「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
コモディティ化する楽器と音楽の危機


フォトジェニのストラトコピー。

こっちはセルダー。ローズネックがワリと多いかも。

 本日はストレートに行こう。

 いやもぉ楽器が安すぎる、ってみなさん思いません?いや、そりゃぁハイエンドモデルとかで高いのはナンボでもありますわいな。そぉゆうのはちょと置いといて、エントリークラスっちゅうんですか、ビギナー向けっちゅうんですか、その辺のセグメントのヤツの出来が最近はあまりに値段から懸け離れてマトモ過ぎやしませんかい!?それって逆におかしかぁないですかい!?っちゅうのが今日の大体の主旨だ。

 生も電気仕掛けも、ギターやベース等の弦楽器、電子楽器、タイコ・・・・・・まぁブラバンが使うような管楽器にはおれ、詳しくないから書けないけども、ホンマどれもこれもちょっと出来のワリに安過ぎて、それなりのクラスの品にありがたみっちゅうモンが湧かんのではないかって不安になってしまうのだ。まぁ、あんまし間口を広げ過ぎても宜しくないんで、以降は主にエレキギターやベースに絞って書いて行こう。

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 今やベニヤ板ボディのエレキなんて逆に探しても売ってないよね?ピースはまぁいくつかに分かれてても、あんなウェハースみたいに薄板が重なったんはないっしょ?レスポールみたいなカーヴドトップだけど実はハリボテで中がガランドウなんてコトこともなければ、ハムバッキングのフリして中はシングルコイル、なんてコトもないっしょ?
 昔・・・・・・少なくとも70年代末期くらいまではそぉゆうヒドいのがワリとフツーに流通してた。エントリークラスならまだしもミドルクラスくらいまであったんだから畏れ入る。余談だけど、ディープ・パープルの72年の日本公演でアンコールの最後のお約束で破壊するためにコピーモデルの国産ストラトが使われたそうだが、何せベニヤで頑丈に出来てたためにスンナリ壊れてくれなくて、R・ブラックモアは往生したらしい(笑)。

 大体、何かちょっとネックとボディがズレてたり、どれだけ調整しても押弦出来ないくらいに弦高が高いってコトもない。ネックの握りだってCシェイプで適度な太さだし、スケールやピッチは正確だし、フレットだって端の仕上げはともかく、それなりにチャンとした太さ/高さのがマトモな間隔で打たれてますやん。そいでもって出音だってそこそこマトモだったりしますやん。
 もちろんアラはある。言い出せば木の材質が良くなかったり、仕上げや組み込みが雑とかで、一度バラして組み直したり増し締め・調整等が必要だったり、電装系があまりにチャチだったりとかもあるけど、まぁまぁストックの状態で使えてしまう・・・・・・そんなんが1万円台でいくらでもあるのだ。ついこないだまで、音家なんかには5,980円なんてのさえあった。
 一説には安物ではネックの経年収縮による指板ヤセが顕著なことが多いなんて言われるけど、そんなん古いギターなら多かれ少なかれ付きまとう問題だったりするし、全部が全部なるワケでもない。それにたとえなっても所詮は1万ナンボなのだ。

 こんなトンデモ価格が成立してるのには、およそ3つの理由が挙げられる。

 まずはNCルーターの性能が飛躍的に向上して熟練した木工職人が不要になったコト、2つ目は生産国を人件費の安い東南アジアに移転したコト、3つ目は円高の影響だろう。
 NCルーターは初期の8bitから32bitに制御が細かくなったり(なんと最初期の機械って、プログラムがパンチカード方式だったらしい)、モーターが良くなったりしたコトで、極めて高精細な削り出しが誰でも容易に行えるようになった。治具とテンプレートを駆使して試す眇めつシャコシャコ鉋掛けしてた時代とはもう根本的に次元が違うのだ。まぁその分、奇蹟が起きることも無くなったんだろうけどさ。
 生産国は言わずもがな、最初は韓国からだったかな?その次が中国、そいでもって今はインドネシアがすごく増えた。さらに南洋方面は木材産地からも近く、それもコストダウンに繋がってる。強いて問題を挙げるならば、赤道近くて高温多湿のお国柄ゆえ材の乾燥工程がちょっとばかし大変らしいが、これも大掛かりな強制乾燥の設備を入れることで現在では概ねクリアされてるとのことだ。未だに人の手を介してやってるのはホンマ、塗装の吹き付けとか、パーツの組み込みとかの最終工程くらいになっちゃってるのである。あくまで噂だけど、この点でも現在の中心地、インドネシアの人たちは元々手先が器用なのかはたまた勤勉なのか、レベルはムチャクチャに高いみたいである。ハイエンド製品を任せられるくらいのルシアーが現れたりもしてるんだそうな。
 最近、円が安い安いって大騒ぎしてるけど、昔なんて1ドル=360円だったのだ。今でも覚えてるが、それが変動相場制に移行して250円くらいになった時、「空前の円高」とかゆうて騒ぎになってたもん。130円やそこらでこの世の終わりみたいにヒィヒィ言うことか?って思うで、ったく。

 その結果のそこそこクオリティな激安ギターやベースの氾濫だ。もちろんとてもぢゃないが上質とは言えないものの、極端に粗悪とも言い切れないビミョーなんがタダみたいな値段で溢れてる。溢れただけではない。途轍もなくコモディティ化が進んだ。言うまでもなく元来が均質で工業製品的なストラトやテレキャスのコピーモデルでそれは一層顕著なんだけど、やれスクワイヤだフォトジェニだレジェンドだ、バカユニだプレテクだメイビスだ、KガレだセルダーだSXだトニスミだ・・・・・・ってもぉアータ、ロゴが違うだけで中身まったくいっしょちゃいますのん?みたいになっちゃってる。メーカー間の個性の違いみたいなん、マジでどこにも見付からん。
 どれもこれもベタ塗りのボディにサテン仕上げ(・・・・・・っちゅうかコストダウンのためにバフ掛け省いてるのだ)のネック、ヘッドのトラスロッドの穴は空けっ放し、白ピックガード・・・・・・楽器に幾許かはあって欲しい工芸品的な香りは当然ながら最早一切ない。薄気味悪いほどにどれも同じ

 そんなことはともかく、どうにも本質的な部分でツマんないよね、あまりにも安すぎると・・・・・・いや、若い時の絶望的なまでの金欠からすれば、少しは小金持ちになったおっさんが驕りから言ってるのではないよ。
 ムダ遣いしろとは言わないが、頑張ってメチャクチャ背伸びしてムリして買ったからこそ必死に練習もするだろうし、大切にもするワケで、あまりにもカンタンに買えちゃいけないのだ。もちろん貧困の相対性で1万ナンボでも「とても手が届かねぇや・・・・・・」って溜息吐いてる人だって世の中にはいるだろうけど、やっぱし一般的に考えてエレキギターが1万ナンボで買えるのはどぉ考えたってやはり安すぎるだろう。

 誰がこんな状況望んだんだ?っておらぁつくづく思う。こぉゆうんも「衣食足りて礼節を忘れる」の一種なのかも知れない。たしかにおれはB級ギターを偏愛してるけど、どこをどうしたってこれらの激安が俎上に上がることはない・・・・・・あ、スクワイヤからたまに限定で出るリイシュー製品はちょと欲しいかも、BassYとかStarcasterなんてさ。あるいはそれとも、激安2本買って自分でシェラゴールドばりの合体ダブルネックでも拵えたら楽しいかも。

 ここまで専らエレキギターについて書いてみたけど、当然ながら他の楽器も似たり寄ったりだ。

 エフェクターは「クローン」と呼ばれる過去の名作のデッドコピーがJOYOとかの中華製で数千円で買える。アンプは手作業が多いからかそこまで下がってはないけど、ヤッパシ昔に比べたら相対的に安い。最近はスッカリこっちばっかしなタイコも、激安では材が軟弱なポプラ、金物がチャチってトコが違うくらいで楽器としての基本部分はシッカリ作られてる。シンセその他の鍵盤系にしたって、PCとコントローラーさえあれば大体がソフトウェアで揃ってしまうし、無料のだって多い。ハモンドB−3のトーンホイルがどぉとか、フェンダーローズがこぉとか拘るヤツなんて今でもいるんだろうかと思う。
 どうだろ?あんまし変わってないのはアコースティックギターとシンバルくらいぢゃないかな?これだけは未だに安物が安物らしいデキと音で、却って何だかホッとする。パイステのPST−7なんて2002と変わらんとか言われてるけど・・・・・・う〜ん、おらぁ歴然と違う気がしたな。

 ハッキシ言っちゃおう。安物は安物らしくもっと粗悪であるべきなのだ。「安物買いの銭失い」でなくちゃダメなんだ。

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 ・・・・・・さて、ハナシは変わる。

 最近ポピュラーミュージックの世界ではギターソロってのがサッパリ流行らなくなってるらしい。だから楽曲の途中にギターソロを挟まない曲がドンドン増えて来てるし、たとえあってもリスナーが早送りにしちゃって聴こうとしない、ってケースも増えてるんだそうな。

 まぁたしかに世の中これまで、1番〜2番〜ギターソロ〜3番ってなどぉでもエエような構成で(・・・・・・って、おれもバンドの曲作ってる時は、ライブで間違えるのを避けたくて大半をこの構成にしてたんだけどさ、笑)、これまたどぉでもエエようなペンタトニック主体で既視感ありまくりのフレーズ並べていっちょアガリ!ほれほれ!ソロでござい!(・・・・・・こっちはなかったなぁ〜。そもそもおらぁそんなアドリブで弾き倒せるようなテクもないから、イッパツ芸的でSEみたいなんが殆どだった)ってな金太郎飴で飽きられちゃったんだろう。
 気付けばいつの間にかギターソロって、カサ増しのために敷かれた土産物の饅頭や香典返しの煎茶の底上げトレイみたいなすぐにゴミ箱直行の存在になってたワケやね。

 もちろん往年のJ・ロードみたいなキーボードソロも流行らない。ベースも然り。ドラムソロはもっと以前から流行らなくなってるかな?(笑)。いやもぉテクの応酬なんてドヤ顔でイキ顔の暑苦しいの、若い衆は誰も聴きたくないのだ。だってそんなん打ち込みでやりゃぁすぐに出来るんだもん。

 それより何より、今はもう音楽作品が音楽作品としての単体で成立しにくくなって来てるのではないかとも思う。それはMTV等のPVから始まり、YouTubeによって一気に裾野が広がったことによると思うが、かつてのあくまで楽曲プロモーションのための映像(・・・・・・いわば添え物)から、今は映像+音楽で一つの作品として捉えられるようになってる。そのような状況下で音楽部分だけ聴くって、要は映画のサントラ盤聴くようなモンなんだろう。
 これはつまり音楽そのもの価値が相対的に低下した、とも換言し得る。まだ確信には至ってないけど・・・・・・っちゅうかいささか認めたくはないけど。

 楽器のコモディティ化と今の音楽そのものが置かれた立ち位置は、案外通底してるのかも知れない。自動車の低価格化とコモディティ化が進み、軽の最下級グレードでさえ安全装備や快適装備が充実する一方で、自動車離れが進んだのと極めて似てるような気もする。或いはユニクロやらGUみたいなファストファッションが席巻する一方で、着るモノに気を遣わない人が増えたこと、インスタントやコンビニのジャンクな食い物のクオリティが上がる一方で、何食っても一緒のカオしてるような食い物に興味のない人が増えたことも・・・・・・。

 今、おれに言えるのはそこまでかな。

2022.06.04

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