「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
夫婦善哉・・・・・・・Toyah & Robert's Sunday Lunch




上が70年代初頭、下が80年代初頭。どっちもチョー気難しそう。左に見えるのが「フリッパートロニクス」。

https://www.dgmlive.com/,https://www.imagebee.org/より

 立って弾くのがロックギタリストの所作、っちゅうか不文律だろうに、必ずステージの上座で頑なまでに高いスツールに腰掛け殆ど動くこともなく、学者みたいな風貌とさらには70年代半ば過ぎくらいからはビジネスマンでも少ないだろってなベストにネクタイ姿でニコリともせず、異様にメカニカルで偏執狂的な超高速シーケンスパターンや、キツいファズの掛かったウニョウニョして譜割りの良く分からん難解でフリーキーなソロを弾き倒す・・・・・・ロバート・フリップのパブリックイメージっちゅうたら大体みんなそんな感じだろう。

 そいでもって「フリッパートロニクス」なる、まるで実験道具みたいなサウンド・オン・サウンドのテープループの仕組みを始めてみたり(・・・・・・あんまし商業的に成功したとは思えないが、本人はいたく気に入ってるみたいで今はデジタル版の「サウンドスケイプ」ってのに進化してる)、要塞みたいなラックシステム組んでみたり、ロック式トレモロでは世界中がフロイドローズ一色なのにケーラーに拘り続けてみたり、グルジェフ思想に影響受けた「ギター・クラフト」ってな精神修養ギター教室(?)を主催して、変わったチューニングを提唱してみたり、何より特に70年代クリムゾンで顕著だったように、気に食わないメンバーはバンバン馘首しまくるといった、ストイックでマジメで求道的っちゃ聞こえは良いが、ある意味極端に協調性に欠けた自己中で唯我独尊なバンド運営姿勢も、何とも気難しく、狷介固陋で孤高の変人ってなイメージを増幅してたように思う。

 そんなんだからいつだったっけ?んん〜・・・・・・たしかディシプリン期クリムゾンのちょっと後くらいだったかなぁ?パンク〜エレクトロポップ系ないでたちでそこそこ人気もあって一回りも年の離れたイギリスの陽気そうな歌姫・トーヤと結婚した、って音楽雑誌のニュース見ておらぁヒドく驚いたし、結婚生活続くんかいな〜?って思った記憶がある。記事の論調もいささか揶揄を含んでそんな感じだったっけ。

 ところがどっこい、これがもぉエラくおしどり夫婦みたいなのだ。今ではイギリス国内に於いては二人ともかなりのセレブのようで、夫婦揃って色んなTV番組に出てたりもする。やっぱしフリップ翁は相変わらずの面白くも何ともないスーツ姿だ。子供がいるかどうかは知らない。ちなみに奥さんの方はナカナカ如才ないタイプで社交的だったのか、シンガーとしてはそこまでレジェンダリーに大成しなかったものの、TVの司会業やラジオパーソナリティでかなりの売れっ子みたいだ。
 今やフリップ翁・75歳、ヨメのトーヤも63歳、こりゃもぉリッパにジジィ・ババァで、旦那は日本で言えば後期高齢者だ。

 そんな凸凹夫婦が、だよ。

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 ・・・・・・最初観た時は、長引く蟄居生活で発狂したんかと思いましたで。

 コロナが猖獗を極める昨年のイギリスで、余程ヒマを持て余したのかストレスが溜まったのか知らんけど、突如として二人は自宅で動画撮って”Toyah & Robert’s Sunday Lunch”ってタイトルでYouTubeにアップし始める。ロックダウン中はチャンと”Sunday Lockdown Lunch”ってなってたのがイギリス流のアイロニーとユーモア、ってヤツなんだろう。調べてみると、イギリスでは日曜のお昼ご飯に家族揃って御馳走を食べる習わしがあるみたいで、転じて「素敵なひととき」みたいな意味があるようだ。実際、新作が更新されるのは毎週日曜日だったりする。

 そうして色々恐いモンなしでやらかしちゃってるのである・・・・・・っていやまぁ、基本コスプレしたトーヤがフリップ翁のギター一本でカバーナンバーを歌う、ってパターンが多い(最近は準レギュラーのようにしてゲストがもう一人いる)。初期はただ着ぐるみだとかでウロウロしてるだけが多かったかな?たまに”Agony Aunt”って良く分からん人生相談コーナーみたいな長尺の回もある。
 ともあれ、どれも他愛ないっちゃ他愛ない、手作り感炸裂で低予算なほぼイッパツ芸に近いネタばっかしなんだけど、殊フリップについては上で述べた通りの、今まで何十年も積み上げて来た強固なパブリックイメージがあるだけに、このまるで夫婦漫才なシリーズには異様なまでの破壊力があった。

   ●蜂の着ぐるみで庭を走り回る。
   ●恐竜の着ぐるみでウロウロする。
   ●バレエのカッコで「白鳥の湖」をヘタクソに踊る(←さすがにこれはかなりイヤそうだった)。
   ●ギターを立って弾く(・・・・・・絶対にイヤや、ってかつてインタビューで答えてたハズ)。
   ●カウント入れたりハモッたりする(これもイヤや、っちゅうてた記憶がある)。
   ●クリムゾンの難曲に合わせてトーヤがタップダンスとか無関係なネタをブチ込む。
   ●トーヤがチチほぼ丸出しで歌いまくる(ヤリ過ぎて年齢規制掛けられた回まである)
   ●フリップがフェイスペイントする。モヒカンになる(元々殆ど残っちゃないけど、笑。ちなみにバリカンで刈る動画も存在)。

 カバーナンバーのチョイスがこれまた分かりやすくも絶妙で、ジミヘン・ツェッペリン・パープル・サバス・モーターヘッド・スコーピオンズ・ジューダス・アイアンメイデンといったオールドスクールのハードロック、ニルヴァーナ・レッチリ・ガンズといったちょっとそれよりは新しいトコ、トーヤと同時代なソフトセルやユーリズミックスといったユーロビート前夜系、ストーンズやピストルズもやってたな。意外なんではZZトップやホークウィンド、ステッペンウルフ等のクリムゾンなんかとはまったく対極にありそうな楽曲、ブリトニーもやれば、最近のエレクトロ系もキッチリ押さえててプロディジー・・・・・・とにかくメジャーで大体誰もが知ってそうな曲を気分の赴くままに取り上げ、コピーしてるだけなのかも知れない。

 機材もまことにチープで、ヤマハのポータブルアンプ・THRにギター突っ込んでるだけ、ってなパターンが多い。とうの昔にライブでは使わなくなってた往年のトレードマークである3ピックアップの黒いレスポールカスタム引っ張り出して弾いてる時もある。実に物持ちが良いタイプのようだ・・・・・・もちろん老いたりとは申せ、超絶バカテクは相変わらずだし、運指を見てると件のヘンなチューニングのようだが。

 クドいようだけど有名人とはいえ、こんなんを毎週毎週75才と63歳の老夫婦がやってるのだ。実に無邪気に、楽しそうに、活き活きして。

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 もちろんそこはしたたかに、ビジネスとしての計算もしてのコトなんだとは思う。ユーチューバーなんてのが現れて知られるようになったが、YouTubeは再生回数に応じたキックバックがあって、当たれば莫大な収入源になりうる。過去の楽曲の版権を巡ってメジャー音楽会社を相手にスティッフなリーガルファイトで勝ったくらいだから、その辺を全く考えずにこの夫婦が、こんなアホなネタを趣味だけでブッ込んでるとは考えにくい。猛烈に税金の高い英国で、お屋敷と呼んでも全然問題ない、広い庭の備わった立派な家に暮らし続けるには過去の印税収入とたまのTV出演だけでは心許なかろう。

 そっから先の商魂たくましい才覚は専らヨメのトーヤの方だろう。「アンタ!ここは正念場やで!シッカリしぃや〜!もぉ齢やねんさかい、そんなバンドで世界ツアーなんてやってられへん、って。大体コロナで買い物もマトモに行けへんのにツアーなんかできるワケあらへんやん。それになんやの!?アンタのやってんのん。メンバー多いからギャラの取り分少ないやんか!ドラムなんて3人もおるやん。ほやけどな、YouTubeやったらロックダウンも関係あらへん。家ん中でパパパーッて撮ってチョチョチョーッてアップロードするだけやで。絶対ダイジョーブやて!絶対ウケる、って。わてが保証するわ。アンタ生真面目しか取り柄ないから、バーンて逆やってコマすんや。大したコトせぇへんでもなぁ、みんなビックリしはるわ。アンタやったらナンボでもコピーできるんやし、ちょっとは気合入れてや。週に1曲やで。わても頑張るさかいになぁ〜!」・・・・・・と、コテコテの大阪弁で言ったかどうかは定かではないが(笑)、これまでアップされたシリーズを時系列で観てみると、明らかにこの夫婦漫才ProjeKctはトーヤがイニシアティヴ握ってるように見える。初期の頃はどうにも翁の方に照れやら衒いが残ってフンギリ付いてないのが窺えるもん。

 最近では視聴者数の増加に気を良くしたか、さらなる小遣い稼ぎにとうとうチャンネルTシャツまで売るのまで始める始末だ。物販、っちゅうこっちゃね。

 ロックンロール開闢以来、ハードロックだのサイケだのプログレだのグラムだのパンクだのNWだのテクノだの・・・・・・その時代時代に数えきれいないほど多くの人間が関わり、数えきれないほどの作品をそれこそ人生賭けて営々と積み上げてきた。そしてまた半世紀以上に及ぶ自身のキャリアをその中で作って来た(フリップ翁自身もまた60年代以降のロックシーンの中を、ちょっとメインストリームからは外れてはいるものの、しぶとく生き抜いて来たキーパーソンの一人なのだ)。
 経緯や背景はともかくとして、かくして毎週々々生み出される夫婦漫才のバカバカしい一発芸は、それらをすべて自己解体的に俯瞰し戯画化するような、破壊的でありつつも軽みと笑いに満ちたモノとなっている。
 そして大変申し訳ないが、その衝撃度合に於いては過去の晦渋な実験精神から生み出されたモノを遥かに凌駕してた。

 はしなくも彼等がやってるコトは案外、自分たちも一員として創り、リアルタイムで駆け抜けて来た「ロックの時代」を葬り去ろうとする一種の引導なのかも知れない。このまま行けば、「混乱」ではなく「夫婦漫才」が墓碑銘になるんだろうな(笑)・・・・・・が、何はともあれ末永くお幸せにね。


蜂になってみーの・・・・・・

恐竜にもなりーの・・・・・・

「白鳥の湖」もやってみーの・・・・・・それでもネクタイ締めてるのが律儀っちゅうか(笑)

何とモヒカンになってメイクまでして・・・・・・右は準レギュラーで謎の覆面ギタリスト・シドニー・ジェイク

https://www.youtube.com/より

2021.06.18

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