんですわ。
 特に最近、1V1Tで真空管2本だけのシンプル極まりない豆腐・・・・・・ことVOXのAC4TVを買ってからは、コイツとSGの組み合わせはかなり気に入ってたりもする。直結だとそこまで深くは歪まないのに、それでもこれなら「まぁエエか」って気分になれる。定義が曖昧過ぎてあまり好きぢゃないコトバなんだけど、俗に言われる「いなたい音」ってこぉゆうのを指すんかな?って思ったりもする。

 もしある程度何本かギターを所有したことがある人でP−90はまだ、っちゅうんなら、是非とも1本オーナーになられてみては如何だろうか?ジュニアやスペシャル系なら本家ギブソンでも、また円安が進んだ今でも、まだそこまでムチャクチャ値上がりしてないし。

 ・・・・・・エエっすよ、ホンマに、P−90って。味ありまっせ!


うわ〜!今でも持ってた人おるんやねぇ〜!
多分、かつて持ってたのと全く同じアリアプロUの定価6万円の。


https://aucfree.com/より


2022.10.01

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved